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1.4日常

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ニーナ・トエントと言う女性がいた。


ヴェイグと同じく聖竜騎士の生き残りだ。


ヴェイグや乗り手を失った騎士竜が軍を後にするなか、彼女はフラーシュカと共に軍に身をおき続けた。


長いレモン色の長髪の大人しそうな女性。


それがニーナの第一印象だが、実際はそうでは無い。


彼女は聖竜騎士が事実上解散したことにより、王国教導部隊に配属された。


王国教導部隊は王国の竜騎士を育てる精鋭部隊であり、中でも彼女の配属先はその教導隊を教導する部隊である。


歳が既に35を越えているにも関わらず、数多くのエリート部隊を叩き鍛える彼女は鬼教官として、その優しげな第一印象を潰していく。


ただ、彼女が外見通り優しいのは事実である。


そんな彼女が、グランピアの騎士養成学校の一室で何とも言えない表情をしていた。


騎士やジョストの選手を数多く輩出するこの学校で最も高級であろう部屋で、彼女の視線の先にいるのは一人の少女。


この学園の制服を着ているが、明らかに良い所の出だと分かる容姿。


いや、容姿がそうでなくても元聖竜騎士のニーナを側に控えさせている時点でかなりの地位の持ち主と判断出来る。


「そんなに気に入らないの? ニーナ」


その少女がニーナの表情に気付く。


「いえ……」


「無理に答える必要無いし。めんどくさい事しやがって、そう思ってるでしょ、本音」


少女が言うことは事実だ。


本来なら彼女は今、教導隊を訓練している予定だった。


だが実際は演習もどきに付き合い、学校の中にいる。


「あなたもそうでしょ。ユリア」


ユリアと呼ばれたのはニーナの側に控えていた少女だ。


この学園の制服を見に纏う彼女の表情は固く冷たい。


鉄の乙女とあだ名をつけられそうな彼女は、


「いえ、騎士を目指すものとして此処に入学出来たのは嬉しいです」


感情の無い声音で答えた。


「本当か?ニーナを師に持つお前なら、わざわざ此処に入学する必要なんてないし」


「学歴に此処の学校の名前が無い騎士の軍での振る舞いや評価はクリス様もご存知でしょう」


意地悪く聞く少女、クリスの問いに機械的に答えるユリア。


ユリアとしては普通に答えるたもりなのだが。


「そしてその現状が、クリス様が此処にいる理由でもあります」


「まっ、そうだね」


机の上に置かれていたティーカップを掴み、クリスは話題の相手をニーナに変えた。


「にしても、あんたが此処の学校を自ら進めるなんてね。こう言うの、普通は大臣とかがすることだけど?」


「失礼ながら、竜騎士関連では私より優れた者はいないと思います。故に、クリス様が最も安全な環境を整えられる学校を選んだまでです。私の方が、大臣方よりこちらの方で顔が広いですから」


クリス様の最も安全な環境。それは勿論アンリッシュの存在だ。


彼女がいるからこそ、ニーナはこの学校に色々と手回しをしたのだ。


出来れば、もう二度としたくない面倒な物だった。


「それは聞き飽きた。本心を言え」


「……生憎、それが本心です」


アンリッシュの事は絶対に言わない。


彼女達の隠居先は国王ですら知らないのだ。


クリスに教える義理は無い。


「いずれ分かるか。それよりも、そろそろ時間か? 派手な登場をするな」


ニーナへの追求をあっさりと止めたクリスは優雅に立ち上がる。


クリスとユリアの編入する学科はフリースタイルジョスト科。


この時間帯は外で自由訓練をしているはずだ。


クリスは自由訓練で派手な登場をしようとしている。


「私はレームルの準備をしてくる。ユリア、お前も準備をしろ」


ウキウキ気分のクリスが後にして、ニーナは盛大な溜め息を吐いた。


「師匠様……」


「ユリア、貴方は何も気難しい事を考えず、しっかりと此処で学びなさい」


「……自惚れかも知れませんが、師匠様の教えに勝る事をこの学校で得られるとは思いません」


「全くの自惚れね、ユリア」


弟子の言葉を鼻で笑いニーナは続ける。


「派手な登場……貴方が乱入して学科の生徒を負かすと言うプラン。予言しましょう、必ず失敗しますね」


「それは、私が慢心してその隙をつかれるからでしょうか?」


不思議そうに尋ねるユリアに、ニーナは薄い笑みだけで応じる。


これ以上は何を聞いても無意味と悟った彼女は頭を下げ、部屋を後にする。


一人になったニーナはソファーにどかりと腰を下ろすと、懐から煙草とライターを取り出し火を着けた。


清楚な雰囲気をぶち壊しにする態度の彼女。


だが彼女とて好きで清楚な外見になった訳では無い。


たまたま清楚な外見をしてるだけで、中身は煙草を吸うは酒は飲むは、酔った勢いで男と喧嘩してマウントポジションからの拳連打もしょっちゅうある。


むしろ、それほどの性格をしていないと聖竜騎士なんて務まらない。


「餓鬼の我儘か」


紫煙を吐きつつ、ニーナは吐き捨てた。


「それを許す親も親ですけど」


「……随分、ご機嫌斜めなようで」


ニーナにそう言うのはフラーシュカ。


彼女はニーナの前に腰を下ろすと足を組み、口角を上げながらこちらを見てくる。


ニーナはそれを一瞥して、煙草を灰皿に押し付けた。


「機嫌も悪くなりますよ。手塩にかけて育てている愛弟子の指導予定を崩して、何故あんな小娘の側に置かなくてはならないのですか?」


「……あなたの王宮アレルギーも凄いものね」


クスクス笑うフラーシュカを睨み付け、ニーナは鼻を鳴らす。


これはしばらく機嫌が直らないな。


そう悟ったフラーシュカは話題を変えた。


「それで、ヴィルトに会いに行くの。私に乗れば半時間で行ける場所だけど?」


ヴィルトの名前を出した途端、ニーナの不機嫌さが半減した。


「そうね。それも悪く無いですね。アポ無しでヴィルトを尋ねるのも面白そうですし」


ニーナとヴィルトは恋仲だ。


ただ、未だお互い良い歳して籍は入れていない。


たまにニーナが休暇を取り遊びにきて、昼も夜もイチャイチャして過ごして帰る。


その時フラーシュカは他の竜達と一緒にエクスと仲良く過ごしている。


フラーシュカにとっても、エクスは可愛い息子なのだ。


「それじゃ、ヴィルトの所に行こっか」


「えぇ、ですがその前に、愛弟子が負ける所を見ていきましょう」

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