落ちこぼれの実力者
「和真!!」
急いで教室を飛び出した俺を呼び止めたのは、俺と同じように竹刀ケースを持った千紗だった。
「まさかうちの学校にも出るなんてな」
「うん。クラスの子に聞いたんだけど、魔戒士協会も、騎士団も出てきてくれないらしいの」
「なに・・・?」
どういうことだ?出てきてくれない・・・?
魔戒士協会は、警察が精霊使いになったようなものだ。こういう魔物関連の問題は主に魔戒士協会から数名派遣されてくるのだ。
騎士団は、魔力が高くても精霊と契約できない人たちの集まりで、魔戒士協会の予備軍みたいな立ち位置となっている。
それが、どちらとも出てこない・・・?
「ここにいたか。お二人さん」
何やら展開がきな臭くなってることに不信感を抱いていると、聞きなれた声が背後から聞こえた。
「あ、京助くん」
千紗にそう呼ばれた男子生徒、華倉京助はいつもの胡散臭い笑みとは打って変わり、余裕なさそうに顔をしかめていた。
「京助、なんかあったのか?」
「ああ、学校の結界術式装置が、壊されていた」
そう聞いた瞬間、俺の中ではいやな予感が膨れ上がった。
「つまるところ、何者かによる、意図的な事件だと」
そうだ、と京助は難しい顔でうなずいた。
壊された結界・・・先ほどまで話していた魔物出没事件とは少々状況が異なる。
だが、俺は、直感的に同一犯だと思った。
「・・・この際、犯人捜しはおいておくとして―――」
頭の中で瞬間的にイメージを、膨らませシュミレートする。
壊された結界、居座り続けるであろう魔物、校舎に残された生徒、教職員、動かない魔戒士や騎士団の組織。
そして――――俺たち。
優先すべきは二つ、この建物にいる人全員の安全。
間もなく、教師による避難誘導が始まるはずだ。今も校舎内だけ避難を促す放送がしきりに入っている。
おそらく、この学校に、魔物に対抗できる奴は―――――俺と千紗くらいしかいない。
避難誘導は教師に任せ、俺たちは魔物討伐を優先すべきか。
「なぁ、京助。結界は張りなおせるか?」
「そんな網戸の張替えみたいに言われてもなぁ・・・」
ふざけたことをぬかしてはいるが、余裕がなさそうだ。
俺たちが一番に優先すべきは結界だ。もちろん学校側にいるやつが修理に来ると思うが、いかんせんこの状況だ。時間がかかる。
結界を直さない限り、魔物は入るだろう。
「・・・結界の本格的な修理が始まるとしても、最速で1時間。それまでに応急処置をしろってか」
京助がぼそりとつぶやく。
「ああ。時間は俺と千紗が稼ぐ」
そういって隣の千紗を見る。千紗は余裕が多少はあるのか落ち着いている。
「避難誘導もそろそろ始まる。俺たちはすぐに魔物の討伐に向かう。それと同時に京助、結界の応急処置を任せた」
「はっ、頼む、じゃなくて任せた、か。信頼のし過ぎは裏切りを呼ぶぞ?」
そういって京助はニヤリと不敵に笑った。
「ああ。でも俺を裏切っていいことなんてないと思うぜ?」
「どうだかな」
そういって互いに笑みを見せ、俺たちはそれぞれの作業に当たるため、別れる。
「・・・まかせたぞ」
「しつこいって」
すれ違いざまにそうかわし、俺たちは校庭へと向かった。
校庭―――――
「千紗、準備はできたか?」
「うん、だいじょうぶだよ」
校舎の隅に隠れ、狼みたいな魔物の様子を伺いつつ、そう聞くと思った以上に元気な声が返ってきた。
千紗は自分の竹刀ケースから、己が獲物を取り出している。
俺もそれに倣い、ケースの中身を取り出しつつ、千紗と打ち合わせをする。
「俺が先に突っ込むから、千紗はそのあとに続いてくれ。俺がスペースを開けたら飛び込んで、立ち位置を変えながら連携攻撃で攻めよう」
「・・・?わかった!!」
今一瞬首かしげたぞこいつ。大丈夫か?
