第17話 緩やかな日常 猛烈な成長
ここに来て三年が経つ。
セリオスの動向はこの間に一通。
『母を見つけた』
この一文に加えて。
『奪還までの道のりが長くなる』
との事。
手紙下手糞か!
と思った俺だけど、一応安心した。
二人とも生きているって事だ。
それに時間が必要って書いているってことは、アンジュを助ける事が可能だって事だと思うし、何よりさすがセリオスだと思った。
AA。元騎士団長。
その称号は伊達じゃない。
きっと救ってくれるんだ。
だから俺もここで頑張ろうとルカちゃん先生とライラと特訓していったのであった。
◇
訓練室にて。
俺とルカちゃん先生とナイラが一緒にいた。
「ルカちゃん先生」
「なんじゃ。ケイ坊」
「古代魔法。やってみてもいい? 大型の奴」
「駄目だ。危険じゃ」
「んんん。試さないと成功するかわからないじゃん」
「そりゃそうじゃ」
「俺、大型でも魔法陣は楽勝でいけるよ」
「まあな」
「そこから出してみるだけだよ。ぽっとさ」
「大型なんじゃろ。何がぽっとじゃ。危険じゃろうが」
「ちょっと出してみるだけ」
「ちょっとでも、危ないのじゃ」
「ちょろっと」
「ちょろっとも無理じゃ」
「ピッて感じは」
「ピも駄目じゃ」
俺とルカちゃん先生が話していると、隣にいるナイラがクスクス笑う。
「・・・ふふふ。ケイ。無理だよ」
「ナイラ。君も説得してくれ。ルカちゃん先生頑固だからさ」
「・・・無理。ルカちゃんは誰の言う事も聞かない」
「そうだけどさ」
ナイラは俺と話す時に呼ぶ名がケイだ。
ちなみにライラはケイオス君。
アイラはケイオス。
ケイラはお前。
それでわかるようにケイラは少しだけ柔らかくなった。
最初はてめえだったのでね。お前にランクアップしたんだ。
彼女が俺のことを名前呼びしてきたら、超ランクアップしたって事にしてる。
「ナイラ嬢。ルカちゃんが教えた魔法は基本禁ずるからな」
「うん。わかってる」
「この先使う時は命の危機にしておけ。トラップ魔法は秘密にしておくことで強いからじゃ」
「わかってるよ」
銀のナイラ。
トラップ魔法を使える彼女は、稀有な魔法使いだ。
トラップ魔法は敵に認識されなければ、抜群の効果を発揮する。
だから、基本見せない。
使う場面があるとしたら、確実に敵を仕留める時か。
それか味方にその性質を知ってもらう時だ。
強力な反面。意外と使う場面が限定されているのが銀の魔法だ。
「小さな火魔法でもいいからさ。先っちょ出す感じでもいいでしょ」
「まだ言うか。うるさいな。ケイ坊、諦めろじゃ!」
「ほら、ルカちゃん先生がいたら、火を消してくれるでしょ」
「おいおい失敗したら、尻を拭えと? この大天才のルカちゃんに?」
「うん!」
「この弟子め。ずうずうしさが、何だかミストに似てきたな」
「いやいや。ミストさんほどではないね」
あの人は口悪いからな。
「あれ。私が図々しいと思ってるのかな。ケイオス君は!」
うわ。いた。いつの間にここに来たんだ。
「いえ思ってませんよ。ミストさんには似てないって言っただけで」
「ほうほう。その言い方がセリオスには似てませんね。面白い成長をしたようだ」
ご自慢の扇子を俺にかざしてきた。
彼が持つ扇子。
あれが、魔法駆動装置だと気付いたのは、出会ってしばらく経った後だった。
古の魔法駆動装置。
『マジカルギアオーパーツ』
仕組みが解明されていない魔法駆動装置らしい。
普通の物とは違い。
古代魔法があった当時の魔法を再現しているらしくて、第一世代と同じ頃に完成されたと言われているが、もっと前にも出来ていたとの噂もあったりする。
いつどこで、誰が作ったのか分からない。
特殊な物。
そんな代物なんてね。俺の心の奥深くに刺さるに決まってる。
痺れるくらいに最高です。中二心が満足じゃ。
ちなみに、ナイラが身に着けているピアス。
これも銀の力を発動できる魔法駆動装置オーパーツのものだ。
「ルカちゃん先生。一回だけ。お願いだよ」
「まだ言ってんのじゃ! しつこいぞ。この弟子ぃ」
ルカちゃん先生を困らせるのが俺の仕事である。
◇
お昼休み。
庭を散歩中、隣にいるのはアイラだ。
「ケイオス」
「なに」
「ねえねえ」
「なに?」
「ケイオス!」
「はい?」
「呼んだだけ」
「はいはい。そうですか」
「ケイオス!!」
「なんですか」
「呼んだだけ!」
これをいつもやってくる。それも嬉しそうな顔で。
何の嫌がらせだよ。
って思うけど大事な友人だし、傷つけたくないから、返事をしている。
「ケイオス。いい?」
「いいよ」
