昼下がりの空気
決闘を終え、千紗のほとぼりも冷めたところで叔父さんがやってきた。
朝練も終え、道場に備え付けてあるシャワーで汗を流してから、俺は千紗と食事をとり、一緒に登校する。
部活に入っていないが、護身のため、と叔父さんに言われ毎日のように竹刀のケースに護身具を入れ、二人して持ち歩いている。
いつもの流れ。日常的な光景だ。
「しかし、こうしてみると俺たち家族みたいだよな。」
「ふえぇ!?」
歩きながら、ふと思ったことを口にすると、隣を歩いていた千紗はいきなり素っ頓狂な声を上げた。
なぜか顔まで赤くなってる。
「そ、それってどういう・・・?」
「どうもこうも、毎朝一緒に鍛錬して、ご飯食べて、登校してるだろ?それってなんか兄妹みたいだなって」
「あ、あぁ・・・そういうこと・・・」
ごく自然に答えると、千紗はがっかりしたような表情で納得していた。
俺なんか気に障るようなこと言ったか・・・?
「あ、もしかして姉がよかったか?」
我ながらナイスな視点だ。千紗ががっかりしている理由はこれだろう。
「違うよっ!和真のバカ!!わかってたけどさっ」
どうやら違ったようでした。そしてさらに怒らせてしまった。
・・・なんでこいつ、こんな怒ってんの?
っていうか、ひどい言われようだな・・・確かにバカだけどさ・・・はぁ・・・
千紗は学校について、別れるまで怒っていた。
あとできちんと謝っておこう・・・。
―――午前11時50分―――
風に舞う葉を見ながら、クラスの喧騒に耳を傾ける。
今、俺のクラスでは文化祭に向けて、出し物を決める話し合いをしている最中だ。
前に立った書記と、代表の二人は、クラスメイトへと意見を求め、黒板に書き流していく。
うちの高校は、文化祭がとても速い、というところも特色らしい。
まあ、二年目、ということもあり慣れたが。
ふと黒板に目を向ける。
劇に漫才、お化け屋敷に屋台だったりと様々な案が出ていた。
そのまま見ていく。
サバイバルゲーム。
「・・・・・」
どう考えても無理だろう・・・。誰だ、これ考えたの。
次、喫煙所。
「・・・・・・・」
ここは公共の施設だ。確かに公共だ。
文化祭やる気あるのかよ・・・。
次、休憩スペース。
ふざけんな!喫煙所と変わんねぇだろうが!!
「・・・はぁ」
話し合いを聞いていても、案を出す側が一方的なので、代表二人が悲惨に思えてくる。
そもそも会話のキャッチボールが成立していない。
どうでもいいか・・・。
日当りのいいこの席。働かない頭。心地よく思えてきた喧噪。
眠気がやってくる。あくびを一つ、俺の意識は眠りに落ち込んでいった。
―――昼休み―――
昼飯を求め、クラスの男子ほとんどが購買へ走り去っていった。
また、クラスの女子は弁当を持ち寄り、楽しそうにグループで食事をとっている。
「・・・・・」
俺は話し相手がいない状態で、机に突っ伏していた。
友達がいないわけではない。この場にはいないというだけだ。
みんな購買のおばちゃんにとられてしまった・・・。
ふと、俺の机の前に誰かが立っている気がした。
「まったく、何してるの、和真?」
頭上から降ってくる声に、俺は徐に頭を上げると、千紗が見下ろしていた。
「ボッチになって悲しい思いをしていました」
「そう。なら私に感謝してね!はい、お弁当」
そういって千紗は俺にお弁当を手渡してくる。
・・・おお、ありがたい。あ、そうだ。謝っておかねば。
「今朝は俺が悪かったです。ごめん」
「・・・ふふっ。よろしい。一緒にお弁当たべよ!!」
俺が今朝のことについて謝ると、千紗は一瞬きょとんとしたが、すぐに気にする素振りもなく微笑んだ。
「どこでたべよっか?」
「裏庭にしよう。静かだから」