「・・・要は、俺のサポートと立ち位置変えながらの連携だ」
「ああ、了解!」
千紗はポン、と手を打ち笑顔でうなずいた。
「今のところあの狼だけだ。増えるかもしれないから注意な」
そういい、俺たちはそれぞれの獲物を構える。
千紗の手には、控えめな装飾が施され、刃の付け根あたりに青白い宝石がつけられた薙刀「蒼刃・氷牙」が握られている。
そして、俺の手には黒曜石のように黒い刀身の一か所に黒い宝石がつけられた刀、「黒鉄・時雨」が鞘に収まった状態で握られている。
千紗が薙刀を習い始めたのって、この薙刀があったからなんだよな。
俺たちの手に握られている、この二つは、それぞれの先代から受け継いだ付与武器≪エンチャント・ウェポン≫だ。
これは、精霊の恩恵の塊ともいわれる結晶を武器に付与することで、疑似的に精霊の恩恵を受けられる、という術式以上に優秀な技術だ。
もっとも、使用できるのは、魔力を多く持つものだけなので、騎士団でしか使われていない。魔戒士は精霊がいるから使わないしな。
ようするに、これを使用する俺たちは、騎士団と同じか、それ以上の存在、というわけだ。
俺たちは、本当は騎士団に入らないといけない、魔を赦す者≪ロスト・チルドレン≫なのだ。
「できれば、ばれずに卒業したかったんだけどな・・・」
思わずそうぼやくと、千紗も微妙な表情で、そうだね、と苦笑いした。
まあ、仕方ないよな・・・。
気持ちを切り替える。柄に魔力を込め、身体強化の恩恵を発動。
思考が冴えてくる。徐々にクリアになっていく思考の中、俺は標的を一点に絞る。
まがまがしいオーラをまとった狼。
「いくぞ!!」
そういった瞬間には俺はもう駆け出していた。
狼との距離、5M。まだこっちに気づいていない。
俺は刀を鞘に収めたまま、腰だめに構え、そのまま走る。
狼との距離、3M。狼がこちらに気づき、振り向く。
俺はまだ刀を抜かない。
狼との距離、1M。その時点でさらに柄に魔力を込め、加速する。
「う・・・らぁぁぁぁっ!!」
裂ぱくの気合いとともに、一気に狼に肉薄し、自身の速度をも刀に乗せ、一気に抜き放つ。
普段以上に鋭く、速い斬撃を放つ。
刃はそのまま吸い込まれるように狼の体に入り、俺の手には若干の手ごたえを残した。
俺はそのまま狼の横をすり抜ける。
一瞬にして体ごと振り向き、つま先で勢いを殺す。
その瞬間に、刀を鞘に一瞬で収める。
宝石、「霊心≪コア≫」に込められた基本的な恩恵、身体強化によって生まれた渾身の一撃。
それは狼の体を浅く切り付け、狼の周りのオーラを斬るだけだった。
―――かわされた!?―――
そう思った瞬間には、狼は俺に飛びかかり、爪を振り下ろすところだった。
「・・・・ッッ!!」
俺は刀を水平に掲げ、狼の攻撃をはじく。
狼は素早く、更なる攻撃を続ける。
「・・・させないっ!!」
防戦一方になっているとこに、千紗の刺突が狼の体を浅くえぐる。
そのまま流れるような動作で薙刀を振るい、狼を押し返す。
「和真!スピード上げすぎ!!サポートするタイミング失っちゃったよ!!」
「・・・ああ、ごめん。助かった」
不満そうに口を尖らす千紗に謝罪し、狼を見据える。
「千紗、ついてこれるか?」
そういいつつ、刀を腰だめに。いつでも抜刀できるように構える。
「うん。できると思うよ」
「そうか。じゃあ行く!!」
そういって再び、一瞬でトップスピードにギアチェンジし、狼との距離を詰める。
「白枷流抜刀術、十五の型、『瞬影』!!」
最初の一撃をも超える速度で肉薄し、狼とすれ違う。
俺の手には鞘から抜かれた刀と、確かな手ごたえ。
次の瞬間、狼の体から、鮮血が飛び散った。
「グギャアアアア!!グ・・・ガアアアァァァ!!」
狼には似合わない咆哮を上げ飛びかかってくる。
俺は後ろに大きく跳躍すると同時に、千紗が入れ違う。
「せああぁぁっ!!」
千紗は、薙刀を大きく薙ぎ払い、狼に迫る。
「白枷流薙刀術、終の型『双刃天月』っっ!!」
次の瞬間、千紗は高速で薙刀を振るう。
縦横二つの三日月型の斬撃が狼に点で行く。
二つの斬撃が十字に重なり、狼の体に深いダメージを与える。
「グギャァァァァァッ!!」
狼の体は宙に浮く。
―――だが、まだ終わらない―――
刹那、千紗は一瞬の隙も逃すまいと、狼に肉薄する。
「これで、終わりっ!!」
千紗は大きく吼え、十字の傷の真ん中目掛け、突きを放つ。
―――ズドンッッ
刺突は大きな音を立て、狙い通りに深く突き刺さった。
「グォォォォォ・・・ォ・・・」
狼の体が崩れ落ちる。
正直、目の前の光景に驚き、呆気にとられてしまった。
千紗は薙刀を引き抜き、くるりと回す。
ビッ!っと血を払う。そして俺のほうへ振り向き、ぶい、とピースサインを笑顔と一緒にした。
「あぁ、やったな」
「うん!」
俺は短くそう答え、千紗が大きくうなずく。
こうして、ひとまず校内の魔物を討伐することには成功した。




