第5話 イルベスタ・クロスナー
五歳となった。普通に会話をしても問題のない歳だ。母には常に凛々しくなっていくと言われている俺。でも正直言って、あの人は、親バカ全開だから疑っている。
俺の美的センスって中二寄りだから、俺の顔が万人受けする顔なのかが分からない。
それで母はこんな感じだけど、父はというと、昔よりも表情が温和になった。
修行内容は相変わらず過密日程で厳しいけど、教え方は優しい。
「いいぞ。ケイオス。その打ち込みの時は、足に力を入れるべきだ」
「うん!」
槍の一閃。横に払う攻撃を父に全力で叩きこんだ。
この攻撃は当たらない。父の槍にぶつかって、勢いを止められる。
でも褒めはしてくれる。
「今の一撃を出せるんだ。これは、魔法駆動装置での魔法を足せば、すぐにでもBまでいくだろうな」
現在魔法駆動装置を使用せずに、俺は訓練槍で特訓を重ねている。
聖槍流の本来の修行は、水か風、それかその両方の性質の魔法駆動装置を使用して訓練をする。
だけどセリオスは、俺に対してその訓練を課さなかった。
基礎訓練を大切にしていて、基本の槍筋だけを気にしていた。
「父さん」
「ん?」
「そろそろ魔法を出したいんだけど」
「魔法を出す?」
「うん。放出系の勉強したい。父さん教えてくれる?」
「え? ケイオス、魔力を放出できるのか? 君は魔法を出せるのか?」
「うん」
「今やれるかい?」
「出来るよ。今出す?」
俺が右手を前に出した。
庭から一撃出そうとすると。
「待て。こっちでやろう。試しに撃ってみてくれ」
セリオスは俺を裏の森に連れて行った。
自分の家は、森の手前にある家で、小さな村はずれの位置にある。
それと、隣の家まで随分と離れた位置にある家だ。
ちょっとそこまでコンビニにみたいなテンションでは買い物にも行けない位に離れている。
よくこんなところに、若い男女が家を建てたなと思う。
「木に向かって撃つの? 危ないよ」
「待て、今の言い方・・・まさか、その歳で木を倒せるのか?」
「うん。たぶん」
「嘘だろ・・ちょっと待て。ケイオス、君は循環系じゃないのか。特徴がそうなんだけど・・・」
外に漏れ出る魔力だからって事?
そういう意味だとそっちが得意ってなるよね。でも違うぞ。
「たぶん、こっちの方が得意だよ」
「え!?」
自慢じゃないが、俺は放出の方が得意だ。
息を吸うように魔力を各部に移動できて、息を吐くように一か所に集中させることが出来る。
目や鼻みたいな五感。肩や肘、膝などの関節部分。あとは胸筋とか腹筋などの筋肉系にもだ。
特に、手は一番集中しやすい。
まあ、魔法を出したいって最初から思ってたから、重点的にここに集めていたからだと思う。
「こんな感じ! ほい」
魔力を込めた魔力弾は、俺の手から真っ直ぐ飛び出して、木を五本破壊した。
内三本は伐採状態になり、残り二本は木として聳え立っているが、穴が開いた状態になる。
「ば、バカな。これほどの高密度な魔力弾を、ついこないだまで赤ん坊の子が? この威力か?」
今のは、どうやら凄い威力らしい。
自分ではどの程度が高レベルなのかが分からないから、やり過ぎが分からなかった。
「これ、強いの? 普通じゃない?」
「ああ。まったく普通じゃない。異常だ」
セリオスが呆れた。頭に手を置いて悩む。
「まさか。我が子で驚愕する事になるとは・・・」
セリオスがぶつぶつ言いだす。
「これは、どうしたらいいんだ。魔力弾を高密度で展開が出来るのは、放出系として抜群のセンスを持っている証拠。そして威力。あれならば、今すぐ学校に行っても成績を残すぞ・・・下手をしたら、子供時代は今の魔力弾だけでも戦えそうだ。これで順調に成長したら怪物だぞ」
怪物になりたいために勉強してるんじゃないんだけど。
俺、オリジナルの魔法を作りたいんだけど・・・。
つうか、この世界って学校があるんだ。
田舎に暮らして、ここで学校が見当たらないから、学校っていう存在そのものがないのかと思ってた。
「父さん。俺、古代魔法を勉強したい。いいかな」
「は? なに!?」
