第十一話 ドラゴン様の料理人
足場の悪い巣の中は辛かろうと『人形』で狐娘を抱え決闘の間に帰ると、ゴシュジンがこちらに視線を寄せた。
壁の一角を囲う幕を確認。カンカンと岩を削る工事の音が聞こえる。手品師は工事現場か。うるさいのが居ないのは丁度良い。
ゴシュジンへと歩み寄って行くと、視界の奥でボゴンと土から出たフェイランが、大きな後ろ髪をぶんぶん揺らして駆け寄ってくる。
出てきた場所が最近耕している畑なのは、何か意味があるのだろうか? 自ら肥料になっているとか。
ウィルがふわふわとゴシュジンに寄っていくが、ゴシュジンの視線は一点。大人しく『人形』の腕の中で運ばれている狐娘。
「マシロ。その娘は?」
「ペタからの貢ぎ物らしい。因みに返品は受け付けていないとさ」
どうしよう? というアイコンタクトを込めて言ってみる。
どうするの? というアイコンタクトが返ってきた。
「従者様。そこにおられます方がドラゴン様で御座いますか?」
ゴシュジンと以心伝心して絆を確かめ合っていると、背後の狐娘が奏でるような声で言った。
不思議なもので、瞼は開いていないがゴシュジンに視線を合わせている。
「あぁ、そうだ。今から下ろすから用件は自分で言ってくれ」
人形から降りた狐娘はしっかりとした足取りで地に足を着けると、ゴシュジンへと歩み寄り、その眼前で再び三つ指を着いた。
「ドラゴン様。従者様の仰られました通り、ペタの村より供犠として参りましたクゥと申します。どうか、お召し上がり下さりませ」
「お召し上がり? ラティーシャ様はこの人を食べるんですか?」
「私は人喰いなどしませんっ!」
丁度やってきたフェイランが首を傾けて言った言葉を、勢い良く否定するゴシュジン。
「確かに大昔、低俗なドラゴンが人を喰っていたなどという話は聞いた事があります。ですが、私はそのような事を求めてはいない。そう、村に帰って伝えて下さい」
「村には……帰れません。どうか……どうか、この身にて……」
深々と頭を下げて、再びの嫁入りモードに入る狐娘。
これでは、先と同じで平行線を辿りそうだ。
「ゴシュジン。その娘は村に帰る事は出来んらしいし、追い払うのは死ねと言うようなモンだ。ほら、この娘は獣人だろ」
口を挟んだ俺に、ゴシュジンは怪訝な顔を見せた。
「獣人だと何かあるのですか?」
この箱入り娘。何で異世界人の俺より常識に乏しいんだ。俺は手品師に軽く教わった程度なのに。
この世界はお伽噺にあるような、平和で誰もが幸せな世界ではない。
俺達がいる国はまだ平和な小国だが、それでも戦争もあれば奴隷もいる。闇は確かに存在するのだ。
その闇の一つ。この国では亜人が差別対象である事。その背景から奴隷として扱われる事も多い……との旨をゴシュジンに耳打ちする。
「そんな下らない事をっ!? なんと醜いっ!」
しまった。矛先が別の方向を向いてしまった。
話が纏まる気がしない。
「良いですかクゥよ。世間の勝手な価値観に揺り動かされ、卑屈になってはいけません。貴方が貴方である事に誇りを持って下さい」
狐娘の肩を掴んで、拳を握り締め熱心に語るゴシュジン。
別に卑屈になっちゃいないと思うが……変にカリスマあるから、言葉を返し辛いんだよな。こういう時のゴシュジンは。
狐娘も面食らっている。想像のドラゴン様とは違っただろうから、その衝撃は余計にだろう。
「ラティーシャ様。クゥさんが村に帰れないなら、一緒に此処で働いて貰っては如何でしょうか?」
意外な伏兵。フェイランの一言で場が静まる。優等生らしい良い考えだと思うが、その案には穴がある。
「フェイラン。俺達に食い扶持を養う甲斐性は無い」
「ぐっ……!」
流れ弾でゴシュジンがダメージを受けてしまった。俺も自分で言ってて切ないものがあるが。
しかし、フェイランは続ける。
「じゃあ、養うだけの価値があれば良いんですよね。クゥさん。貴方は何が出来ますか?」
「私に出来る事……そうですね。歌と……家事は一通り」
「それは料理もですか?」
ゴシュジンが素早く返した。
そんなに俺の料理は嫌か。
「はい。勿論で御座います。ドラゴン様」
「マシロ……これは、有用な人材ではないでしょうか?」
ゴシュジンが真剣な眼差してこちらを見詰める。今まで変な料理ばっかりでゴメンな。
正直ゴシュジンがそれで良いなら俺に文句は無いのだが……。
「その娘に料理の腕前を見せもらおう。得意なもので良いから、一度つくってみてくれないか?」
「わかりました。ドラゴン様の舌を喜ばせる事が出来れば良う御座いますが」
◇◇◇◇◇
「これはまた……大きなお鍋で御座いますね」
狐娘が身を被せるように鍋に手を滑らせて、感嘆するように言った。
本来儀式用の鍋らしいからな。幼児なら風呂に出来る大きさだ。
「悪いが調理器具はその鍋と包丁しか無い。その鍋から分かると思うが、ドラゴン様は本当に良く食べるから、たんと作ってくれ」
「わかりました」
狐娘が大人しめに頷く。
俺が左肩の上の方に手を伸ばすと、空間に腕が呑まれる。
指に何かが触れる感触。それを掴んで手を引っ張り出すと、あら不思議。手には食材が。
商人の基本スキル“収納庫"。
これは、任意の物を収納し、且つ、ある程度劣化を防ぐ事が出来る。
ただし、入れられる物は俺が片手で持てる重さで、レベルに応じて一定の量しか収納出来ないと制限もあるのだが。
取り合えず、ありったけ食材を取り出して、フェイラン作の土の調理台に乗せていく。
「眼が見えないのに、どうやって食材を見分けるんだ?」
「心配なさらずとも、私の種族は鼻と耳が優れています。ですので、こうやって……」
狐娘は一つ一つを手に取り、確かめるように顔に近付けた後、二つに分けていく。
良く見れば鼻が微かに動いている。なるほど、見分けるのでは無く、嗅ぎ分けるのか。
取り出した食材を危なげ無い所作で調理していく狐娘。その手付きだけで、粗雑な俺の料理とは違う。
なんとも腹を擽る匂いが周りを包みだした時、鼻唄を奏でながら料理する狐娘を、何となく懐かしく思えた。
出来上がった料理を口にして、俺は思ったね。
生ゴミだ。今まで俺の作っていた飯は生ゴミだと。
ゴシュジンなんか泣いていた。それを見た狐娘は大層オロオロとしていたが。俺は申し訳無い気持ちでいっぱいだった。
狐娘の料理は家庭的な味で、毎日食べたくなる。そんな味だった。
ちゃっかり相伴した手品師に「これは一儲けできる味デス」と言われる程に。
明日からこの料理が迎えてくれるならば、俺はもっと頑張れそうな気がした。男を掴むには胃袋を掴めとは良く言ったものだ。
かくして、俺達に新しい仲間が増えた。
これで四人。ゲームならパーティーを組める。
ドラゴン様にキョンシーに、俺は商人。あと……生け贄? 料理人?
なんだか色物臭い一団になりつつある気がする。
―To Be Continued―
双子の月 四日目
収支報告
──────────
資産 0G
借金 112,000,000G
経過報告
人員 4名(+1)
魔物 0匹
設備
決闘の間
クエスト 竜語翻訳(0/50)




