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ドラゴン様の巣を興せ!  作者: 三流ろっく
第五章 ドラゴン様と孤独の罠
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第五十七話 従者さんの安らぎ

 竜の背で空を旅するなど、人にとって叶わぬ夢。さながらアポロに乗って月面を散歩するくらいに代え難い経験だ。

 だが、実際に体験した俺から言わせれば、その旅路は散々であったと言えよう。


 行きは酒に溺れたドラゴン様に空を揺られ。

 山に落りては山賊奴隷に囲まれ。

 なんとか収拾をつければ巨人に襲われ。

 それが終わったと思えば、ゴシュジン様たら大暴れ。これはまぁ、物騒な少女の所為なのだが。


 その後、暴れるだけ暴れてぶっ倒れた当の本人はと言えば、目を覚ますなり「頭痛い」と。

 水を飲ませては「頭痛い」。飯を食べさせても「頭痛い」。

 体調不良。典型的な二日酔い。

 天下のドラゴン様は頭痛を訴えるだけの生き物となってしまった。

 そんな状態のゴシュジンに飛んで貰う訳にもいかず。帰途はこの世界の交通手段に倣うこととなった。


 人を背に乗せる騎獣と、荷を牽く力を持つ輓獣。(ばんじゅう)

 または、騎竜と輓竜(ばんりゅう)

 少し栄えた町ではこれらを運行させたり貸し付けている店があり、それが主な交通手段となっている。


 竜と名を冠してはいるが、純粋な竜では無く竜の亜種。

 竜種は総じて帰巣本能が強く高い知能を持つ為、行き先で乗り捨てれば勝手に店に帰って来るらしい。金さえ払えば手間要らずな仕様である。

 更に人に慣れてしまえば御し易い為、初心者に人気とは店主の言葉。


 獣を操る技術など持ち合わせていない俺はその言葉に惹かれた。

 選んだのは、丸々とした体に甲羅を背負う甲竜と呼ばれる輓竜。

 俺達十人以上の大所帯を牽く力を考えれば、それしか選択肢が無かったのだが。


 絶対に人目に晒してはいけない一団。脱走奴隷とドラゴン様を(ほろ)を掛けた荷車に押し込み、帰る道のりは悩みものであった。

 レンタル竜の足取りは、十人以上の乗る車を牽いているとは思えないほどのしのしと力強かったのだが、なんとも遅い。人の足と変わらない。

 翼が速さの象徴ならば、甲羅は鈍足の象徴であったか。

 結果として、帰巣には三日を擁し、俺の尻には痛みが伴うこととなった。



◇◇◇◇◇



 何を思ったのか、巣に帰るなりフェイランに足を拘束された。

 小さな体で丸太にしがみつくように、全身でガシッと。

 どうしたと尋ねてみても返事は無く。

 無理矢理離してやろうとしても、ビクともしない。

 そう言えば、俺って弱かった。

 傍らで黙って見ている狐娘に助けを求めてみたところ。


「何も仰らず巣を空けて……私供の心配を考えて御座いますか?」


 叱るような口調。

 言い訳をして良いか?

