第1話 再発
目が覚めた!
と断言が出来るくらいに意識がハッキリしている。
でも目が見えていない。
自分の中では、目を開けている感覚がある。
そして実際にも開いているんだと思うんだけど、なぜか靄が掛かっていて、ほとんど何も見えない。
こんな中でも、耳だけは機能しているようで、どこかの声が聞こえてくる。誰かがそばにいて話しているみたいなんだ。
何だかこの感じだと、俺はだいぶ寝ていたのかもしれないぞ。遅く起きた朝みたいに、体が上手く機能していない感覚だ。
俺って交通事故で死んだと思うんだが。
もしかして、重体で生き残ったのかもしれない。
体を動かせないのも、その影響かもしれないぞ。
「あなた。私たちの子。可愛い子よね」
「ああ」
「可愛いわよね?」
「ああ」
「その返事って同意よね?」
「ああ」
「じゃあ、感想は? ああしかないの?」
「可愛い!」
「それはさっき。私が言ったじゃない」
声が聞こえる。痴話喧嘩っぽい会話で、男女の声がする。隣のベッドの声かな?
俺、入院してるはずだからな。
つうか、どこに入院したんだ。
隣の人が、子供って言ってるから、小児科のベッドにでも入られたんだろうか。
俺、大人だぞ?
「元気に育ってくださいね。ケイオス」
最後に優しそうな女性の声が聞こえてから、おでこに温かい感触が残った。このぬくもりからも優しさを感じる。
◇
どれくらいの時が経ったのか。
目を開けても、目が見えない時期を過ごして、しばらく。
ようやく見える時がやってきた。
一番最初に見えたのは、西洋風の美人女性。ロングの金髪が輝きすぎて、目がチカチカする。彼女の髪に光が入ると黄金に反射して、とても綺麗だ。
繊細な髪の毛を持つ彼女は黄金美女と言える。
「はぁい。もうすぐご飯の時間ですからねぇ」
(え? ご飯? どこにもないけど・・・え、どこにあるんだ? 病院食どこ?)
女性の手には、料理なんてない。というか、随分この人がデカく見えるな。俺、この人の事を下から見てるのか? 鼻の穴まで綺麗なんだけど。美人ってどこから見ても綺麗なんだな。
(っておい)
手を伸ばしたら、俺の手は小さかった。
ミニチュアサイズの手で、お人形さんのようでめちゃくちゃ可愛いけど、俺の感覚で動いている。
グ。パー。グ。パー。
う、動くぞこれ。
小さな指が俺の意思で動くぞ!
「ケイちゃん。お母さん、準備しますからね。ちょっと待ってね」
ちょっと待て。
今、この美人さん。俺の目を見てお母さんって言ったよな。まさか俺のお母さんって事か?
・・・・。
俺の手が小さいってことは、赤ちゃんになっているということ?
まさかこれは転生か。
おいおい一度死んでるのかよ。
やっぱな。あの交通事故が重かったもんな。
凄い怪我だったのに痛みがなかったからな。酷い事故だったんだよ。
ああ、死んでんだな俺・・・斎藤映次は死んだか。古風な名前の男もついにお亡くなりになったか。
・・・・。
って、待て待て待て待て。
今、この状況で、赤ちゃんに転生してんだよな。
それで、ご飯の時間ってのはまさか。
・・・・。
(うおおおおおおおおお。目の前にあるのはおっぱ・・・い!?)
俺は、男の夢や希望を堪能することもなく、溺れ死ぬかもしれない経験をした。
彼女は、俺が吸う力が弱くても、母乳が出やすい体質らしくて、延々と出してくる。飲めない分が俺の口の両脇からよだれのようにして出て行く。
し、死ぬ。
俺はまたここで死ぬんだ。
今度の死因は窒息死。
原因は母の母乳!