「そうだね、そうしよっか」
俺たちはそのまま裏庭に向かった。
「そういえば最近、都市に魔物が多く出てるんだってね」
裏庭に向かう途中、千紗が唐突に話題を振ってきた。
「ああ。なんか最近多いよな。大量発生だったり、都内出現だったりって」
「魔力異常でも起きてるのかな?」
小さく首をかしげる千紗。
「さぁなー。野生動物の生態系を無駄に崩したりしないといいんだけどな」
「そうだねー」
「まぁ、うちの学校も都内だし、危ないかもな」
「えー?さすがに結界も張ってあるんだし、大丈夫じゃない?」
「まぁな。それにしても、便利な世の中だよな。自分の魔力を使って術式を作動させていろいろしたりさ。そもそも生物の体に魔力が存在するってことに驚きだしな。」
科学と魔術の合体、みたいな感じで術式、という新たな技術が50年以上前に誕生した。現代の社会では、機械だけの構造をしたものはあまり存在しないのだそうだ。
・・・先生がそう口にしていたのを覚えている。
「でも、私たちが生まれる前からわかってたことだし、あんまりすごい、って感じはしないなー」
千紗の発言はわからなくもない。馴染みあるしな。
「いやいや、便利だって」
「和真、歳よりくさいよー」
そんな会話をしながら、俺たちは裏庭へと歩いていく。
裏庭は昼時にもかかわらず、閑散としていた。
野生の精霊がふよふよと飛んでいる。
手を伸ばすと、逃げられてしまう。
「・・・・」
魔力だけ高いから、魔戒士じゃない、出来損ない。数々の罵声がフラッシュバックしてくる。
「和真・・・?」
「ん?ああ、何でもない。早く飯にしようぜ」
心配そうにする千紗にそう言い、適当にベンチに腰掛け、千紗の手作り弁当を開く。
「おぉ・・・」
それは極、としか言いようがなかった。
いつも違うレシピで、どれも完璧。千紗の家庭スキルまじぱねぇ。
「すごいな。どれもうまそうだ」
「えへへー、すごいでしょ。もっと褒めて褒めて―」
素直に賞賛を送ると千紗はドヤ顔し、そういってきた。
俺は千紗の頭に手を乗せ、その頭をなでる。
「ああ、すごいな」
「ちょっと!子供じゃないんだから!!」
そういい、千紗は顔を真っ赤にして抗議してくる。
「ははは、ごめんごめん」
そんなやり取りをしつつ、昼休みを満喫していた。
―――――――――!!!
「っ!?」
しかし次の瞬間、平穏な空気が一瞬にして張り詰めた。
直感的に、まがまがしい空気。襟元をちりちりと焦がす絶対的な悪。
―――この感覚は・・・
「和真!」
千紗も俺と同じように感じたのか、校庭のほうを厳しい表情でにらんでいる。
「いきなり突っ込むのは得策じゃない。一回教室のほうにケースをとりに行こう」
「そうだね。何か情報があるかもしれないし」
俺たちは頷き合い、早足に教室へ戻った。
校舎に戻ると、先ほど感じた空気に加え、張り詰めた空気が漂っていた。
俺たちはそれぞれのクラスへ戻るため、いったん別れる。
クラスに戻ると、教室にいるやつら全員、窓から外を眺めている。
「なにがあったんだ?」
俺は近くにいた奴に、話を聞くとそいつは焦った様子でこういった。
「あ、ああ。校庭に魔物が現れたんだ」
「・・・」
やはりか。なんとなく想像はできていた。
まぁ、しかし。驚くよな。
どのくらいかっていうと、いきなりゲームデータが飛んだ瞬間の3億倍くらい。
・・・違うか。
俺は窓から校庭を見下ろすと、そこには黒い何かを纏い鎮座する、狼みたいな獣がいた。
「・・・・・・」
頭の中で瞬時にシュミレートする。戦闘の流れから、事後処理まで。
―――――完了。
俺は自分の席の横に置いてある竹刀ケースを持ち出し、教室を飛び出した。




