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【書籍化】クラちゃんとカルーさんの幸せな結婚  作者: 真弓りの


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8/18

アタシ、幸せだぁ……!

教会の真ん中に、クラちゃんが立っている。



まっ白な燕尾服に身を包んだクラちゃんはやっぱりとっても綺麗だ。でも、今日だけはきっとあたしだって負けちゃいない。


父ちゃんが、この世の中でいちばん怖いらしいギルグレイオス様と二人でとってきてくれたアラクネの糸はとっても細くて不思議な光を放っている。ふだんは男まさりでガサツなアタシだけど、このアラクネの糸で特別に作られたドレスを着たらなんだか上品に見えたのが嬉しい。


父ちゃんとギルグレイオス様の祝福の気持ちがつまったドレスを着て。クラちゃんにも見蕩れるくらい似合ってるって言ってもらえた。



アタシ、堂々とクラちゃんの横に立てるよ。



手をさしのべてくれるクラちゃん。

早くその手を取りたいよ。



ただ。

思いの外クラちゃんとの距離が縮まらない。



クラちゃんとこまでエスコートしてくれる父ちゃんが、爆泣きで前が見えないらしく、全然前に進めないからだ。


「父ちゃん、頑張ってよぉ」


小声で一生懸命促すんだけど、父ちゃんめっちゃ泣いてるからその声すら伝わってないかも知れない。どっちかっていうともはやアタシがエスコートして、ズルズルと父ちゃんを引っ張ってる有様だ。


でも、熊レベルにデカくて重い父ちゃんを、慣れない上品なドレスにヒールという装備で引っ張るのは分が悪過ぎる。


くぅ……せっかくの結婚式なのに!

すでにアタシの額には汗が浮かびはじめた。ここからは化粧崩れとの仁義なき戦いだ。


えーん、感動的なシーンの筈なのに!

必死過ぎて感動できない、助けてクラちゃん!



しかし、なんということだろうか。助けてくれたのは、まさかの母ちゃんだった。



「何やってんだい? お前さん」



父ちゃんの首からかかっていたおしゃべり石から、母ちゃんの怒りに満ちた静かな声が聞こえた途端、父ちゃんの背中がピシャーン!と伸びた。そりゃもう、しっぽの先から耳の先まで、電気が走ったのかと思うくらいの伸びっぷりに、隣り合わせにいたアタシも一緒にびっくりしたくらいだ。



「カルーに恥をかかすつもりじゃないだろうね?お前さん」



母ちゃんがにっこり笑って黒いオーラ全開にしてる時の声だ! いつもだったら「謝って父ちゃん!」って叫ぶとこだけど、今日はそんなわけにはいかない。


行動で示すしかない。


アタシと父ちゃんは素早くアイコンタクトを交わし、うって変わって優雅に教会の中を進んでいった。



こうなると後は驚くほど早い。そもそも教会の中なんてそんなに距離があるわけでなし、麗しのクラちゃんの神々しい御尊顔がどんどん近付いてくる。


穏やかな顔でアタシ達を見守っているクラちゃんを見ていたら、なんだかやっと、ああクラちゃんと夫婦になるんだなぁっていう、実感がわいてきた。



「大切にします」


「ふん、当たり前だ」



そんな短いやり取りで、父ちゃんはアタシのエスコートをクラちゃんに譲った。思っていたよりもずっとずっとすんなりと、呆気なくて……アタシは初めて鼻の奥がツーンとした。



「行きましょう」



ちょっぴり涙が出てきたけど、しっかりとクラちゃんがリードしてくれるから、それに促されるように自然と足が前にでる。


神父様の導きで深く頭を垂れて神様に誓い、式を見守る家族に誓い、そしてクラちゃんと互いに誓いあう。


誓う時に、クラちゃんが微笑んでくれたのが、とっても麗しかった。




酔っぱらった勢いでプロポーズしたのを思い出したあの朝は、こんな風にクラちゃんが笑って婚姻の誓いをしてくれるなんて思えなかったのに。


クラちゃん、アタシ今、すっごくすっごく幸せだぁ……!






たくさん泣いて、たくさん祝福の花吹雪を浴びたら、一目散に戻ってきてパーティーの準備だ。大まかな会場の設営とか、人員整理とかはギルドの面子がやってくれてるけど、料理や盛り付けだけはクラちゃんがいないと話にならない。


冷たくてもいいものは既に準備万端、後はあったかい状態でお客さまに出すものを、クラちゃんが集中して作っていく。


かしこまった披露宴じゃなくって、来てくれた人がざっくばらんに楽しめる立食スタイルだから、次々に色んな人がふらっと来ては根掘りはほり話を聞いて、食べて、飲んで、次の人に席を譲る。



アタシとクラちゃんの結婚。

アタシのドラゴン討伐。

クラちゃんの趣向を凝らした料理。



酒の肴になる話はたっぷりあって、誰しもがみんな笑顔。

ああ、本当になんだか幸せだなぁ。



ギルドやこの店で見た事がある顔も、見た事ない顔も、入り雑じって飲めや歌えの大騒ぎ。滅多に見る事も食べる事もできないドラゴン料理尽くしに、誰しもが興奮を隠せていないから、居酒屋『クラ』は、もう熱気でムンムンだ。


冒険者のおっちゃん達は我先にドラゴンテイルのステーキにかじりついて、どっちがデカいだのなんだので競ってるし。


物珍しさか子どもを一緒に連れて来た人も多くて、こっちはくし焼きや甘辛く炒めた物を頬張っている。ドラゴンの首を見て「怖い」と震える女の子も、お肌がツヤツヤになると噂のドラゴンスープを飲めば笑顔になるのが面白い。



お酒は来る人がお祝いにとくれる物も数えきれないほどあって、もうそれこそ浴びるほど飲んでもなくならない。酒を酌み交わす人達の間を酒瓶や料理のトレーを持ったギルドの人達が忙しく立ち働いてくれている。本当に有難い。



そんな中、父ちゃんはギルグレイオス様にガッツリ肩を組まれて、ちょっぴり小さくなって飲んでいた。大丈夫かな……頑張れ、父ちゃん。



そして、何よりびっくりしたのはうちのヤンチャ達だ。


あろうことか『お手伝い』なんかしちゃっている!

クラちゃんから料理のお皿を受け止っては、お客さんにトテトテと危なっかしい足取りで運んでいくではないか!


どんな魔法を使ったんだよ、クラちゃん!

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