なんとも情けない最期であった。
「今日はあんまり飲まないのね? あれ? どうしたのかしら」
(え、俺。今までどうやって飲んでたんだ。もしかして緊張して失敗してんのか!? ゴボゴボゴボ。し、死ぬ)
新たな母との最初の思い出が、殺人事件になりそうだった。
◇
転生した俺の名前は、ケイオス・ブレイク。
鏡を見た事がないので自分の容姿が分からない。でも手が可愛い事だけは分かる。きっと足も可愛いだろう。起き上がって座ってみたい。
母である黄金美女の名前はアンジュ・ブレイク。
素敵な声の持ち主でのんびりしている。だけどテキパキ動けて、表情がコロコロ変化して愛嬌がある感じだ。
そして新たな父の名はセリオス・ブレイク。
母とは違って愛想がない。ほぼ無口だし、表情もあまり変わらないし、感情も滅多に出てこない。それと真顔の状態でも眉間にしわがある。でもまあ怒っているわけじゃないから、そこを気にしても仕方ない。無骨無口だ。あと青髪の短髪で体も大きいから、青鬼にも見えるな。
俺が赤ちゃんになって、一カ月くらい経った頃。
その期間で分かった事は、この夫婦の仲が極めて良好な事だけだ。
せっかく生まれ変わったのだから、魔法があるかとかの色んな情報が欲しい所だけど、まだ歩けもしないから何も得られなかった。
正直な話、早く色々知りたいので、すぐにでも三歳くらいにならないかな。
「あなた、そろそろ分かる頃じゃない」
「そうだね」
「やってみる?」
「そうしようか」
「うん。私が持ってくる?」
「いいや、僕が用意しよう。君はケイオスとここで待っていてくれ」
「うん」
セリオスは、俺のいる部屋から出て行った。何かを取りに行ったようだ。その間、アンジュが俺を抱っこした。彼女からは、良い匂いがする。これは母の優しさから来る香りかな。リラックス効果がある気がする。
「ケイちゃんにはどんな才能があるのかな。ワクワクするわね」
才能?
何の事だ。
「いや~ん。天才だったらどうしましょう! でも、天才じゃなくてもいいのよ。健康ならなんでもいいの・・・・や~ん、可愛い。どうしよう、食べちゃいたい。パク!」
俺の顔を見て嬉しくなったのか、彼女が頬擦りしてから、はむっと俺のほっぺを甘噛みした。
毎日付き合うと分かる。完璧な親バカだ。
◇
扉が力強く開いた。セリオスがのしのしと部屋に入ってくる。大きな体だから、天井に頭が着きそう。俺の目には彼が巨人に見える。
「持って来た」
「うん。ありがとう」
「どうする。僕がやろうか?」
「うん。お願い。元騎士団長様にお任せした方が良いよね。詳しいものね?」
「もちろん。任せてくれ」
元騎士団長!?
おいおいおい。俺の中二心を擽る発言だぞ。それ!
俺の新しいお父さんは、元でも騎士団長だったのか。
カッコ良過ぎだろ。見た目イカツイけど。
「天性鏡の力を使う。アンジュ。この子の色を確認するよ」
俺の顔を覗き込むセリオス。
彼の手には小さな手鏡があった。セリオスが持つと余計に小さく見える代物だ。
俺のお腹の上に置くと、結構デカい。
でも、この鏡は軽いみたいなんで苦しくない。呼吸も出来る。
「色は・・・・ん?」
セリオスの顔が歪んだ。眉間のしわが増えまくって、普段の倍以上の数になる。
「どうしたの?」
「ああ。これはどういうことだ。壊れたか?」
セリオスは、俺のお腹の上に置いた手鏡を持って、何度も裏表にひっくり返した。
「天性鏡が壊れたの?」
「ああ。反応がないぞ・・・まさか、この子に魔力がない?」
「え? 魔力がないって、それってありえないよね? 人に魔力がないって事あるの?」
「いや、魔力はあるはず。誰しもが持ってるはずだ・・・それより、もし持っていなかったらと考えると怖いぞ。この世界で生きるには、魔力が必須だ。生活も何もかもが出来なくなる」
なんだか雲行きが怪しい。
第二の人生、いきなりとんでもないことになりそうだ。
「あなたで試せないの」
「僕は駄目だ。力が強すぎて、天性鏡が壊れてしまう可能性がある・・・そうだ。君は、どうだろう。お腹の辺りで持ってくれ」
「うん」
セリオスが、小さな手鏡を彼女に渡す。
「魔力循環できるかい?」
「ええ・・・はい」
今、彼女が力を使ったらしく、手鏡に反応があった。
鏡の部分に色が出る。紫の光が出た。
「火と水の反応だ。君のでいいんだよね?」
「ええ。私の反応種よ」
反応種。覚えておこう。俺的には、今のが重要ワードだと感じる。
「君の判別が出来るのだとすると、この天性鏡は壊れていないという事だな」
結論はそうなるだろう。
俺も同じことを思った。
「しかし、そうなると、どういうことだ? この子にだけ反応しないという事か?」
「でもあなた。この鏡って、反応しない事ってあるの。私、そんな話聞いたことないわよ」
アンジュが、小さな鏡を覗き込んだ。
不思議そうな顔をしている。
「ああ。僕もだよ。こういう事は経験した事がない。生きてきた中でもね」
原因不明の状態らしい。今までで一番困惑した表情を二人がしている。子育ての時でも焦ってないのに、今は相当焦っているのだろう。
いつも幸せそうに笑っている家庭なのに、俺のせいで顔を曇らせてしまった。
なんだか申し訳ない。
「これって何かで調べられる? ちょっと不安よね」
「ああ。僕も一緒で不安だよ。だから僕が調べておこう。王都の図書館にいくよ」
「え。でも・・そこは・・・」
お喋りのアンジュの歯切れが悪くなった。
王都に何かあるのかもしれない。
「大丈夫。心配しないで、裏のルートで入り込むから」
裏!
