第7話 唯一無二
「違います。こちらの足が弱い」
「はい」
「違います。握りがこれだと、振りが遅くなる」
「はい」
「違います。槍の角度が悪いと、敵に的確に当たっても、全ての威力が伝わりません」
「はい」
「違います! こうです。その突きでは、相手の反撃にあいます」
「はい」
イルベスタは厳しい人だった。
父に比べると段違いに厳しい。
修練中でも緊張感が生まれる。
行動一つ起こすと、厳しい査定を受け続ける状態だからだ。
「最後は良いです。言われたことを出来るようになるまでが早い・・・本当に五歳ですか?」
「あ、はい。そうです」
「そうですか。神童ですね。私が十歳くらいの時と同じくらいの力だ」
庭で特訓をしていると、終わりがけの時にアンジュが家から飛び出してきた。
慌てている。
「ああ。あっちもこっちもになっちゃった。急いでいかないと」
「どうしました。アンジュ様?」
「あ。イヴィ。今、動ける?」
「午前の修行も終えたので、動けますが」
「お米。切れちゃったの。晩ご飯用なんだけど、買ってもらえる?」
「いいですよ。ですがどちらで?」
「あっち。村の中心にあるお米屋さんね。赤い旗がのぼってるの。見つけやすいと思う」
「はい。わかりました。いってきます」
「これお金ね。はい、お願い」
「はい」
良い機会だと思って、俺も聞いてみた。
「あの母さん、俺も行ってもいい?」
「買い物?」
「うん」
「・・・そうね。イヴィ、この子がいても大丈夫?」
アンジュはイルベスタに聞いた。
「はい。大丈夫です。お守りします」
「そうね。あなたなら大丈夫そうね」
「はい。おまかせを」
二人で買い物に行く事となった。
◇
道中。
「手を繋ぎましょう。ケイオス」
「はい」
気を使ってくれたのか。小さい子供が勝手に離れるのを避けたのか。
彼女は俺の手を握ってくれた。
「イヴィ姉さんは、聖槍流なんですよね」
「はい」
「聖槍流って、たくさんいるんですか? 派閥があるのですか?」
セリオスのお師匠様という人以外にも、聖槍流を扱う人がいるのだろうか。
ふと疑問に思った。
「あります。聖槍流という大元は、私の祖父がまとめていますが、枝分かれになって分家のような存在がいくつかありますので、それぞれ皆が聖槍流と呼びます」
「そうなんですね。じゃあ、聖道騎士団ってなんです?」
「ええ。聖道騎士団というのは・・・」
セリオスとアンジュでは、こういう事はあんまり話してくれないから、この機会にイルベスタから聞いてみようと思った。
ここが最大のチャンスになってるはずだ。
後悔しないために、俺って好機だけは逃さないのさ。
「ディバイン王国の騎士団です。聖槍流の修練者たちが集まり、一つの騎士団となって、国を支えるのです」
「それで父さんもそこか・・・・あのお姉さんはやらないんですか?」
これくらいは聞いてもいいはずだ。
「ええ。まあ。祖父の後を継いで、道場や別の仕事をするのもいいかなと。私が別に騎士団の騎士とならずとも、他の者で騎士を輩出する事は出来ますからね」
「へえ。お姉さんの故郷の人って、騎士団にも入ってるんですか」
「はい。義兄さんもその一人で・・・でも、義兄さんは外部の人か・・・」
セリオスは元々里の一員じゃないみたい。
彼女の言い方がそんな感じだ。
「あの、ランクってどうやって決めるんです? 父さんがAAって聞いたんですけど」
「え。ああ、そうですね。ケイオスが言っているのは、魔闘ランクの事ですね」
「AAって魔闘ランクの事を言うんですか?」
「ええ。魔闘ランクです。これは聖槍流の他の武道者にも通ずるランクなんです」
「他? ああ、あの四流派の事ですね。四天騎士団。虎牙戦士団。剛鉄戦士団でしたっけ」
「はいそうです」
聖道騎士団の他に、この大陸には三つの流派がある。
それぞれに得意な属性と武器がある。
四天騎士団は弓の騎士団。風と火が得意で天弓流と呼ぶ。
虎牙戦士団は剣の戦士団。火と土が得意で牙流剣と呼ぶ。
剛鉄戦士団は拳の戦士団。水と土が得意で剛鉄拳と呼ぶ。
「それぞれでAAAは一人だけです。それも必ず生まれるとは言えません。頂点に達すべき人間がいない場合は不在となります。しかしその場合だと、その流派の沽券に関わります。要は他の流派に舐められるのですね。お前の所にはいないのかとみられますね」
