第16話 ライラ診断
「ルカちゃん先生。ミストさん。ライラ様を少しの間重点的に見てもいいですか」
「ん? どういうことじゃ?」
「何かする気かい?」
二人の質問にテンションを押さえて答える。
「はい。俺に任せてくれません。調べたいです」
「なにをじゃ」
「色々ですよ。この感じ、深く知らないと。今後、上手く付き合えないかと思いました」
という御託を並べたが。
俺はただ単に彼女を知りたいだけだ。
彼女、多重人格なんだぞ。
こんなの滅多に出会えない人だ。
漫画やアニメでも主人公とかヒロインクラスの人材じゃないか!
素晴らしいキャラだ!
しかもそれぞれの性能が違う。これ凄い事じゃないか!
「ケイオス君が? ライラとかい」
「はい。任せてください。修行はしますけど、その他の時間は彼女に当てたい」
「・・・んん。まあ君がいいならいいけど、どうします。師匠」
「そうじゃな。一旦知らねばならんからの。その案も良さそうじゃな。二週間くらいあればいいか?」
日程が決まった。
「はい。それでお願いします」
俺の探究心に火が点いた。
新たな出来事にワクワクしている。
ここからは、多重人格者との対戦だ。
相手を知りたい。会話のターンだ。
◇
そこから、調べる事とした。
最初は通常の彼女。
「・・・あの。なんでしょう。そんなに見られると・・・困ります。目の置き所がありません」
目を伏せている彼女が、黒の彼女。
つまりは本体だ。
この子が、ライラ本人だと思う。
俺の予想は、この子からどんどん人格が分離していったんだよ。
「君はライラだよね」
「・・・・はい。そうです」
「君って、他の人格者とか知ってるの?」
「・・・人格者?」
「なんて言ったらいいんだ。君は起きてない時は眠ってるのかな」
「・・・いいえ」
「起きてるの」
「だ・・誰かが会話してるんです。わ、私じゃない誰かが誰かと・・」
「君じゃない誰か?」
「・・・は、はい」
なるほど。誰だ?
この子、他の子の時に記憶があるんだ。
乗っ取られてるみたいな感覚かも。
「どんな感じの子?」
「・・・こ、攻撃する人・・・スキンシップする人」
「あの二人か」
「ど。どの二人?」
上目遣いで俺を見て来た。
緊張しているみたいだ。
「うん。その子たちにも確認取ったら、君にも教えるよ」
「・・・そ、そうですか」
「うん。それとさ。他の子は知らない?」
「他の子? し、知りません。その二人だけです」
「二人か・・・」
あと一人いるんだけどな。
どうやらその時は眠っているみたいだ。
色々わかっていくな。
やっぱり事情を把握していくと、変な奴じゃなくなるね。
なんだこいつって印象から、見事に変わったわ。
そうなると、なんかそれぞれの子が可愛く見えてくるよね。
不思議だけどさ。
本人としたら大変なんだろうけど、俺としたらカッコいいよ。
不謹慎だろうけど、変身してるみたいなんだよね。
戦隊ヒーローもの?
いや、そういう魔法少女みたいな感じかな。
「・・・あ。あの」
「なに?」
「不気味じゃないんですか」
「なにが?」
「く、黒ですよ。私」
「コードがだよね?」
「は。はい」
「全然」
「え?」
「全然不気味じゃない。むしろ俺は大好きだ」
「ほへ!?」
俺は黒が一番好きだ。
漆黒が最も好きだ。
黒であればあるほど好きだ。
だからこの子の髪とかも好きだ。
漆黒の黒だ!
凄い綺麗だ!
俺に欲しいくらいの髪色だ。
なんで俺茶色なんだろ。これだったら黒が良かったな。
「俺はね。色が透明なんだよ」
「はい? と、透明。こ、コードが透明なんですか!?」
「うん。だから黒の方がカッコイイよね」
「え?」
「正直、色欲しかったな。って思う時がある」
「そうなんですか」
「うん。だから君が羨ましいよ。君は黒が気に入らないかもしれないけどね。俺は好きだ」
黒がね! 一番好きな色だからね。
「は、はい。ありがとうございます」
「???」
急に涙ぐんでいる。
俺、失礼な事を言ったかな。
気をつけよう。不用意な発言は控えよう。
ただでさえ、記憶障害とかそんな感じの事があるんだ。
この子にはもっと楽しい記憶を持って欲しいしね。
うんうん。気をつけておこう。
ここから彼女がしばらく黙ってしまった。
ゆっくり二人で黙りながら過ごしていると、彼女が頭痛くなったみたいだ。
変身をする合図。
さあ、君は次に誰になる?
