第19話 錯綜
ディバイン王国の王都サーメリア。
別名『水の都』
水源が豊かな土地柄を生かして、高台に作った城から下へと水を流していく都市設計。
上流は、王家。
中流は、貴族又は要人。
下流は、一般人。
水の位置によって立場が違う仕組みだ。
これは貴族社会を示していると言われている。
下流に住む者は、出世して中流を目指し。
中流の者は、上流へと向かう事を目指す。
これが弱肉強食の国。
ディバイン王国である。
◇
晩餐会のような催しが、大会場で開催中。
本番は明日なので、今は前夜祭のような形となっていた。
「ミスト」
「ん・・・なんだ兄か」
ミストは自分の兄を見ても、表情一つ変えない。
冷淡な声で答えた。
「・・・相変わらずだな。お前は」
「何か用がありますか?」
「冷たいな。私は兄だぞ」
「兄と思いたい人ですね」
「ふっ。その言い方も酷いな」
辛辣な弟の言葉にも動じない。
クラウドもまた辛辣だからだ。
「お前の連れは、大丈夫なのか。あれで」
「ええ。いつもの事です」
二人が見ているのは、会場の中央だ。
◇
「ルカちゃんは、こいつと気が合わん。腹立つから出てけ」
「うるさいババアだ。相変わらずなぁ」
「そっちはクソジジイじゃろ」
ルカと対峙しているのは、ソルである。
三星人が一人。青海の魔法使いだ。
「にしても、ガキだな。お前。全然成長しとらん」
「ルカちゃんは先祖返りだと知っておるじゃろ」
「まあな。でも一ミリくらいは身長が伸びても良かったんじゃないか」
「それはそっくりそのまま返すのじゃ。お前さんも伸びておらんの」
ルカの見た目は小さい女の子。
ソルの見た目は小さなお爺さんだ。
お互いの身長が同じである。
「あ? チビだって言いてえのか?」
「そうじゃわ」
「やるかババア」
「おう。いいぞ。やり返してやるのじゃ。クソジジイ」
二人が激突すると思われたが、ここでもう一人現れる。
体の大きなお爺さんがやってきた。
胸を張って歩く姿が勇ましい。
「やめんか。ボケ老人ども」
「「お前に言われたくない!」」
小さな二人の老人が大きな老人に向かって反論した。
「この距離で、儂と戦うか?」
「・・・無理じゃ」「・・・やめとく」
三星人を諫める事が出来る老人。
「ふう。実力が上になっていくと馬鹿になっていくばかりだな」
聖槍流の魔闘四帝。
『静寂の閃光』アルビオン・クロスナーだ。
「お前に言われたかないわ」
ソルが詰め寄った。
「ソル。場をわきまえておけ。好き勝手暴れるなよ。ここは戦う場じゃないんだ」
諫めると、ソルが引き下がった。ブツブツ言っても彼のそばにはいる。
その間、ルカが近づく。
「アルビオン」
「ん。なんだ。ルカ」
「お前さん、孫は? 呼ばれんかったか?」
「いや、呼ばれた」
「でもいないのか? お前さん一人?」
そばに誰もいないから、ルカは聞いた。
「置いて来た」
「里にか?」
「それがな・・」
アルビオンが跪く。
ルカと背丈を合わせる。
「変なんだ」
小声になったので。
「なにが?」
ルカも音量を小さくする。
「里近辺に気配があるのだが、戦いが起きない」
「どれくらいじゃ?」
「四年近くだ」
「そんなにか。意味不明じゃな」
「ああ。だからいい加減にしろと。ここに探りを入れる意味で、儂が来た。敵がここにいるのかを確認だ」
「直接偵察か」
「そうだ。儂自らやるつもりだ。孫じゃそういう判断が出来んわ」
「孫、まだ若いのか?」
「ああ。若い。色々と経験が少なくてな。孫はここの騎士団に入ったわけでもないからな」
「そうか。入っていたら、出来たかもしれんの」
「ああ。入れておけば良かったと思うばかりだ。今は里が危ないかもしれん」
「そうだな。お前さんが、里から出ていたら、狙い目だからの」
「そういう事だ」
戦闘が起きる恐れがあっても、こちらに来た。
その意図は、この中に敵がいるかどうかの確認だ。
アルビオンは味方の中に敵がいると思っているのだ。
「アルビオン。セリ坊のここ最近の情報を持っているのか?」
「ああ。持ってる」
「お前さんだけか?」
「孫にも言っとらん」
「何を持ってる」
「ルカ。お前の方こそあいつの事情を知ってるのか」
