女の子は危険なり⑤
彩先生から、テレパシーが送られてきた。「お店のトイレに来て」
いつの間に店に入っていたのか。
『すみません。おトイレに行って来ます。』
俺は、ゆっくりと席を立ち、テーブルから離れた。女子トイレに入るのが、何だか抵抗があったが、仕方ない。中に入ると、既に彩先生が待っていた。
『ちひろ、やるじゃん。なかなかのイケメンをゲットしたわね。いい、女子はときどき、トイレに入って、メイクを直すものなのよ。貴女は化粧道具を持ってないし、技術もないから、私が直してあげるわ。』
そういうと、慣れた手つきで、化粧直しをしてくれた。
『それと、歩き方はバッチリ。だけど、座り方がダメ。あなた、向かいからパンツ丸見えでしたよ。いかなる時も、両方の膝をつけるように。これは、なかなか難しいかもしれないけど、意識してないと、脚が開いてしまいますよ。いいわね。それと、ライン交換くらいはしてあげなさい。あの男は振らないで、キープしましょう。私がもらうわ。はい、席に戻って。』
俺は席に戻った。この男の情報は心を読み取れば、分かるけど、それではつまらない。せっかくだから会話を楽しみたい。
『ちひろさんの趣味は何ですか。』
よくある質問だが、これも答えが難しい。まさか、暗殺などとは答えられないし、どうしよう。そうだ!いいのがあった。
『バレエをやってます。』
完璧な答えだ。嘘ではないし、これなら知識もある程度あるから、墓穴を掘ることもない。
『そうですか。だから、スタイルが良くて、姿勢もいいのですね。』
『さっきから、褒められてばかりで、もうお上手なんだから。』
『褒めてるのではないですよ。本当に、そう思ったんです。』
『そう言われると、素直に嬉しいです。私も質問していいですか。』
『もちろん、いいです。どうぞ、どうぞ。』
笑顔が爽やかだ。
『洋介さんは、スポーツとか、なさるのですか?』
『スポーツは得意ですよ。一番得意なのは、空手です。一応、四段です。』
おお、なんと格闘技をやるのか。しかも、四段ということは、かなり本格的にやっていたようだ。男としての強さをアピールしてるわけか。
『四段って、強いの?ちひろ、よく知らないので。』
『そこそこ、強いと思います。ちひろさんのこと、守れますよ。』
頼もしさもあるわけか。これだけの男だ。モテるはず。彼女の一人や二人いてもおかしくない。ひょっとすると既婚者かもしれない。そっかあ、女性はこんな風に相手のことを考えるのか。女心が少し分かったような気がする。核心を聞いちゃえ。
『洋介さんは、彼女とかいるんでしょう。だって、モテそうな感じがするんですもの。』
おっ、初めて顔色が変わった。聞かれたくないことを聞かれて動揺している。
『初めて会う人に言うべきことではないかもしれないのですが、何だか、ちひろさんの目を見ていると、嘘をつけることができないと思うので、正直に話しますね。今は彼女はいません。でも、妻がいました。』
男の声が震えてる。
『いました、ということは、離婚なされたんてますか。』
『いいえ、妻は2年前に亡くなりました。僕は彼女を守れなかった。殺されたのです。未だに犯人は捕まっていません。』
男は涙を流した。俺は、聞いてはいけないことを聞いてしまった。
『ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまったのね。』
俺も涙を流してしまった。
『大丈夫ですよ。ちひろさんは、悪くないです。信じてもらえないかもしれませんが、今日が妻と出会った日なのです。妻と出会ったのが、ここ六本木です。だから、何となく、この街を散歩したくなって歩いていのです。そしたら、たまたま通った歩道で、ちひろさんが辛そうになっていたのを見て、思わず声をかけたというのが事実です。顔を見たときに、驚きました。妻の面影と重なってしまって。何といえばいいのかな。そう、運命を感じたんです。あっ、ごめんね。何か、白けさせてしまったね。』
『洋介さん、友達になってくれませんか。もっと、洋介さんの話が聞きたくなりました。』
俺は男の心を読んでしまった。男の妻は暴行され殺されたのだ。俺が追っている殺人事件の被害者と同じである。少しでも、傷が癒されればと思い、友達ななりたいと考えた。
『ちひろさんは優しいですね。やっぱり今日、この街に来て良かったです。もし、迷惑でなければ、ライン交換して頂けますか。』
そういえば、彩先生も、ライン交換って言ってたけど、ライン交換って何だ?俺は彩先生にヘルプを求めた。彩先生は、偶然を装い、俺に声をかけて来た。
『あら、ちひろじゃない。偶然ね。まあ、デート中でしたの。お邪魔しちゃったわね。ねえ、このイケメンは、どなたなの。紹介してよ。』
何だか知らないけど、演技が上手い。
『この方は、榊原洋介さん。私のお友達。洋介さん、この女性は、親戚のおばさんで、赤崎彩です。』