「うん」
アイラは俺の隣を歩いていると、大体の割合で俺の腕に抱き着いてくる。
肩に頭を置いてくるので、そっちが歩きにくくないのかとこっちが心配になるくらいに身を委ねてくる。
「ケイオス。大好き」
「はいはい。俺もですね」
「ほんと」
「ああ」
「ほんとなのね」
「疑わないでよ。俺たちとっくに友人じゃん」
「そういうのじゃなくてぇ」
「え? そうじゃない?」
「あたしが一番?」
「君は・・・」
一番とも言えないし、一番じゃないわけじゃない。
でも誰が一番かなんてわからないよ。
この子は元々ライラだし、でもライラじゃないし。
ムズイ。
これが一番ムズイ。
多重人格者のもっとも難しい部分だ。
「悩んでるぅ。優柔不断はキライよ!」
「え? うん。そりゃアイラの事、好きだよ」
「嘘。ライラがいいんでしょ」
「ライラ?」
「違うの。じゃあナイラがいいの? それともケイラがいいの? あたしよりも!」
「いや、皆が好きだ。俺は全員と友達だからね」
「んんんんん。キライ。その回答!」
なんか怒られた。
不機嫌になった彼女はぶーぶー口を尖らせても、俺の肩から離れる事は無かった。
ライラが二人の記憶を持っているくらいで、今の彼女たちは、前と同じで記憶は共有していない。
だが、それぞれ他者がいる事を自覚している。
俺が長い時間を掛けて説得をしたんだ。
ライラ。アイラ。ナイラ。ケイラ。
彼女たちとの話し合いで決まった事は一つ。
絶対に何があっても、俺が友達である事だ。
誰が出てきても、俺が守ると話した事で、意外とすんなり聞いてくれた。
不安もあっただろうけど、今は比較的に安定している。
特にライラ。
彼女のオドオドした感じはだいぶよくなって、会話も普通に出来るようになった。
もしかしたら本体の安定が、他の子らに影響したのかもしれない。
ケイラも、相変わらず攻撃的な口ぶりだけど、物理攻撃は少なくなった。
そんな風に順調だったんだけど、一つ難点が出来た。
それは頭が痛くならずとも・・・。
「あ。ご、ごめんなさい。ケイオス君」
変身が可能となったのだ。
ライラになった途端に俺の肩から離れた。
「え。全然。謝らなくても大丈夫だよ」
「でもまたアイラが」
「いいのいいの。気にしない。君がやったことじゃないし」
「うん・・・でも」
彼女は出てくると、最初は謝りっぱなしになる。
他の子たちがやった事が迷惑じゃないかと、不安に思う事が多々あるんだ。
でも俺は気にしない。
次々に変身してくる魔法少女と友人になった感覚だからだ。
出会っては別れて、また出会う。
そんな感じで結構面白い。
一人の友人で、違った形のたくさんの思い出を作れるんだ。
まあいわば、お得パックみたいなもんだ。
一個買ったのにたくさんおまけがついてきた感じだ!
「そんなことよりさ。庭の花。咲いたね」
「う、うん」
「綺麗なものを見た方がいいよ。細かいことは気にしない気にしない」
「うん」
そう笑顔でいこう。
お人形さんみたいな黒髪美人。
笑ってないとマジで綺麗すぎて、ちょっと怖いかもしれない。
日本人形とは違うけど、表情がないと機械的に見えちゃうからね。
だから、笑顔でいて欲しいんだ。
「それじゃ、試しに」
「やめた方がいいよ。ケイオス君」
「ん?」
「古代魔法を練習しようとしてるんでしょ」
「うん!」
「一回失敗したよね」
「まあ、そうだけど」
「やめておこうよ。まだ難しいんだよ」
「・・・でもライラがいるなら」
ライラは、黒の魔法使い。
彼女の力は稀有であった。魔法駆動装置も結構扱えて、さらに特殊形態魔法が扱えて、他の人格を生んだ。
更にその人格にまで、特殊な力を与えたのだと思う。
誰かを操る事が出来る人間が、昔の黒に誕生したとの過去の歴史があったから。
ライラのバージョンは、己自身を操ったと仮定できるからだ。
それと魔法駆動装置は、己の得意な属性と繋がる。
でも得意じゃない属性とも繋がれる。
だが、その際には威力が落ちる事が分かっている。
たとえば、火が得意な人が、水の魔法駆動装置と繋がった場合。
相性が悪いために威力が半分、又は四分の一になるなどの威力減少の状態となる。
そして、相性抜群の場合は1.5倍から2倍と言われているが、俺の場合は、魔法駆動装置との相性は無だ。
等倍。
色に特色がないから、どの魔法駆動装置を操っても良いとなっている。
でも俺は魔法駆動装置は使わない。
俺のポリシーに合わない。
俺は自分の手で魔法を出したいし、叫びたい。
詠唱したいのさ。
誰が無詠唱でポンポン魔法を出すってんだ!