「古代魔法を出してみたい。面白そう」
「・・・え・・・今なんて?」
急に耳が遠くなった。
まだ若いのに、急にお爺さんみたいな事を言いだしたぞ。
「古代魔法!」
大きな声で言ってみた。
「それは聞こえてるよ」
大きな声で返って来た。
「じゃあ、何で返事がないの!」
「驚いただけだ。ちょっと考えさせてくれ」
「うん」
耳が遠くなったんじゃなくて、ただ単に古代魔法というワードに驚いただけだった。
「・・・それは、魔法陣を学習したいって事か」
「うん。そう!」
言いたい事を理解してくれた。
さすが父親だ。でもこれは当たり前じゃない。
セリオスが良い親父なんだ。
俺のやりたい事を馬鹿にしないんだ。しかも何とかしてあげたいって感じがする。
今の俺って結構勇気を持って言ったんだよ。
前の時はここで馬鹿にされてさ。
飽きられて、蔑まされて、俺に興味が無くなった。
あの時に俺の親父は俺を見限ったんだ。捨てたみたいな感じだ。
「だとするとだ。これは僕の手を離れないと駄目だな・・・リーン魔法学校にいくしかないか。それか魔法の先生だ。魔法を専門的に学習するとなると彼が良いのかな・・・でも今だといるのか? それに古代魔法専門の教師っていないよな・・・いるのかな」
リーン魔法学校。
それはどんな学校だろう? 有名な学校なのかな。
「・・いや、そうなると。聖槍流はここまでにしておいた方が伸びが良くなるのかな? 君は透明だし。もしかしたら、古代魔法の方が向いているかもしれない。いやでも、といってもだ。古代魔法は現代魔法とぶつかると・・・やっぱり槍の方が生き残るには合うはず・・・だけど本人がやりたい事が・・・」
俺の為に色々と悩んでいるみたいだ。
セリオスは、一人で話を進めていた。
「ここは判断が難しいな。君の人生は君が決めた方がいいが、ここは運命の分かれ道。成長で考えると、時間を無駄にしたくないからな」
「時間? 足りないの?」
こんなに修行してもまだ足りないのか。
俺は素朴に聞いてみた。
「時間自体は足りているよ。君はまだまだ魔力が伸びる。人間は生まれてから二十二になるまでの間、魔力が伸びる。だからそこまでは一生懸命魔力を鍛えるんだ。一般人も周知の事実だから、今は鍛える子が多いんだよ。まあそれでも二歳から槍を持つ子は少ないだろうね。お師匠様くらいかもしれない。あの人も変人だったからな」
「そうだったんだ」
じゃあ、小さな頃からやってる俺は他よりもスタートが早いのかな。
成長に時間制限があったのか。これは若いうちにもっと頑張った方がいいな。
「でもそこからの伸びはないんだ。熟練の技が光る感じかな。魔力の効率化が始まる感じだ」
「へえ」
要は、魔力を扱うのもベテランになってくるから、使用感で成長するって事か。
でも容量が増えるわけじゃないから、そこをカバーする成長だな。
「あなた! お客さん」
二階の廊下の窓から顔を出しているアンジュが、こっちに向かって叫んだ。
「ん。客? 僕に?」
「あなたにって!」
「誰だろ。お客さんなんて・・・僕らの元に来るはずがないんだが?」
「イルベスタさんって人」
「なに!? お嬢が??」
慌てるセリオスは珍しい。一瞬で額に汗が出ていた。
◇
二人で家に帰るために表に戻る。
玄関先で待っていたのが、凛とした佇まいのお姉さんだ。若い。高校生か大学生くらいに見える。
アンジュやセリオスよりも少しだけ若い人だ。
切れ長の目が獲物を捉えた。こちらを見る目が異様に鋭い。というより、セリオスだけを見ている。
「義兄さん。こんな所で何をしているのでしょうか」
「お嬢・・・な。なぜここに?」
ここまであからさまに動揺するセリオスを見た事がない。
「お爺様に聞きました」
「お師匠様か・・・しまった。あの人は家族に甘いからな」
お師匠様とお爺様がイコールか。じゃあ、この人がアルビオン・クロスナーの孫か。
あ、そうだ。よく見たら、槍持ってるよ。背中に背負ってた。
「義兄さん。どうしてあなたが騎士団にいないのですか。まさか。このアンジュ様のせいで辞めたのですか」
アンジュ様?
