第七章 王城招待と地味な提案
王城は白い、石灰岩で、できていた。
塔が四本、空に、向かって、伸びていた。
謁見の間は長く、広く両脇に、貴族たちが、ずらりと、並んでいた。
赤青、緑紫、様々な色の絹のローブ。
それぞれが家紋の刺繍を、誇示していた。
玉座には、痩せた老人が、座っていた。
頬はこけ、目は、落ちくぼんでいた。
王は明らかに病んでいた。
「異邦人、真壁悠斗、前へ」
俺は、緊張で足が震えながら、玉座の前に進んだ。
膝を、ついた。
ロドリゲスから事前に、教えられた、作法だった。
「陛下お目に、かかれて光栄です」
「面を上げよ」
俺は顔を、上げた。
王の隣に、エルナが、立っていた。
ドレスは、新しいものに、着替えていた。
しかし、瞳の中の緊張は消えていなかった。
「娘、エルナから、聞いた」
王がゆっくり、言った。
「貴殿の店は、二百の難民を救い、王都商人ギルドの評議員を、黙らせたと、聞いている」
両脇の貴族たちがざわめいた。
「貴殿は何者か、英雄か賢者か、それとも神の使いか」
俺は深呼吸をした。
英雄でも、賢者でも、神の使いでもない。
「ただの商人です」
謁見の間がしんと静まった。
王がゆっくり頷いた。
「正直な答えだ。嘘で塗り固める者でなかった、よかった。では商人として、この国に何ができる」
俺はしばらく考えた。
剣を、振るうことは、できない。
魔法を、使うことも、できない。
英雄として、戦うことも、できない。
ただ一つ、できることが、あった。
「王都の配給網を、立て直したいと、思います」
両脇の貴族たちが再び、ざわめいた。
「配給網とは何だ」
王が訝しげに聞いた。
「王都には倉庫が散在しています。しかし在庫管理がされていません。どこにどれだけ食料があるか、誰も把握していない。毎日ある分を適当に取り出して配っている。それでは奥の食料が勝手に腐っていくだけです」
「奥の食料が、腐る」
「ええ、人間と同じです。列の奥の人を忘れてしまえば、その人は待ち疲れて倒れます。列の最後の人まで目を配る。それが配給網です」
王の眉が、ぴくりと動いた。
「もう少し、具体的に、言ってくれ」
「まず王都の八つの倉庫の在庫をすべて把握します。入庫日、数量、品質。これを台帳に記録します。次に先入れ先出しを徹底します。古い食料から順に配給する。これだけで廃棄ロスが半減します」
俺は、続けた。
「半減した分を難民に、回しますそれから、餓死者のゼロ化を目指します」
王がしばらく、黙っていた。
それからゆっくり口を、開いた。
「それは、何百年も誰も、思いつかなかったことだ」
「いえ。これは誰もが知っていることです。ただ、徹底する人が、いないだけです」
両脇の貴族たちがざわめいた。
「いや、それは思いつかなかったわけではない」
「やる気がなかっただけなのか」
「在庫管理は商人の仕事。貴族のすべきことではない」
王は片手を、上げた。
ざわめきが止まった。
「貴殿に、王国補給卿の、称号を、授ける」
「王国、補給卿」
俺は、その称号を、舌の上で、転がした。
「貴殿の指示は、王の指示と同等とする、必要なものは、申し出よ好きに、使え」
俺は深く頭を下げた。
「重い責任です、お受けします」
謁見の間を、出るとき、エルナが俺の隣を歩いた。
「真壁様」
「はい」
「英雄に、なりたい、貴族なら、いくらでもいます、でも誰も、倉庫の話なんてしません」
「地味な仕事ですからね」
「地味な仕事を、王の前で、する人を、わたくしは、初めて見ました」
俺は笑った。
「現場の仕事は、地味、なんですずっと地味なんです」
その日の夜、城の客間から遠くを、眺めた。
霞んだ、地平線の向こうに黒い尖塔が見えた。
「あれは」
俺は、エルナに、聞いた。
「あれが魔王城です」
エルナの声は静かだった。
「あなたがいずれ、向き合うことになる、世界の歪みの中心です」
俺は長い、ため息をついた。
帰る方法はまだわからない。
しかし、目の前にやる、ことはある。
倉庫の、在庫表を、明日から作るのだ。
地味で、しかし誰もやってこなかった仕事を。




