類は恋人と運命を
暑い夏。汗をかいても気にならなかった。
「――ボーイ・ミーツ・ガール」、夏と言えばこれでしょう。
男子高校生3人が「ボーイ・ミーツ・ガール」の出会いに向けて奔走する。
「食パンをくわえた少女、西日に照らされる制服少女、うなじの汗が花火に輝く浴衣少女――、それらが僕らにとっては青春だった」
「ボーイミーツガール」はシチュエーションから生まれる!?
青春の管理下、高校生の日常がここに――。
▽第一話▽
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夏の青空が、アスファルトに落ちている。
僕らの横にはコンクリートの塀が続いていて、それが右手に折れている。そこに向かって原田が走って行ってパンをくわえた少女とぶつかる。
「――、行くよっ」
原田がそう言って食パンをくわえて走り出した。
風が吹いて原田の髪の毛を揺らした。原田の体が毬のように上下する。相変わらず不格好な走り方だなあと思う。汗が蒸発するほど暑い中、原田は懸命に走っている。
原田のスピードが遅くって、なかなか曲がり角に到達しない。
僕は空を見上げた。これ以上ないってくらい白い雲と青い空が僕らを包み込むように広がっている。
「夏だねえ」空を見上げた僕の呟きに庵野が、「せめて見てやれよ」と反応する。
原田はまさに曲がり角に差し掛かった所だった。
「来た」庵野が叫んだ。ぼくも目を見開いて原田の動向を観察したが、――、原田はそのまま曲がり角を通り過ぎた。
「え、どうしたの?」
庵野が言った。
「いや、――、人がいなかった」
原田が膝に手を置いて、肩で息をするようにして、叫ぶように言った。
僕と庵野は顔を見合わせて「そうだよね、相当の運命じゃないと無理だよね」と確かめ合った。
「じゃあ、僕が曲がり角で人が来るの待ってるよ」
僕は歩きながら言った。
「だからさ、僕が合図したら走ってきて」
すれ違った時、原田のパンが涎でちぎれそうになっているのを見て、なんだか気持ち悪くなった。
それにしても曲がり角まで遠すぎるのではないかと僕は思う。これでは僕が合図しても、走って来た原田とぶつかることができないのではないか。
しかし僕はもう考えるのも面倒になって、とにかく曲がり角まで行って、誰か人が来ないかを見守った。
「あと五回しかチャンスがないからしっかりね」
と原田が僕の考えなんて関係なしに叫ぶ。
「あと五回?」
「うん、六枚入り買ったから」
やっぱり僕には原田がパンをくわえる理由が分からなかったし、なんで三枚入りにしなかったのかと少しムカついた。原田の後ろでは庵野も茫然と立ちすくんでいる。僕らは医学部を目指している原田の、あまりにも馬鹿具合に言葉を失っていた。
あれからいくら時間が経ったのか。じりじりと空からも地面からも、暑さが僕らを蝕んでいた。
「涼くん、まだ誰も来ない?」
僕は改めて見るがそこにはゆらゆらと立ち上る陽炎しかない。僕は静かに首を振って、パンは大丈夫かと聞く。
「少し硬くなったけど、まだおいしそうだよ」と原田が答えた。
そこは問題じゃないんだけどね、と僕は呟くが誰にも聞こえない。
太陽は分刻み、秒刻みで僕らを襲ってきた。空には遮るものが何もない。白いもくもくとした雲はずいぶん低い所にあるのみだった。
「――、もういい?」
僕は汗を拭きながら叫んだ。
「なにが?」
「一回そっちに戻るよ。そもそも僕がここで合図して叫んだらさ、それは原田の考える運命性が減っちゃうんじゃないかなって」
原田は少し考えると。「確かに」と呟いたように思えた。
「恋は盲目、人を馬鹿にするね」と庵野が戻った僕に呟いた。
「そもそも彼はまだ恋すら出来ていないけれどね」
――、その後、ダブルソフト四枚分は特筆すべきことはない。
僕らは、特に原田は汗でびっしょりになっていた。これではもし出会ってもすぐに嫌われるのではないかと思った。
特筆すべき出来事が起きたのは最後の一枚を、原田がくわえた後だった。
▼@sank_bungo
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