◇
頭を押さえてから、彼女は俺を見ると顔の表情が良くなる。目を輝かせた。
「うううう。あ! ケイオスだ。あそぼ!」
これは明るい子だ。白の彼女だ。
まずはこの子の名前からだ。
「君はさ。誰?」
「あたし?」
「うん。君はライラじゃないな」
「ライラって誰の事? でも名前が・・・女の子でしょ。なに、あたし以外の女の子と遊んでるの? ヤダ。あたしとだけ遊んでよ」
ライラと繋がってない?
独立してるのか。
「君の名前は?」
「アイラ。あたしはアイラだよ。ライラって誰? 誰なの?」
なんだこの子?
ライラを凄い気にしてくるな。
「ライラはライラさ。それで、君はアイラね」
「うん。やっと名前を呼んでくれた。嬉しい!」
「そうだっけ?」
名前を呼んだだけで喜んでいる。
この子、本当に別人だな。
ライラとは違って感情を言葉に出すんだな。
「ケイオス!」
「なに?」
「あたしの名前呼んでよ」
「アイラ?」
「うん!」
「ケイオス!」
「・・・え?」
「名前呼んでよ」
何のゲームだこれ。
名前を呼ぶだけのゲーム!?
「アイラ?」
「うん!」
よくわからないけど、楽しそうだからいいか。
とりあえずこの子にも聞こう。
「アイラはさ。寝ている時に他の人になっていたりするの?」
「何の話?」
「君はさ。君だけ?」
「あたしはあたしよ? 何言ってるの?」
ポカーンとした表情だ。
わかりやすい。顔に出やすいんだな。
これは、意識を共有することのない人格。
アイラ。
この子は、何者とも繋がっていないな。
「ねえねえ。何して遊ぶ! ケイオス。あたしと遊んで」
「いいよ。君が眠るまで一緒に遊ぼうか」
「うん!」
この子は人懐っこい。それといつも楽しそうだ。
もしかしたら、ライラがなりたい女の子なのかな。
切り離した人格って、願いが込められていたりするのかな。
この子みたいに、ライラも遊びたかったりするのかも。
◇
しばらく遊んだ後。
「んだよ。目の前にてめえがいると胸糞悪いぜ」
来た。口の悪い彼女だ。四色の彼女だな。
「ごめんね。目覚めが悪い中、質問したいんだけど」
「口開くな。ゴミ。出てけよ」
「いやいや、そこを何とか」
「黙れ! オレの部屋から出てけ!」
この子の力は、循環系に感じる。
他の子たちは放出系に感じるから、この子だけ異質だ。
魔闘が出来る気がする。
「待ってよ。ちょっとお話したいんだ」
「うるせえ。オレはてめえに用はねえ」
「いやいや。そこをなんとか」
「しつけえんだよ。うざい! 消えろ」
彼女が立ち上がって、一瞬で俺の所まで来た。
前傾姿勢で放つのは拳での一撃だ。
やっぱり、循環系であるのは間違いない。
この速度、明らかに魔闘のセンスがある!