「へえ、そうなんですか。結局いないと駄目なんだ」
なるほど。互いの実力が拮抗しているから良い。
という感覚かな。
だから、AAAを輩出出来ない場合は、雑魚認定を受ける。
こんな感じかも知れないな。
「はい。だから必死になって、AAAを作る。頂点に近い人間たちは人間性を捨てて修練をします。怪物ですよ。AAAの人間は」
「お姉さんのお爺さんがですか?」
「はい。祖父は、確実に怪物です。義兄さんも近づけたかもしれませんが、人間性を捨てていませんでしたから、無理でしょう」
そんなに捨てないと駄目なのかよ。
人間捨てて、修行しないとなれないって、どんだけ凄い修練をするんだ。
「お姉さんの魔闘ランクは?」
「私は、昨年にAAになりましたので、なったばかりなんです」
「え?! AA!?」
とんでもない人だった。AAはセリオスと同じだ。
「驚いてもらえて嬉しいですが、なったばかりなので、義兄さんの実力とは、雲泥の差がありますよ」
「そうなんですか」
「はい。そうなんです」
なんで子供相手にも丁寧なんだろう?
もう少し砕けてもいいのに。
「お姉さんは、最近まで学生でしたよね?」
「はい。そうですよ。去年は学校にいました」
「それでAAってなれるんですか」
「・・・あんまりいないですね。学生時代でAAに到達する人は、ほぼいないですね。私の前だと義兄さんくらいじゃないですか。義兄さんも珍しいと思います」
「凄い人なんだ。お姉さんも父さんも」
どっちもとんでもないだろ。その記録!
「それほどじゃないですよ。他にも強い人はいました」
「お姉さんより?」
「ええ・・・・何人かは・・・でも、どうでしょう。直接戦ったことがないので、わかりませんが。いた・・と思います」
自分の方が強い。そういう自信がある部分と、実際にはどうなんだろうという疑問の部分がせめぎ合っている。
彼女の回答が曖昧なのは、子供相手でも真摯に答えようとして悩んでいるからだ。
「学校って、凄い人たちの集まりなんですか。皆強いんですか?」
「いえ。色んな人がいます」
「色んな?」
「はい。リーン魔法学校は、魔法を学ぶことを主軸においています。なので、魔闘以外の方法で戦う。魔法使いたちがたくさんいます。それに、魔法駆動装置や魔核石も研究しますので、技工士や加工士などの専門職に就く人もいますよ」
「なるほど」
色んな勉強が出来るんだ。
それなら行ってみたいな。古代魔法を出せるようになるのかもしれないぞ。
「あの。そこは魔法陣って勉強しますか!」
「え。魔法陣?」
「はい。魔法陣です」
「ケイオスは、魔法陣に興味があるんですか」
「はいあります」
「そうですか。槍をそこまで扱えるのに、魔法陣に・・・」
勿体ないですね。
って話の続きがありそうだったが、彼女の次の言葉は、俺の質問への回答だった。
この人は誠実な人です。
「でもそれなら、ケイオスもリーン魔法学校に入学するのが良いのかもしれませんね。たしか特別授業であったはずです。私は勉強していませんでしたが、専門職の人たちは多少勉強しないといけませんからね。知識がないと魔法駆動装置を作成できませんし、魔核石の加工も出来ませんしね」
そうか。
その二つを開発研究するには、魔法陣についての基礎の基礎がないと駄目だもんな。
「お姉さん。そこにはどうやったら入学できますか」
「ええっと推薦入学か。スカウト入学。あとは普通の試験を受けますね。それと特殊入学もあります。特殊パターンがいくつかあって・・・どんなのでしたっけ。学友にいたような気が・・」
「へえ・・・そうでしたか」
普通の試験が良さそうだな。
出来るだけ目立たない方式で入りたい。
なんか俺の実力って同年代より凄いみたいなんで隠す方向で進みたい。
影で実力者になって、裏では最強みたいなポジションに入りたいな。
もし学校に入るならだけど。
「あ。赤い旗だ!」
「あれが目印ですね。ケイオス。お米を買いましょう」
「はい」
これで、情報を取得しながら二人で買い物をした。転生して一番上手くいった情報収集だった。全て彼女のおかげである。
イヴィ姉さん万歳!
