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ドラゴン様の巣を興せ!  作者: 三流ろっく
第三章 ドラゴン様の御両親
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第三十一話 ドラゴン様の思い思い

 遊園地のアトラクションのように空中を飛び回っているフェイランを傍目に会議は続く。


 戦力補充案として上がったのは、リザードマンの武具購入。

 現在の彼らの装備は、武器の方はまだ見れるものの、防具は布や木で作った盾鎧。とても立派とは言えない物。

 魔力で強化するといえど、その防御力は元となる鎧や盾の堅さに依存する。

 これを買い与えてやれば、全体的な戦力は向上するだろう。だが、三十名分は財政的に厳しい。

 よって、カルラに働きの目覚ましい者五名を選出してもらい、その五名のみに褒美という形で与える事になった。


 次にトラップの設置。

 落とし穴。落ちてくる天井。転がる大岩。爆発する宝箱。水攻め部屋。溢れ出るマグマ。無差別テレポート。

 一人の男としては胸を踊らされる単語の数々であるが、これらは総じて却下。

 理由は、高額の癖にどれも使いきりなのである。

 一度発動すれば再設置にまた設置費が掛かる。そんな継続的に金の掛かる物を置く余裕は俺達には無い。

 取り敢えず、以前山に設置してポチ神に怒られた足括り罠を巣の中にバラ撒いておく事にした。


「出来ればトラップも買い取って欲しかったのデスが……仕方ないデスね。私からは以上デス」


 この両案。共に手品師の発言によるものであるが、俺はそこで話を終わらせたコイツに違和感を覚える。


「魔物を雇えとは言わないんだな」


 売り時に売り付けてくるのが手品師である。

 戦力補充が議題の今、その話を出さないとは意外だ。


「雇って頂きたくとも、出来ないのデスよ。これを覚えているデスか?」


 そう言って手品師が取り出したのは、『斡旋魔物目録』と題された一冊の書。俺はそれに頷いて返す。

 題の通り手品師の商社から巣に斡旋して貰える魔物が記載された本だ。

 手品師はその本を皆に見えるように前に出すと、パラパラとその中身を晒した。


「これは……まっしろですね」


 ゴシュジンが眉間を絞って呟く。

 俺の名が呼ばれた訳ではない。手品師の開く本の、どの貢もがまっさらの白紙だったのだ。


「こりゃどういう事だ?」

「そのままの意味デスよ。以前言った通り、この本にはラティーシャ様の信用度で斡旋出来る魔物が記載されているのデス」

「なるほど……それが白紙という事は……言わずもがなですね。ふふ……私は財を持たぬ竜ですから……」

「ラティーシャ様。お気を落とさないで下さいませ……」


 大借金持ちに派遣する魔物はおらんと言う事か。やはり世の中金が物を言う。

 病み気味な発言と共に『考える人』のように丸まってしまったゴシュジンの背を、狐娘が撫でてくれている。

 姉妹……と言うには二人は似ても似つかないが、何となく微笑ましく感じてしまう。


「ふぅむ。愛娘を憂う美女とはこれまた一興。絵画があれば迷わず買い取って我が巣の客間に飾るのだがね」


 そんな感傷を抱いている横で、顎を愛でながら変態臭い感想を挟むお父上。そんな絵を見せ付けられる客はどんなリアクションを取れば良いのだ。


「買い取ると言えばメフィスト君。キミの商社は派遣だけで無く買い受けもあった筈だが、そのリストは無いのかい?」


 変態衝動を切り口に、一転して真面目な話へ。このドラゴン様の頭の中はどうなっているのだろうか。


「オット、それはお作りしていないのデス。失礼ながらラティーシャ様は魔物を買い受けるほどの資産をお持ちで無いようデスので、お出しするも失礼かと」

「あぁ、心配無い。対価は私が払うから斡旋してくれないかな? 優秀なのを一匹買わせてもらおう」

「父上っ!? 私は父上に援助してもらうつもりはありません!」


 落ち込んでいたゴシュジンが飛び付く勢いで身を起こすと、お父上は爽やかな笑顔のまま両手を振って、いやいやと否定した。


「これはレティでは無く、マシロ君へのプレゼントだよ。私は彼を誤解して酷い言葉を使ってしまった。これを、そのお詫びにしたいんだ」

「お父上。詫びならティーカップを頂きました」

「ほら。この通り彼には欲が無いだろう? 何かしてあげたくても、私には彼の喜びそうな物がレティに貢献する物しか思い浮かばないんだよ。いやぁ、妬けてしまうね」

「むぅ……確かにマシロの欲しがる物はわかりませんね」


 俺の言葉が全く通っていない。二人の会話の一部にされてしまった。

 別に欲が無い訳では無い。今はそれなりに居心地が良いから欲しい物が無いだけだ。

 だが、巣の力になるのなら俺はそれが一番嬉しいのも確かだ。このお父上、何も見ていないようで実は良く見ているのかもしれない。


「マシロ君は使い魔もいないようだ。キミも専属の部下がいた方がやり易いだろう? 本当に嫌ならば断ってくれても構わない」


 じぃと答えを待つ紅い瞳。燃えるようなそれと相反するように、その顔は何処までも柔らかな笑みをつくる。