「待ってよ! ってぇのさ」
俺はその拳をキャッチした。
最初から身構えておけば、俺だってこの程度の事は出来る。
君の動きがいかに速くとも、俺が今まで訓練していたのは、二人の達人だからな。
「なに。オレの拳を。受け止めただと」
「これくらいは楽勝」
「なんだと。く、くらえ!」
諦めずに反対の左拳で攻撃してきた。
それを受け止める。
「ほい!」
「なに、こっちも!?」
彼女の両方の攻撃を止めたから、俺たちは手を握り合っているようにも見える。
外から見ると、仲良さそうに見えるけど、現在戦っています。
俺は睨んでないけど、彼女は睨みっぱなしです。
「君、名前はなに?」
「あ? てめえなんかに教えるわけねえだろ」
「しょうがないな。ほれ。教えてくれ」
「うわ!?」
彼女を回した。
空中で二回転させて、俺が受け止める。
お姫様抱っこした。
彼女は俺と同じくらいの身長だけど、中身が軽い。
「ほらね。俺の勝ち」
「てめえ!」
「勝った褒美に名前教えて! 君は誰かな」
「・・・・け・・・ケイラだ」
そっぽ向いて言ってくれた。
意外と素直だ。
「ケイラね。わかった」
「てめえは。誰だ」
今度は俺の目を見てきた。
「俺はケイオス。名前近いね」
「似せるなよ」
「いや似せてないし。君いくつ?」
「8」
「俺と一緒じゃん。俺も8」
「だからなんだよ」
「だから似せられないじゃん。同い年だもん。生まれた時がほぼ一緒。お互い名前分からないじゃん」
「くそ。うぜえ。こいつ!」
「ハハハハ。俺は、超うざいぞ。君に興味があるからね」
「な!?」
「面白い。君の存在は、この世界の中でも特異点だ! 世界の構造すら変えるのかも。君、今までのこの世界の歴史にいない人なんだよね」
そう面白い。
俺は、この世界に来てから、一二を争うくらいに今を楽しんでる。
この子に興味がありまくりだよ。
能力の変わる多重人格者。
くぅ。最高!
俺がなりたいくらいの人だわ。俺さ、この能力で生まれたかったよ。
ここまでの変身能力を持ってさ。色々やりたいわ!
変身だぞ。変身。中二男子には、効くぜ。
五臓六腑に染みわたる。ご飯五杯は食べれるね。
「うるせい。離せよ」
「じゃあ、俺と話してくれる」
「話さねえ」
「じゃあ、君を離さない」
「うぜえ。くそ」
「じゃあ、話してくれるのかな」
「わ。わかったよ。いいから降ろせよ」
「いいよ」
テーブルの席に降ろした。
「くそ。なんでこんな奴に勝てねえんだ」
「うんうん」
「ニコニコしやがって。気持ち悪い」
「うんうん」
「ふざけんなよ。うぜえ」
「君、言葉は強いけど、目がね。あんまり怒ってないな。やっぱり哀しみがある」
「!??!」
やっぱりな。
どの子にも悲しい目がある。
この攻撃的な性格のケイラも。あの人懐っこいアイラも。
それを隠しているんだよな。
「君は、記憶があるかい。別の子の存在を感じてるかな」
「は?」
「ないみたいだな」
ケイラは記憶の共有はない。
ということは、アイラと同じだ。
だけど、ライラは二人を共有しているのか。
じゃあ、彼女か。
最後の彼女に出てもらえば、大体の関係が分かるな。
「んだよ。急に黙るなよ。気色悪い」
「そういうってことは話して欲しいのかな?」
「誰がてめえと会話なんてするか」
「ふっ」
「笑うな!」
「よく見てるね。君。色んな状況をさ」
「な!?」
観察する力がある。目がいいんだ。
身体循環系の特徴だ。
◇
しばらくするとまた変身した。
一番静かな彼女になる。
「・・・・まただ。君、うちの前によくいるよね」
「お目当ての君になったか」
「君になった?」
「ナイラだったね。君の名前」
「・・・そう。うちは、ナイラ」
ナイラ。この子は静かだ。冷静に会話する。
怯えるわけでもなく、凄むわけでもない。
だから、逆に一番気をつけないといけない。
やっぱり感情の起伏がない子ほど、危ない。
わかりにくいんだ。
「君は、他の誰かを感じてるのかな」
「・・・うち、誰か感じる」
「ほんと。誰かわかるかな。どんな子?」
「わからない」
「んんん。どんな子か分からないのか」
「・・・でも感じる」
「そうか。君は感じる子なのか」
他の人格を感じるけど、それが誰かまでは分からないって事か。
これ、三人のうちの一人じゃなかったら、まだもう一人いるのか。
まさか、俺が見た事がない。五人目の人格?
まだ底が見えないのか。まさかだけどね。
「・・・うちに何か用?」
「うん。お話ししないかい。君を知りたいんだ」
「うちを知りたい? どうして?」
「興味があるから」
「いいよ」
「ありがとう」
「・・・・でも本を読みながらでもいい」
「ああ。いいよ。何の本を読むの?」
「恋愛小説」
「へえ・・その」
その歳で?
