一瞬の安寧
12月2日。
編集にて内容を追加しました。
「お二方、迎えに参りました」
そう静かに微笑んだ少女は、無数の魔物を一瞬にして殲滅させたその細剣を腰に収めた。
「「・・・・・」」
俺たちは二人して唖然としてしまった。
そして、俺の頭の中では、様々な疑問が渦巻いた。
―――――今のはなんだ?
―――――この少女はいったい・・・
―――――迎え?どこから?
一つ目と二つ目の疑問は、すぐに仮説を立てることができた。
おそらく、彼女の正体は魔戒士、なのだろう。
魔戒士ならば、さっき、魔物を一瞬にして殲滅できたのもうなずける。
付与武具ではあの威力は出せない。よって、この仮説は多分正解だろう。
・・・だが、最後の迎え、というのが引っかかった。
あの少女は「迎えに来た」といった。
もし、援軍だとするなら「迎え」とは言わないだろう。
それに、援軍が一人だけ、というのも変な感じだ。
――――――ならば、迎えはどこから・・・
「大丈夫ですか?けがはないですか?」
少女の言葉に、俺の思考は中断する。
「あ、あぁ。大丈夫。助かった。ありがとう」
「そうですか。よかったです」
少女はそういって、顔を綻ばせた。
・・・・む、よく見ると可愛い。
セミロングほどの長さの銀色の髪は、日の当たり方によって白にも見えるほど綺麗だ。おそらく、地毛だろう。
目は青碧で整った顔だちをしている。
小柄で中学生ほどしか背がない。
「和真・・・」
千紗が抗議するような視線を向けてくる。
「あー、ごほん。それで、『迎えに来た』って言ってたな。どこから?」
俺は千紗から目をそらしつつ、わざとらしく咳払い。
少女にそう聞くと、少女は一瞬「あ」みたいな表情を見せ、あわただしく頭を下げた。
「も、申し訳ありません。私は魔戒士育成機関中等部三年の、ソフィール・キリステイルと申します。ソフィと呼んでくださって結構です」
そういって頭を上げる。
しっかりしている印象だ。しかし、なぜか親近感を覚えた。
・・・・一人で、大きな何かを、抱えている。そんな風に。
ソフィはそのまま続ける。
「白枷和真さんと霧瀬千紗さん、ですね」
「―――――っ!!」
ソフィがそういった瞬間、俺の中を黒い何かが一瞬だけ這いずり回る。
わずか一瞬なのに、冷汗が流れた。
「・・・なんで、その名前を知っている」
俺はソフィに向け、静かに言った。
千紗も若干、表情をこわばらせている。
「・・・・それは言えません。ですから、それを話すためにも一緒に来てください」
「ぬかせ!」
俺は一気に刀を鞘走らせる。
ソフィは若干困惑の表情を俺に向けるも、すぐに表情を消し、腰の細剣を抜く。
「すいません・・・・。学園長に、『なんとしてでも連れてこい』と言われましたから・・・」
ソフィが何かを言うも、俺の頭には届かない。
「和真!!」
「千紗、下がってろ」
千紗が何か伝えようとするも、無視。
千紗が下がったのを確認し、俺は鞘を左手に、刀を右手に持つ。
腰を落とし、やや前傾に構える。
本物の刃を、人に向けるのは初めてだ。
緊張と焦燥、そして――――困惑。
俺の中でそれらの感情がぐちゃぐちゃになる。
切っ先がわずかに震える。
視界が僅かに霞む。
「ああああぁぁぁぁぁっ!!」
俺は鈍る感覚を戻そうと絶叫すると同時に地を蹴り、刀を振りかぶった。
一瞬にして、さっきまでの空気をかき消すように一直線に駆け抜けた。
俺の意識は走る前から切り替えられている。
遠い間合いから、右手の刀を大きく横薙ぎに繰り出す。
ソフィはそれをわずか一歩後退することであっさり躱す。
――――まだ、終わりじゃない!
俺は横薙ぎにした勢いを殺さず、逆に体を回転させる。
それに合わせて左手の鞘を刀と同じ軌道で振るう。
次の瞬間、金属がぶつかり合う鈍い音がこの場を支配する。
俺の鞘は細剣に止められ、勢いすら殺された。
「くそっ・・・!!」
俺は目の前の実力差に焦っているのを感じた。
大きく後ろに跳躍する。
刀に魔力を込め、切っ先を地に這わせるように、刀を下から上へ振り上げる。
「―――――ここだっ!!」
俺は焦りを吹き飛ばすように吼え、刀に込めた魔力を爆発させる。
振り上げた瞬間、魔力は一つの塊と化し、地面に傷跡を残しながら、一直線にソフィへと飛ぶ。
「なかなか、面白い戦い方をしますね」
ソフィはわずかに頬を上げ、細剣を構える。
空いた左手を目の前にかざすと、一瞬にして大気が収束する。
それは細長くなり、ソフィが握ると光を残しはじけた。
一瞬にしてソフィの左手には新たな細剣が握られていた。
「たああぁぁぁぁぁぁっ!!」
ソフィは魔力の塊を臆することなく、右手の細剣を突き出す。
魔力の塊と、ソフィの細剣の切っ先がふれた瞬間、魔力の塊が爆ぜ、細かい粒子を残して消えた。
――――来るっっ!!!
そう思った瞬間には時が止まっていた。
否、そんな錯覚すら当たり前だ、と言わんばかりの光景が目の前に広がる。
「な・・・・」
一瞬にして俺に肉薄したソフィに俺は驚愕の声すらあげることがままならない。
無慈悲に突き出される剣先。
俺は半歩、右足を引き、ぎりぎりのところで躱す。
頬を剣先が掠め、わずかな痛みが頬を伝う。
嫌な汗が背筋をなぞる。
刹那、時間が引き伸ばされたような感覚に陥る。
二本目の細剣が俺の右胸を貫かんとばかりに突き出される。
大きく目を見開く。
俺は左腕でわずかに防御態勢に入る。
かろうじて、剣先は左手を貫くだけに終わった。
「ぐっ・・・・」
腕を駆け抜ける痛みに、鞘を取り落しそうになる。
俺はぐっ、とこらえ、トンボを切って後退する。
ソフィを見る。涼しげな表情でこちらを見つめる。
くっそ・・・こっちは常にギリギリだっていうのに・・・。
強い、と確信が警戒へ変わった瞬間、ソフィが口を開く。
「・・・こんなものですか?まだまだですよねっ!!」
ソフィは俺が応えるより速く、地を蹴っていた。




