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闇夜に抱かれた聖は時を刻む  作者: 夢見るリュック
2/7

平穏の中の決闘

目が覚めると、そこはいつもの光景だった。


俺、凪風和真の部屋。


聞こえてくるのは野鳥の鳴き声のみ。外はまだしんとしている。布団から起き上がり部屋の窓絵を開ける。

ふと、目覚まし時計時刻は5時半回ったところだ。予定していた起床時間より少し早い。

とりあえず、ぼーっとしていると二度寝してしまいそうなので、俺は洗面所へと向かうことにした。


洗面所に向かう途中、先ほどまで見ていた夢についてぼんやりと考える。


俺が見る夢。

夢を見るといつもあの夢で、いつも同じ部分で終わってしまう。

自分の記憶にないことのはずなのだが、やけに生々しく、目が覚めても夢の内容ははっきりと脳裏に焼き付いてしまっている。

そんな残酷な光景なだけに、それが夢でよかった、と思う。


「それにしても寒いな・・・」


季節はまだ4月と寒さが残る時期で、明け方ということもあり、寒い。

くしゃみを一つ、蛇口をひねり、俺は冷たい水で一気に目を覚ました。



洗面所で顔を洗い、思考がすっきりした俺は、家の裏にある、叔父さんの道場へと足を踏み入れた。

――――白枷道場――――

魔戒士の家系でもある白枷家の叔父さんが開いている道場で、初代から変わらず、様々な武道を教えている。

その特色ゆえに多くの生徒が通い、様々な武道を現代の叔父さんに指導してもらっている。


・・・そのほとんどの生徒が剣道か空手、というのが叔父さんの最近の悩みらしい。


俺も幼いころから通い、様々な武道を教わってきた。

今ではたまに、師範として教える側についていたりするが、どうでもいい話なので割愛するとする。

木造の建物特有の、古びた木材のにおい。

なじみ深いにおいで胸を満たす。


「さっさと着替えて素振りするか・・・」


誰に言ったわけでもなく、俺はそのまま更衣室に向かった。



で、着替えを済ませた俺は、道着に袴の姿で素振りをしていると、道場の扉が開く音を聞いた。

この時間帯に道場に来る人間は叔父さんかもう一人くらいしかいないので構わず素振りを続ける。


「おはようっ! 和真!」


そういって元気に入ってきたのは、俺と同じ年の霧瀬千紗だった。

千紗は俺と同じく、幼いころからこの道場に通い、剣道と薙刀を教わっている。

ぶっちゃけ幼馴染だ。

俺も千紗と同じように剣道も習っているため、千紗とは何度も試合をしているが、俺が勝った回数は数えるほどしかない。


まぁ、剣道、薙刀ともに全国行ってるやつにちょっと勝てるだけまだ、ましというか・・・千紗の奴、剣道だけは鬼みたいなんだよな。

最近知ったんだけど、鬼みたいに○○って「鬼○○だよ・・・」って言って表現の前に鬼をつけるんだよな・・・。

なるほど、千紗は鬼強いってか・・・。鬼さえしっぽ巻いて逃げるほどだと俺は思う。鬼にしっぽはないか・・・。

じゃあ角だな。ん? しっぽは巻けない? それもそうか。


「おはよう、千紗。朝から元気だな」

「まあね~」


軽く挨拶を済ませると、千紗は更衣室に走って行った。

俺は素振りをいったん止め、注意する。


「おい。あんまり走るなよ。ここ古いんだから、床抜けるぞ」

「だいじょーーっぶ!多分抜けない!」


多分って・・・あいつは何を根拠に言ってるんだろうか。

少し心配になったが、俺も根拠なく、「あいつのことだから大丈夫だろう」と決めつけ、すぐに素振りを再開する。

千紗は1分としない間に、俺と同じ格好に着替え、道場に戻ってきた。

こいつの着換えスキルはどうなってやがる・・・

ほかの生徒は早くても10分くらいはかけてた気がする。


千紗は何事もなかったかのように俺の横に並び、素振りを始めた。

道場内には風を切る音だけが聞こえる。


しばらくして、俺は自分で決めていたノルマをこなしたので、休憩することにした。

休憩中にやることもないので千紗の素振りをぼーっと眺める。


洗練された、無駄のない動き。

普段の活発な千紗と違い、凛とした雰囲気。

きれいな琥珀色の瞳。素振りをするたびに揺れる黒いサイドテール。

