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総合スーパー店長が異世界転生して〜店舗ごと召喚された俺と従業員七十三人  作者: もしものべりすと


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第二十二章 二十一年目の春

春が来た。


青葉店の駐車場の、植え込みに、桜が咲いた。


店の、二十一年目の春だった。


研修講師として東京本部フラッグシップ店に出張していた、ミッチ姉さんが戻ってきた。


「店長お疲れです」


「ミッチ姉さんお疲れ、ご苦労、様」


「東京、すごいね。ビルぎっしり、駅混んでて。青果、東京の若い子は頭固いわよ。マニュアルばっかり見て、リンゴの艶を見ない」


ミッチ姉さんは、笑いながら紙袋を、差し出した。


「これお土産、東京駅で買って、きた」


中には、和菓子の、箱だった。


「ありがとうございます」


「ねえ、店長」


「ん」


「東京本部の若い子に青果の見方を教えている時、ね」


「うん」


「私ふと思い出したのよ」


「何を」


「王都の市場で、商人ギルドの長老に評議会の議席を勧められて断った、あの時」


俺は頷いた。


「私あの時、断ったの。店長の青果の方が楽しいからって。本部の若い子に教えながらね、思い出した。私、青葉店の青果が好きなんだ。本部より、フラッグシップ店より」


ミッチ姉さんは、ふっと笑った。


「店長、私、青葉店続けるわよ。定年まで絶対辞めない」


「ええ、お願いします」


ミッチ姉さんは、青果売場に、戻っていった。


俺は、彼女の後ろ姿を、見送った。


午後戸塚も、東京、本部から戻ってきた。


「店長ただいまです」


「お疲れ、戸塚」


「本部、若い社員が包丁の握り方を知らないです。教えるの大変でした」


「お疲れ」


戸塚はいつもの仏頂面だった。


しかしその目には、わずかな誇りが宿っていた。


「店長もう本部、行かなくて、いいですか」


「いや、本部から来月も来てくれと、要請が来てる」


「えー」


戸塚は、初めて嫌そうな、声を出した。


「店長の隣で出刃研いでいる方が好きです。東京、人多すぎ」


俺は笑った。


「分かった。月に二日だけ行ってくれ。それでいいか」


「了解」


戸塚は、鮮魚売場に、戻っていった。


夕方、沙耶ちゃんも戻ってきた。


「店長、ただいま」


「お疲れ、沙耶ちゃん」


「東京、楽しかったです。息子を看護学校の見学に連れて行きました」


「いい、息子だな」


「ええ、店長のおかげです。息子、最近看護師になると言っていて」


「立派だ」


「店長、息子ね、お母さん王城で子供たちに計算を教えていた姿を覚えている、と言いました」


俺は頷いた。


「息子、覚えているんだな。二つの月の世界」


「ええ子供は、覚えているらしいです」


沙耶ちゃんはレジに、戻っていった。


夕方、仁科さんと、田所さんも戻ってきた。


仁科さんは本部フラッグシップ店の新作パンの、レシピを持って、帰っていた。


「店長、これ本部の新作。王都の白パンと似ています」


「ええお疲れ、仁科さん」


田所さんは、ほうきを両手で握りしめていた。


「店長、青葉店の床が心配で心配で、もう東京に行きたくない」


俺は笑った。


「田所さん、来月から東京研修の回数を減らします」


「ありがとうございます」


田所さんは、すぐに入口の床を、磨き始めた。


その夜、店の閉店後、俺は事務所で書類を整理していた。


宇都宮、副店長が入ってきた。


「店長、本部からメール、来てます」


「うん」


「青葉店、年間廃棄ロス一・三パーセント達成本部全国、二百店舗中一位です」


俺はぽかんとした。


「一位ですか」


「ええ、店長。本部表彰らしいです。来月、本部表彰式に店長と各部門の代表が招待されてます」


俺は頷いた。


「皆に報告、する」


「いえ店長、もう皆知っていると思います」


「えっ」


「ミッチ姉さんが午前中、青果売場ですでに叫んでいました。本部一位、と」


俺は笑った。


「あの人、口、軽いな」


「ええ、いつものことです」


宇都宮は深く、頭を下げた。


「店長、私、副店長として二十年ずっと、店長の隣にいました。これからも店長の隣にいさせてください」


俺は頷いた。


「副店長、ありがとう」


「いえ、ありがとうは私の方です」


その夜、店の屋上で俺は缶ビールを飲んだ。


二缶。


一缶は自分の、分。


もう一缶は氷川の、分。


「氷川、青葉店本部一位、だぞ」


「お前が潰そうとした店本部、一位、になったぞ」


「来月本部表彰式、行ってくる」


「お前のご家族にもお会い、する」


俺は缶ビールを、ことんと隣の缶に、当てた。


夜空に満月が一つ、輝いていた。


その隣にもう一つの月が見えた気がした。


幻だった。


しかし、それは確かに、俺の目には見えた。


二つの月。


二つの月の世界の王女エルナの姿が、満月の光の中に重なった気がした。


俺は缶ビールをもう一口飲んだ。


冷たいビールが喉を流れた。


「エルナ王女様、こちら側、いい店を続けています」


「ええいい、店続けて、います」


俺は缶ビールを、飲み干した。

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