さらに賑やかで、幸せな日々
「ああもう、うざってぇ‼ いい加減大人しく座ってろっつーの!」
しびれを切らせたような叫び声に、我に返った。
情けない、心配のあまりつい熊みたいにうろうろと歩き回ってしまったみたいだ。
「あ……すいません……」
「オマエはまだしょーがねぇ。ただ、そこのじいじ二人! アンタらまでうろうろすんな!」
フルーさんの苛立った声に辺りを見回してみれば、なるほど、お義父さんとギルじいちゃんまで心ここにあらずの様子で、うろうろと所在なく歩き回っている。産院には男は入れないし、どんなに心配だろうと俺達はここでヤキモキしながら待つ事しか出来ない。
「あらあら、しょうがないじいじ達ですねぇ」
見ればマーサばあちゃんがクスクスと笑いながら、テキパキと赤ちゃん用のベッドの準備をしてくれている。うちの女性陣達はかなり仲がいい。いよいよとなったら、お義母さんが産院に付き添ってマーサばあちゃんが家で受入れの準備をするように前々から決めていたらしい。
マーサばあちゃん達がここに来たのだって、お義母さんからおしゃべり石で連絡を受けたからだっていうから畏れ入る。
俺も含めた男性陣の腑甲斐無い無駄な動きに対して、マーサばあちゃん達女性陣の落ち着き払った的確な動きときたら。
情けなくなって、はぁ、と大きく息をついて取りあえず手近な椅子に座ったら、目の前にトン、と音を立ててキンキンに冷えていそうな水が置かれた。
「メル」
「レモン水。ルルがさ、落ち着くからって。飲みなよ」
「ありがとう」
そっか、本当にずいぶん気が利くようになったもんだなぁ。一番最初に会った時は見分けもつかなかった三つ児だが、この六年で随分店も手伝ってもらって得意分野もできてきた。
ルルは料理が好きみたいで、よく厨房回りを手伝ってくれる。俺が疲れた様子の客にレモン水をサービスしていた事を覚えていたんだろうな、きっと。なんとなく嬉しく思いながらレモン水を口に含む。
……うん、落ち着く。
「大丈夫だよ、カルー姉ちゃんなんだから。メッチャ元気な子供抱えて本人だってスキップしながら帰ってくるって」
メルのあんまりな言い様に思わず笑ってしまった。それも、あり得ない事じゃないからまた面白い。メルは話上手でドングリ目の可愛らしい容姿も相まって、女性のお客さんに人気だ。本人もそれが楽しいらしくよくウエイターをかってでてくれる。
女ったらしにならないか、若干心配しているのは内緒だ。
「そーそー! なんならバク転しながら帰ってくるって!」
調子にのって言葉をかぶせてきたのがアル。三人の中では一番ヤンチャで元気がいい。店ではだいたい冒険者のおっちゃん達の武勇伝を喜々として聞いていて、稽古をつけてもらったりからかわれたりと忙しい。アルは間違いなく冒険者になるだろうなぁ。
「さすがにバク転はないだろうけど、まぁ確かに元気で帰ってくるだろうね、カルーさんなら」
可愛い弟達のおかげで大分落ち着く事ができた俺は、しっぽフリフリしながらスキップで帰ってくるカルーさんを想像して、ちょっとにやける。俺の様子が落ち着いたせいか、子供達が膝に飛び乗ってきた。
「ママ、すぐ帰ってくる~?」
「ママがいないと、寂しい……」
痛い。そして二人もいっぺんに乗られると地味に重い。
それでも、不安そうに耳をペショリと垂らしたまま、つぶらな瞳で見上げてくる二人を邪険にする事なんて出来ない。
纏めてギュウッと抱きしめて「大丈夫、ママは強いんだから。すぐに帰ってくるよ」と請け負った。
その時だ。
店のドアがバァン‼と破裂するみたいに開いた。
「クラちゃあん! やったよアタシ‼ 超‼ 安‼ 産‼」
俺が心配していた筈の人が、満面の笑顔で立っていた。
両腕に、すやすや眠る新生児。
え、あれ? ドア蹴り開けた?
もしかして、産んで、まさか歩いて帰ってきたのか?
「ほら! 四つ児ちゃんでーす! ほら、パパだよ~、かっこいいでしょ~」
え、いや、二人しか抱いてないよな?
……と思ったら、その謎は即座に解けた。道の向こうから、お義母さんがこれまた二人の新生児を抱いて、歩いてきたからだ。きっとダッシュで帰ってきたカルーさんを止められなかったんだろう、可哀相なくらい苦り切った顔だ。
「あっという間に産まれてね、母子共にお医者さんもびっくりなくらい超元気!」
どうだと言わんばかりに胸を張るカルーさん。
それを見たら堪らなくおかしくなって、俺はまたひとしきり笑った。
元気で帰ってくるとは思ったが。
元気過ぎるだろうコレ。
心配したのが馬鹿馬鹿しくなるレベルの元気っぷりだ。
ニューフェイスの四つ児ちゃんは全員犬耳だし。
カルーさんの血、自己主張強過ぎだろう。
いや、可愛いけど。
カルーさんの回りには、小さな赤ちゃんを見ようと、全員が興味津々の顔で集まっている。鼻が自分に似ているの、二重まぶたがどうだの、なんともまぁ賑やかだ。もはや誰もカルーさんの暴挙なんか気にする素振りすらない。
でもなんかもう、それでいい気がしてきた。
だってカルーさんだしな。
きっとこれからもこうして、賑やかで幸せな日々が続いていくんだろう、俺はその日、そう確信したのだった。




