第三十話 不死王様の秘策
ドラゴン様の巣は、自衛手段であると同時に弱点でもある。
本来、竜界というこの世界より遥かに魔素の豊富な世界の生物であるドラゴン様は、魔力不足の為常に竜の姿でいることは出来ない。
最強故に高燃費。その為、人の姿を取って魔力を節約している。
雄竜は雌竜に比べ多少燃費が良く、人型でもそれなりに力を使えるが、代わりに竜形態の力が雌竜より低い。それでも、絶対の力を誇るのだが。
では、それを踏まえた上での物量を伴った人海戦術でドラゴンを討てるのか?
野外戦で想定するならば、不可能である。事実、歴史上一例も無い。
人族の歴史では野外討伐の例も存在するが、この例は竜の死骸を発見した者が虚報を用いただけである。なんでも、夫婦喧嘩で死んだ竜だったとか。
全力で飛ぶドラゴン様は最速。衝撃波は大地の形を変える。
その最速から放たれる一薙ぎで軍を裂き、一息で城を消す。とても耐えられるものでは無い。
仮にドラゴン様の魔力が無くなるまでその猛攻に耐えきれたとしても、撤退されれば追える生命体は皆無だ。よって不可能。打つ手無し。
しかし、巣の中ではどうだろう。
自由に飛び回る事は出来ず、巣を破壊せぬよう気を配りながらも、集めた宝にも奪われぬよう気を割いて防衛せねばならない。これは、挑む側からすれば大きなメリットである。
こちらは、歴史上片手で数えるほどだが例はある。
休眠状態の幼竜が討たれた例。
竜殺しの魔剣を使う英雄に討たれた例。
三代目魔王が全軍を挙げて討った例。
因みに、三代目魔王は歴史上珍しく勇者では無くドラゴン様に殺された魔王としても有名である。
故に竜の巣には侵入者が押し寄せる。万が一の勝ち目と、その財を狙って。
彼らは一人二人では無く、ギルドなどを経由して何組もが日取りを示し合わせて一度に来る戦術を取る。
前回二十人あまりの侵入者グループを撃退してから五日、今回は三十人ほどが現れた。前回に見た顔もチラホラと。
「弁当を! あの弁当を売りなさい!」
中には、お前何しに来たんだという者もいた。
それらを見送り、そして撃退。しかし、前回のように上手くはいかなかった。
リザードマンの多数が負傷。二組の侵入者に決闘の間付近まで迫られたのだ。
まぁ、その二組は決闘の間を間近にして現れた謎の赤毛男に撃退されたのだが。
侵入者達を回収した際、彼らが実際に巣に潜った意見、感想をモニタリングする為、その言葉に耳を傾けてみた。
「薬草ばっかりだ。ついてないぜ……」
盗賊風の男が項垂れている。
スマンな。今のところ宝箱の中身は全て薬草だ。
「弁当よ! 持ち帰り用の弁当は無いの!?」
考慮しておく。
「ぐぅ……あの赤毛のヘラヘラした男が邪魔さえしなければ……」
今回一番の手練れであった魔法剣士が憤慨していた。正直、来るタイミングが悪かったとしか言い様が無い。
他にも、この巣の主戦力がリザードマンだという事や、姿無く水の魔法を仕掛けてくる魔物への対策を語り合っていた。
いずれ、それが魔法では無く巨大なスライムだとバレる日が来るやもしれん。
ふむ。コチラも新たな防衛策を練らねばならんか。
◇◇◇◇◇
「ここに第三回。竜の巣運営会議を開催します」
勝利したものの課題の残る結果となった防衛戦。その対策会議がその日の内に開かれた。
「議題は新たな防衛力の補充。意見のある方は挙手をお願いします」
「かっこいいよレティ。あぁ、この雄姿を残す魔法があれば良いのに」
横でハァハァと荒ぶる息の生暖かさがとても煩わしい。ビデオカメラを入手する方法があれば、かなりの高値で買い取ってくれそうだ。
「新戦力と言っても……また付近に住む魔物を群れごと勧誘してみるか?」
「皆、守ルベキ縄張リガアルノデ、良イ返事ハ期待出来ナイカト……」
ふむ。この山に棲んでいたカルラがそう言うのならば、望みは薄いか。
「じゃあ、誰か群れに属していないフリーの魔物に当ては無いか?」
「……あの。良いですか?」
恐る恐ると言った風に手を挙げたのはフェイランだった。
「ボクが任されていた……畑の作物が出来上がったんですが……」
そして、何故か畑の話を始めた。ついつい眉を寄せてしまいながらも耳を傾ける。そう言えば、コイツの担当している畑からチラホラ芽が出ていたな。
