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総合スーパー店長が異世界転生して〜店舗ごと召喚された俺と従業員七十三人  作者: もしものべりすと


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第二十一章 本部の専務

翌日の、午後二時、青葉店の駐車場に黒い、ハイヤーが、停まった。


中から白髪の、痩せた男が、降りてきた。


本部の専務、岡野だった。


俺は店の入口で、出迎えた。


「岡野専務、本日は、お越しいただき」


「真壁店長急で、すまない」


岡野専務は、すでにハンカチで額を、押さえていた。


午後の、日差しのせいでは、なかった。


緊張の、汗だった。


「事務所でいいですか」


「いえまず、店内を見せて、もらえるか」


岡野専務は店の、中をゆっくり、歩いた。


青果売場、鮮魚売場、精肉売場、惣菜売場、グロサリー、レジ、サービスカウンター。


すべての売場を、丹念に見て、回った。


途中何度も、足を止めた。


「青果のリンゴ、艶が、すごいですね」


「ええ、ミッチ姉さん青果歴、二十一年が磨いて、います」


「鮮魚の断面、輝いていますね」


「ええ。戸塚という若い者が、神経締めから研いだ包丁まで、きっちりやっています」


「ベーカリーの白パン、ふわふわですね」


「ええ、仁科さんが酵母の、温度管理を徹底、して、います」


「総菜のハム、こんな、種類があるんですね」


「福田さんが、子供たちに笑顔を、見せたいと本日、特別に、仕入れました」


「レジの応対、丁寧ですね」


「沙耶ちゃん、レジ主任、釣銭ミス、七年連続ゼロです」


「床、ピカピカですね」


「田所さん清掃歴、四十年独身で、毎日磨いて、います」


岡野専務はふっと立ち止まった。


サービスカウンターの前だった。


そこには、進物用の包装紙が整然と並べて、あった。


熨斗紙の、種類別の見本がファイルに、まとめて、あった。


「これは誰が」


「衣料の、遠藤さんです、進物の知識町内で一番です」


岡野専務は首を、傾げた。


それから、レジ前の椅子にぐらりと座った。


「真壁店長」


「はい」


「正直言って、私は、青葉店閉店に賛成、だった」


俺は頷いた。


「数字を見れば誰でも賛成する。地方ロードサイドの赤字店です。本部の判断は合理的だった」


「ええ」


「しかし今、店を歩いて、思った」


岡野専務は、ハンカチで汗を、拭った。


「この店は、商品の品質が桁違いに、高い」


「いえ、桁違いというほどでは」


「ある。桁違いに高い。青果も鮮魚もベーカリーも惣菜も、こちらの本部直営のフラッグシップ店より品質が高い」


「フラッグシップ店、よりですか」


「ええ。フラッグシップ店は本部の看板として、人材も設備も潤沢につぎ込んでいる。しかし、こちらの青葉店は、地方のパートナー社員と若い職人でそれを上回っている」


岡野専務はしばらく、黙っていた。


「真壁店長」


「はい」


「あなたが、なぜ本部に、来ないのか聞いていいか」


俺はふっと笑った。


「現場が好きなんです」


「ええ」


「いや、それだけではない。本部に行けばお給料上がる、地位も上がる。それでも私は現場を選ぶ。なぜなら本部に行くと見えなくなるものがあると、思っているからです」


岡野専務はしばらく、俺を見ていた。


その目にゆっくり光が、宿った。


「氷川君も最後に、同じことを、言っていた」


「氷川」


俺は、繰り返した。


「ええ。急性心不全の前、彼は私に言っていた。本部に行くと見えなくなるものがある、と」


俺は頷いた。


涙が滲んでいたが、ぐっと堪えた。


「岡野専務、氷川は私の、同期でした」


「知っています」


「あいつは本部で、苦労、していたと、思います」


「ええそう、思います苦労を、誰にも、言わない、男でした」


岡野専務は立ち上がった。


「真壁店長、青葉店閉店撤回、します」


