青春の管制塔へ
暑い夏。汗をかいても気にならなかった。
「――ボーイ・ミーツ・ガール」、夏と言えばこれでしょう。
男子高校生3人が「ボーイ・ミーツ・ガール」の出会いに向けて奔走する。
「食パンをくわえた少女、西日に照らされる制服少女、うなじの汗が花火に輝く浴衣少女――、それらが僕らにとっては青春だった」
「ボーイミーツガール」はシチュエーションから生まれる!?
青春の管理下、高校生の日常がここに――。
▽第一話▽
https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/1279551/noveldataid/10647085/
◆こちらからどうぞ!
「ほらさ、やっぱり太ったなあ」
久しぶり会った原田はやっぱり太っていた。
「あれより太るなんて、考えられないよ、まだ伸びしろがあったなんてね」
「うるさいなあ、もし涼ちゃんが病気になっても治さないからな」
「いいよ、僕は総合病院に行くからさ」
「町医者を馬鹿にするなよ」
原田はそう言って笑った。
「久しぶりだね」
原田はシェルターに入るための、地下階段を見て言った。
「久しぶりだよ」
シェルターに矢沢さんはいなかった。
知らない僕らと同じくらいの年齢の人が、グラスを磨いていた。変わらない内装に、客がいないのも変わらなかった。
僕たちはあの頃と同じように、窓際の定位置に座った。左利きの僕のせいで、いつも座る場所は決まっていた。僕がひとりで対面に庵野と原田が座った。
「庵野がいないと少し不思議な感じがする」
窓際に庵野ひとり分のスペースを残して座ると原田が言った。
「でもさ、そのサイズになると庵野はもう座れないよ」
なんだか庵野の笑い声が聞こえた気がした。
僕がそう言うと原田が「庵野が死んだみたいだね」と笑った。
「庵野は何してるの?」
「美容師になったって聞いたけど」
「美容師?」
原田は頷いて、「でもさ確かに、庵野ってすこし洒落てたよね」と言った。
「たしかに、あの当時、彼女がいたことあるの、庵野だけだったよね」
グラスを磨いていたマスターが僕らの席までコーヒーを運んできた。僕らと同い年くらいの男の胸元にあるネームプレートに矢沢と書かれていて、僕らは目を合わせた。
「でも、そんなはずないよね」
店員が帰った後に僕は言った。
「ないと思うよ、だってあの頃、矢沢さんは独身だった」
「じゃあどういうことだよ」
「聞いてみるよ」と原田は言って立ちあがった。
原田が店員のもとに行ったあと、コーヒーを一口飲んだ。
あの頃、苦くて大人の味がしたコーヒーは、今でも苦いが生活に欠かせないものになっている。僕らは大人になったとは言わないが、あの頃とはどうあがいても一緒じゃないと実感する。それはシェルターに矢沢さんがいないこと、原田がまた太ったこと、僕らには都合が合って、庵野がここにはいないこと、――、いたる所で実感する。
「矢沢さんはどうやら田舎に婚活に行ったらしい」
僕の思考は原田の唐突な話で打ち切られる。
「田舎に婚活?」
「うん、人口不足の町で農家を引き継いだりして、嫁ぐらしいよ」
「……、彼にはコーヒー屋のプライドはないのか」
僕らは笑った。なんだかそれは凄く矢沢さんらしかった。
「あの夏、原田が言った通りになったね、大人になってモテない方が悲惨だって」
「僕らもそれは同じだけどね」
原田はそう言って笑った。
「あの夏、もしかすると矢沢さんも参加したかったのかもしれないね」
「でも矢沢さんの好みのタイプってどんなタイプなんだろう」
「少なくとも、べたな少女マンガみたいな出会いに憧れはないと思うよ」
原田は照れたように笑って、「今でも憧れはあるよ」と言った。
「じゃあ、本気だったのか」
「当然でしょう、僕はあの夏の、あの出会い方を求めたことに悔いはない」
原田はそう言って、「あれは道化じゃないよ」と照れたように笑った。




