第18話 ワナワナ
「弱くなってる? それってどういう意味?」
「はい。私は・・・・」
彼女の動きが止まり、説明してくれる途中で変身してしまった。
彼女の目の動きが一気に広がっていくので、視野が広くなった。それにこの雑な動きに、荒さが加わるってことはケイラだな。
「んだよ。花?」
視界の端にある花を見て、ケイラが舌打ちをする。
ライラじゃありえない光景だ。
「ちっ。んで、お前もいるのかよ」
俺の方を見ていたのに、花が見えている。
これが視野の広さだ。
ケイラはとにかく目が良い。
「ケイラになったか」
ここで変わっちゃったのか。
もう少し話を聞きたかった。
「は? オレ見てがっかりすんなボケ! 嫌か。他の奴がいいのか! あ!?」
眉間にしわを寄せてガンを飛ばしてくる。
「そうじゃない」
「じゃあ、嫌がるなよ」
「いや、そうじゃないんだって」
嫌がるとかの話じゃないんだ。
続きが聞きたかっただけだ。
「は? 今嫌そうな顔をしただろ」
「違う違う。君の勘違いだ。今、ライラと重要な話をしていたんだ。続きが聞きたかっただけ」
「なに!? ライラと。じゅ。重要な話ぃ?」
「ああ」
何もおかしな点がないのに、勝手に動揺している。
「な、なにを? こ、告白か?」
「はい?」
「お・・・お前が、す、すす好きって言ったのか。ライラにだけ?」
「何の話だよ?」
「お前が言ったのか。そ、それとも・・ら、ライラから言ったのか」
「何の話なんだよ?」
「どうなんだよ」
「だから、何の話なんだよ!」
胸ぐらをつかまれて怒られた。
好きと言ったら駄目なの。
というか、気になる話の続きを聞きたかったんですけども。
「答えろよ」
「いや、何も言ってない。重要ってのは、難しい話をしてたんだ」
「あ? オレじゃわからねえって言いたいのか」
「さっきから何を勘違いしてんだよ。ケイラ!」
駄々こねてるみたいだったから、ちょっと大きい声になってしまった。
反省だな。
「怒んなよ」
「怒ってない」
「大きな声を出すなよ。び、ビックリするじゃねえか。怒られたと思ったぞ」
「じゃあ、聞くけど。古代魔法。興味ある?」
「ない!」
「でしょ」
ほらね。
ここで難しい話をしても、不機嫌になるじゃん。
だから説明が嫌だったんだよ。
「そうか。二人で古代魔法について話してたのか。なんだ。助かったぜ」
「ああ。そうなのよ。君は知りたいとか思わないでしょ」
「思わない」
「古代魔法の古も考えないでしょ」
「うん・・・って、馬鹿にしてんな。お前!」
「ハハハハ。だって単純じゃん。ケイラは!」
「クソ。待て。コノヤロー」
俺は逃げる。
魔力循環の力を使えば、肉体は強化できる。
足に力を込めると快足になるが、こっちの女性も快足だ。
彼女は四色の魔法使い。
それも循環系だ。
大体同じくらいの速度で走れる。
「おい。待て!」
「追いつけたらね」
俺の方が若干速い!
「くそ。待てよ。足速いんだよ。ったくよ」
俺たちの関係は、追いかけっこが主体となる。
◇
ミストさんの執務室。
集まったのはミストさん、ルカちゃん先生、俺だ。
「王都に呼び出されたんだ。一カ月くらいここを空ける事になるけど・・・まあ、少し怪しいね」
彼は、淡々とそう言った。
「怪しいって?」
俺が聞くと、彼はルカちゃん先生にも話を振る。
「それが、師匠も呼ばれているらしくてね。ねえ。師匠」
「うむ。なぜルカちゃんも?」
その疑問は自分で解決して欲しい。
ルカちゃん先生は、おせんべいを食べて、心を落ち着かせていた。
「何かあるんじゃないですか。ほら、他の三星人の方も呼ばれてるとか?」
俺が聞いてみた。
「ええええ。だったら嫌じゃの。会いたくないのじゃ」
「そんなに嫌なの」
三星人、別名トリプルスターズ。
現代最強の魔法使いの称号。
天頂の魔法使い『ルカ・ルーシールー』
地者の魔法使い『エス・スカルズ』
青海の魔法使い『ソル・ミカルゲ』
魔闘で言えばAAAランクと同じ実力者。
怪物と称してもおかしくない。
ただし遠距離型の戦闘は、実力判断が難しい。
魔闘四帝と互角・・・とも一概には言えない。
彼らは近接が難しいので、戦闘領域が重要だ。
距離の奪い合いが重要となるからだ。
遠くであれば、三星人。近くであれば魔闘四帝。
このような形であるので、予想は難しいだろう。
魔闘四帝と三星人が戦ったという場面は少ないので、比較は出来ないのである。
「だとしても王命だとかで、今回は行かねばならないらしいですよ。あなたは、基本自由に生きてもいいですが。なんだかんだで、王国の魔法使いですからね」
ミストさんが言った。
「王命・・・珍しいの。行ってそこに何があるのかじゃな。大変じゃ」
「ええ。珍しいです。文の印も見た事ない色でしたし」
「ん。色違い? じゃあ。偽物じゃないのか?」
「ルカ様。それってありえますか? 印の中身は、王家の印でしたよ」
「無理じゃな。偽物だったら不敬極まりないの」
印の形は、王家のもの。
印の色が、見た事ないもの。
こういう事かな?
