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君を想う  作者: ツヴァイ
18/22

開けた朝

読んでいただければ、幸いです。

 ――温かい、それに柔らかい。良い匂いがする。この匂い好きだな――


 うっすらと浮上した意識で、そんな事を思った。


「え?」


 目を覚ますと目の前に金色が見える。腕を持上げて撫でてみるとサラサラと指通りの良い長い髪。それにとても良い匂いがする。甘くて優しくて花のようなミルクのような大好きな匂い。


 身体にぴったりと寄り添っている事から自分が抱き込んでいるんだと気付き、視線を胸元へと向けると。


 天使がいた。長い睫毛が伏せられ、頬に影を落とす。目の下にはうっすらと隈が出来ているようだが、幾分も彼女の美貌は、損なわれていない。

 桃色の唇は少し開き、穏やかな寝息が聞こえる。


「!!」


 一気に微睡むような眠気が霧散して意識が覚醒した。視線を上げて状況確認する。


 天井――知らない。自分の部屋ではない。

 

 ベッド――見た事ある気がする。でも、自分のでは無い。


 部屋――見た事ある。アナベルの部屋。


 自分――裸。もう一回見る。裸。なんでかな?


 腕の中――眠る天使。自分のシャツを着ている。なんでかな?


 結論、アナベルの寝室にいる。余計に分からない。半ばパニックになりそうになっていると 寝室の扉が開いて、グレンが入ってきた。

 ジルベルトが起きているのに気付いて人差指を口へ持っていき、「しぃー」と大声を出さないようにと促す。


「おはよう、ジルベルト君」


「……おはようございます。グレン様」


 小声で朝の挨拶を交わすとグレンは椅子を引っ張ってきて、ベッドの横で腰掛ける。


「身体はなんともないかな?」


「え?はい」


「そう、良かったよ」


 ホッとしたように笑顔を浮かべるグレン。一国の王の筈なのにいつも気さくで飾ったり、取り繕ったりしない。王としては大丈夫なのだろうかと心配にはなるが、そんな彼がジルベルトは好きだった。


「あの、グレン様…」


「その呼び方、懐かしいね。記憶が戻ったんだね」


「はい」


 そう、と言って頷くグレンはなんだか憔悴しているように感じるジルベルト。


 そろそろこの状況の説明が欲しいが、少し切り出しにくい雰囲気に言葉を飲み込む。


「………あの後、大変だったんだよ」


 ジルベルトが倒れた後の説明かと思っていたが、ただ愚痴を聞いて欲しいだけらしい。

 腕の中のアナベルが起きないので、身動きできないジルベルトは大人しくグレンの嘆きを聞く事にした。


「ジルベルト君が倒れた後、アナベルが君の身体を離そうとしなくてね。アナベル本人が治癒魔法を使ってくれれば良かったんだけど、恐慌状態に陥ってて無理だったんだ。それで他の者が傷の治療をしようと無理に剥がそうとすると全力で抵抗するし、剥がしたら剥がしたで魔力暴走を起こして城が半壊するし、……いや、ちゃんと直したから大丈夫だよ!」


 グレンは慌てて顔の前で手をパタパタやって否定している。


「半壊した後は君を刺した女性を殺そうと探したけど見つからなくて、女性を連れて来た隣の国の王子を半殺しにするし、王子だよ!王太子だよ!しかも、他国の!!必死に止めようとするんだけど、瞳孔が開きっぱなしで…あ、これヤバイヤツだ!!て思ってね。制止したら、此方に飛び火しそうで諦めたんだよ」


 半泣きで乾いた笑いしかできないグレンにちょっと同情するジルベルト。


「傷の治療も大変だったよ。君の身体に傷が残るのを嫌ったアナベルが、君に治癒魔法を掛けている治癒術師を視線だけで射殺すんじゃないかって程の眼力で睨むんだ。治癒術師は気絶しちゃったよ。当然、結婚式は延期になっちゃって、その後始末とかで飛び回ってたよ。何日も寝てなくても、必ず君に会いに来てたよ。愛されてるね」


 現実逃避気味のグレン。本当に大変だったんだなと思いながらもアナベルが自分の為に色んな行動を起こしてくれた事に少し嬉しく感じた。


 未だ腕の中で眠るアナベルは泰然自若として、いつも余裕綽々としていた。そんな彼女が、自分の事で動揺していたのを聞いて、愛しさが込み上げる。


「その後は、服を脱がして意識の無いジルベルト君を風呂に入れて、ちゃんと生きているのか確認したいからと上だけ裸にして、アナベル自身は君の匂いがするからと君のシャツを着て、ジルベルト君に密着して、鼓動を聞きながら眠ったんだよ」


 返して!僕のトキメキ!!


 両手が使えないので、アナベルの髪に顔を埋めて羞恥心でいっぱいの自分を隠す。途端に良い匂いに包まれる。


「…んにゃ、じる?」


 寝起き特有の寝ぼけ眼のアナベルが、舌足らずにジルベルトを呼ぶ。くしくしと目を擦る。


 なんだ!この可愛い生き物!!