俺は深々と頭を下げた。


「ありがとうございます」


「ただし条件が、あります」


「はい」


「年間の廃棄ロスを一・五パーセント以下に抑えること。これを達成できれば、本部から特別奨励金を出します」


「ええ」


「それから、もう一つ、こちらの、青葉店の現場、スタッフを本部フラッグシップ店の研修講師として、招きたい」


「ええ」


「特にミッチ姉さん、戸塚、沙耶ちゃん。仁科さん、田所さん。彼らに本部で研修してもらえないか」


俺は頷いた。


「本人たちと相談、します」


「ぜひ、お願いします」


岡野専務はハイヤーに戻る前、店の入口で振り返った。


「真壁店長」


「はい」


「氷川君は、机の上に、もう一通手紙を残して、いました私、宛てでした」


岡野専務は、ポケットから、白い封筒を、取り出した。


「読んでください」


俺は封筒を受け取った。


「氷川君はこう、書いていたもし私が、青葉店を訪れる、機会があれば、真壁店長に、これを渡してくれ、と」


「ありがとうございます」


「読んだ、感想をいつか、聞かせて、ください」


岡野専務はハイヤーに乗って去って、いった。


俺は事務所に戻った。


封筒を開けた。


中の便箋には氷川の筆跡で、こう書いてあった。


「真壁、すまない。青葉店を潰す判断は間違いだった。お前の店は二十年、地味に世界を支えてきた店だ。それを数字で潰そうとした。俺は本部の人間として失格だった。お前の現場を信じる。店続けてくれ。いつかまた屋上で缶ビール飲もう。夏祭りの夜の約束する。氷川」


俺は便箋を両手で握りしめた。


涙がぼたぼたと机に落ちた。


しばらく動けなかった。


異世界での、最後の氷川の言葉を思い、出した。


「真壁お前の勝ちだ」


そして、現実の世界での最後の、走り書き。


「閉店は撤回、する、青葉店は、本部のミスだ現場を信じよ」


二つの、氷川の言葉が重なった。


俺は便箋を引き出しにしまった。


事務所の窓から、駐車場を、見下ろした。


夕方の、駐車場に客が、出入り、していた。


俺はゆっくり立ち上がった。


売場に、戻った。


「店長専務、何て」


ミッチ姉さんが心配そうに聞いた。


「閉店撤回決定です」


ミッチ姉さんが、ぱっと表情を明るく、した。


「店長」


「皆さんに報告、します、本部から、特別奨励金それから本部フラッグシップ店の研修講師の依頼が、あります」


ミッチ姉さんが目を見開いた。


「研修、講師」


「ミッチ姉さん戸塚、沙耶ちゃん、仁科さん、田所さんご指名です」


ミッチ姉さんはしばらくぽかんと、していた。


「私本部なんて、行った、ことないよ」


「行って、教えてください、青果の二十一年を」


ミッチ姉さんは、ふっと笑った。


「あらやだ私、教える、ことなんてある、かしら」


「ありますたくさん、あります」


ミッチ姉さんが頷いた。


「じゃあ行く、行って教える、本部の若い人にも、青果の楽しさ教える」


その夜、青葉店の事務所で、ささやかな、お祝いが、開かれた。


宇都宮が、缶ビールを人数分、用意、していた。


俺は一缶、屋上に持って、上がった。


事務所の、屋上二十年毎晩、煙草休憩で、上っていた、屋上。


そこで二〇〇五年の夏祭りの夜氷川と、缶ビールを飲んだ。


俺は缶ビールを二缶、開けた。


一缶を自分の隣に置いた。


それは氷川の、分だった。


「氷川、お疲れさん」


俺は自分の缶ビールを軽く、隣の缶に当てた。


ことんと軽い音がした。


「閉店撤回、できたぞ」


「お前の、走り書き、ちゃんと本部に届いたよ」


「夏祭りの夜の、缶ビール約束、覚えてたよ」


ぐっと飲んだ。


冷たいビールが喉を流れた。


夜空には月が一つ、しか、なかった。


しかしそれでよかった。


ここは俺の、世界だった。


俺の店の、屋上だった。

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