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中二ゆえに異世界へ  作者: 咲良喜玖


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第3話 情報収集

 誕生して半年。

 俺は一人で立った。

 ハイハイをしてから数カ月後の出来事だ。

 ようやくついた筋肉のおかげで、立つまでに至る。

 これは順調どころか異様な成長速度だろう。成長に対して意志のある赤ん坊って逞しいのかもしれない。

 

 現在の俺は、『ふん!』と仁王立ちしている。


 「え、た。立ってる!? 凄い凄い。あなた、この子ってなんでも早くない?」


 喜び方が子供っぽい。アンジュが小学生のように飛び跳ねている。


 「早いな。運動神経が良いのかもしれないな」


 こちらは冷静。内心では息子の成長を喜んでいるのかもしれないが、話している感じで言えば、何も感じて無さそうだ。


 「歩くのも、もうすぐなのかしら」

 「かもしれないね」


 当然だ。そこに至るまでに、現在努力中だ。

 一刻も早く、この部屋から抜け出して、調べ物をしたい! 

 中二的な何かを見つけたい。

 闇とかの黒関係がいいな。

 ダーク魔法とかさ。そういう小物類でもいい。

 ご両親。

 何かこちらに秘密がありませんか。

 怪しい雰囲気があるものがいいですよ。お願いします。

 

 ◇


 誕生して八カ月。

 ついに俺は歩いた。一度、よちよち歩いてからは、ススっと歩き出せた。

 昔は普通に歩いていたんだ。歩き方くらいは覚えている。

 

 「え。普通に歩いてる!?」

 「だな」

 「なんで冷静なのよ」

 「いや、実際驚いているよ」


 セリオスの表情に変わりがないけど、内心は驚いている模様。俺から見ても、ただ腕組みをして、突っ立っているだけに見える。

 

 「歩けた記念よ。お母さんの所にいらっしゃい」


 両手を広げた彼女の元に歩く。ただ歩いているだけで笑顔になってくれるんだから、当然行くべきなのだ。


 「はい。はい。こちらですよ。歩くのお上手ですね」


 彼女のそばに到着。


 「よいしょ! おお。凄いですね。ケイちゃんは、私の元にまで歩いてくれました」


 到着と同時に彼女が抱っこしてくれた。


 「うんうん。この顔、とっても可愛い。食べちゃいたい」


 毎回だなこの人。俺っていつか本当に食われるんじゃないか。


 「歩けるようになるのも早かったか。戦えるようになるのも早いかもしれないな」

 「そうね。あなた。やっぱりこの子にも修練はさせるの?」


 その言い方だと、セリオスも日々修練しているようだ。

 

 「ああ。その方が良いと思う。この先、何が起こるか分からない。君を守るためにも、ケイオスにも強くなってもらわないとな」

 「・・・・うん。でも、私を守る為なのは嫌ね。この子には、自分の為に生きてもらいたいもの」

 「だとしても、この世を生きるには強さが必要だろう。この間、嫌な噂を聞いたんだ」

 「噂?」


 セリオスが窓辺に歩いていく。ガラス越しで外を眺めた。


 「ああ。ディバイン王国の魔核石(マジックコア)の産出量が減ったって聞いたよ」

 「え、それってまずい状況じゃないの?」

 「そうだね。もし産出が出来なくなったら、王国が魔法駆動装置(マジカルギア)を作れなくなる。そうなると、今ある装備分が無くなっていけば、徐々に戦力が落ちていくだろう。魔核石(マジックコア)がないなら、そういう状況に追い込まれるだろうね」


 魔核石(マジックコア)ってのがないのが、相当深刻な事態になるのだろう。

 外を見る彼の目が悲し気だ。どこか儚い印象だ。

 

 「・・・そうよね。そうなると・・・行き着く先は・・・魔核石(マジックコア)の争奪戦? それか外交で大きくお金が動くのかしら?」

 「ああ。どっちの可能性もあるだろうね。だから、準備しないと。近いうちに戦争が起こるかもしれないからさ。僕らの事情に巻き込まれなくても、この子もその戦争に巻き込まれるかもしれない」