『こら、ちひろ、おばさんって何よ。お姉さんと呼ばないと、怒るぞ。』
おどけてる彩先生。可愛らしく見える。会話をしながら、テレパシーでラインについて説明してくれたけど、良く分からない。コミュニケーションツールのようだが、俺には必要ないことかも。彩先生に任せちゃえ。
『ちひろさん、おばさんなんて、失礼ですよ。こんなに美しい女性に向かって。初めまして、榊原洋介と言います。わあ、今日は何ていい日なんだ。美女2人に囲まれてしまったよ。』
『まあ、美人だなんて、嬉しいわあ。』
彩先生、本気で喜んでる。
『それじゃあ、僕はそろそろ失礼します。』
男は伝票を取り、席を立った。場の空気を読んだみたいだ。
『ちょと待って。ちひろ、スマホ出しなさい。洋介さんも。そして、わ、た、し、も。ライン交換しちゃいましょ。』
なんだか自然の流れで、ライン交換が出来てしまった。
『連絡しますね。では、また。』
男は、お金を払って店を後にした。
『合格ね。いきなり100点満点の男と連絡先の交換が出来たんだから、間違いなく合格よ。』
『だけど、悲しい話を聞いてしまって、どうしたらいいのか分からなくて、泣いちゃいました。』
思い出したら、また、涙が出そうになってきた。
『私も、洋介さんの心を読んだので、ちひろの気持ち、分かりますよ。埼玉の事件を解決したら、彼の事件の犯人も見つけましょう。』
『彩先生、ありがとうございます。』
『何で、ちひろに礼を言われなきゃいけないの。まあ、いっか。ちひろの初恋の人なんだから。』
『ち、ち、違うよ。ただ、同情しただけよ。』
『あなた、ヒロの時はポーカーフェイスなのに、ちひろの時は、まるでダメね。気持ちが顔にすぐ出ているわよ。特に恥ずかしがる時は可愛いわよ。ああ、でも、その反応は男の心をくすぐるから武器になるわよ。』
『それって、褒めてるの?』
『もちろんよ。さて、もうちょっとだけ、ぶらぶらしましょ。今度は2人で歩きましょう。』
彩先生と2人で店を出た。勘定は、既に済んでいた。
ヒルズを出発点にミッドタウンまで歩くのが、当初のコースだったが、彩先生の気まぐれで、麻布の方に向かい六本木通りの坂を下って行った。途中、2人組の男が声をかけてきた。
『ひゅー、美人のおふたりさん、一緒に遊ばない。』
俺たちは無視して歩き続けたが、男たちは、しつこく後をつけてきた。
『ねえ、いいじゃん。ちょっとでいいから、付き合えよ。』
何ともガラの悪い男たちだ。
『ごめんなさい。先を急ぐので。』
俺は丁寧に断ったつもりだが、男たちは、そう思わなかったようだ。
『いいから来いよ。俺たちが遊んでやるって言ってんだから。俺たちを怒らせるな。』
男が彩先生の肩を掴んだ。その瞬間、彩先生は男の腕をひねり、体を投げ飛ばした。さらに、寝転ぶ男の股間めがけて、足を振り下ろした。
男は気絶した。
『何だ。この女、ただじゃ済まさないぞ。』
もう一人の男が、ナイフを取り出し、彩先生に襲いかかった。俺は、強烈なスピードで男の前に移動し、ナイフを握りしめた。俺の手から血が流れたが、当然ながら問題ない。そのまま、ナイフを握り、気を集中させた。掌が黄金のオーラで包まれ、握っていたナイフが溶けていく。
『ひえー、な、な、な、何なんだ。こいつら普通じゃない。』
腰を抜かす男に向かい、俺は一言つぶやいた。
『男は正々堂々としないとダメよ。そうでないと、モテないわよ。』
保育園のお友達がいじめられた時、いじめていた小学生に言ってやった台詞を、そのまま使った。この男たちの脳みそは小学生レベルだ。ちょうどいい。
男たちを残し、俺たちは先に進んだ。俺の頭に洋介の顔が浮かんだ。さっきの男どもと比べたら、雲泥の差。やはり、男は紳士でなければならないと思った。
『ちひろ、どう思う?この国の男ども。』
『今まで感じることが出来なかったことを、今夜知りました。女性側から見ると、男がどういう生き物なのかが、よく分かります。何とかしないといけないと思いました。』
『そう思えただけで、ちひろは成長したと思うわ。だけど、私に隠し事は無理よ。あなた、洋介さんのこと考えてたでしょう。』
バレてしまった。あれだけ言われたのに、また、顔を赤くして反応してしまった。
『やっぱりね。でも、いいのよ。この国にも、まともな男がいるんだから。洋介さんのようにね。ちなみに、ヒロは、まともな男かしら。』
『彩先生、男とか女とか関係ないです。人として、正しい行い、正しい気持ちがあるかどうかが大切だと思います。』
『そうね。あなたの言う通りね。』
あれっ、彩先生の目つきが変わった。
『男とか女とか関係ないって言ったよね。よしよし、じゃあ、やはり、ずっと女の子のままでいてもらいましょう。ね、19歳の美人のちひろちゃん。』
その言葉を残し、彩先生は瞬間移動した。俺は、もう少しだけ、夜の風を楽しみたいと思い、歩き続けた。ミニスカートが風に揺られているが、気にならなかった。