ありがとう。
助かりました!
◇
その後も俺は彼女の指導で修行を行った。
セリオスと彼女が交互で見てくれる形になり、その時からなんだかセリオスも寂しそうだったけど、他にも仕事があるみたいで、家を空ける機会が増えた。
それにしても、彼は何の仕事をしているのだろうか。
気になる所だったが、こちらの両親は俺に家庭の事情を言わない。
王宮の人間であるのは確実な母。
それと元騎士団長である父。
深い事情がありそうだけど、話してくれないんじゃ分からない。
俺の中ではこれくらいしか、この夫婦の情報がない。
でもまあ結果的にだが、別に俺の人生に支障があるわけじゃないんで気にしない方向であった。
そして七歳前後から、俺は自由に村の方に行けるようになった。
今までは外に出るのが禁止事項で、森と庭以外は駄目であるとされていたが、この村までなら許すと言われて、この頃から俺はそっちの方にも行って、何か面白いことはないかを探ったりしていた。
「なんかないかな。でも、この世界って不思議なんだよな。変なところが現代的なんだよな」
道路は砂利が基本で中世の時代感がある。
でも、道路の脇に街灯がある。夜も明るく照らすための明かりがあるんだ。
これを電気で行なうのではなく、魔法駆動装置を使って、人の魔力の力で明るく照らす。
だから魔法駆動装置って戦闘のみならず、日常生活にも活用していて、カメラもそうだけど、冷蔵庫などの家庭で使用するものも存在する。
だから、俺の中ではこの世界は、ごちゃごちゃ感が強い印象だ。
色々あって、理解するにも時間がかかる。
景色は中世ファンタジーっぽくて、他が近代ファンタジー?
こんな感じかも知れない。
機械というか。装置と融合した魔法の世界観だから、表現が難しいな。
「魔法駆動装置って凄い代物だしな。前世じゃ、絶対に再現できないし・・・かといって、日本よりも優れた日常生活を送れるかと言われたら・・そうでもないか。トイレにウォシュレットとかないしね」
ここから先の場所へ。
俺は出ていけてないから、ここら辺が理解できない。
村の外の景色は、どういう景色なんだろう。
世界を体験したら、また別の感想が生まれるんだろうな。
◇
村を歩いている途中で、なんか不穏な会話が聞こえてきた。
「てめえ。いい加減にしろよ。真面目にやれ」
「ぼ、僕は・・・真面目で・・・」
「ふざけんな。お前のせいで負けたんだぞ。また向かいの村の奴らに馬鹿にされるんだからな。半年は馬鹿にされるぞ」
「で、でも。それは僕だけのせいじゃ・・・」
何かで子供が喧嘩している。口論に勢いがある。良くない方向に発展しそうだ。
俺はそちらの方に行ってみた。
「雑魚が! お前のせいで勝てなくなるんだ。俺たちの邪魔すんな! 村から出てけ」
「そうだ」「そうだ」
怒っているのはヒョロヒョロの少年。
足が一番細いから、そこが棒に見える。
うん・・・アイスのホーム〇〇バーにも見えるな。
いや、上も細いから。ここはヒットバーとしよう。
取り巻き二人は丸々な感じなので、ア〇スの実という事で。
俺が命名したアイス三兄弟は、一人の気弱そうな少年をいじめていた。
彼は何かで失敗したらしく、そのせいで隣村の人との争いで負けたらしい。
全ての責任が気弱な少年の小さな肩に降りかかっているようだ。
「この野郎。いつまでここにいるんだ。俺の視界から消えろ!」
ヒットバー君が細い腕で、気弱少年の顔を殴ろうとする。
細くても当たったら痛そう。気弱な子は躱せそうにない。
それは、さすがにかわいそうなので、俺が出た。
細い腕を掴む。
力強くいくと溶けちゃいそうだから、そっと優しくだ。
