ついにこの日が。
あれから一週間、早いもので今日はカルーさんとの結婚式だ。
本当に忙しくって濃い一週間だった。
なにせあの後、結局ギルじいちゃんとマーサばあちゃんにもう一回来て貰って両家の顔合わせを行ったもんだから、俺がカルーさんからドラゴン付きびっくりプロポーズを受けたその日には、そこまで話がすすんでしまったわけで。
じゃあ式をいつにするかって話になれば、この居酒屋があるわけで。教会で誓いの儀式を済ませたら、即この居酒屋に戻ってきて、誰でも立ち入り自由の立食パーティーを催す事になったのだ。
なぜならば、カルーさんが狩ってきたドラゴンの肉が熟成されて最も旨味を増すのがその頃で、しかも膨大な肉を大量に保管するのも難しいから街の人達にも振る舞おう、という話になって今に至っている。これを機に今まで店に来た事がなかった人にも俺の料理を食べて貰えれば、それはそれで料理人としては嬉しいことだ。
ドラゴンを狩ってきた勇者を称え、街の人達にもその快挙をひろめる意味で、街の人達への公布はギルドが請け負ってくれたのは素直にありがたかった。
ちなみにドラゴンの頭は記念すべき戦利品としてカルーさんのお袋さんによって氷づけにされて店の目立つところに飾られている。
睨まれてるみたいでちょっと怖い。
「カルーさん、まだかかりそうですか?」
「もうちょっと待ってやってくれよ。アンタの横に並ぼうってんだ、しっかり飾ってやらねぇとな」
カルーさんはそのままでも充分綺麗なんだけどなぁ。でも一生に一度の晴れ舞台だし、カルーさん若しくは家族の皆さんが納得いくまで飾るのが一番いいんだろう。
「それよりアンタ、ちょっと寝たら?」
フルーさんが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。もしかして俺、疲れが顔に出てるんだろうか。
「ここ一週間、アンタ今日のパーティーのために仕込みとか色々頑張ってたんだろ?あんま寝てないみたいだって、カルーのヤツ心配してたぞ」
「心配させてしまったんですね」
反省だ。パーティー用の華やかな料理なんて滅多に作れるものじゃない。しかも素材はグレブルだって極上なのに、ドラゴンなんていう一生のうちでも触れるか否かの貴重な品を前にして、つい色々やってみたくなってしまったのだ。
居酒屋料理ばっかりの俺からしたら勝手がわからなくて、無駄に時間がかかったってとこもある。半分以上自業自得だというのに、カルーさんを心配させてしまったとは。
「自分じゃあんま役に立てねぇって珍しく落ち込んでたな」
「そんな、充分手伝って貰いましたよ。とても助かりました」
「うそ、役に立った⁉ まな板ごと叩き切るようなアイツが⁉」
「はい」
生クリーム泡立てたり、マッシュポテト作って貰ったり、裏ごししたり、ほぼ力仕事だがこれがまた時間がかかる上に体力も要るから、本当に助かった。ただ、内容はフルーさんにはふせておこう。
「マジか、アイツがねぇ……いや、まぁいい、そんな場合じゃねぇや。とりあえずアンタ、寝な。うちの可愛い妹が仕上がって来たら、ちゃんと起こしてやるからさ」
言葉は若干荒いけど、フルーさんが基本優しい人なのはここのところのやり取りで充分に理解している。俺は、フルーさんのお言葉に甘え、暫しの眠りについた。
起きたら、女神がいた。
純白のドレスは上品なマーメイドラインでしっとりと光る素材が使われているようで、かの人が身じろぎするだけで柔らかできめ細かな光沢を放っている。真っ赤な髪を彩るティアラは繊細な細工でひとめで腕利きの職人が丹精込めて造り上げた品だろうと分かるってのも凄い。
そのティアラから垂れる、全身を包み込むヴェールがこれまた美しかった。レースなんだろうが、物凄く細い糸を使っているのか一枚一枚は薄くて意匠が凝らされている。それを何層にもドレープを利かせながら重ね合わせてあって、なんとも神秘的な輝きだ。
「クラちゃん……どうかな」
なにより、それを着ているカルーさんが文句なしに綺麗だった。いつもよりおしとやかにはにかんでいる姿は垂涎ものだ。
やっぱりカルーさん、美人だなぁ。
「おかしい?」
俺が見蕩れて返事をしなかったせいで不安にさせてしまったらしい。自信なさげに眉を寄せた。反応も抑え気味だ。本当にカルーさんか?というくらいおとなしい。
「まさか!物凄く綺麗ですよ。思わず見蕩れてしまいました」
ありのままを伝えてみれば、カルーさんは今までのお淑やかさが嘘みたいに、思いっきり破顔した。
「良かったぁ!このドレスとヴェールね、あの顔合わせの後ギルグレイオス様と父ちゃんが、わざわざ一緒にアラクネ討伐に行って仕立ててくれた貴重な逸品なんだよ。似合わなかったらどうしようかと思ったぁ」
ドレスからちゃっかり出ているしっぽが嬉しげに全力で揺れた。さっきの神秘的な雰囲気なんかもはや欠片もない。
うん、間違いなくカルーさんだ。
そして呆れるほど平常運転だった。
ギルじいさんと親父さんのサプライズプレゼントよりもそっちにびっくりしてしまった自分にもびっくりだった。