ありえねえ。
俺は、魔法をカッコよく出したい!
この世界の人たちは知らないだろうけどな。
俺は中二病という偉大な病にかかってんだ。
詠唱こそ正義!
カッコいい名前こそ最高!
珍しい能力こそ至高!
夢を実現するため、この世界で俺が必ずしも最強である必要はない。
ただ、その力を実現するのに強くあらねばならないのなら。
この子のような特殊な子を守るために誰よりも強くあらねばならないのなら。
俺は最強を目指す。
ここにいる誰よりも強くなって、なんでも実現するんだ。
古代魔法はもう少しの所だ。
だから次は邪眼だな。あれをどうやって実現するか。俺はここ最近そればかりを考えている。
「目か・・・どうやったら目を鍛えられるんだろうな」
「ん? どうしたの。ケイオス君」
「ああ。なんでもないよ」
花壇の前でしゃがんでいる俺たちは、二人で花を見た。
赤・青・黄の三色の花びらを持つ花。
何の花だろう。
こちらの世界の花らしく、名前も種類も分からない。
花びらが三枚で、三つ葉のクローバーみたいだ。色から言うと信号機だ。
「ライラって頭いいよね」
「え? な、なんですか急に?」
「魔法ってさ。なんでも実現できるのかな」
「古代魔法の事ですか?」
「うんそれもあるけど。他の魔法さ」
「・・・たしかに、魔法駆動装置よりも柔軟でしょうから、何かを実現するとなると・・・あのですね。話が少し違いますが。古代魔法って秘密がありませんか」
ライラが神妙な顔つきになって言ってきた。
別な予想か?
「秘密?」
「はい。何か少しだけ不自然で、もしかしたら途中で変わっていたりしませんか?」
「変わるって・・・構造が?」
「はい。およそ一万年前。勇者魔王決戦よりも前の時代。その頃の時代の魔法陣を知りたいんですよ。それ以前の情報がないんです」
「君も古代魔法に興味が?」
「え。ええ。あなたが知りたいって言ってから、私も知りたくなりました」
「どうして? 俺に付き合わなくてもいいのに」
「あ・・あの・・えっと、違くて・・・あなたの力になりたいとかじゃなくて・・・じ、自分の為というか。なんというか・・ですね。はい」
急にモジモジしだした。自分の指を合わせてる。
「おお! そうか。ライラも興味を持ってくれたって事か!」
「は。はい」
ここに俺の同志が誕生した。
偉大な中二同盟だ!
嬉しいな。
ハロ君はここまで知りたい感じじゃなかったからな。
・・・・って思いだしたわ。
ハロ君に会いたいな。
あれから会って無い。
急にいなくなったことになってるだろうから、悪いことしたな。
まだ友達だって思ってくれてるかな。
思ってくれてたら嬉しいな。
良い子だったな。
「あの私、ルカちゃん先生に教わって思ったことがあるんです」
「ん? なにを?」
「魔法ってだんだん弱くなってると感じません」
「・・・魔法が?」
「はい。魔法駆動装置って私たちの補助をするじゃないですか」
「うん」
「それって本来は無くてもいいですよね。ケイオス君みたいに、古代魔法を扱う事だって出来るんですもんね。現代人でも古代魔法は使えるんですよ。習得が面倒で難しいだけですよね。魔法陣学習が特にですけど」
それはそうだな。
今の俺は、補助なんて何もなくても、小さな火くらいは出せるしな。
たしかに、楽な道を選択しなければ、誰でも古代魔法って使えるんだ。
魔法陣の作成が面倒なだけでね。
「おお。そうだね。現代人の俺でも使えるんだもんな」
「はい。そう考えると、私たちって本来出せる魔法を失ってませんか?」
「たしかに。君の考えだとそうだ」
そうだ。
出せるもんが出せなくなっている!
それって弱くなってると考えてもいいもんな。
「ですよね。それと魔核石です」
「石が関係するの?」
「はい。魔核石は魔力を補強しますよね」
「うん」
「あの石は私たちの力を強化します。でも、その私たちって本当に強化されました?」
「どういう意味?」
何の事を言ってるんだ?
この子は何の予想を出している?
「私は・・・・古代人。または過去の人たち。彼らよりも私たちは魔力が弱くなっていると思います」
「なに!?」
一緒に成長した俺たち。
物理的に伸びたのは俺だけど。
精神的に飛躍したのは彼女だ。
ライラ・メモリア・フォーチュン。
この子は、ただの多重人格者じゃない。
聡明な魔法研究者だ。