「だめ?」
「いいや。本が好きなの?」
「ううん」
「え?」
「恋愛が好き」
「・・・そうか」
そのジャンルが好きなんだ。
その歳で?
「君はしたいの」
「ううん」
「え?」
「うちは見たいだけ。覗きたいだけ」
「そっか」
チラ見って事?
人の恋愛が知りたいって事かな。
「他には? 何か好きな事がある?」
「・・・好きな事・・・匂い以外わからない。他はあんまりない」
「匂いが好きなんだね。どんな匂い」
「君みたいな匂い。あとあのお婆さんの匂い」
え?
ルカちゃん先生と俺の匂いが好き?
同じ匂いなの俺。
ルカちゃん先生と同じ?
俺、お婆ちゃんみたいな匂いなの!?!?
「う~ん。まあ、これから好きな事がたくさん見つかるといいね」
「・・・うん。そうだね」
落ち着いた印象の彼女は、誠実に答えてくれた気がした。
◇
またしばらくすると、彼女は元に戻った。
「わ。私・・・あれ。ケイオス君?」
俺の名前を呼んでくれた。
覚えてくれたらしい。
「二人の時に共有してたかな? 攻撃的な子とスキンシップの子の時にさ」
「・・は、はい。話してました。あなたと」
「そっか。内容は分かる?」
「いいえ。き、聞き取りにくかったです。音がモヤついてました」
「なるほどね」
意識は共有でも、感覚を共有できないのか。
そうか。力も入れ替わってるんだもんな。その時の感覚は失うか。
「わ、私。ど、どうなってるんでしょう。私がたくさんって事・・・ですか」
「そういう事だね。端的に言うとね」
「・・・私はどうしたら・・・私・・・」
不安そうだな。
ちょっと会話していこう。
「・・・ライラ様」
「様?」
「ライラの方が良いかな?」
「・・はい。同じ歳ですよね」
「聞いてた?」
「そこだけ」
「そうか。全部が聞こえない訳じゃないのか」
聞きにくいだけなのか。
「じゃあ、ライラでいくね」
「はい」
「君は今、自分の事で不安かも知れない」
「はい。そうです」
「でも安心してくれ。俺が君の友達になる!」
「え?」
「俺は、全員と友達になってみせる」
「ぜ、全員?」
「ああ。だから心配しないで、安心してくれ。誰が出てきても、俺が必ず君を守るよ」
「・・・・へ!?」
「そこが不安に思う所でしょ。だから一つだけでも不安を取り除くよ。俺が、君を守る。ライラ。アイラ。ナイラ。ケイラ。この四人を俺が守るから。だから、安心していいよ」
「・・・な、なんでそんなことを? 私とあなたは・・・知り合ったばっかりで」
一カ月くらいは一緒なんだけどな。
この子だけで換算すると、もっと短いか。
「うん。君さ」
「はい」
「君の存在がさ。めっちゃ俺の心に刺さってる!」
「はい?」
「最高の人だ」
「え? わ、わたしが? さいこう?」
「うん。多重人格であり、多重の能力者! 君はもはやアンタッチャブルだろ。本来は誰も手をつけちゃいなけない。秘宝だ!」
そうだ。この子は、秘術にも近い。
そしたら俺の心は揺れるに決まってる!
最高に興奮するでしょ。
あれだ。暗黒竜メルデカイザーを初めて聞いた時と同じくらいに興奮してる。
ワクワクしてる!
「こんなの心躍らないわけがない。だから一緒に進もう。俺もここで頑張るから。君も頑張っていこうぜ! ほら、ミストさんの所に預けられた者同士。一緒に頑張る友達さ」
「・・・は、はい。不束者ですが、お願いします」
「うん! いこう! 一緒に新しい力を手に入れていこう!」
俺は後になって気付いた。
俺が手を伸ばしたら、ライラが素直に握り返してくれたことを。
彼女が誰かに触れる。
ライラ本体は誰にも触れられなかったのに。
俺とは大丈夫になっていた事に・・・。
後になって気付いたんだ。