「それよりもですね。分家の私にまでその命令が来るのが変です。兄がいけば、それで事足りるはずですよ」
「たしかにそうじゃな。ミストが出んでもいいはずよの」
「ええ。なんででしょうね?」
二人は悩んでいた。
「あの。それいつです?」
俺が聞いた。
「ええ。二週間後なんで、10日前には移動ですね。4日後にはここを立ちます」
「ルカちゃんも一緒にか?」
「師匠。我儘言わないでください。ここは真面目です」
「そうじゃな。10日あれば安全圏か」
列車!
俺は、この世界で見た事はないが、列車がある。
魔列車と呼ばれる。動力が魔力の列車だ。
各主要都市を結ぶ線路で大移動となる。
ここは町、向こうは村。
小さな場所は、駅が無いのだ。
俺もつい最近まで知らなかった。
「それで、グランツにここを任せる事にしているけど。君も残るから、君にはライラを頼むよ」
「はい。わかりました」
「まあ、こんな辺境。どこかが取っても嬉しくないだろうから、攻めてくるってのはないと思うけど。まあ念のためだ。気をつけておいてくれ」
「はい。わかりました」
「君がいれば大丈夫だろう。君はすでに私も超えているし。師匠の膝くらいまでは実力があるでしょう」
ミストさんは、俺を褒めてくれた。
「馬鹿弟子。違うぞ。膝じゃない。首くらいまで来とる!」
ルカちゃん先生も褒めてくれた。
「じゃあ、ほぼ肩が並んでるじゃないですか」
「ああ。そうじゃ。こいつ、強いのよ。現代人の戦いをしたらのう」
そう俺は、現代人だったら強い魔法使いだったかもしれない。
でも古代人なんで、ごめんなさいね。
魔法陣で戦うんで俺はね!
「そうでしたか。まあそこはしょうがないですよ。本人がそっちが良いって言ってるんで」
「まあしょうがないのじゃ」
俺が現代人になるのを諦めてくれた。
「そういうことで、ケイオス君。君にはライラを任せるよ。私たちは王都に行ってくるからね」
「わかりました。任せてください」
二人は王都への移動となった。
主な目的は分からずだが、早く帰ってくるのを期待するしかないだろう。
◇
その後、出発を見送り。
いつもの日常の中、庭で訓練していたら、護衛長のグランツさんと会話となった。
「ケイオス」
「グランツさん? どうしました」
「お前。何か買ったのか? もしかしてお嬢様へのプレゼントか。やるな。色男だな」
「お嬢様に買った? 何の話ですか?」
「これ見てくれ。お前宛てだ」
「俺に封筒?」
グランツさんが持って来たのは封筒だった。
白い封筒で、中身は黒。
文字を見るためなら、逆の方が良いだろと思った俺は読みにくい手紙を見た。
封が開いているのは検閲してくれたみたいだ。
危ないものだったら捨ててくれるのがここの屋敷の兵士さんたちだ。
「なんだろ」
中身には、デランテ町の宝石店からだ。
入荷したので、商品を取りに来てくださいとの事。
「詐欺ですか?」
「なに? 詐欺。何の話だよ。お前が宝石買ったんじゃないのか?」
「いいえ。俺何もしてないですよ」
「入荷したって書いてあるぞ」
「ええ。ですけど」
買った覚えのないものが入荷したらしい。
何を入荷させたんだ。俺は!?
「ケイオス、ほんとに身に覚えないのかよ」
「はい」
グランツさんと俺は結構仲が良い。
兄貴分的な感じがするのがグランツさんなんで、かなり話しやすいんだ。
「怖いな」
「ええ。怖いっすね」
詐欺っぽいな。
「でも、これ詐欺だとしたらな。取り締まらないと駄目だよな」
「それもそうですね」
「ミスト様がいない間にやるわけにもいかねえしな。俺らで勝手には出来ないよな」
逮捕のような事をしてもいいが。
領主のミストさんがおらず。
裁判が出来ない現状では、確証が取れない限りは捕まえられない。
この手紙だけじゃ、犯人だと認定できない。
それに俺が騙されていないから、手紙の主を犯人と出来ないだろう。
「この事、確認しておきますか。俺がいきます」
「大丈夫か? 俺もいこうか」
「グランツさんはここの守備隊でしょ。俺は自由ですから、俺が行ってみますよ」
俺の仕事的には、執事となっているが。
このごろはお客人というよりも修行僧みたいな感じで皆には知られていた。
ルカちゃん先生の無茶ぶり修行のシーンの数々を見ているので、皆心配してくれている。
「わかった。何かあったら、すぐにこっちに連絡しろよ」
「はい。出てみます」
俺は一人で出かける事とした。
◇
デランテ町は過ごしやすい町。
夏が暑苦しくもなく、冬が寒すぎるわけでもない。
一定の温度を保つ町だ。
近くの森に少し離れた所に山。
これらのおかげで自然もあって、安定感は増していく。
「宝石店って、なんで?」
行った事は一度だけある。
ライラに首飾りをプレゼントすると、ルカちゃん先生が言った時に、一緒に行ったきりだ。
「俺がメインで行く場所じゃないんだが」
そう。俺が一人で行くような場所じゃないんだけどっと思いながら、お店の中に入る。
「いらっしゃいませ」
「商品が入荷したらしいですけど、何がでしょう?」
「あ。まさか。ケイオスさんですか」
店員さんが言った。知らない人だけど、俺の名前も知っていた。
「はい?」
「おまちください。今持ってきます」
商品を買ってもないのに、買ったみたい。
詐欺じゃないの?
「こちらです」
「ん?」
またまた封筒だった。
同じ色のものだ。
黒の手紙を見る。
「・・・なに!?」
中身は普通。
だが、差出人が・・・。
(セリオス・ブレイク!??!)
俺の止まった時が、僅かに動く。