 「・・・うん。やっぱり強くないと駄目かもしれないのね。この世が暗黒時代に入ってるのかもしれないのね」

 「ああ。そういうことだ。その中でも、生きるために。少なくとも、自分の身が守れるくらいには強くなってほしいね」


 この二人の会話。

 何か奥歯にものが挟まった印象だ。

 むず痒い。わかりそうでわからない会話程、もう少し話してくれと思う。


 「まあ。これも、この子がもう少し大きくなったら分かる事だろう。産出量が減るなんて噂は、前にも何度かあるからね。そのたびに戦争だ。戦争だ。って噂はさ。巷で広まりやすいからね」

 「そうね。昔に聞いた事あるもの。広くて寂しい部屋で・・・一人で・・・」


 最後に、アンジュも寂しそうにしていた。

 この夫婦。過去に何かがある。

 とんでもないことが裏に隠されている気がする。

 

 うん。めちゃくちゃワクワクするぞ。

 相変わらず、俺の中二心に火を点ける夫婦だぜ。

 だから気にするなよ。俺に迷惑とか考えなくていいわ。

 裏がありそうなのがまたいいんだからさ。


 二人って闇側の人間なのかな? そんな印象がないんだけど。

 いや、それとも光側の人間だったけど、やむなく闇落ち?

 違うか。追い込まれた光側の人間っぽいんだよな。

 どれでもいいけど、どれかをはっきりさせたいな。

 そうしたら俺がどのタイプの中二病になればいいか指針が出来るからさ。


 「そうだね。だから僕は、君を一人にはさせないよ。絶対に守ってみせる」

 「あなた・・・ありがとう」

 「うん。君とこの子を守るのは僕がやるよ。二人の専属の騎士さ」

 「大好きよセリオス」

 

 抱きしめ合った二人。それ以上は子供である俺が見る必要もないので寝た。

 夫婦仲を邪魔するような野暮な男ではないので、寝るのが一番である。



 ◇


 一歳の誕生日を迎えた翌日。

 部屋から飛び出してみた。

 たまたまドアが開いていたから、脱走兵のようにして、コソコソと逃げ出してみた。


 (どこかに本があるはずだよな。あの時セリオスが持ってきた本って、捨ててないと思う。だってさ、危険を冒してまで王都にまで行ったんだよ。まだあると思うんだ。探してみよう)


 俺の家は木造二階建てで、部屋は二階だ。自分の部屋を出て右手側に階段がある。急な階段なので危険だ。赤ちゃんの状態で降りるのはやめておこう。怪我をするかもしれない。

 次に左手側を見ると廊下だ。一本道の廊下で、左側が部屋で、右側が壁。壁には窓があって光は入ってくる。でも木が見えるから、森がそばにあるのかもしれない。結構背の高い木だ。


 そして、俺の部屋の隣にドア。廊下のつきあたりにドア。

 だから、二階は三部屋の構造だ。

 まずは隣から調べよう。


 (あ。ここは・・・あれ? 寝室か? ベッドが部屋の中心にあるけど。あんまり大きくないな。一人用かな)


 夫婦に寝るにしては、小さめだった。


 次につきあたりの部屋に入る。


 (書斎だ。それに大きめのベッドもある。もしかして、ここはセリオスの部屋なのか? じゃあ、あっちは、寝室じゃなくて、アンジュの部屋か)


 夫婦で別々の部屋らしい。

 あれだけ仲が良いのに、寝るのは一緒じゃなかった。

 結構な衝撃があった。

 寝ても起きてもずっと一緒の夫婦なのかと思ってた。


 (どれどれ。ちょうどいい。書斎なら、本があるぞ! どれだろう。えっと・・・)


 本がちょっとだけ高い位置にある。大人だったら楽に取れるけど、赤ん坊だと厳しい位置だ。背伸びしても取れない。

 俺は上を見上げながら、本のタイトルだけを見ていく。



 魔法工学基礎・応用。

 戦闘技術基礎・応用。

 エスタール大陸の歴史。

 魔法駆動装置(マジカルギア)解剖学。

 四流派と魔闘四帝(インペリアルアーツ)

 魔核石(マジックコア)解説。

 三国大全。

 古代魔法集。



 計八つの本が固まっていた。これらがあの時にセリオスがコピーしてきた本だろう。

 そこに行くのに危険を伴う感じだったから、門外不出とかの代物なのかもしれない。あの時は四つしか見えていなかったけど、他にも四つも本があったようだ。

 一つ一つが分厚い本だから、あの時の荷物の大きさに繋がっているわけだ。あの大荷物、よく運んだ来たよな。改めて思うが、力強い親父だと再認識した。


 (えっと、気になるのは・・・これかな。古代魔法集! やっぱり古代って響きがいい!)