 こういう所は、やはりゴシュジンのお父上か。何とも惹き付けられる魅力がある。


「ゴシュジン。良いか?」

「判断はマシロに任せます。父上からマシロへのプレゼントなのですから」


 任せると言われれば、俺が断る理由も無い。なれば、俺は頭を下げるのみである。


「ご厚意に甘えさせてもらいます」

「うん。甘えてくれた方がこちらも気が安らぐと言うものだよ」

「では、私は社へ戻った時にマシロ様へ仕える事を希望する魔物を募って、近日中にお知らせするのデス」

「うんうん。可愛い女の子を頼むよ」


 おい。と、声が出そうになった。

 もしかしてこの竜、巣の女性人口を増やしたいだけでは無かろうな。


「マシロ君も勿論可愛い子が良いだろう。ん?」


 にやけながら肘で小突いてくるお父上。

 主の父親の癖に悪友のテンションである。


「俺の希望としては……金の掛からない男が良いですね」


 それで器用なら尚更良い。そう思いながら一人で頷いていると、先程までじゃれついてきていたお父上が若干距離を置いて、乾いた笑みを作っていた。

 そして、ゴシュジン達も何やら温度の低い表情で固まっている。

 何だこの空気はと視線を彷徨わせていると、お父上が左手の側面を右頬に添えるようにして問い掛けてきた。


「マシロ君……まさか、コッチ系かい?」


 その瞳には、初めて見る怯えの色があった。


「……違います。皆、どんな目で俺を見てんだ」


 頭が痛くなる。

 新しく入る魔物はどうか常識人でありますように。溜め息と一緒にそんな願いを頭の中で呟いた。



◇◇◇◇◇



「どうしてわかってくれないんだぁぁっ!」

「まー」

「ボクは……ボクは戦いたくないのに!」

「まー」


 フェイランとランランの戦いが佳境を迎えて、良い感じに盛り上がっていた時。竜の父娘は食事をしていた。

 そして、給仕についたカルラを口説くお父上に、人型じゃなくてもイケルのか。と、ゴシュジンの後ろで認識を改めていた時である。

 空にそれが現れたのは。


『ウェールズ……何故その女性の手を握っているのかしら?』


 暗闇の空と瞬く星を背にして、悠然と白い鬣を(たてがみ)たなびかせる、何処までも続くような水の色をした大蛇の体。

 その長大な体を支えるにはあまりに心許ない小さな手に、薄い光を放つ珠を抱えている。

 龍である。

 竜では無い。龍である。

 そして、どなたかは大体予想は着いている。近々来ると聞いていたからだ。

 何故、龍の姿で現れたのかは知らないが。


「あら、母様ではありませんか」


 だよな。

 アジアンドラゴン様だったのは驚いたが、今ここを訪れるのは、九割九部ゴシュジンの親族だろう。


「や、ややややややぁ、待っていたよ! ルーシア! どうしてそんな姿をしているのかな? こちらに降りてきたまえよ」


 なにやら動揺しまくっているお父上。こちらの理由も大体予想は着くが。


『悲しい……悲しいわウェールズ。誓いを交わした夫が巣の外で愛を育んでいる』


 だよな。

 思いっきり浮気現場だもの。


「何を言うんだ! 私の辞書にルーシア以外の女性の名は無いよ!」


 カッコいいなこの父親。

 取り敢えずカルラの手を離しなさい。


『私には貴方しか愛せない。なのに、貴方の愛は私を見ていない……。悲しいわ……。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい』


 表情はてんでわからないが、深く沈んだ声でなんとも重い想いを語るお母様。

 鹿に似た角の下にある双眸からは、大粒の涙が溢れている。

 ちょっと…いや、大分怖い。

 俺が言われている訳では無いのに、腹の底から冷やされるような寒さとは違った寒気を覚える。


「お、落ち着きたまえよ。一度竜化を解いてこちらにおいで」


 お父上はなんとしても竜化を解いてもらいたいらしい。それが、これから起こる事を暗示しているのだろう。

 空を見上げるお父上から、ゴシュジンが音を消して離れていくのがその証拠である。俺もそれに習い、そっとお父上から距離をとる。


『ウェールズ。貴方を愛していたわ』

「ななな何故、過去形なんだいルーシ――っ!」


 お母様の持つ珠が淡く光ったかと思うと、お父上が足元から氷の中へと閉じ込められていき、その顔から文字通りの冷や汗を溢れさせる。

 魔法なのだろうか。ピンポイント氷結とは凄い技術だ。


「やめっ、何故手を合わせているんだい!? 助けてくれマシ――!」


 上半身だけをこちらに振り返らせた変なポーズで、言い終わるまえに氷塊と化すお父上。最後に俺の名を呼んでいた気がするが、気のせいだろう。


「これは合掌と言ってお星様になる方をお見送りする儀式です」


 聞こえていないだろうが、氷の中で絶望に満たされている顔に一応言っておく。

 さて、お母様をもてなさねば。機嫌を損ねて俺も氷漬けにされるのは御免だ。



― To Be Continued―   


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