作戦決行②
いよいよ金曜日になった。保育園から帰宅し、19歳のちひろに変身し、着替えを済ませ、化粧をして、いざ出陣。
予定通り、二人一組の分身仏の作戦を行う。200組の分身仏を配置させるつもりである。終電の終わる深夜11時過ぎから未明まで、埼玉県内の国道16号沿いの住宅街の路地を歩いてもらう。本体である俺は、自宅で待機する。
夜11時、一斉に分身仏が瞬間移動した。俺は作戦の成功を祈願した。リビングで、彩先生は仮眠を取っている。俺は心を落ち着かせるため、瞑想に入っていた。
キラリン♬
スマホの着信音がした。聞き慣れない着信音。俺は、スマホを取り、画面を見た。ラインの着信のメッセージだと分かった。操作の仕方が分からない。画面を眺めていたら、スマホを取り上げられた。着信音で、彩先生が起きたのだ。
『ラインが来たのね。どれどれ、貸してごらん。』
貸してごらんって、既に取り上げてるではないですか。完全に人権侵害、プライバシーなんてあったもんじゃない。
『彩先生、スマホ、返して。』
『何言ってるの。私が操作を教えてあげるのよ。あなたのプライバシーなど、興味ないわ。』
そう言って、すぐにラインの使い方を詳しく、分かりやすく、教えてくれた。彩先生は、送られてきた内容を覗き見するようなことは、しなかった。実際、覗き見しなくても、心を読まれてしまえば、同じことだけど。
俺はラインのメッセージを見た。送信者は予想通り洋介だ。なぜならラインの登録をしているのは洋介だけだからだ。かすみや、彩先生にはラインは必要ない。もっと便利で速いものがある。テレパシーだ。メッセージも、予想どりのことが書かれていた。
『夜遅くに失礼します。先日、お会いした榊原です。この前は、ちひろさんと話が出来て、楽しかったです。暗い話をしてしまい、申し訳なかったです。そして、聞いていただいて、ありがとうございました。きちんと、お礼と謝罪をしてなかったので、ラインで失礼と思いましたけど、送信させていただきました。それでは、また。』
画面を見ていたら、彩先生が覗いてきた。
『この前の彼でしょ。何て書いてあった?』
俺は、画面を見せた。
『誠実な方ね。で、ちひろとしては、どうするの?』
問題はそれだ。相手がとてもいい人だ。いい人だからこそ、どう対応していいか分からない。俺が黙っていると、彩先生がスマホを再び取り上げた。
『私に任せなさい、、、これでよし。』
ゲッ!勝手に文章を書いて、送信している。さっき、俺のプライバシーに興味ないと言っていたのに。何て書いて送ったのか。俺はスマホを取り返して、内容を確認した。
『洋介さん、こんばんは。ライン、ありがとうございます。私も、とても楽しかったです。もっと、お話しを聞きたかったです。では、またね。おやすみなさい。』
無難な文章であったので、ホッとした。
『どう?こんな感じなら問題ないでしょ。』
『彩先生、彼との出会いも運命なのでしょうか?』
『それは、分からないわ。でも、あなたの人生の場合、無駄な出会いなどないはずよ。』
このまま、騙し続けていいのだろうか。だからと言って、真実を告げるのも、、、。どちらも、彼を傷つけることになる。ならば、深入りしないのが懸命と思うのだが、さっきラインで、「また話が聞きたい」と送信してしまっている。まあ、仕方ない。なるようになるだけか。
今は囮作戦に集中しなければいけない。
深夜1時半を回った頃、分身仏から連絡が来た。春日部に配置した「ちひろ」が、男から声をかけられている。俺は、瞬間移動した。コンビニ近くの歩道で、「ちひろ」と男が話をしている。3分ほどで、男はその場を離れた。ただのナンパであった。その後も、分身仏から連絡は来たが、ナンパ目的だったり、酔っ払いが絡んできたりで、収穫はなかった。分かったことは、「ちひろ」の姿が魅力的だということだ。俺はモテると自覚した。車に乗った4人のガラの悪い男に囲まれた分身仏もいたが、あまりにもしつこいので、護衛の分身仏と二人で、ボコボコにしたそうだ。結局、この日の囮作戦は失敗であった。暴行殺人魔が現れなかったのだから、喜ばしいことなのだが、がっかり感は否めい。俺は囮の分身仏を呼び戻した。
それから毎晩、囮作戦を実行したが、犯人に遭遇することはなかった。新聞を見ると小さな記事が書かれている。
『埼玉の不良4人組。謎の双子の美少女に成敗受ける。』
ああ、分身仏よ、派手に暴れてしまったわけか。
『囮の歩かせる場所が的外れの可能性があるのかしら。』
彩先生が、ポツリと漏らした。的外れなら、いくら繰り返しても、全てが無駄なことになる。俺は、もう一度、警視庁がまとめた資料を見た。そして、埼玉県の地図に、事件のあった場所の印をつけた。国道16号以外の共通点がないか考えた。所沢、大宮、浦和、春日部、川口、越谷、小手指。俺は地図を睨み続けた。