 中二病に必要な言葉。

 古代。秘伝。秘奥義。闇。裏。隠れた才能。隠した実力。

 俺はこれを七大要素としている。

 古代と秘伝は、浪漫。

 秘奥義は奥義とは違う。特別なものだ。

 闇と裏は、俺の好きな黒色と結びつくし、隠れた才能だって必須な言葉だよ。隠した実力ってのもいい!


 (となるとここは、古代魔法一択。これを取りたい。どうやって取ろう?)


 何か土台になるようなものはないかと辺りを見回すがまったくない。小さな子供でも運べるような土台が・・・。


 (あ。そうか。この散らばった本を)


 地面には散らばった本があった。セリオスが片付け忘れている本。

 それらを重ねて、高く積み上げれば、何とかして手が届くはず。


 (おおお。ぐらつくけど。と、届きそうだ・・よし)


 本を六つ積んで、そこに足を掛けて、本に手を伸ばした。

 指がなんとか本に掛かって、そこを引っ張る。

 

 (取れた! 読めるぞ)


 大きな本。一ページ開くのにも体全体を使用しないと開けない。


 (最初は・・・)


 ◇


 この本は古代の魔法についての本です。

 先に歴史について勉強している方が、学習効率が良いでしょう。

 なので、エスタール大陸の歴史と三国大全を、先に学習するのを推奨します。

 それと、戦闘技術・魔法工学についても学習しておくと深い理解を得られると思いますので、こちらも先程に準じて推奨します。

 

 (うわ。先にこれを読むなって忠告があるわ。すげえな。参考書に順番があるみたいな感じか。でもいいや。とにかく知りたいから次の文章を読もう)


 そんな忠告はいいやと、俺は次のページをめくった。



 古代魔法は、発動の仕組みからして現代魔法とは大きく違います。

 魔法発動条件に魔法陣展開が必須となっておりますので、陣についての深い知識が必要となっているのです。

 現代は、それらを解剖しており、魔法駆動装置(マジカルギア)が全面補助してくれていますので、古代について改めて学習しなければ、この本を読んでも意味がないでしょう。学習は一からコツコツとです。いきなり応用ではいけません。

 


 (ここでも、忠告してるよ。端的に言うと、勉強しない馬鹿は読むなよって言ってるよな)

 

 無視して、俺は次を読んだ。 


 

 魔法陣は、中央に属性。一つ目のリングに威力。二つ目のリングに連結。三つ目のリングに範囲を指定します。この際、形成していく陣の中に、文字を描いていきます。ですが、この時の文字に込める魔力が繊細で、コントロールが難しいために、魔法陣を形成するのだけでも非常に難易度が高いです。

 この上で魔法陣を介して、魔法を発動させるので、どんなに威力が軽い魔法であったとしても、発動させるのが高難易度となります。

 なので古代人は、誰しもが魔法を使えたわけじゃありませんでした。極一部の魔法に精通した者が扱えていました。ここが現代と違う点の一つです。

 そして、もう一つ違う点が、魔法の威力です。

 現代よりも難易度が高い分、その魔法の威力は比べ物にならないくらいの違いがあります。

 山を一つ吹き飛ばす火力の火魔法。

 海の荒波を止めるくらいの水魔法。

 大地を揺るがす土魔法。

 雲を切り裂く風魔法。

 などなど。

 魔法の有効性は現代よりもありました。でも、難易度の高さから来る発動条件完成までに時間が掛かってしまうので、一撃必殺の場面を作り出す戦闘技術と戦略がないと、古代魔法の高威力帯を発動させることは困難でありました。