 一応言ったんだ。ちょっと飛んで来るって。でも、ゴシュジンは酔っぱらっててな。

 帰りも深夜まで御車台に座って亀を歩かせていたくらいだ。お陰で尻が痛いんだ。

 うむ。これは言い訳で無く正論である。

 だが、それを述べる間も無く、狐娘の小さな手が胸を一押し。

 掌でぽんと。本当に軽くである。なのに、体が動かない。


「魔力の流れを一時的に止めさせて頂きました。マシロ様はフェイラン様の思いを受け止める義務が御座います」


 それだけ言い残して、ぷんすかと立ち去ってしまう。

 呼び止めたくとも声が出ない。

 忘れていた。この巣に凡人は俺だけだということを。


「うぅ……頭が痛いです」


 とは、ゴシュジンの言。

 五日酔いドラゴン様は、そんな俺を気にも止めずふらふらと部屋に引っ込んでしまい、暫くの間俺はフェイランになされるがままとなった。


 体の自由が戻り、拘束を解いて貰って一番に向かったのは、ほぼ俺の私室と化している第一待機部屋。

 とにかく一旦落ち着きたいの一心でその扉を開けば、そこは緑色の小人に占拠されていた。


 痩せこけた小さな体。

 顔の半分もある大きなギョロ目。

 裂けるような口の端には尖り耳。


「……よぅ」

「ギキ!?」「キキャッ!」


 挨拶を威嚇らしき声で返されたので、扉を閉めておく。

 後を着いてきていたフェイランに、扉を指しながら尋ねてみた。


「なんだ今のは?」

「……インプです。巣に新しい仲間が増えることも忘れていたんですか?」


 初めてフェイランが答えてくれた。

 俺の知識ではあいつらの見た目はゴブリンそのものなのだが、どうやらインプと呼ばれる種族らしい。

 それにしても、こいつもちょっと怒ってやしないだろうか。言葉が尖っている。

 そうか。なるほど。

 巣に新しい仲間が来る大切な時期だってのに、俺が仕事ほっぽり出していなくなったから怒ってるんだな。


「忘れていた訳じゃないぞ。苦労を掛けたな。あいつらが来たことで、何か問題が起きてやしないか?」


 と、エリザベスに腰かけた途端に膝の上をミーアに占領される。どうやら俺に自由は無いらしい。


「マシロさんがいなくても、何も変わりませんでしたよ」


 やはり、尖っている。

 あんなに素直な奴だったのに。


「そうか……。それはそれで寂しいものがあるな」

「……寂しい……ですか?」

「あぁ」


 問題が起こって欲しい訳では無いが。

 俺の言葉にフェイランは一度口をへの字で結んだ後、表情を二転三転させた。

 百面相さながらである。新しい隠し芸だろうか。


「……嘘です。お二人がいなくて……大変でした」


 嘘?


「やっぱり何かあったのか?」

「いえ、問題は特に無いのですが……寂しいのはマシロさんだけじゃ無いと言いますか……」


 歯切れの悪い言葉の意図を読みあぐねていると、不意にフェイランが「あっ」と声を漏らした。


「ポチ神さん!」

「ポチ神?」

「はい! ポチ神さんにマシロさんが帰ったらすぐに呼べと言付かっていたんですが……大問題なんですっ!」


 あるのか。『大』が付くほどのものが。

 それはそれで煩わしいものがあるな。



◇◇◇◇◇



「おい新人。その芋寄越しなさい。こっちは育ち盛りなんすよ」

「なぁ旦那。俺の飯奪おうとしてくるこのお嬢ちゃん、あんまりにもしつこいんだが」

「お? 口答えっすか? 誰のお陰で飯食えるかわかってるんすか?」


 置いてきた山賊奴隷達が馴染んでいるか見たかったのだが、元々いた奴隷達は俺が来るなり怯えてしまった為に、その様子が解らない。

 村に寄るために態々ポチ神との待ち合わせをこの村の近くにしたのに、これでは無意味である。

 代わりに、垂れ耳娘が山賊奴隷達に執拗に絡んでいる姿は見受けられたが。

 この娘は、丁度、奴隷達に食事を届ける為に来ていたようである。

 折角なので、俺も食事をご一緒しているのだが、この娘の絡みようは見るに耐えないものがある。

 なので。


「怒っていいぞ」


 そして、垂れ耳娘は頭を叩かれた。


「お兄さん見ました!? 殴られました!」

「お前が悪い」


 垂れ耳娘が傍らにしがみついてきたので、言葉と供に振り払っておく。

 む。今日の茶は少しばかり渋味が強いな。

 狐娘が淹れないとこんなもんなのか?