「ルカちゃんは、その息子を預かっとる。だからちょっと知りたいのじゃ」
「なんと。ケイオスをか」
「うむ」
「じゃあ、儂と共闘だ。いいか?」
「無論じゃ」
二人がコソコソ会話していると。
「何話してんだ。お前ら。酒飲め。酒」
ソルが話しかけてきた。
「「一人で飲め!」」
二人で強めに言った。
「2対1かよ。寂しいだろうが」
喧嘩はするが、仲が良い老人たちである。
◇
「どこか行くようだぞ。あのご老人たちは」
「・・・」
「兄と会話はしないというのか?」
「逆に聞きます。したいんですか。こんな弟と?」
「そんなに突っかかるな。二人きりの兄弟だろ」
ミストは、兄に顔を向けない。
ワイングラスを片手に、真っ直ぐ前を向く。
「二人きりの兄弟ですが、お会いしている期間は短いので、一人っ子のようです」
「お前は・・・口が悪いな。誰に似たんだ」
「さあ。隣にいる方に似たんじゃないですか?」
「可愛げのない弟だ」
年の離れた兄弟。
本来ならば、我が子のように可愛いと思うのが筋。
しかし、この悪びれることもない態度を貫く弟が可愛くないのだ。
兄クラウドにとって、弟ミストが邪魔な存在となっている。
なぜなら・・・。
「ライラはどうしている」
「はて。捨てた子に未練が?」
ライラを拾ったのだ。
それが許せないのが、クラウドだ。
「忌むべき黒だぞ。頭がおかしいのか。お前は」
「忌むべき? 私の姪っ子ですよ。ただの姪っ子」
「貴様・・・」
しらばっくれるミストは、ワインを一口飲んだ。
兄に睨まれても、平然としていた。
「兄さんは彼女が可愛くないと?」
「なに。可愛いだと。そんな低次元の話じゃない。黒だと言っているんだ」
「黒だからなんです?」
「黒だから危険だ。メモリア家に、何が起こるか・・いや、災いが起こるに決まっているだろう」
「何が起こるかわからないのに、災いが起こるのですか。それは凄い予言だ。大した中身もない予言ですね」
ここでも揚げ足を取る。
ミストはワインを飲みほした。
「いい加減にしろ。あれは捨て置け。お前もメモリアのままではいられなくなるぞ」
「おお! それは好都合。爵位の剥奪ですか?」
「おい。冗談でも言うな。誰に聞かれるかわからんぞ」
「誰に聞いてもらっても結構。私は貴族に興味がありません。もしや、銀の中を剥奪してもらえるんですか?」
ディバイン王国の貴族の階級。
王家を除くと六段階。
金 上・中・下。
銀 上・中・下。
下から二番目がミストで銀の中。
上から三番目がクラウドで金の下だ。
「おい」
「こんなやる気のない男でも、あなたの家とするといて欲しいと」
こんな放蕩息子のような弟でも、あなたの貴族の頭数に入るだろう。
ミストは嫌味全開で会話を繰り広げていた。
「おい。やめておけ。ミスト。それ以上は言うな」
「いいでしょう。兄の言う通りに黙りましょう。ですがね・・・あなたが私の兄ですが・・・あなたもこれ以上出過ぎた真似をするなよ」
穏やかだった口調が反転して、荒々しくなった。
「なに!?」
「ライラは大切なメモリア家の一員だ。あなたの娘じゃなくなっても、私の娘ではある!」
扇子を広げて、口元を隠したミストは、兄に堂々と宣言した。
ライラは自分の娘なんだと、胸を張って言ったのだ。
「私の事は、何を言われようが構わないが、娘の事は言われたくありませんね」
それ以上は黙れ。
兄への拒絶だった。
「ほう。そこまで愛情深い奴だったか」
「ええ。そうだったみたいですよ」
嫌味には嫌味で返す。
ミストは口では負けない。
「犬猫を可愛がるようなものか」
「それ以上言えば、本気で怒りますぞ」
クラウドが一歩動き出した。
帰り支度をし始める。飲んでいたグラスをそばにあるテーブルに置く。
「ふん。いいだろう。忠告だけしておこう。今のうちに大事にしておけ。可愛がれる内にな。生きている内にな」
ミストが兄の背中を見た。
「ん?」
「助言だと捉えてもいいぞ。弟」
顔を半分だけこちらに向けた後、すぐにこの場を離れた。
「助言。あの兄が?・・・今のうちに? 何の話だ・・・」
ミストは、兄の助言の意味を理解しようと、この日は、この言葉だけが繰り返し頭の中で流れた。




