作戦決行④
この日のちひろは、完璧である。俺が見ても、魅力ある女性だと自負している。犯人がいれば、間違いなく俺を選ぶであろう。もし、怪しい動きがあれば、すぐに俺に連絡がくる。分身仏は、そのまま歩いてもらう。声をかけられても無視をし、襲われそうになったら、小さく抵抗し、犯人がクロロホルムを使うまで待つのだ。犯人確保は、その後だ。
ついに、怪しい男が動いた。所沢で降りた分身仏から連絡によると、明らかに尾行されているらしい。俺も所沢に飛んだ。
分身仏のちひろは、昆虫サイズの護衛の分身仏を肩に乗せ歩いていた。そして、そこから10mほど後ろに男が歩いている。俺も、昆虫サイズになり、さらに、その後ろから、事態を見守った。交差点を右折すると、辺りは一段と暗くなり、2人以外に誰もいなくなった。男は周りをキョロキョロと見回しながら、少しづつ距離を縮めていく。7m、6m、5m、4m、そして3mになったとき、分身仏のちひろに向かって、男は走り出した。男は、ちひろに体当たりし、ちひろは道路に転ばされた。男は力ずくで、ちひろの腕を掴み、公園の中に連れ込んだ。ちひろは、抵抗するふりをした。そして、小さく叫んだ。
『何するの、やめて!』
『騒ぐな、騒げば、殺す。』
男は、ナイフを取り出し、ちひろの首に当てた。肩の上にいた分身仏が、男の首に乗り移った。男の心を読み取るためだ。すぐに、分身仏から連絡が来た。
『主様、間違いないです。この男は、これから強姦殺人をするつもりでいます。』
『クロロホルムを染み込ませたハンカチなどの布をあてがうまで待て。連続犯ならクロロホルムを使い。気絶させ、その後、ゆっくりと犯行を楽しむはずだ。もし、クロロホルムを使わずにレイプしようとすれば、それは連続犯ではなく、別の変態野郎だ。だから、もう少し様子を見ろ。』
『分かりました。主様。』
男と、ちひろはもみ合っている。ちひろが、男の股間を蹴り、脱出を試みる。もちろん、本当に逃げるつもりはない。わざと、すぐに捕まった。
俺は、自宅に待機させた分身仏を呼び寄せた。
『主様。持って参りました。』
俺は分身仏に彩先生のビデオカメラを持って来させた。あの巨大なプロ用のカメラだ。分身仏に現状を撮影させるのだ。逃れられない証拠を得るために。
男は、ちひろの背後に回り、羽交い締めにした。あろうことに、胸を揉みはじめている。ちひろは抵抗を続ける。すると、男はポケットから、ハンカチを取り出し、ちひろの顔に当てた。分身仏のちひろから連絡が来た。
『主様、クロロホルムで間違いありません。後は、よろしくお願いします。』
分身仏のちひろは、意識を失った。
『イヒヒヒ。今夜の女は最高の女だ。今夜の俺はついている。たっぷりと楽しめそうだ。』
一人興奮する男。俺は男の正面に回った。思った通り、目立たない普通の中年であった。身なりもしっかりしている。左手の薬指にはリングがはめられている。既婚者のようだ。何が、男を犯行に及ばせたのか。ストレスが、それとも単なる性癖か。いずれにせよ、許すことは出来ない。
男が、ちひろの服を脱がしにかかり始めた。俺は猛烈に腹が立った。肩の上の分身仏に、倒れているちひろと合流するよう命令した。気絶していた、ちひろの顔に生気が蘇ってくる。そして、男を跳ね除けた。
『あれ、何で。』
男が動揺している。男の背後から、俺が蹴りを入れた。もちろん、本体のちひろだ。男は二人のちひろに挟まれた。
『私に手を触れるのは、100億年早いの。無礼者。お仕置きよ。』
分身仏よ、なかなか良い台詞だ。
『お前ら、許さねえ。殺してやる。』
男は、ナイフを出して、飛びかかって来た。俺が、そのナイフをあっさり取り上げた。そして、そのナイフで、男の服を切り刻んだ。そう、奇跡の千手観音の技を見せてやった。
『お前が連続殺人の犯人だな。』
男は頷いた。俺は男の額に手を当てた。そして、聞かれたことは素直に話すという性格を刷り込んだ。
110に電話をすると、すぐにパトカーが来た。二人のちひろは、犯人を警察に引き渡した。警察官は同行するように求めたが、それを断り、瞬間移動した。
翌日の紙面に、埼玉連続女性殺人事件の犯人逮捕の記事が、でかでかと取り上げられていた。逮捕の協力者は、双子の美人姉妹と書かれていた。




