レッツ!クッキング!
「……陛下、何してるんですか?」
「え?見て分からないかな?」
ナルサスは、執務室にいないグレンを探し回った。壺の中や机の下、天井の裏も探した。廊下に敷かれているカーペットを捲った時に侍女から厨房の方へ向かうグレンを目撃したと言うので厨房へ行くと、グレンが暴れていた。
「分からないから聞いてるんですが…」
「そうかい?今、私はクッキーを作っているんだよ」
「………そうなんですか?でも、私の記憶ですとクッキーに魚は入っていなかったと思うのですが」
「カルシウムが取れて良いだろう?」
「では、スッポンは?」
「コラーゲンの元だ。最近、妻が皺を気にしているらしい」
「お優しい事で」
「そうだろう」
「では…その……缶詰………シュールストレミングは?」
「ハズレだ」
「なんで、クッキーに当たりとハズレがあるんだよ!王妃、匂いで失神するぞ!!」
「ドキドキするだろう?」
「そんなドキドキいらんわ!!」
「私とナルシスと王妃……ふふふ、誰に当たるかな?」
「そんなロシアンルーレット嫌だ!!」
「死なばもろとも」
「誰が死ぬもんか!!」
悪い顔でクッキー生地を捏ねるグレン。ナルサスは胃薬を用意すべきなのか、爆弾処理班と言う名の犠牲者を用意するべきなのか迷っていた。
「しかし、何故クッキーなんて作る気になったんですか?」
「ん?アナベルから君の息子がクッキーを作ってくれたと嬉しそうに話していてね」
「ジルベルトはお菓子作りと刺繍が得意なんですよ。自慢の息子です」
「そこは娘じゃないんだね」
「陛下、先程から気になっていたんですが…良いですか?」
「何かな?」
「その格好はなんですか?」
「割烹着と三角巾の事かな?」
そう、グレンは割烹着と三角巾を着けた格好で厨房に立っていた。嬉しそうに割烹着の端を持ち上げている。
「どこから、そんなもの」
「本で見つけてね。なんでも、調理する時の戦闘服だとか。ジルベルト君が作ってくれたよ」
満面の笑顔のグレンは作業に戻った。額を押さえるナルサスは、先行きが不安になっていた。
「違う気がする」
「さて、焼くか」
鼻唄を歌いながら、オーブンの中へと型付されたクッキー生地を入れる。
「やっとですか?」
「さて?何℃位なのかな?」
グレンは首を傾げる。ナルサスは、遠くを見て半笑いしている。
「ん~、適当にやっちゃえ」
魔法で、オーブン内の温度を一気に上げていく。すると、
ボンッ!!
と、音を立てて、オーブンが壊れた。
「ちょっ!!」
「失敗した」
黒煙と焦げ臭い匂いが厨房内に立ち込める。驚いたナルサスの意識が戻って来た。
「どうするんですか!!」
「弁償だね」
「もう嫌だ!!この王様!!扱いに困る!!!」
泣き出したナルサスの肩に手を置き、グレンは慰めるべく口を開いた。
「諦めるな」
「何が!!」
「諦めたら、そこで終わりだ。また、最初から作り直せば良いんだ。絶対に美味しいクッキーを作ってみせるよ」
「クッキーの話じゃねぇーよ!!!!どっから出てきた!!!!」
「え?違うの?ナッツ入りのクッキーは駄目になったから、缶詰入れようか」
「何でだよ!!?魚とスッポン何処行った!!!」
「魚はスッポンに食べられて、スッポンは逃げた」
「逃げた!!?」
「生地捏ねてる時に逃げてた。達者でやれよって声掛けたら、お前もなっていう顔をして出てったよ」
「見てた!!見てただけ!?」
「だから缶詰だけしか残ってない」
「オンリーーーー!!!!」
その場に崩れ落ちるナルサスとスッポンのこれからに思いを馳せるグレンの対比が凄い。
「でも、缶詰の中身は美味しいらしいよ」
「味の問題じゃない!!匂いが問題なんだよ!!」
「え?匂いかい?」
「それ以外無いだろう!!」
「大丈夫!ガスマスクがあるから!!」
ドヤ顔でサムズアップしてみせるグレンにナルサスは怒りとも絶望とも言える感情を持て余していた。
「テメェの心配なんてしてねぇよ!!!」
「え!酷い!」
「……何やってるんだい?」
その第三者の声に顔を向けると厨房の扉に佇む呆れ顔のアナベルと困った表情のジルベルトがいた。
「こんにちは、陛下、父上」
。今日は、城の中を探検中であった二人がたまたま厨房近くを通った時にグレンとナルサスのぎゃいぎゃいと騒がしいやりとりが聞こえてきたので、何事かと顔を出したのだ。
「救ぅー世ぇー主ぅー!」
アナベルとジルベルトは、ナルサスの突然の絶叫にビクッと体を揺らす。
「ごめんね。煩くて、クッキーを作ってるんだよ」
二人は、なんでクッキー作ってるだけで、ナルサスが、壊れているのか不思議そうに同じ方向に小首を傾げている。
「では、僕がお手伝いしますね」
ジルベルトは柔らかく微笑むと作業を手伝うべく腕捲りをして厨房へと入ってきた。アナベルも手伝う気なのかエプロンを着始めた。
その後、ジルベルトの協力によって無事に普通のクッキーが作られた。早速、グレンは王妃に献上し、めでたくお褒めの言葉を頂き、いたく御満悦であったという。
読んでいただき、ありがとうございます。
グレンとナルシスはいつも楽しそう。




