予兆
ライラ視点
今回は暴言少な目。
村での出来事が嘘だったかの様に町で穏やかに暮らし、怪我をした人、病気になった人などを治癒魔法を使って治してる。
途端に美人の治癒術師がいると噂される様になった。まあ、当然よね。
「ライラ君」
この診療所にいる他の治癒術師でジョンと言う。妻帯者で奥さんにベタ惚れ。
毎日飽きもせずに奥さんの惚気話を延々聞かされる。
元々奥さんとは幼馴染みで小さな頃から一緒になろうと誓い合っていたらしい。
でも、奥さんの親とジョンの親は不仲でいつも会う度に言い争いをしていたらしい。
そんなある日、奥さんの親がジョンの親と殴り合いの喧嘩になり、ジョンの親が重傷を負った。
その怪我が原因でジョンの親は歩けなくなってしまい、ジョンの親に障害が残るような怪我を負わせてしまったと彼女はジョンから身を引こうと考え、距離を取った。
そんな彼女にジョンは気にするなと言い、口説きに口説き、晴れて一緒の家族になったそう。
ジョンは奥さんの事を愛していたが、その件で、なんていじらしいのだろうと更に深く愛するようになったそうだ。
なんでだろ?精神的にキツい。デレデレの顔で今日の妻はこうだったとか聞かされるこっちの身にもなって欲しい。
「何?」
「騎士団に行ってる所長に書類を届けてくれないか?」
「はあ?なんで、私が」
「他の奴等は手が放せないんだ」
「……わかったわよ」
めんどくさいな。なんで、私が。渋々了承して騎士団にいる所長に会いに行く。
騎士団の隊舎へ行くと騎士が、所長は今、騎士団長と王太子と一緒だと言う。
この国の王太子って綺麗な顔をしてるのよね。
青色の髪に琥珀の瞳の端正な顔と服の上からでも分かる程に引き締まった体躯をしていたっけ。
そう思い出しながら、王宮を進んでいくと王太子の執務室へと着いた。
扉の横には護衛が立っていて、私が来た事を報告している。
なんか偉くなったみたいよね。王太子に会いに来た王妃。素敵よね。
護衛が扉を開けてくれたので中に入るとソファに座る王太子とその後ろに立つ騎士団長とその向かいに所長が座ってこっちを向いた。
「ライラ、どうしたんだい?」
「ジョンに頼まれて書類を持って来ました」
「ああ、ありがとう」
「では…」
「待ちなさい、ライラ。殿下、彼女がライラで優秀な治癒術師です」
「君が噂のライラか」
何故か突然、王太子に紹介された。不思議に思っていると王太子の琥珀の瞳が私を見詰めてきた。
多分、噂って言うのは美人の治癒術師の事よね。王太子まで知ってるって凄くない?
「君に殿下の専属になってもらいたいんだ」
「は?」
「殿下は病弱でね。度々寝込むことが多いんだ。そんな殿下の傍に君がいれば直ぐに治療できるからね」
王宮で働けるのは良い。騎士にイケメンが多いし、給料だって、それなりに貰っているだろうし、貢がせるには十分だ。
ここで直ぐに了承したらがっついた女に思われるかもしれない。
「王宮には優秀な治癒術師がいると思うんですが?」
「君は最高ランクの治癒術師だ。何があっても大丈夫だろう」
「はあ…」
つまり、王太子は暗殺されると危惧しているんだわ。
そりゃそうよね、次期国王だし、こんなに顔が綺麗なんだもの。あっちこっちの女に手を出してそうだし、その面で恨まれてもいそうだしね。
そうなると最高ランクの治癒術師である私が傍にいるだけで安心と言うわけね。
まあ、良いでしょう。受けてやるわ。美しい私が傍にいれば、王太子を落として王妃にだってなれるかもしれないし。ふふん。あの女に目に物見せてやるわ。
「わかりました。そのお話受けます」
「ありがとう」
王太子が爽やかさ全開の笑顔を見せる。美形はこうでなくっちゃ。
その日は、そのまま診療所に帰り、引き継ぎをして次の日から王宮へと移った。
王宮で王子付きの治癒術師になってから毎日楽しい。町で働いている時の平民の服から貴族令嬢が着るようなドレスに着替えて着飾り、美味しい食事に騎士団に行けば、見目麗しい男性が声を掛けてくれる。
王太子の傍にいるだけで貴族の男が、言い寄ってくる。美しい私を褒め称え、愛を囁く。こうでなくては、男は私に惚れ、女は私に羨ましそうな視線を向ける。
そんな生活を数ヶ月続けていると王太子が私に声を掛けてきた。
「ライラ」
「はい、殿下」
「殿下なんて呼ばないで。パトリックと呼んでくれないか?」
王太子パトリックは私に熱い視線を向けている。遂に私に惚れてしまったようね。
最近、気づくとパトリックとよく目が合う。
なんか、視線を感じるなと思い、顔をそちらに向けるとパトリックが切なそうに此方を見ていた。視線が合うとふいっと視線を逸らされるという事がよく有るようになった。
「ライラ、私の傍にいてくれ」
「今もいますよ」
「そうじゃなくて、伴侶として傍にいてくれないかと言っているんだ」
その日、私とパトリックは結ばれた。誰が来るか気が気じゃなかったけど、執務室の仮眠室で朝を迎えた。
手に入れたわ。皆が羨む王妃の座と言う地位とパトリックの愛を。
朝は、ゆっくりしたかったが、伝令係がパトリックに会いたいのだと言う。パトリックは、名残惜しそうに私にキスして部屋を出ていった。
「朝からなんだ?」
「はい。隣国ジェーリェヴォ王国の王太子アナベル王女の結婚式が発表されました」
「そうか」
聞こえてきたのは、あいつの結婚式。このゲームの世界のヒロインである私が結婚して幸せになるはずだったのにそれを壊したあいつが結婚?
なんで?私を不幸にしたあいつが幸せになるの?憎いあいつが?
報告が終わったのだろう。パトリックが部屋へと帰ってきた。愛しい私のもとへ。
パトリックはニコニコしながらベッドの上にいる私を抱き締めた。
「隣国の王太子の結婚式があるんだ」
「そう」
「君に一緒に言ってもらいたいんだ。私の伴侶として」
一緒に憎いあいつの結婚式に?これは使えるかもしれない。
追われている私が、まさか隣国の王太子の婚約者として出席するなんて思ってないはず。その隙をついて嫌がらせしてやろう。結婚式を台無しにしてやろう。私が掴めなかった幸せをあいつは掴むなんて。そんなの許せない!
一瞬、パトリックの愛を手に入れなのだから、あいつに復讐しなくても良いんじゃないか?と聞こえたような気がしたが、このまま穏やかにパトリックと共に幸せになる…そんな事、私には出来ない。もっと、もっと。欲しい。大きな幸せが……だから因果応報、やられたらやり返す。
そうすれば、きっと私は満足する。復讐を果たし、満たされた心でパトリックと永遠に幸福な未来を。
誰もが羨む美貌を持つ王妃と美しく私だけを愛してくれる王。
「ええ。行くわ」
「嬉しいよ」
甘く蕩けるような笑顔のパトリック。私も彼に微笑みかける。
パトリックは私の顎を持ち上げ、上に向けると最初は優しくキスをしていたが、次第に貪るような荒々しいキスをしだした。
私も答えるように彼の首に腕を回して抱き寄せ、そのままベッドへと倒れ込んだ。
読んでいただき、ありがとうございます。
彼女の中のひとつの感情は飢餓。




