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百三十一話 波乱の春日山城なんです

本来は春日山到着までに一戦交えるつもりでしたが、

この更新速度で寄り道していたら一生終わらないので、アップテンポでいきます。


 滝川勢が七尾城の包囲を打ち破り、新助・華姫らと合流としてから数日。

 久助たちは越後を目指して進軍を再開していた。


 七尾城の兵に加え、元より久助に匹敵する程の実力者である新助が戻ってきたことで、滝川軍の戦力は大幅に向上していた。


 そもそも滝川軍の抱える問題として、指揮官的立場の人材の不足が懸念されていた。

 ミケや千代女、鶚のように、実力があり信頼のおける部下には恵まれているが、夜鷹の本業は忍だ。戦場において指揮をとらせるわけにはいかない。

 そして藤堂高虎は実力は十分だが、彼もどちらかといえば個人技で輝くタイプであり、また比較的新参ということもあって指揮官を任せるには今一つであった。

 喜八郎や紀之介といった若き人材も育ててはいるが、実践投入するには時期早々である。

 

 そんなときに久助の右腕とも言うべき人材が帰ってきたのは僥倖であった。

 幼い頃より久助の片腕となるべく共に育てられた新助は、指揮官としても一軍を任せられるように教育されている。

 そのおかげで、時には軍を二つに分け進軍したり、「滝川軍」を久助が、「夜鷹」を新助がといったように、役割を分担できるようになったのがさらなる快進撃に一役買っていた。


 さらに久助にとって嬉しい誤算だったのが、上杉景勝の姉たる華姫が味方についたことによる影響力だ。

 元々上杉家にとって少なくない影響力を持つがために七尾城に封じ込められていたとは聞いていたが、はっきり言って想像以上だった。


 なぜならば、滝川軍に抗戦する意思を示していた幾つかの景虎派閥の城砦が、滝川軍に華姫が合流したと知った途端、景勝派に寝返り華姫に恭順の意を示すことが相次いだからだ。


 女性の身でありながらも謙信の代打として一軍を率いるカリスマと、人々を魅了する美貌、そして(フードを被っている時に限り)凛々しく聡明な性格もあり、景勝派の反撃の象徴として掲げられるには十分すぎる存在であったのだ。


 対して景虎は元を辿れば外様ということもあり、朝倉や伊達、最上を味方につける勢力の大きさから恭順を示しているものの、内心では彼の存在をよく思わない者も家中には一部存在していたようだ。

 そういった者たちは表向きは景虎派として実質的に中立の立場を保っていたものの、滝川勢の参戦によって状況が傾いた途端、まるでシーソーのように景虎派に流れ込んできたのだ。

 戦力不足を抱えていた久助にとって、戦力を補強しながら進軍できることは大助かりであった。これもまた、進軍を助長する一因となっただろう。




◇◇◇




 こうして滝川軍は景虎勢の城砦の悉くを烈火の勢いで攻略しながら進軍し、上杉軍の本拠である春日山城へ目前のところまで来ていた。

 春日山城は現在の新潟県・上越市に位置しており、東西に細長い越後でも比較的西部に位置している。


 ここで久助は華姫の弟であり、此度の争乱のド真ん中にいる人物、上杉景勝と合流する予定であった。



「……ってことで、いいんだよな?」


「景勝には私から伝えてある。手はずは整っているはずだ」



 答える華姫は頭巾を被り、戦装束に身を包んで、久助と馬を並べている。

 相変わらず頭巾を被ると同じ人間とは思えないほどに性格が激変するが、ようやくそれにも慣れてきていた。


 彼女が戦装束を着込んでいるのは単に性格を謙信モード(頭巾を被った凛々しい方の華姫を、久助は謙信モードと呼んでいる)にしておきたいからではない。

 ここ春日山城周辺は勿論景勝派の勢力圏内ではあるが、実は立地的に景虎側の御館はごく近くに位置しており、ここ越後春日山城下の情勢は、穏やかに見えて非常に不安定であるのだ。


 特に景虎派としては久助・華姫が率いる滝川軍と、春日山城の景勝らの合流を阻止すべく動いてくるのは容易に想定できることであり、久助たちは奇襲に備えて皆が臨戦態勢で進軍としていたのだ。



「それにしても、ここまで景勝派の目立った妨害がなかったのは想定外だったっすね」



 と千代女が言う通り、妨害という妨害は景虎派に与する城砦の将兵の抵抗・籠城くらいのものであり、景虎派の主力を動員しての大規模な攻撃には一度も遭遇することなく、遂にここまで辿り着いてしまったのだ。



「そうだな。俺が敵軍の指揮官だとしたら、合流される前にどちらかを叩くことを考えるが……」



 久助は辺りを見回すが、この春日山の地に戦乱の痕は全くと言っていいほど見られず、民の様子を見ても景勝側が攻撃を受けていた訳ではなさそうであった。



「景勝派と景虎派の対立は、まだ表向きにはぶつかり合ってないって噂だったしな……おや?」



 などと言っていると、春日山城の方から早馬が駆けてきた。どうやら景勝からの伝令のようだ。

 彼は華姫に一通の文を渡すと、ボソボソと何かを伝えていた。



「ふむ……、なんだと? それは……どうしたものか……」



 書状に目を通しながら難しそうに唸っている華姫を横目に、千代女がヒョコっと、下馬した久助の隣に立つ。



「なーんかあったんすかね?」


「予想外の事態っぽいが……」



 コソコソと言い合っていると、それに気づいた華姫は久助と千代女の二人を手招きして呼び寄せた。



「久助殿、少々困ったことになったようだ」


「と、いいますと?」



 千代女が問う。華姫は書状を久助たちに差し出しながら、こう言った。



「どうやら春日山城に、景虎も居るそうだ」


「……はい?」


 

  

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