バレエ②
レイちゃんは、バレエの練習が楽しかったようで、次の日から、専ら自宅での遊びは、バレエごっこになった。当然、俺も付き合わされる。遊びなので、さすがにレオタードは着ないが、ごっことは言え、なかなか本格的な練習であった。
レイちゃんの記憶力、洞察力は際立っているので、バレエの先生が教えたことは、完璧に覚えていた。つまり、レイちゃんが先生役で、俺が生徒役なのである。レイ先生のおかげで、俺のバレエの上達はメキメキと上がっていった。
『ちひろちゃん、上手ね。これなら、主役になれるかも。』
俺は生まれつき、目立ちがり屋である。だから、本来、主役は大好きなのだが、さすがに、バレエの主役は気がすすまない。
『はい、こっちに並んで。今日のレッスンは、これで終わりです。』
『ありがとうございました。』
俺は、レイ先生に頭を深々と下げて、挨拶した。そんな二人の様子を、かすみが見ていた。見られていることが、わからないほど、真剣に練習していた。かすみが見ていたと気づいて、急に恥ずかしくなった。俺は顔を赤くして、かすみの胸に飛び込んだ。
『ママ、見てたの?恥ずかしいよ。』
『ちひろちゃん、上手になったわ。やっぱり、運動神経は抜群なのね。』
褒められて、嬉しかった。
『彩さん、知ってるかしら。この頃、あの子たち毎晩のように、バレエの自主練習をしてるのよ。』
『まあ、それは良かった。レイちゃんも喜んでるんじゃない?。』
『そうなのよ。もう、楽しくて仕方ないようなの。でね、ビックリなのは、あんなに嫌がっていたちひろちゃんが、一生懸命、練習してるのよ。本来の姿を知っている私からは、想像できないわ。』
『そうね。あの伝説の暗殺者ヒロが、バレエやってるとは、誰も信じないでしょ。私は、ヒロが小さい時から知ってましけど、あの子はずっと無理して生きていたところがあるから、今の生活を純粋に楽しんでるのかもしれないわ。前に、本人に伝えましたけど、第二の人生を歩んでると思えるわ。』
『第二の人生か。ある意味、羨ましいなあ。』
『ダメよ。かすみさんまで、子供になったら、誰が子供達を育てるの。私は3人の子供を育てるのなんて、絶対に無理。それに、なんだかんだ言っても、ヒロは、かすみさん無しでは生きていけないの。』
『そうかしら。最近は、私よりレイに夢中のような感じに見えるけど。』
『ヒロのレイちゃんに対する感情は、尊敬だと思いますよ。姉として、尊敬してるの。かすみさんに対する感情は、間違いなく愛情ね。あと、甘え。かすみさんが、よしよしと言いながら、ヒロの頭を撫でている時のヒロの幸せそうな顔を見れば、一目瞭然。もともと、甘えん坊なのところがあるのよ。ただ、その感情をずっと抑制していたのだと思うの。今は、幼児になったことで、そのタガが外れて、遠慮せずに甘えられて、至福の時を過ごしてるんだわ。でも、心配なのは、かすみさん。ヒロがちひろになって、いろいろと不満があるんじゃないの。寂しくない?』
『確かに、最初の頃は不安で仕方なかったわ。でも、もう慣れちゃった。それに、ちひろちゃん、可愛いんだもん。レイも、ちひろちゃんのおがげで、すごくしっかりしてきたしね。正直、今のこの状態、とても幸せなの。』
『そう。それなら良かったわ。私は、ちひろちゃんをからかうのが楽しくてしょうがない。恥ずかしがる姿が可愛い。今まで、涙なんか見せたことなかったヒロが、すぐ泣いたりして、面白いわあ。』
『でも、ちょっと、やりすぎなところがあるわよ。この前のビデオ撮影は、ちょっと、いけないと思うわ。』
『はーい。反省してまーす。そうだ、今度、あの子達を、本物のバレエを観に連れて行きましょう。二人とも喜ぶと思うの。』
『私はバレエの知識とか全くないから、お任せしちゃってもいいですか。』
『もちろん、オーケーよ。どこか、いい公演を探してみるね。』
『ママ〜、お喉かわいたあ。』
『ちひろちゃん、こっちおいで。』
かすみは、俺を抱いて、頭を撫でてくれた。幸せだなあ。
かすみは思った。
『彩さんが言っていたことは、本当だわ。ちひろちゃん、間違いなく甘えん坊さんだ。』