「まあまあ。そこまで怒りなさんなって。ヒットバー君!」
「だ。誰だこいつ。俺のパンチを止めた!?」
そこはビックリするところじゃないし。
それに君のパンチさ。止まって見えるもん。楽勝で受け止めるって。
俺が普段から戦っている人って化け物なんだよ。
二年も彼女と訓練してるんだもん。
こんなのパンチじゃない。デコピンくらいだ。
「き、君は・・・」
気弱少年が俺の事を見た。
「大丈夫。俺が助けるよ」
「で、でも・・あ・・・あれが」
前を見てよ、三人が襲い掛かってるんだ。って言いたそうな顔だ。
「はいはいはい。アイス三兄弟。君たち程度じゃ、俺には勝てないよ」
「「「な。なに!?」」」」
俺が彼らの攻撃を全て捌いたら、三人揃って同じリアクションを取った。
目ん玉が飛び出そうになっている。アイスが溶けたんだな。
「さて。どうする。あんまり傷つけたくないからさ。逃げてくんないかね」
「なんだと。チビの癖に生意気な。何歳だお前」
「俺・・・七?」
顔は彼らに向けたけど、目だけ空を見た。
自分の歳を思い出すために上を見ていた。
「お前、なんで自分の歳がわかんねえんだよ」
いちいち数えてねえんだよ。
こちとら、二十三まで生きてるから。実際は三十くらい。
セリオスたちと同学年くらいなんだわ。
「まあそこはいいだろう。ヒットバー君。ヒョロヒョロのままじゃさ。ガリ〇〇君みたいに分厚い氷の層は出来ないんだ。もう少し頭を冷やしてから、俺の前に来たまえ!」
「何を言ってるんだ? こいつ」
ええ。そうでしょう。わからないでしょうね。
前世の知識をガンガン出して、ビビらせる戦法だからな。
俺が戦っちゃうと傷つけちゃうし。
「ネイラー君。やっちゃいましょうよ」「このチビ、生意気にもネイラーさんに口答えしてますぜ」
普通さ。体の大きい奴が、体の小さい奴を支配しない?
なんか逆なんだけど。体が細い奴が、太めの子を操ってる感じなんですが?
どういう事なんでしょうか。
この子の親とかが権力者か?
「くらえ!」「「おおおお」」
三人同時攻撃。
連携は悪くない。だけど、俺には全部止まって見えるので全て躱した。こういう時は一番のボスを倒すと大人しくなる。
そこで、最後に攻撃してきたヒットバー君の腕をもらう。
「な。なに!? おいおい。やめ。やめろおお」
右腕を掴み、彼の前傾姿勢を利用して、俺は懐に潜り込んで、自分の背中を使った。
完璧な背負い投げのモーションに入る。
「ん? これでも、受け身とれねえか」
丁寧に投げている途中で気付いた。俺が綺麗に投げたのに、ヒットバー君のバランスが悪い。このままだと、頭から落下して大怪我する。
だから、投げの途中で体を離して、俺は彼の頭を持った。
そこから半回転させて、彼を地面に着地させる。
すると、足がしっかり地面に着くのである。
「出来た! 完成!」
俺は、上手く出来て満足じゃ。
とりあえず、この子らに構うのは、もういいや。
今の俺の攻撃で、ビビり散らかしてるしね。
「君、大丈夫?」
「え。う。うん。だ、大丈夫だけど・・あれはいいの?」
「いいよ。大丈夫だよ。たぶん、あの子たちがなんとかするからさ」
ヒットバー君の体自体は無事なのだが、残念ながら下が溶けだしていたんだ。
さっきの背負い投げの恐怖とそこからの一回転で、透明な液体を上からも下からも流してしまったんだ。
だから、きっとお仲間が処理してくれるはずさ。
ティッシュやパンツとかの替えを持って来てくれるよ。
「じゃあ、君の事情をあっちで聞こう!」
こうして俺は気弱な少年の家へと向かう事になる。




