作戦決行①
彩先生と相談した結果、囮作戦は、3日後の金曜日の夜に決行することになった。被害者のデーターから、金曜日の確率が高いからだ。それまで、ウォーキングの練習、膝をつけて座る練習を欠かさなかった。
今の俺は、四重人格の生活を送っている。3歳女児として保育園に登園し、夜は19歳の女として繁華街に繰り出し、眠る時はベビーの姿になっている。人格の本体であるヒロの姿は、ほとんど現れない。物事を4人の観点から考えることができるようになり、判断力がアップしたと実感している。日々、勉強だと思えば、辛くはない。
保育園から帰り、一つ試してみたいことがあった。誰にも見つからないように、こっそりと部屋に閉じこもった。この前、六本木で彩先生と別れたあと、一人で渋谷まで歩いた。そのとき、24時間営業のドラッグストアで、化粧品をフルセットで、購入したのだ。女性はメイク直しをしないといけないと、彩先生から言われたことを思い出し、メイク用の道具を見ようと思い、店に入ったのだが、あまりの商品の多さに、何を買えばいいのか、全く分からず、それなら片っ端から買ってしまえと思い、あるメーカーの化粧品、化粧道具を含め、根こそぎ買ったのである。
女の子の気持ちから化粧をしたいと思ったわけではない。どうやれば、上手く化粧が出来るのかを実験、検証したいと思ったのが購入した理由だ。今夜は彩先生は留守だから、実験の絶好のチャンスなのだ。俺はパソコンを立ち上げ、メイクのやり方が書かれているサイトを検索した。その中から、20歳前後の女の子が化粧を実際に行なっている動画を探し当てた。俺は、その動画を見ながら、自分も化粧をやり始めた。前にも言ったが、俺には芸術的センスはゼロである。絵も下手だし、歌は音痴である。だからこそ、集中しないといけない。俺は無我夢中で、動画を止めたり進めたり、あるいは巻き戻したりした。画面と鏡を何度も何度も見比べて、1時間ほどの時間で、とりあえず完成させた。
パチパチパチパチ、、、。
拍手の音がした。振り返ると、かすみとレイがこっちを見て拍手をしている。うっそー。いつから見られていたのか。全く気配が感じられなかった。気配を消して、この俺の背後をとるとは、かすみとレイちゃんには、かなわない。まあ、彩先生がいなかったことが、不幸中の幸いと考えよう。そう思っていたら、玄関から声がした。
『ただいまあ。みんな、ケーキ買ってきたわよ。食べましょう。』
彩先生が帰ってきた。万事休す。やはり、この3人には隠し事は無理みたいだ。
『かすみさん、ちひろも懸命なのよ。だから、笑わないであげて。』
なんと、彩先生が擁護してくれた。
『笑うなんてしません。だって、囮になるには、必要なことなんでしょ。』
『レイも笑わないよ。』
3人とも優しい。また、泣きそうになっちゃうよ。女の子って、涙腺が弱いみたい。
『ちひろちゃん、俯いていないで、こっちおいで。』
かすみが声をかけてくれた。俺は顔をあげて、かすみの方に歩いた。すると、一斉に笑い声がした。
『キャー、もう、やだあ。』
『ごめん、耐えられない。』
『あははは〜。』
3人とも笑わないと約束したのに、3人とも大笑いしている。
『ちひろ、隠れて暗いところで、メイクしてたから、分からないのよ。ほら、明るいところで鏡を見てごらん。』
上手くメイク出来たと思ったんだけど、、、そう思いながら、手渡された手鏡を見た。
『、、、』
恥ずかしい。鏡に映っているその顔は、まるでオバQだ。目の周りが真っ黒で、眉は左右で形が違うし、顔全体が不自然に白い。笑われても仕方ない。
『もう、ちひろちゃん、笑わないと約束したけど、笑わずにわいられないわ。ごめんね。こったおいで。』
俺は19歳のちひろのまま、かすみの胸に顔を埋めた。
『私がメイクの仕方を教えてあげるわ。前に、レイが言っていたように、どことなく私に似ているから、私のメイク方法があってるかもしれないと思うの。』
『ありがとう、ママ。』
俺は、また泣いてしまった。真っ黒な目の周りから、黒い涙が流れた。
1時間ほどのメイクレッスンを受けて、この日は眠りについた。いつものように、ベビーの姿になり、かすみの横で眠った。