静寂の閃光アルビオン・クロスナーの孫が、様って呼ぶくらいにアンジュは偉いのか?
そんな威厳ないぞ。ただの親バカの母親だよ。
「いや。待て。お嬢。落ち着け」
ぶつ切りの言葉の羅列。まだセリオスは動揺している。
「これが落ち着いていられますか。私がリーンから帰ってきたら、義兄さんが王都にいないじゃないですか」
「それは・・・そうだけど・・・」
「まさか。アンジュ様と駆け落ちするとは、信じられない」
「いや。駆け落ちじゃなくて・・・しかし、そうか。結果的に見るとそうなるか」
「ええ。私に言わずして、勝手にいなくなったのですから、駆け落ちです」
「んん。実際は違うんだけど・・・」
駆け落ち!
そうなんだ。やっぱりこんな辺鄙な所に若い男女が住んでるんだもんな。
おかしいと思ってたよ。
「問答無用。私が連れ帰ります」
「待て。待て。くっ。説得は無理か」
涼し気な目元が印象的な女性が、瞬間的にこっちに移動してきた。
一つ瞬きしただけで、彼女は俺の隣にいるセリオスの懐に入っていた。
背中の槍を握って、横一閃。セリオスの脇腹を狙った一撃だ。
「ん。これを躱しますか。義兄さん」
「前よりも速い?!」
「当然。苦手な烈風斬も、今は鍛えています」
烈風斬、風・・・。
確かに今彼女の空振った一撃で生まれた風は槍の勢いだけでは生まれない。力強い風の力を、俺は肌で感じた。
「話を聞いてくれ。お嬢。僕は戦う気が・・・」
「関係ありません。私に! 戦う気がありますから」
これは全く話を聞く気がないな。セリオス、戦うしかないんじゃない?
「お嬢! やめてください」
「義兄さん。甘いですぞ。その脇! 水波小月」
中腰で構えた槍。その位置から、槍を縦に一回転させて振り下ろす技。
トリッキーな動きに反して、実に滑らかな攻撃だ。
動き出す前に槍が青く光った。だから、今の槍には水の力が加わっているようだ。
これが魔法駆動装置を活用した魔闘戦だ。
この世界に来て、俺は初めて魔闘の本格的な戦闘を見ているんだ。
本格的なファンタジーバトル。ワクワクするな。
父親のピンチ。それを思う事もなく、俺は二人の戦いに目が釘付けだった。
「お嬢!」
「義兄さん。覚悟!」
「しょうがない。これで」
セリオスが槍を持つ。しかしそれはただの訓練用の物。魔法駆動装置ではないので、魔闘で戦えるわけじゃない。
「そんな安物では、私を止められませんよ」
「安物って、これは里でもらってきたんだよ」
「里に帰っていたのですか!」
「当然だ。僕だって里には帰るよ。まあ、毎回お忍びだけどね」
二つの武器がぶつかり合う。鍔迫り合いで二人が会話となった。顔と顔が近い。
「お忍び? そうだとしても、何故私に会いに来てくれない」
「いや、その頃に君がいないからね。六年くらい前はリーンにいたでしょ」
「あ。そうでした。ではリーンにも会いに来てほしいものでした。在校生の前で、騎士団長として挨拶をして欲しいものでしたよ。他の団長たちと肩を並べて欲しかったです」
「無理だよ。僕は君が学校にいる時には、騎士団長を」
「おやめになっていたと」
「まあ。そうなる」
「許しません。義兄さん」
これは、痴話喧嘩?
