類は恋人と運命を
暑い夏。汗をかいても気にならなかった。
「――ボーイ・ミーツ・ガール」、夏と言えばこれでしょう。
男子高校生3人が「ボーイ・ミーツ・ガール」の出会いに向けて奔走する。
「食パンをくわえた少女、西日に照らされる制服少女、うなじの汗が花火に輝く浴衣少女――、それらが僕らにとっては青春だった」
「ボーイミーツガール」はシチュエーションから生まれる!?
青春の管理下、高校生の日常がここに――。
▽第一話▽
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「あつい」と呟くと余計暑さが増すよ、って誰かが言ってたので、「寒い」と呟いてみたが、暑さは変わらずに、何だかむなしくなった。
むなしさを和らげるために、慌てて「あつい」と呟いて、余計に暑さが増したように感じられて、「八方塞がり」と呟く。
「さすがに、ひとりごとにしては多すぎない?」
といつのまにか来た原田が笑った。
「君たちが遅くて、頭が溶けるかと思った」
「大差ないよ、その頭は」と原田が笑う。揺れる腹の隣にはビニールを持った。アンパンのような手がある。
「なに買ってきたの?」
「食パン」
「本当にやるの?」
僕は思わず原田に聞く。「本当に原田のボーイミーツガールはそれなの?」
「うーん、でも憧れはあったよ。少女マンガみたいな運命的な出会いに」
「でもそれって原田が食パンくわえててもさ」と言うが後が続かない。
「本当にいいの? 人生に一回しかないボーイミーツガールかもしれないよ」
僕はそう言いなおした。
原田は頷いた。そこに庵野がやって来た。
「百歩譲ってそれが運命的な出会いだとしてもさ。原田がパンくわえてるのは違くない?」
と庵野がぼくにだけ聞こえる声で呟く。
「違うよね」
アスファルトからぐらぐら陽炎が立ち上っている。団地のベランダには白い布団が太陽に焼かれるように干されている。じっとした空気がぼくらを包み込むようで、まるで、泳いでいるような感覚になる。
「早くしないとパンがトーストになるぞ」
「分かってるよ」と原田がパンをくわえる。
「やっぱりそれじゃあ、ただのデブだよ」
と庵野がまた呟いた。
「じゃあさ、誰からやる?」
僕らはその日もシェルターで話し合っていた。
「あのさ、君たち」と矢沢さんが言うが無視をする。エアコンが効いていて涼しいのか、あるいは人がいなくて涼しいのか、矢沢さんに聞くと彼も僕らのことを無視した。
いつ頼んでもアイスコーヒーには慣れない。口の中にむっと広がる苦み。また後を引く酸味にいつか、大人になれば慣れるのだろうか。しかしそんな日が来ることを僕は想像ができなかった。
「じゃんけんをしようよ、公平に」
庵野が言った。
「ところでさ、」と矢沢さんが話に入り込んでくる。
「涼ちゃんと庵野の理想は聞いたよ。浴衣と制服。原田はどんなのが理想なの?」
「矢沢さんも参加したいの?」庵野がにやにやと言った。
「馬鹿言え」と矢沢さんは一生懸命グラスを磨き始めた。
「でも確かに、原田の理想は聞いてなかったね」
僕が言うと、原田は「だって先に言われたからさ」と言った。
「先に?」
「うん」僕がきょとんとしていると、庵野が「嘘だろ」と呟いた。
矢沢さんも目を丸くして、いつグラスが落ちてもおかしくないほどに驚いている。
「何だっけ?」僕が聞くと、原田は「食パン」と呟いた。
――、鈴がなって扉が開いた。
僕はそれを目の端っこでとらえた。しかし僕らの誰もがそれに反応をしめすことができなかった。熱気がふんわりとシェルターを巡回した。久々にきたシェルターへの客は、この異様な雰囲気に驚いて、再び階段を登って行ったらしい。扉が閉まって鈴が鳴った。
僕らは地球の時点からおいて行かれたように、ただ茫然と原田の顔を見ていた。
原田は恥ずかしそうにじっとコーヒーを見ている。