「おや、起きたのか」


「お父様なんて一生寝てれば良いよ」


「永眠かな?」


「ジルの婚約の許可なんか出すなんて、と(トンプソン・コンテンダー)う(ウォー・ハンマー)ふ(ファルシオン)の(ノルマン・ヘルム)か(カンテル)ど(ドール・バシュ)に頭をぶつければ良いのにね」


「射殺!撲殺!斬殺!兜!?馬鎧!?刺殺!酷いよ!!なんで兜と鞍が入ってるの!!それだと私は頭から武器を生やして背中に鞍乗せてる変わった人じゃないか!!!」


 ジルベルトは頭から武器を生やして背中に鞍を乗せてるグレンを想像した。

 武器が生えている事で重いのかグラグラしている頭に亀の甲羅のように背負った鞍。


 なんか、楽しそうに笑っているグレンが変なポーズしている所まで想像して苦笑した。


「違うよ」


「そうだよね。私は変な人じゃないものね」


「四つん這い」


「そこ!?体勢はそれなの!!」


「上には大仏でも乗せようか」


「私、潰れちゃうよ!!圧殺させたいのかな!?」


 頭に武器を生やしている時点で普通死んでいるんじゃないのかな?とは言わない。

 二人の会話は()()()()なのだと確信しているので口を出さないで見守るジルベルト。


「そうだね」


「そこは否定しようよ!!娘でしょ!!私、泣くよ!!!」


「……」


「無視されたぁ!!娘が酷いぃぃ!!!」


 大泣きしながら、部屋から出ていったグレンを憐れに思ったジルベルトは、アナベルを叱る。


「アナ、駄目だよ。グレン様が可哀想じゃないか」


「ごめんよ」


 アナベルはジルベルトに抱きつき、胸に擦り寄る。アナベルの柔らかな胸が押し付けられ、彼女の体温が伝わる。

 彼女には珍しい甘えるような仕種が可愛くて、優しく抱き込んだ。


「もう少し寝る?」


「……うん」


 背中をゆっくり撫でていると穏やかな寝息が聞こえてきた。

 自分の腕の中で安心して眠るアナベルに胸の奥がじんわりと温かくなった。

 ジルベルトもアナベルの体温が心地好くて、また眠くなってきた。


「……」


 欠伸を噛み殺すが、徐々に目蓋が下りてくる。意識もぼんやりとしてきた。

 このまま寝てしまおうと完全に目蓋を閉じ、意識を手放した。




「……………」


 次に目を覚ますとアナベルがジルベルトを押し倒していた。

 アナベルの結われていない髪がジルベルトを囲う。金色の檻に閉じ込められているみたいだと感じた。


「アナ?」


 頬にキス。


「アナさん?」


 鼻にキス。


「アナ様?」


 目蓋にキス。


「何してるの?」


 唇にキス。


「おはようのキスだよ」


 また唇にキス。


「そうなの。なんで僕、押し倒されてるの?」


 ちょっと長めにキス。


「押し倒してないよ」


「でも、手を拘束されてるのはなんでかな?」


「ん~…」


 ジルベルトの上に乗って手をベッドに押し付けているアナベル。


「もう、他の女に取られたくないからね。私のものにするんだよ」


「それ普通は男が言う台詞じゃない?」


「そうかい?」


 不思議そうに首を傾げているアナベル。ジルベルトは拘束されていた手を退かす。

 優しくアナベルの頭と腰を固定すると身体を入れ換える。


「えっ」


 今度は、アナベルが押し倒される形になった。あまりの早業に吃驚しているアナベル。


「結婚式延期になっちゃったそうだね」


 素直に頷くアナベルに瞳を潤ませ、目の周りがほんのりと赤く染まったジルベルトが、どこか色っぽく笑い、彼女の桃色の唇にキスする。


「ジル?あの…」


 いつものジルベルトには無い雰囲気に戸惑うアナベル。

 彼は優しくて、いつも困ったような顔ばかりしていたのに今はどうだ。仕種の一つ一つが艶かしい。


「本当は結婚式まで待つつもりだったんだけど、もう良いよね?アナも期待してるみたいだしね」


「え?え?あの、ジル?」


「僕のシャツだけしか着てないアナベルは凄く無防備で可愛いね」


 うっとりと微笑み、アナベルの顎のラインを人差指で撫でていく。

 その仕種に頬を染めるアナベル。


「ジル?手馴れてない?」


「うん?そう?」


 顎のラインを撫でていた指は今度は首をなぞっていく。


「あのライラ孃と体の関係を持ったのかい?」


「だとしたら?」


「彼女にも…こんな…」


 話ながらもアナベルの身体をなぞる手は止めないジルベルト。

 首をなぞっていた指は、鎖骨を撫で、ゆっくりとシャツの間から焦らすように手を入れていく。


 アナベルの身体をゾクゾクとした感覚が走り、時折、ビクッと身体が跳ねる。

 頬を真っ赤に染め、潤んだ藍色の瞳は、確かに熱を孕み始める。


「アナベル」


 ジルベルトはアナベルを呼ぶ。どこか陶然としたアナベルが、潤む瞳でジルベルトを見上げる。


「好きだよ。愛してる。これからもずっとね。だから…」


 愛を囁き、アナベルへキスの雨を降らせ、アナベルの唇を舐める。

 ビクッと身体が跳ね、唇が少し開かれる。逃す隙を与えずにジルベルトは舌を差し込むとアナベルの甘い口内を味わう。


 舌を絡めながらもアナベルが着ているシャツのボタンを外していく。

 一度唇を離し、舌舐めずりすると妖艶に笑い、ぽつりと呟いた。


「いただきます」







読んでいただき、ありがとうございます。

攻守逆転。

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