この人、普通にセリオスが好きなんじゃないのか。
その怒りで、今戦っているじゃないの。
「ちょっとやめて! 二人ともこんな所で戦わないで。この子にその槍が当たったらどうするの」
アンジュがそばに来て、俺の顔に両腕を巻きつけた。
おかげで前が見えない。
「この子?」
「あ。すまない」
「誰です。この子は?」
隣にいたのに、気付かなかったんかい。
セリオスしか見えていないな、この人。
「僕の子だ」
「な、なんですって!? 義兄さんの?」
「ああ」
「そんな、アンジュ様との間にすでに・・・」
「ああ」
「子供まで?」
「ああ」
「じゃあ、結婚を・・・子供が?」
「うん。二人だけで結婚したんだ。子供も生まれた」
「そんな・・・ひ、酷い。勝手に結婚なんて、うわあああああんんんん」
凛々しい女性は泣きながらどこかに走っていった。
「お嬢! ちょっと、待ってくだ・・」
セリオスが追いかけようとすると、アンジュから殺気を感じる。俺は彼女のそばにいるから、なんとなくわかる。嫉妬じゃないか。俺の顔が痛い。彼女の抱きしめる力が強くなっている。
「あなた!」
「あ。はい」
「今の誰よ?」
「お嬢で・・・」
「恋人? 浮気?」
「まさか。お嬢はお嬢で」
「でもそんな雰囲気には見えないわ」
「・・・いや、お嬢は子供で」
「子供じゃないでしょ。大人よ。立派な」
「でも、僕にとってだと、歳の離れた妹みたいな・・・赤ん坊の頃から知ってるし」
「そんな雰囲気に見えなかったけど」
それはそう!
明らかに好きだったよな。俺も思うぞ。アンジュ!
「いや、僕との関係は・・・ほら、僕が兄弟子だ。あっちが妹弟子。お師匠様のね」
「ふ~ん」
一言しか話してないけど、これは完全に怒っています。
まあ、実際には浮気じゃないんだろうけど、この現場が浮気みたいになっているね。
可哀想っちゃ、可哀想だな。頑張れセリオス。
「違うよ。違う。ほんとに、違うんだって」
「ふ~ん」
アンジュが、ふ~ん製造機になっている。
まあこれも、アンジュがセリオスの事を大好きだからだろうな。
「いやだって、こんな小さい頃を知ってるんだ。恋人なんて無理だよ・・それに、そうだ。ほら。赤ちゃんの頃から知ってるんだ。そんな子と浮気なんてしないでしょ」
「ふ~ん」
なんか話せば話すほど、言い訳に聞こえるね。
この現象、不思議だよな。
ああ、それにしても可哀想だな。この人。そんなに器用な人じゃないからな。
浮気してたら、もっとわかりやすいだろ。
「本当だよ。お嬢は」
「お嬢。お嬢ってうるさい。ぷん!」
昔からの知り合いなだけだろ。そんなに怒るなよ。
と思う俺は、アンジュに抱きしめられたまま移動させられる。
玄関に向かっている。
「待って。待ってくれ。アンジュ」
「浮気者なんて知りません!」
「いや違うんだって」
「顔も見たくない。ふん!」
玄関のドアが、『ドカン』と爆発した。
この爆発は怒りが滲んでいて、閉じる威力だけでドアの取っ手が吹き飛んでいた。
「ああ。待ってくれ。アンジュ。違うんだって」
そりゃ違うだろうね。
でも、これは、しばらくしないと冷静にならないな。
泣きそうな顔のアンジュは玄関のドアにもたれかかった。
その姿を見て俺は、セリオスの今後の苦労を今からねぎらう事にした。
大変だな。あんたの人生もさ。頑張れセリオス。
俺は応援してるよ。この事については黙ってるけどね。
飛び火が怖いので、親同士で解決してくれと思うばかりである。




