百三十二話 上杉の転生者なんです
お久しぶりです。
もうちょっと文章量書こうと思ったんですけど、
ブランクが長いと全然筆が進みませんね
「どうやら春日山城に、景虎も居るそうだ」
「……はい?」
久助と千代女は揃って首を傾げた。
上杉景虎―― まさに今、久助たちが戦っているはずの軍勢の頭たる男が、なぜこうも普通に景勝と共にいるのだろうか。全くこの遠征に出てからはなにかと驚かされてばかりだと、頭が痛くなる思いであった。
「えっと……、どうすんだそれは……」
「ここはまず私が先行して、春日山城の様子を伺って……」
と、華姫が再び馬に跨り、踵を返そうとした時だった。
「その必要はねぇよ」
不意に聞きなれない声が割って入った。
その声の主は、木陰から現れた一人の男であった。
その男は、この時代には不釣り合いなほどに清潔そうで丁寧に織られた、白色の薄手の装束……一言でいえば白衣のようなものに身を包んでおり、荒事とは無縁そうなやせ細った腕に白い肌、そしてざんばらに短く切られた髪型と、うっすら隈が浮かぶ気怠そうな顔が特徴的な男だった。
供するのはたったの二人。一人は無骨な雰囲気の武装した男で、刀以外にも、何やら大きな荷物を抱えているようであった。
もう一人はこれまた白衣に身に纏った女性で、妖艶という言葉がよく似合いそうな雰囲気の、二十後半くらいの歳の美女であった。
「なぜ貴方がこんな場所へ? 春日山城にいると聞いていたのだが」
そんな突如として現れた一行に対し、露骨に敵対の態度を示したのは、華姫であった。
彼女は躊躇なく抜刀し、その切っ先を向けた。
「……!」
それに反応したのは武装した男だった。彼は細身の男を庇うように躍り出て、一触即発の空気が場を飲み込んだ。
全く状況の読めていない久助一行は目の前の光景に呆気に取られているばかりだった。そんななかで、緊迫した状況を打破するかのように動いたのは、華姫に刃を向けられた細身の男であった。
「はぁ……面倒くせぇ。おい小次郎、刀を下ろせ。手前は俺の前で人を斬るつもりか?」
彼は自らを護るべく立ち塞がった男の背中へ一喝する。小次郎と呼ばれた男は無骨な表情を崩さないまま、刀を納めて一歩下がった。
代わるように細身の男が華姫の前へと立つが、抜刀する華姫の前に、無手のまま全くの無防備であった。いや、そもそも彼は帯剣をしていないようだ。
「俺はただ仕事帰りに偶然出くわしただけだっての。そもそも、俺に戦う気がないことくらいわかってんだろ。なぁ義姉上様よぉ」
男は肩をすくめ、呆れたような態度でため息をつく。
「義姉上?……ということは」
「その通りだ」
奴が華姫を義姉上と呼んだこと、その意味に久助が気付くのと同時に、華姫は目線を動かさぬまま、久助たちに語り掛けた。
「あの男が上杉景虎。謙信様の養子であり、朝倉義景公の息子だ」
「あれが……噂の上杉景虎か……」
あの朝倉義景の手が掛かった者だとは予想していたが、まさか実子だったとは、久助にとっても予想外であった。
確かに、一筋縄ではいかないというか、そこはかとなく胡散臭い感じのする風貌ではある。しかしなんとなくではあるが、直感的に、悪人ではないような雰囲気ではあった。
「さて」
そんなことを考えていると、景虎は華姫から久助の方に向き直り、
「どうも、俺が『噂の上杉景虎』だ。アンタの話は常々伺っているよ、『噂の滝川久助』様よ」
と皮肉たっぷりの笑みを浮かべて言うもんだから、前言撤回。相当な食わせ者のようだ。
しかし名乗られれば一応でも返すのが礼儀。形式だけでも返答をしようとすると、間髪を入れずに景虎がそれを遮った。
「ああ、挨拶はいい。面倒くせぇ。手前が俺に聞きてえことはわかってる。『今の前』のことだろ? オイ義姉上、ちょっとあっち行ってろ」
「なっ……!?」
「黙って従え。悪いようにはしねぇし、そもそも俺如きが『夜雀』をどうにかできるものかよ」
華姫はそう言い返され、困って久助を見る。
「わかった。すまないが少し下がっていてくれ」
久助がそう言うと、華姫は黙って頷いた。代わりに千代女と新助を呼び寄せ、頭数を揃えた上で再び景虎と対面する。
「……これでいいか」
「あぁ、上々。コイツらはわかってるってことでいいんだよな?」
「ああ、問題ない」
俺たち六人以外には聞こえない声量で、互いに確認をとる。そう、新助も千代女も俺の『今の前』、つまり『生前』について理解のある人物……。ということは、間違いなく。
「なら話は手っ取り早く済ませよう。俺はお前や父、そして妹と同じ、平成の時代から転生してきた医者だ。だが既に朝倉家とは絶縁している。後継ぎにはならない。戦はしない。興味がねぇ。俺は人を治すためだけにこの時代を生きている。以上だ、質問があるなら手短に済ませろ」
転生者・上杉景虎は、笑みを浮かべてそう言い放った。




