閑話 人身御供と駆け出し商人
狐娘は魔導書を出す魔法も使えないとの事で、戦闘要員としては立ち回れそうに無い。
まぁ、予想通りと言えば予想通り。住人は増えたが、防衛力は変わらず。
狐娘はゼンコ族という種族だそうな。
彼女はペタの村の長老的な役割にいる、ババ様とやらの奴隷だった。
元々、彼女はここより北にあるゼンコ族の村で暮らしていたが、その村はとても強い魔物に襲われて滅んでしまったらしい。
その際に眼の見えない狐娘は家族とはぐれてしまい、彷徨う彼女は訳の解らぬ内に奴隷商に首輪を嵌められ、檻の中に並べられたと言う。
「隷属の首輪と申しまして、一度着けられれば外れる事は御座いません。今もここに……」
狐娘が人指し指で襟を開くと、服に隠れた首元には真っ黒な首輪があった。
「主人の命令に背けば、この輪が首を締め付けるので御座います」
「胸糞悪くなる話だ。開発した奴はクソだな」
「元は、家畜用であったと聞いております」
狐娘が苦笑するように言った。
クソは開発者じゃ無く、最初に奴隷の首に嵌めた奴か。
「でも、私は運が良う御座いました。ババ様に拾って頂けたのですから」
ババ様とやらは元々家事の手伝いが欲しかったらしく、厳しくも粗末な扱いでは無かったと。
「ですが、その時の私は家事など出来ませんでした。おかしいですよね。ババ様は私が一番安かったと言うので御座いますが……」
家事が出来ない幼い狐娘を、家事をさせる目的で買う。確かにおかしい。
彼女は眼は見えないが、容姿は整っている。
俺が奴隷商ならば狐娘にはそれなりの値を付ける。
理由は簡単。需要の違いだ。最低な考えだが、買われた相手によっては、彼女は玩具として扱われた事だろう。
そんな彼女が、とても安価で売られていたとは考えにくい。
ババ様とやらは、それを憂いて幼い狐娘を引き取ったのかもしれないな。
「供犠となる事も私が望んだ事なので御座います。せめて、ババ様に何か恩返しをと……」
それで、あんなに頑なだったのか。
村に残した家族と言っていたのは、そのババ様の事だと。
尊厳を救われた少女が、命を賭けて恩に報いようとは。
どちらが重いのかなど哲学的な事は解らんが、一つだけ解る。
例え奴隷であったとしても、狐娘は高潔だ。
それを知る迄の物語は、何とも世知辛いものではあるが。
◇◇◇◇◇
俺は商人職を得た際、四つの基本スキルを得た。
魔導書のステータスに加わった商人の文字。
その欄に、『自動会計』『鑑定眼』『逃走 Lv.1』『収納 Lv.1』が書き足されている。
ついでに、『聖棺人形』の欄に『反発呪力 B』『Lv.3』の文字も。これは、フェイラン戦の情報によるところだろう。
効果は『反発魔力』の呪い版だ。
商人スキルは各々、全く違う効果を持つようだ。
自動会計は売買の計算を浮かべると、答えが勝手に頭に浮かぶスキル。
鑑定眼は、物の価値を見定めるスキル。
収納庫は文字通り収納出来るスキル。
逃走は敵から逃げる際に足が速くなるスキルだ。
職自体にもレベルが有り、レベルを上げると新たなスキルが解放される。普通は魔物を倒せば良いらしいのだが、商人は一風変わっている。
商人の神に金を奉納せねばならんらしい。
それは、スキルレベルも同じで、商人道はとにかく金が必要。
流石商人の神。なんと現金な。
まぁ、そんな金は無いから今は放っておくとして、俺はスキルを一通り試してみる事に。
まず鑑定眼。これは、念じて見るだけで良い。
何を鑑定しようかと思い、悲しいかな、この巣に何も鑑定するような物が無い事に気付く。
視界の端で狐娘が包丁を振るっている。アレで良いか。
狐娘の隣に並び、念じながら包丁を睨んでみる。
名称……鉄の包丁。
分類……調理器具。
品質……低劣化。
説明……調理用の刃物。
情報が頭に流れ込んで来た。何だ、この程度の情報か。
買ったばかりなのに劣化してるのは、毎日ゴシュジンの為に大量の食材を捌いているからだろうな。今度砥石買っておくか。
「何か御用で御座いますか従者様?」
急に近寄ったからか、俺に不思議そうに首を傾ける狐娘。
「いや、何でも無いから気にしないでく……」
名称……クゥ。
分類……ゼンコ族。奴隷。
品質……最上質。
説明……家事全般はプロ級。夜伽の経験はまだ――
「そいやぁ!」
「従者様っ!?」
気合一閃。全力で頬を叩いて流れ始めた情報を吹き飛ばす。
――才能はある。
ちょっとだけ情報の残滓が聞こえた。何の才能だ。いや、考えるな。
今のは狐娘を奴隷として鑑定したという事か。
何て危険なスキルだ。危うくプライバシーに土足で踏み込む所だった。ちょっと踏み込んだが、そこは早く忘れるとしよう。
狐娘が俺の奇行に手を彷徨わせている。そりゃそうだ。
「正直スマンかった」
「はい? どういう事で御座いましょうか……?」
内容を得ない俺の謝罪に首を傾ける狐娘。
このスキルは二度と人に向けない事にしよう。俺はそう胸に誓った。
◇◇◇◇◇
気を取り直して、覚えた基本スキルで唯一の戦闘スキル。『逃走 Lv.1』の実験だ。
これは、敵から逃げる際のみ発動するらしいので、相手がいる。
「俺に包丁を振り上げてくれ」
「はい? こうで御座いますか?」
説明不足な俺の言葉に、困惑しているように見える狐娘が包丁を掲げる。
「“逃走 "」
俺の足が光を纏ったかと思うと、景色が加速する。自分を置き去りにすると感じる速度の中――
「おおおおおおぉぉ……ぐほぉぉっ!」
強制的にしゃかしゃか動く足を操りきれず、俺は地面に転げた。
魔宝を試していた時もこんな事あった気がする。
「従者様……転げるような音が……どうなさったのですか?」
振り返ると、包丁を振り上げたままの狐娘がオロオロとしていた。
◇◇◇◇◇
後でフェイランに聞くと、スキルは半自動で動くから、その力を引き出すには技術が必要だとの事。
剣を振るスキルならば、振る方向に自分の力を加える事でスキルの力に自分の力が足され、真の威力を発揮するらしい。
技能と技術は違う。スキルに息を合わせろと。
何だその二人三脚は。ややこしい。
俺がスキルを使いこなせるようになるのは、当分の練習が必要となりそうだ。
関係無いが、今日一日で狐娘の俺に抱く印象は大分おかしなものになった事であろう。
―To be continued―
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【NAME】 Mashiro Issiki (マシロ・イッシキ)
【種族】人族・純血
【属性】白無色
【職業】商人 Lv.1
【体力】G
【筋力】F
【魔力】G
【敏捷】E
【幸運】G
【保持スキル】
『自動会計』『鑑定眼』『逃走 Lv.1』『収納 Lv.1』
【魔宝】
『狂愛者の繰糸 Lv.1』
『聖棺人形 Lv.1』
特殊効果
・反発魔力 B Lv.3
・反発呪力 B Lv.3