 だから、古代人は、魔法においての制約がありませんでしたが、その使用感においての制約がありました。

 なので魔法駆動装置(マジカルギア)の補助を利用した。即効性の強い現代魔法の前では、おそらく戦っても勝てないでしょう。

 魔法を繰り出す前、陣を構築している最中に攻撃を受けて負ける。

 これが古代と現代の魔法使いの戦いとなるからです。


 ◇



 (うわああ。浪漫がねえ文章だ。これ嫌だな。中二病的には断然古代だろ。魔法陣で戦えるんだろ。こっちに決まりじゃん。俺こっちがいい。成長したら、絶対に魔法陣で戦ってやる!)


 と考えついた所で違和感を感じる。

 俺が左を見ると、セリオスがいた。

 じ~ッと見てきているので、怖い。


 「どうして、ケイオスが本を? 読めるわけがないだろ」


 (しまった! 一歳で本を読んだら、そりゃ不気味だよな)


 かぶりつくように本を見ていたから、読んでいると思われても仕方ない。

 

 「おい。もしや読んでるのか? ケイオス?」

 

 (いやぁ。どうでしょうかね)


 と言いたいけど、まだ赤ちゃんで言語が上手く出ない。 

 苦笑いで誤魔化していこう。


 「まさかな」

 

 (そうそう。まさかだよね。ありえないよね)


 「でもな。読んでるよな。明らかに目線が文字をなぞっていたんだが・・・」

 

 (いやいや。たまたま。たまたま!)

 

 「しかしな。赤ん坊が字を読むなんてないよな」

 

 (そうそう。そうなんだよ。読むなんてありえない)


 「でもな・・・」


 (おい! なんか一人で勝手に堂々巡りしてるんだけど、俺の緊張の揺れ幅が激しいんですが! 心臓飛び出そうだからやめてくれない。セリオスさん!)


 ここで救いの女神が登場した。部屋の入口から声が聞こえる。


 「あなた。お昼出来たわよ。まだここにいたの。あれ? ケイちゃんも一緒?」

 「今は一緒だけど、さっきまでは一緒じゃなかったんだよ。ケイオスが一人で本を読んでいるんだ」

 「え? そんな事ってあるの?」


 (ありませんよ。そんな事)


 言いたいけど言えない。もどかしいが、ここはこの人の天然さに賭けるしかない。


 「でも読んでるんだよ。この本って、僕はあそこの本棚にしまっているからね。わざわざ取り出したんだよね。きっと」


 (バレてる。ヤバい! ついに変人赤ちゃんだと思われるぞ)


 「どれどれ、どんな本」


 アンジュが暢気に近づいてくる。

 中身が気になるのがおかしい。読んでる事を気にしろよとは思う。


 「これだ。古代魔法集だ」

 「へえ。難しい本ね」


 アンジュは興味がなさそう。声に普段の明るさがない。

 

 「こんな本。読まないだろ。普通の子供だってな。難しすぎて、眠くなるだろう」

 「それはそうだけど・・・これって、絵とかある?」

 「絵?」

 「うん。ほら。この子って私が読む絵本とかを気に入ってくれてるから、絵を見たかったんじゃないのかな」

 「絵か。たしかにな・・・そのページ・・・絵はあるな」


 俺が読んでいたページには、魔法陣の絵が描いてあった。

 基礎的な魔法陣の展開図だ。


 「ほらほら。これが綺麗な絵みたいだから、この子が見てるだけじゃないのかな」

 「そうか。そう言われるとそうかもな。文字なんて読めるわけがないんだし」

 「そうそう。そういうことで、解決。ご飯食べましょ」

 「そうしようか。ケイオスも食べるか」

 

 この話、俺が絵を見ていたという事になり、問題が無事に解決した。アンジュのおかげである。

 でもよく考えてみて欲しい。

 俺が勝手に部屋を出て、勝手にセリオスの部屋に行き、本を見ている。

 明らかに目的のある行動に出ているだろう。

 そこに気付かないのか。両親!


 なんとなく、この二人は似た者同士だと思った。

 天然一家である。


 

 

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