滴る汗。そして空気を切る、鋭く重い音。

竹刀を持つ右の腕には,手首からひじの手前にかけてまでまかれている包帯が袖口から見え隠れしている。

・・・それに、贔屓目抜きにかわいいわけで。

それらすべてに圧倒され、思わず見惚れてしまう。


「・・・いつまで見てるの?和真?」


千紗の声に、はっ、と我に返る。

素振りを終えたのか、竹刀を持ち替えて俺のすぐ前で歩みを止める。


「いや、きれいだなぁ・・・って」


・・・・・・いかん。つい本音が・・・。

時すでに遅し・・・。

千紗はあまりにもショッキングなはつげんだったのか、竹刀を落した。


「な・・・な、なな・・・」


千紗は顔を真っ赤にし、な、を連呼している.


「・・・・すまん」


一応謝っておく。怒ってるんだろうなぁ・・・顔真っ赤だし・・・。

まぁ、あそこでしどろもどろになってたら、「ねぇ、なんで?ねぇねぇ?」みたいな面倒事――千紗のいたずら―――が起こっていただろうからまぁこれはこれで・・・

と無理な言い訳を自分に言い聞かせ、千紗の反応を待つ。


「あの・・・千紗さん?」

「・・・て」

「え?」

「私と!決闘して!!」


千紗はうつむかせていた顔を一気にあげ、突如そういってきた。


「いや、決闘って、ダメだろ。道場のルール的に」


そういうと千紗は、一瞬躊躇う素振りを見せたがすぐに表情を戻し、指を3本立てて、こういった。


「3分なら、問題ないでしょ?」

「・・・はいはい」

結局は問題になるのだった。



午前6時20分―――――

そろそろ叔父さんが道場に顔を出す時間なので、俺たちはすぐに決闘の準備をして、向かい合っていた。

俺の手には、手作りの鞘に収めた木刀。

対する千紗の手にも木刀が握られていた。

木刀でもいいと言ったのだが、こっちのほうがしっくりくる、という理由で竹刀を握っている。


「じゃあ、始めようか」


千紗は、先ほどの怒りが多少おさまったような表情でそういった。


「薙刀じゃなくていいのか?」

「剣道のほうがいい」

「そっか」


千紗はどちらでもよさそうな声でそういった。

ちなみに俺は剣道じゃなく、白枷我流とも言える、抜刀術を使うことにした。


ルールはこのようになっていた。


・己の得意な武器でOK

・時間は3分

・一本取ったら勝ち

というシンプルなものだ。


「んじゃあ、5秒後にスタートな」

そう言い、俺は手元の時計型端末をいじる。

時計アプリを起動し、タイマーで5秒、3分と連続でセットしておく。


「それじゃあ、いくぞ。あと、さっきはごめん」


タイマーを進めると同時に謝っておく。


「・・・」


千紗は黙ったまま木刀を構える。

俺も鞘を右手で隠すように持ち、空いた左の手を柄にかけ、水平に構える。 


―――――ぴぴぴぴっ!!


次の瞬間、アラームが鳴ると同時に千紗が動いた。


「てぇぇぇいっ!」


俺の左手を狙い、木刀を上段から鋭く打ちおろしてくる。

「おっと」

俺はそれを、左手を柄から離し、空を切らせる。

「たぁぁぁぁっ!!」

千紗はそのまま突き、水平に木刀を振るいまた上段からの振り下ろしをしてくる。

俺はそれを躱し、振り下ろしきった木刀の先端を軽く踏みつけ、千紗のバランスを崩す。


「せいっ!!」


俺は鞘から木刀を走らせ、そのまま千紗の胴に叩きこむ。


―――ばしぃぃっ!


防具にあたる直前、千紗は防具の前に竹刀をすべり込ませ、俺の一撃を防ぐ。

そのまま斜めに切り上げる。

無理な体勢から放ったのもあり、俺はそのまま後ろに距離をとる。

木刀を鞘に一瞬で収め、呼吸を整える。

千紗の顔をふと見ると、真剣な、というよりマジモードになっていた。


やば・・・!!


「てえぇぇぇぇいっ!!」

千紗はそのまま力強い踏み込みで距離を詰め、鍔迫り合いに持ち込む。

「くっ・・・」

俺は情けないことにそのまま押され、盛大にしりもちをつく。


すぐ目の前には木刀の切っ先。


「・・・まいりました」

「・・・ふぅ」


千紗が溜息交じりに木刀を下すと、俺の腕から決闘終了を告げるアラーム音が鳴り響いた。




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