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総合スーパー店長が異世界転生して〜店舗ごと召喚された俺と従業員七十三人  作者: もしものべりすと


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第四章 先入れ先出し

開店時刻、午前九時。


俺は両手で、シャッターを、引き上げた。


異世界で最初の、シャッターを、引き上げる音だった。


三百人を、超える避難民が、整然と列を作っていた。


しかし、その列は、すぐに崩れそうになった。


腹を、空かせた人間は、譲り合いが、できない。


最前列の、痩せた男が、後ろから、押された。


男が声を、上げかけた。


その時、副店長の宇都宮が、店の入口で両手を上げた。


「みんな、聞いてくれ」


宇都宮は、エルナの通訳を隣に、立たせて叫んだ。


「並んだ順番で確実に配ります。お一人様二食分、お子様には追加でお菓子があります。抜け駆けは無効。整理券を見せてください」


行列がしんと、静まり返った。


三百人の、避難民が、整理券を両手で握りしめた。


そして整然と、並び直し始めた。


それは、奇跡のように、見えた。


たかが配給だった。


しかし。


「殴り合いもなく」


エルナが隣で、呟いた。


「奪い合いも、なく整列だけで、人が」


俺はレジに、向かった。


第一レジ、第二レジ、第三レジ、第四レジ。


四人のパートナー社員が、整理券と、配給袋の、二点照合を始めた。


そして、副店長が、奥のグロサリー売場に向かって叫んだ。


「先入れ先出しで頼む、賞味期限の、古い順から、出してくれ」


「了解、副店長」


奥から、グロサリーの高橋さんの声が、返ってきた。


エルナがはっと、俺を見た。


「真壁様、ふぃーふぉーとは何ですか」


俺は、青果売場の前で、足を止めた。


「えっと、こういうことです」


俺はレタスの陳列棚を、指さした。


ちょうど、ミッチ姉さんが、新しいレタスを、並べていた。


「これ、見てください」


ミッチ姉さんがふっと、手を止めて、こちらを見た。


「新しいレタスを奥に、置きます」


俺は、奥の棚をぽんと、叩いた。


「古いレタスを手前に、出します」


俺は、手前の棚をぽんと、叩いた。


「お客さんは手前から取っていきます。つまり古いものから順に売れていく。これを先入れ先出しと言います。英語でFirst In, First Outで、頭文字を取ってふぃーふぉー」


「ふぃー、ふぉー」


エルナがゆっくりと、繰り返した。


舌の上で味わうように。


「これを、やらないと、どうなりますか」


「奥の、古いものが賞味期限切れになって、全部廃棄。廃棄というのは捨てることです」


「捨てる」


「ええもったいない。それと、お客さんに古いものを売ってしまうと信頼を失う。それだけは避けないといけない。だから先に入ったものから先に出ていってもらう、それだけのことです」


エルナはしばらく黙っていた。


野菜の棚を、しげしげと、眺めていた。


それからぽつりと言った。


「まるで人と同じです」


俺は手を止めた。


「人」


「ええ。年老いた者から先に逝く。世代から世代へ命が渡される。それが自然の正しい順番なのに、この国では」


エルナの声が少し、震えた。


「魔王のせいで若い者から先に死んでいきます。若い兵士、子供、母親。順番がめちゃくちゃになってしまいました」


俺は何も言えなかった。


ただレタスを一玉、丁寧に手前へ移した。


その所作が、なんとなく彼女には答え、になったらしかった。


エルナは深く、頭を下げた。


その時表で、声が上がった。


「みんな、ちゃんと、もらえるぞ」

「順番、抜かしたら最後尾」


副店長の声が店外に、響いていた。


俺は一袋目のレトルトのカレーとペットボトル水を、最前列の老人に手渡した。


老人は震える手でそれを受け取り、両手を合わせて深々と頭を下げた。


涙が、皺だらけの頬を、流れていた。


「あ、ありがたう、ござ、う」


歯が抜けていた。


舌が回らなかった。


それでも、その言葉は確かに、感謝の言葉だった。


俺は、次の人に袋を、手渡した。


母親と小さな子供。


子供が紙袋を、覗き込んで、目を輝かせた。


中には、レトルトのおかゆの隣にグミと、ラムネが、入っていた。


「おおかし、おかしある」


子供が初めて笑った気がした。


母親が声を震わせて、頭を下げた。


「ありがとう、ございます、子供が笑った、二年ぶりに」


俺は頷いた。


涙が出そうになった。


頬を、引き締めて、こらえた。


二時間で、三百袋を、配り終えた。


最後の老人が深々と、頭を下げて列を、去った。


俺は、レジの前で長く、息を、吐いた。


宇都宮が汗を、拭いながら笑った。


「店長これ、いつものクリスマス特売より、楽でしたね」


「ああ、ロープと、整理券さえあれば、何とかなる」


ミッチ姉さんが空のカートを押してきた。


「店長、奥の倉庫まだ半月分はあるよ」


「了解」


その時、店の上空、遥か遠くから鷹のような鳥が一羽、急降下してきた。


茶色の大きな羽。


足には銀色の筒。


副店長がそれを、慌てて受け取った。


両手の、震える手で俺に、手渡した。


「店長これ、伝書鳥らしいです。王都、と書いてあります」


俺は、銀色の筒の、蓋を開けた。


中の羊皮紙には、震えるような、達筆の筆跡でこう、書かれていた。


「至急店長を、王の前へ、王都冒険者ギルド、ロドリゲス・ファルケ」


俺は、宇都宮と顔を、見合わせた。


二人とも笑った。


無理矢理笑った。


「店長」

「うん」

「俺たちなんか結構、大事になってませんか」

「ああ結構大事だ」

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