第二十四話 人形さんのカラクリ仕掛け
明くる日。朝早くに来客があった。
「山の各所に罠を設置したのは貴様であるな。それは縄張りを侵す行為であると知れ」
開口一番にそんな事を伝えてきたのは山の主。
なんでも、俺が設置した動物用の罠が魔物達の間で問題になっているらしい。勝手に群れの狩り場を荒らすなと。
山のルールなぞ知らなかった人間の行動だと多目に見てくれているが、すぐに撤去しろとのお達しだ。
「犬神様。お茶をどうぞ」
「うむ。済まぬなクゥよ」
狐娘と山の主は知り合いだった。
ペタの村にいた時、狐娘が山の主に貢ぎ物を渡していたという繋がりだ。
どうせ、村人達が嫌な役目を狐娘に押し付けていたといった所だろう。やはりあの村は好かん。
それにしても、この山の主はイヌガミなどと大層な名前で呼ばれている。こんな奴はポチ神で十分だろ。
「わかった。今日中に撤去しよう」
「竜の小娘と違ってマシロは話がわかるようだな」
ゴシュジンはまだ寝ている。狙ってかは知らんが、そんな朝早くにポチ神が来たのは幸いと言えよう。
なんせ、コイツとゴシュジンは犬猿の仲ならぬ犬竜の仲。
二人が鉢合わせると、話が進まない事は自明の理。
「して、マシロ。蜥蜴共は息災であるか?」
「あぁ、侵入者との戦いで負傷したのもいるが、元気にやってるよ。会っていくか? この時間はまだ寝ていると思うが?」
「いや、良い。我の姿など見たくもなかろう」
リザードマンの長を討ったのはポチ神だ。
だが、リザードマンがポチ神を恨んでいるかと言えば、そこは自然の習わし。恨んではいない。しかし、良く思っている筈もなく。
そして長はゾンビになり、リザードマンの群れは結果的に山の主であるポチ神とも対立して、群れとして迷走してしまった。
気にかけているところを見ると、ポチ神としても思うところがあるのだろう。
実際、リザードマン達は元気だ。飯もたらふく食べる。
俺には見分けが付かないが、ちらほらと二階梯もいるリザードマンの群れで、唯一三階梯に達している今の長もしっかりと群れを治めている。
ポチ神は用件を伝え終えると、長居する事無く茶を飲んですぐに帰っていった。
どうやって飲むのか見ていたら、カップの縁を咥えて流し込んでいた。器用な犬である。
手品師の情報によると、今日は侵入者の団体さんは来ないそうなので、早速罠の撤去に向かった。
まだ少し腹は痛むが、前回のクエスト報酬とゴシュジンの翻訳も終わっていたので、山を降りるには丁度良いと言えば丁度良いタイミングだ。
巣の金を“収納"に入れて山を下りる。でないと、また勝手に部屋が増えているなんて事が起こりかねない。
同じ過ちは二度繰り返してはならないのだ。
罠の回収は帰りに行う事にして、先にギルドで報酬を貰う。ゴシュジンの翻訳クエストで二万G、先代主の討伐で三万G。
毎度の事ながら、この中の七割が返済に消えると思うと悲しくなる。
ゴシュジンの翻訳クエストが終わってしまったので、新しく竜語翻訳が無いかと探してもらったら一貢千Gの超難解と呼ばれる古竜の書とやらを紹介してくれた。
多分いけるだろ。竜なんだから。
促されるままにそのクエストを受けた。頑張れゴシュジン。
俺の寝ている間の支出表から手品師に頼めば食料などは取り寄せてくれると知ったので、他に村に用事は無い。
ここに来る回数も減るだろうな。
そして、帰り。病み上がりの割には体が軽く、調子よく罠を撤去している時である。
ちょっと楽しようと『聖棺人形』を出したのだが、
「主殿。これを取り外せば良いのかな?」
などと、金属音を反響させたみたいな言葉が響いたのだ。
それが、目の前の騎士人形から発せられたと気付くのは、騎士人形がゆっくりと罠に手を触れた時。
まだ、『繰糸』は通していない。
「主殿?」
しかし、騎士は俺が操る時よりも人形らしい……カラクリ仕掛けの人形のようにキリキリとした動きで、俺の表情を確かめるように振り返るのである。
動いているのである。喋っているのである。
俺の意思と関係なく。人形が。
「お前、自律運動出来たのか?」
俺の声に騎士人形はキリキリとした動きで不思議そうに首を傾げた後、合点がいったように「そうか」と声を漏らした。
人形らしい動きで、人間らしい仕草。コイツはなんなのだろうか。
「主殿は覚えておらぬのだな。私はこの間の戦闘で晴れてレベルアップを果たし、意思を表せるようになったのだ」
この間の戦闘と言えば、リザードマンの先代との戦闘である。
言われてみれば彼女の戦闘能力からして、相当の経験値的なものが見込める。
俺自体はレベルアップに金を消費するシステムなので、そっちに意識が向いていなかった。
もしかしたら、俺が得る筈だった経験値は全て魔宝に流れるのかもしれない。
『聖棺人形』の意思。確かに俺は、それを感じた事がある。
魔導書を取り出して魔宝の欄を確認すると、『聖棺人形』の表記が『Lv.2』となっていた。
ついでに、『狂愛者の繰糸』の方も。
「知らなかった。魔宝というのは喋るものなのか」
「そうでもない。自らの意思を宿すのは極一部の特例でしかない。現に主殿のもう一つの魔宝は意思を宿してはおらぬであろう」
そう言って俺の手の中にある十字板を指す。言われてみればそうだ。
しかし、レベルアップの効果が意思表示とは如何な物か。
「お前は自由に動けるのか?」
「いや、主殿から五メートル以上離れる事は出来ない」
ふむ。丁度『繰糸』で動かせる範囲か。
自分で動けるなら代わりに罠を撤去して貰おうと思ったのだが。
「レベルアップで追加された要素はそれだけか?」
と、他の要素に期待してみる。
はっきり言って、今の騎士に新しいメリットは見当たらない。
自分で動くのは凄い事なのかもしれないが、何分この騎士動きが遅く、『繰糸』無しで戦えるとは思えない。
どうせロボット的なギミックを加えるなら、自律運動より乗り込めるようにしてくれれば良かった。そうすれば、晒されている弱点を隠す事が出来るのに。
「もう一つ……『狂化』というものがあるのだが……それはあまりオススメ出来んな」
『狂化』。その言葉を聞くと同時に、魔導書にもその効果が表記される。
言葉から大体予想が着いたが、騎士の自律運動能力を上げる代わりに精神を暴走させるとある。
騎士が口を濁す意味がわかった。注意書に敵味方関係無しとある。使い所の無さそうなスキルだ。
結局、良く解らない方向に進歩した『聖棺人形』と一緒に罠を撤去していった。『繰糸』の方は範囲が十メートルに伸びたくらいで特に変化無し。
『聖棺人形』はと言えば、操りにくくなった。
この感覚には覚えがある。“逃走"を使った時と同じだ。
騎士の動きに、または騎士が俺の操作に息を合わせる必要が出来たのである。
これは、暫く練習が必要となりそうだ。
まぁ、今や戦闘要員も多いので、俺がわざわざ戦う事もなかろう。
……無いよな?
―To be continued―
双子の月 十二日目
収支報告
34,000G 元資産
+ 50,000G クエスト報酬
- 35,000G 返済
──────────
資産 49,000G
借金 111,573,000G
経過報告
人員 4名
魔物
戦闘員 30匹
非戦闘員 17匹
クエスト 古竜語翻訳(0/100)