俺の好きな言葉の中で上位陣に入る言葉だ。
裏世界。裏の組織。
表に出ない話って奴だ。
あとは闇。漆黒とかも大好きだ。
俺の人生のそばにいて欲しい。
必須の言語だと思っている。
この人生では特にそばにいて欲しい。
「でもあなたは目立つし」
たしかに体が大きいから、どこにいても目立つよね。
「うん。でもここで調べておかないと、この子が大変になるかもしれないからね。君と僕で、この子を守るためにもさ。この子の事だったらなんでも知っておかないとね」
「・・・・うん。わかった。気をつけて」
本当は承諾したくないけど、俺の為には仕方ない。アンジュの顔がそんな顔で、セリオスの顔は決心した顔だ。
二人とも愛してくれるのは嬉しいけど、無茶はしないで欲しいと思う。
「大丈夫。いざとなったら、戦うさ」
「・・・うん」
いざとなれば戦うの?
王都に行っただけで、そんな事態になるってどういうことだ。
もしかしてこの人って犯罪者なのか?
でもこの人は元騎士団長様なんだろ?
何が起こってるんだ。抜け騎士。脱走した?
なんだか重たい背景がありそうだぞ。この人たちの裏側は・・・。
明るい家庭の中に闇を感じる。
なんだか俺、すげえワクワクするぞ。
やはりここは開けてはいけない扉をもう一度開く時が来たようだ。
想像するに、こういう展開って俺の大好物じゃないか。
元騎士団長が、何かの犯罪を犯したのかもしれない。
いや、それとも何らかの事情で、国とかに反旗を翻した?
違うな。他の何かがあって・・・。
うわ、早く歩きてえわ。家の中でもいいから、調べたいよ。何か分かるかも。
俺は、転生して新しい俺となったようだけど。
再び患者となってしまったようだぞ。
中二病という偉大な病にかかってしまったみたいだ。
この灯ってしまった業火。
これを消すのは、誰にもできないだろう。
氷河の中に投じられても、消えてはくれないだろうね。
燃え盛りすぎて、氷如きでは無理そうだぞ。君たち!
フハハハハ。
俺、この世界で邪眼とか開眼しないかな?
聖痕でもいいんで、出来ないかな。
魔法はありそうだから・・・変身能力とかないかな。
色んな要素が欲しい所だぜ。
まあ、とりあえず何でも挑戦してみよう。
新しい人生をもらえたんだし、魔力がある世界なんだったら、何でも出来るようになるはずだよな。
新たな俺は、なりたい自分を目指して努力をしていこう!
決意漲る俺はどうやら笑っていたらしい。
両親が困惑している。
「ん? 笑ってるな」
「ええ。でも何だか不気味ね。肩で笑ってるわ」
「そうか? でも笑ってるからいいだろう」
ふっ。どうやら俺は、笑顔だけで両親をビビらせてしまったようだ。
さすがだぜ中二病。
世界を凍らせる。場を凍り付かせる。凍てつく波動が出せるのが、中二病なのさ。
でも今の俺はその空気をあえて読まないぞ。
どんどん突き進むことに決めたからな。
ハハハハハ。
この新しき世では、俺はこのスタイルを貫いて生きてやる。
中二を貫いた人生で、俺は新たな人生を歩むのさ。
男はアホなまま生きた方が良いらしいからな!
爺ちゃんが言ってたことは本当だったからな。
転生最初の段階は、病状が軽めです。
徐々に重くなっていきます。
中盤あたりだと完全に発症しています。
物語も最初の段階は軽いです。
徐々に重くなっていきます。
序盤から主人公最強で進むのではなく、どんどん成長していく物語です。
一章で一応強者になりますが、まだまだ上はいます。
彼は、楽をしません。常に頑張ります。
真の力を発現させてからは中二病でいきます。
今度は中二病を隠しませんので、主人公は完全覚醒を果たしますのでお楽しみに。
喜怒哀楽。一喜一憂。悲喜交々。
感情の要素を詰め込んだ作品にしようと思っていますので。
気に入ってもらえましたら、応援や登録をお願いします。
この作品を読んでよかったと。
そう思ってもらえる作品になるように頑張ります。




