きたっ⁉
「ねぇ、クラにーちゃん、おやつまだぁ?」
珍しく空気を読んだらしい弟達がクラちゃんに小さく呼びかけた。うちのヤンチャ達はナゼかクラちゃんにだけは忠犬みたいに従順なんだよね。家ではやったことすらないお手伝いまで率先してこなしてるんだから不思議でならない。
「死ぬかも」
「手伝ったのに……」
テーブルにつっぷして口々に小さく不満の声を上げる弟達に、クラちゃんは優しげな天使の頬笑みを浮かべた。そう、アタシと結婚してから、クラちゃんはよく笑うようになったんだよね。前は無表情でいつもお人形みたいにキレイだったけど、喜怒哀楽が表情に割と出るようになったクラちゃんは、本当に素敵だ。
ああ、いいなぁ、クラちゃんに笑ってもらえて。
アタシなんか鬼の形相で叱られたのに。
いやまぁ、アタシが叱られるような事したんだけどさ。
「ごめんごめん。後は焼くだけだからちょっと待ってて。手伝ってくれたからね、ご要望通り今日のおやつはマフィンだよ」
イエーイ♪とハイタッチを交わす弟達。
さっきのぐったり感は演技だったのかと聞きたいくらいの喜びっぷりだよ。
「アルがバナナマフィンで、ルルがプレーン、メルがチョコとアーモンドのトッピングだったよな?バニラアイスもつけるから勘弁な」
またもイエーイ♪とハイタッチする三人。
「クラにーちゃん大好き~‼」
しっぽを全力で振りながらの大好きの大合唱に、クラちゃんは笑いながら厨房に入って行った。そして、じゃれつくようにしっぽをフリフリしながらクラちゃんの後を追い、弟達も厨房に消えていった。きっと「お手伝い」してさらなるおやつのグレードアップでも狙ってるんだろう。
うう、いいなぁ。
アタシも動いたからお腹減った……。
でも、さすがに言えないよぅ。
悲しくなってイジイジとお腹をさすっていたら、小さくアタシのお腹が鳴った。今のアタシの心境を汲んでか、とっても密やかな鳴りっぷり。と思ったら。
グオオオオオォォォォ……
獣の唸り声みたいな音がどっかから……これってもしや。
そう思って音のした方を見てみたら、父ちゃんと兄ちゃんが二人してお腹を押さえていた。うん、気持ち分かるよ。
次いで、厨房から大爆笑が聞こえてきたかと思ったら、弟達がマフィンだけでなく沢山の料理が盛られた皿を持って、次々に厨房から現れる。母ちゃんがメインディッシュを、最後にクラちゃんが、大量のピラフがのった皿を持って出てくると、もうたまらない。
あったかそうな湯気がたつスープも、みずみずしい野菜サラダも、すべてが美味しそう……おっと、よだれが。
「みんな腹を減らしてるんだろう?本当にしょうがない人達だねぇ」
「俺達が話してる間に、皆さんが獲ってきた巨鳥ガルッサをお義母さんが捌いてくれてたんで、今日は鳥づくしです。ちょっと早いですけど昼食にしましょう」
母ちゃんとクラちゃんのお許しが出れば、もちろん否やなんてある筈もない。アタシは心の中でガッツポーズした。
「なんかオイシイにおいがする~‼」
「ごはん?」
においにつられて帰ってきたユイとレオンに精一杯謝って、ハグハグしあって落ち着いたら、楽しいご飯の始まりだ。母ちゃんもクラちゃんも怒ると怖いけど、後引かないのがありがたい。
美味しいご飯をたくさん食べて、レオンが見つけたキラキラ光る石の話だとか、ユイが魚を捕っただとか、たわいもない話をワイワイとしていた時だ。
「⁉」
突然、痛みに襲われた。
「カルーさん⁉」
真っ先に異変に気付いてくれたのは、やっぱりクラちゃんだった。
「き……きた、かも」
「えっ⁉ まさか陣痛ですか⁉」
コクコクと首肯くと、一斉に全員が集まってきた。
「ママ! 痛いの⁉」
「赤ちゃん、出てくる?」
「うん、もうすぐお兄ちゃん、お姉ちゃんになるね」
心配そうな子供達に精一杯笑ってみせる。
ママ、頑張って元気な赤ちゃん、産んでくるね。
「カルー、飛ぶよ」
母ちゃんに優しく抱かれて、目を閉じる。
クラちゃんの心配そうな顔がチラッと見えたけど。大丈夫、心配しないで。アタシ、頑張るから!
飛び石を踏み割る音がして、アタシは多分、産院へと飛びたった。




