女の子は危険なり②
早朝、彩先生に起こされた。
『ちひろ、起っきしなしい。』
『はい、ママ。』
『ママじゃないわよ。朝から甘えちゃって。可愛いわねえ。』
やべえ、無意識に『ママ』と呼んでしまった。
『彩姉ちゃん、おはようございます。』
『警視庁で、調べて来ました。これ、資料だから、よく読んで。』
彩先生から資料を受け取り、内容を確認した。マスコミに流れている情報だと被害者は4人ということだが、実はそれ以外に未遂事件が3件報告されていた。つまり、合計7件の事案が書かれている。
7つの事件の共通点は、
①17歳から21歳の若い女性。いずれも、いわゆる美人で、モデルをしていた女性もいたらしい。背が高く、髪も長い。顔立は、はっきりしており、派手な印象を受ける。
②現場は、国道16号から、住宅街に入った路地に集中している。犯人は自動車で、移動している可能性がある。実際、未遂事件の被害者は自動車に引きずり込まれそうになったそうである。
③時間帯は深夜から未明の時間帯で、いずれも雨の降っていないときである。
④被害者は、クロロホルムを嗅がされ、気絶したところを襲われている。レイプした後、絞殺されている。遺体は隠すことはせず、無造作に捨てられている。
読んでいて、気分が悪くなってきた。犯人には慈悲のかけらもない。
『彩姉ちゃん、私、この犯人、許せない。魔人バブーになるわ。』
『作戦を遂行する上で、一つだけ気になることがあるわ。』
『何か心配なことでもあるの?』
『ちひろに囮になってもらおうと思っていたのですが、クロロホルムが気になるの。ちひろは無敵、負けることはないとは思うのだけれど、クロロホルムで気絶されたら、意識が失われるのかと思ってね。意識が飛んでいる間に、レイプされる可能性がないとはいえないでしょ。』
全く考えていなかった。薬で気絶。どうすればいいのか。俺は考えを巡らせた。
『彩姉ちゃん、さすがにレイプは嫌。』
『そうよね。殴られても、刺されても、不死身なちひろだけど、、、
作戦を考え直しましょう。』
『実験してもらえますか。私にクロロホルムを嗅がせて下さい。意識が無くなるのか、無くなった場合、どれくらいで復活するのか。それ次第で、作戦決行できるかもしれないので。』
思わぬところで、俺の弱点が露呈されてしまった。
『分かったわ。すぐに用意します。確か、何処かにあったと思うので。』
えっ、彩先生、クロロホルムを持ってるのかい。諜報部員だから、持っていても不思議はないか。
『あったわよ。ちひろ、あなたにもしものことがあったら、大変。分身仏を一体出してちょうだい。』
試したいことがいくつかある。
①俺にクロロホルムが効くのか。
②効いた場合、どれくらい効いているのか。
③クロロホルムで気絶している分身仏を戻したとき、戻された本体は無事なのか。
俺は分身仏を一体出した。そして、その分身仏から、さらに二体の分身仏を出させた。つまり、子供世代が一体、孫世代が二体、合計三体の分身仏を用意した。
『彩姉ちゃん、この二体の分身仏にクロロホルムを嗅がせてください。』
『オッケー。悪く思わないでね。』
そう言いながら、ハンカチにクロロホルムを含ませて、それを分身仏の口と鼻に被せた。二体の分身仏は、10秒ほどで、気を失った。やはり、クロロホルムの効果は有効だった。
俺は残っている子供世代の分身仏に気絶している一体の分身仏と合体するよう命じた。二体は融合し、一体の分身仏となった。意識はあり、運動能力にも異常は見受けられなかった。分身仏は、本体の毛穴程度の細胞から作られる。だから、本体が無事だったのは、クロロホルムに侵されたとしても、本体に戻れば、毛穴の一つが痺れているに過ぎない程度に薄まるという理屈が成り立っていたのだ。
もう一体の分身仏が目覚めたのは、2時間ほどしてからであった。2時間もあったら、完全にレイプされてしまう。結論が出た。囮は、二体で1組とすれば危険はない。孫世代が囮に、子世代は昆虫サイズになり、近くで見守ればいい。クロロホルムを嗅がされたら、救出に向かうと同時に、俺に報告するのだ。俺は現場に向かい、分身仏と入れ替わり、犯人に制裁を加える。
『彩姉ちゃん、オッケーです。二体一組で、囮になりましょう。』
彩先生は、ホッとした顔になった。しかし、それは一瞬であった。すぐに、いつものイタズラをするときの目になった。何かある。
『良かったあ。無駄になるかと思っちゃったあ。』
そう言いながら、大きな紙袋から、何やらごそごそと出し始めた。
『さあ、始めましょう。ちひろ、変身して。』
そうか。俺を、また恥ずかしめて楽しもうとする魂胆だったのか。被害者の年齢は20前後。しかも、モデルのような美人。俺を囮にするということは、俺に20歳前後の女性に変身させるということだ。
『変身って、どうすればいいのですか?』
『とびきりの美人に変身して、まあ、私やかすみさんみたいには、なれないと思うけど。元の素材が違うから。素材の悪さは、私が化粧でカバーするから安心していいわよ。』
ほーら、バカにしてきた。ならば、かすみや、彩先生よりも美しく変身してみせよう。見てろー。俺は、美しい女性をイメージした。しかし、ダメだ。イメージすると、かすみと彩先生しか思い浮かばない。仕方ない。かすみになるのは、抵抗がある。ならば、彩先生をイメージしよう。お歳は召されているが、完璧なボディーラインだから。顔はちひろのままでいい。俺、この顔、結構気に入っているから。
『はああああああああ、はああ!』
俺の体が、ゆっくりと大きくなる。背の高さは170cm。スリーサイズは、上から90、55、90。脚は細く長く。髪はロングヘア。こんな感じをイメージした。これなら、犯人好みであろう。基本的に、俺に美的センスはない。これで美しくなっているかどうかは、彩先生に判断してもらうしかない。
『はあ、はあ、はあ、、、こんなんで、どうでしょう、、、はあ。』
しかし、慣れない変身はエネルギーを使う。
『なるほどねえ、この体が、ヒロの好みってことなのね。』
えー、違うよ。俺の好みは、あくまでもかすみだ。
『しかし、いやらしい身体つきだこと。』
あのー、彩先生をイメージしたんだけど、自分の身体を「いやらしい」と白状したようなもんですよ。なんか、勝ったような気がした。
『囮になれるかしら。』
『まあまあね。あとは着飾って、化粧すれば、かなりの美人になるわよ。あとで、一緒に六本木に行きましょう。きっと、ナンパされると思うわ。ナンパされなかったら、不合格ね。』