「アタシはちょっと先輩後輩の上下関係を教える為にイビっただけっすよ!? あの芋、アタシが剥いたんすよ!?」

「勝手に上下を作るな。そんなモンは要らん。芋に関しては、ご苦労」


 信じられないと言った顔を浮かべる垂れ耳娘。

 煮物が美味い。

 月が変わって貢ぎ物が入ったから、いつもより豪華である。


「じゃあ……アタシは何を楽しみに生きれば……」


 イビりを楽しみに生きるな。姑かお前は。


「ごちそうさん。じゃあ、俺はちょっくら行ってくる」

「お? 何処行くんすか? 女っすか?」

「アホ。ポチ神と待ち合わせてんだ。ここには戻って来ないから、お前も適当に帰れよ」


 へーい。という返事を聞きながら山の中へ。

 待ち合わせ場所は大樹の下。

 そこには、久方振りに見た気のする大犬の姿があった。


「我をポチ神と呼ぶように広めたのは貴様か? 小娘の巣の者が皆、我をそう呼びおる」


 開口一番にそう言うポチ神の顔は、どこか憎々し気である。


「いや、広めたつもりは無いが、勝手に広まった」

「貴様……我を何と心得る。我を七つの山を束ねる山の主と知れ」

「そんな話の為に呼んだのか? 俺は大問題ってのを聞きに来たんだが」


 ポチ神は「貴様という男は……」と半眼で睨むが、一度心を落ち着けるようにふぅと息を落とすと、「いや、確かに些事か」と思い直したように口を開いた。


「貴様らが巣を離れたその夜だ。オークが何匹か消えたことを知っているか?」

「いや、知らん。引っ越しの挨拶をする仲でも無いしな」

「日和見を……そやつらがな、どれも殺されておったのよ」

「は?」

「どうやったかは知らぬが、我と子らの哨戒を抜けてな。原型も解らぬ炭だったが、その炭の数と消えたオークの数が一致した。恐らくは高位の火力魔法。意味は言わずとも解るな?」


 想定外に剣呑な言葉に一瞬思考が停止してしまったが、ポチ神の言わんとしていることは解る。

 この山に魔法を使う魔物はいない。

 つまり、犯人は人間だ。

 そして、容易に考え付くのは、ペタの村に集まる冒険者達。


「山には入るなと、ドラゴン様の名前で伝えたんだがな」

「うむ。聞いたぞ。国からも下知が降りたとな。だが、それを軽視する輩……若しくは末端には行き届いておらぬのやもな」


 不味いな。

 オークはノールと同じく好戦的な種と聞く。

 そんな奴らが泣き寝入りや、俺達に保護を求めるとは思えない。

 考えられる行動は一つ。報復だ。


「オークは村を襲う気か?」

「我が止めておる故、まだ動いてはおらぬがな。だが、猛る魔物をいつまでも止めてはおけぬと知れ」


 まだ……か。だが、ポチ神の口調からは悠長に構える時間は無いと窺える。

 オークが人里を襲えば、ポチ神の努力は水の泡。この山は危険な魔物がいる場所とされ、荒らされることとなる。

 そして、態々俺を呼び出してそんな話をするということは、ポチ神の言わんとしていることにも察しが付く。付いてしまう。


「マシロよ。この件も辿れば冒険者を呼び寄せた竜の娘が元凶ぞ。ノールの時と同じく、オークを説得することが貴様らの責任と知れ」


 やっぱりそう来たな。

 このままペタの村まで降りて翻訳クエストの報酬を貰って来ようと思っていたが、一旦後回しにして対策を練るべきか。

 どうやら、俺が落ち着けるのは、もう暫く先のことらしい。



―To be continued―


蟹の月 一日~四日目


収支報告 

      28,100G 元資金

+      400,000G 貢ぎ物

+     15,200G とんがり屋(×4)

-     10,000G 食料購入

-     10,000G 生活雑費

-       7,500G レンタル竜

-      290,640G 返済

──────────

資産   125,160G

借金  110,872,860G(?)


経過報告


人員      4名

来客      0名

奴隷       21名(+8)

魔物

高階梯     3匹

戦闘員    101匹(+71)

非戦闘員     51匹(+34)


設備

決闘の間、待機小部屋、第二待機部屋、リザードマンの大部屋、湖の間、調理設備、上下水道、宝箱(×12)、風呂、ランランの間、インプの大部屋、ワームの大部屋、グレムリンの大部屋、ノールの大部屋


クエスト 魔女文字翻訳(50/50)


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