アタシの兄ちゃん
「兄ちゃん!」
「おっカルー、ドラゴンもしとめられるようになったのか、やるなぁ」
現れるなりアタシの頭を盛大にかき混ぜるのは、アタシの双子の兄ちゃん、フルーだ。ついさっきまで戦闘中だったのか、泥まみれで血まみれ。ここに来たって事はアタシが結婚したいって言ってるのを知っての事だろうに、真っ先にドラゴンに目がいっちゃうあたり未だに戦闘が三度のメシより好きなのは変わってないらしい。
ちなみにアタシは戦闘より、これからはクラちゃんが作ってくれる筈の三度のメシの方が断然好きだ。
「うげぇ!血生臭せーよ、フルー兄ちゃん!」
「きったねぇ!」
「おみやげはー?」
いつの間にかラスクを食べ終わっていたらしい弟たちから避難轟々受けてるけど、もちろん兄ちゃんは飄々としている。
「ああ、悪りー悪りー!カルーを貰ってくれるとかいう勇者を一目みたら帰るから」
そう言って超わざとらしく辺りを見回す。
どう見たってここにはアタシ達家族とクラちゃんしかいないじゃんか……!そりゃクラちゃんはアタシには勿体ない美人さんですよ。
「そんなにわざとらしくキョロキョロしなくても……」
ちょっぴり悲しくなってしまったら、アタシのシュンと下がった耳を見て、クラちゃんが名乗りを上げてくれた。
「うそ⁉ やっぱりアンタ⁉ え⁉ なんで⁉ 天変地異⁉」
兄ちゃん、わざとらしく驚きすぎ。
きっとアタシに先こされた上にクラちゃんが美人さんだから悔しいんだ。これぞ負け犬の遠吠え。ふーんだ、さんざん悔しがるがいい!
「マジで⁉ 騙されてない⁉」
くぅ……まだ言うか!
「ええ⁉ カルーのドコに惚れたの⁉」
え⁉ そんなぁ兄ちゃん、それ訊いちゃう? そんなのアタシだって知りたい。て言うか「え、言わなきゃダメですか?」って照れてるクラちゃん可愛い!無表情にうっすら頬っぺたが赤いだけだけど、アタシには分かる。クラちゃんは今、猛烈に照れている、多分!
「ええと……プロポーズにドラゴン持って来ちゃうような、豪快なとこ?」
「なるほど」
そんなぁ兄ちゃん!なるほど、じゃないよぉ……がっかりだよ何か。しかもハテナ付きだったし。いや、でもクラちゃんがメロメロ~ってなるようなスッゴい獲物って思ってドラゴンを狩ったんだから、これでいいのかな?
いや、でもアタシはカッコいいと思って欲しかったんであって、豪快ってのとはなんかこうちょっと違うって言うか……イジイジとしっぽを触っていたら、クラちゃんがわずかに目を細めてアタシを見た。
……?
よく見ると、口角がちょっぴりだけ上がってる?
「あと、感情表現が豊かな犬耳としっぽ」
「そんなんうちの家族全員そうだわ」
「ですねぇ、癒されます」
クラちゃん、癒されてたんだ。
そっか、アタシのしっぽが大暴れした時、初めて笑ってくれたんだっけ。アタシのしっぽも役に立ってるんだなぁ。クラちゃんが癒されると知って今もふわふわと左右に揺れているしっぽ。
うむ、今日は思う存分揺れるがよい。
「他には?」
「カルーさん、凄く美人で可愛いし」
「そんなんうちの家族全員そうだわ。あ、熊っぽい親父は除く」
「おいコラ」
父ちゃんは不機嫌そうだけど、こればっかりはしょうがない。うちはみんな美人の母ちゃん似だ。顔は悪くないと思う。母ちゃん、強い遺伝子ありがとう。
「それに、しょっちゅう極上の素材、差し入れてくれますし」
「物につられたわけだな」
「それもあります。でも」
「でも?」
「一番は、俺の作ったメシを食べてる時の、幸せそうな顔ですかねぇ」
クラちゃんが思いだしたように、フフッと笑った。
その破壊力たるや。
「クラちゃん、大好きだぁ!」
我慢できなくてクラちゃんに飛び付いた。結婚するって言ってくれたくらいだから多少のお触りくらいは許してくれるだろう。さっきも抱き付いた時怒られなかったし。
ギュウッと抱き付いて喜びをアピールする。アタシのしっぽももはや遠慮なんて忘れたくらいの勢いで左右にビュンビュン動いている。クラちゃんがポン、ポン、と軽く背中を叩いてくれた。
嬉しくって腕にちょっぴり力が入るとともに、しっぽの勢いも増す。うむ、くるしゅうない。存分に揺れるがよい。
「か、カルーさん、ギブ……! 折れるから……!」
クラちゃんから聞こえてきたのは、ギリギリっぽいうめき声だった。
……あれ?