「その畑の作物が、ゾンビ化してしまって……」
話が急カーブした。作物のゾンビ化って何だ。
近代化社会で育った俺にはちょっと脳が追い付かない。
こちらの世界では冷害的な作物への被害で、ゾンビ化とやらがあるのだろうか。
「そのゾンビが共食いを始めて……生き残った一匹が凶暴化してしまったんです」
急カーブしたまま無理矢理ミットに突き刺さる会話のキャッチボール。
自然と畑へ目を向けると、立ち入り禁止と言わんばかりに、昨日までなかった柵が出来ていた。
その柵の向こうに見える畑には、幾つか生えていた筈の芽が一本だけ。
一同の目付きが怪訝なものに変わる。一人、部外者はヘラヘラとしているが。
「その……『彼』を勧誘してみましょうか? 急いで封印したので、まだ意思の疎通は図っていませんが」
上目使いで周りの視線を気にするフェイラン。
俺が言葉を探しあぐねていると、ゴシュジンが先に口を開いた。
「まず、その『彼』とやらを見せて下さい」
もっともである。
「……わかりました。見ていてください」
そう言うと一人畑の方へと近寄って行き、大根を抜くように柵の一本一本を引っこ抜いていくフェイラン。
フェイランに預けた種も大根みたいな植物だったなぁ。などとどうでも良い事を考えて眺めていると、フェイランがその最後の一本を引き抜いた。
直後、僅かに地が揺れたかと思うと、畑の柔らかな土を突き破って巨大なツタが飛び出した。
それらは絡まり合って、除々に輪郭を帯びていき、やがて土から上半身だけを出した巨人を型どった。
はて、俺はいつ植物系ボスを育てろと言っただろうか?
「ど、どうでしょうか?」
と、フェイランが振り返る後ろで手をばたばたとさせながら「まー」に近い発音で何かを叫んでいる植物巨人。
とても知性があるとは思えない。
「名前はランランです。土と水さえあれば、食費は掛かりませんよ?」
名前付けてやがる。それも、自分の名前を分けて。
アピールポイントを押してくる事も鑑みて、情が移っていること間違いなさそうだ。
俺としてはこんな奴全然仲間に欲しくないのだが。
「その者は言うことを聞くのですか?」
ゴシュジンもフェイランの意思を読み取ったようで、仕方無くと言った風に質問を投げ掛ける。
「は、はい! きっと聞いてくれます! ランランお座り!」
下半身無いだろうがそいつは。
「ランラン! 言うことを聞くんだ! お座り――っわぁ!?」
理不尽な命令に怒ったのか、ランランのツタがフェイランの足を絡めとり、その小さな体を持ち上げた。
「ランラァァァン! 目を覚ますんだぁ!」
縦横無尽に振り回されるフェイラン。その巨人は別に誰にも操られている訳では無いと思うが。
フェイランはまーまー言う巨人のなされるがまま。
もしかしたら、その巨人はママを探しているのかもしれないな。
残念ながらお前のママは大根っぽい作物だが。
「ランラァァァン! お座りぃぃぃぃっ!」
それでもフェイランは諦めていないようで、何とかコンタクトを試みている。
まぁ、フェイランなら大丈夫だろう。アイツ死なんらしいし。
もしその情熱が届いて巨人が知能を持ったら、ゴシュジンも追い出しはせんだろう。
「さぁ、あっちはあっちで盛り上がっている事だ。放っておいて、会議を進めよう」
俺は手を叩いて皆の意識を集めた。
「マシロ君はクールだねぇ」
「アレは一種の自業自得ですから。それに、いつもトラブルを起こすのでたまには自分で解決させてやろうかと」
「いやぁ、レティの集める人材は面白い子が多いや」
お父上はアッハッハと笑い出した。いや、俺の中で一番の変人は貴方なのだが。
双子の月 十六日目
収支報告
14,000G 元資産
+ 20,000G 高級弁当
+ 160,000G 保険加入
- 5,000G 治療薬購入
- 126,000G 返済
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資産 63,000G
借金 111,447,000G
経過報告
人員 4名
来客 1名
魔物
高階梯 2匹
戦闘員 30匹
非戦闘員 17匹
設備
決闘の間、待機小部屋、第二待機部屋、リザードマンの大部屋、湖の間、調理設備、上下水道、宝箱(×12)
クエスト 古竜語翻訳(24/100)




