第14話 伝説との出会い ①
初仕事から数日後。
ミストさんの部屋。
「どう?」
「どうと言われましても」
「大変だよね」
「ええ。それはそれは」
「そうだよね」
彼女と付き合うのは本当に大変なんだ。
だから嫌味の一つでも言いたいところだけど、なんとか耐えて答えた。
出会う度に人が変わったように違うから、どうしたらいいんだと、出会う度に思ってしまう。
「やっぱり君でも難しいか。執事やめようか。君の執事さ」
「いいえ。やります」
「どうして? 君が仕事をやめても。ここでは君を客人として扱うよ」
「いいえ。やります」
途中で投げ出すのは嫌だ。
それに彼女の目が寂しいのも嫌だ。
いつも別人のように感じるんだけど、一つだけ同じ点があって。
目の奥。瞳。
あそこだけ、悲しさと寂しさがあるんだ。
やめるにしても、せめてだ。
あの瞳だけは治したい!
悲しい目だけは嫌だね。友達になるのなら!
「君、頑固だね」
「はい」
「セリオスにそっくりだ」
「そうかもしれません」
「ふっ。君を見てたら親友と会ったばかりの頃・・・・懐かしい気持ちになるね」
ミストさんは窓から外を見た。
外を見る事で、懐かしんでいるらしい。
まあ、セリオスが内向きの人じゃないからな。
外見た方が思い出せるかもしれない。
「そうだ。何かしたいことあるかい。ストレスは持たない方がいい。発散しよう」
ん? ああ、ライラの世話ばかりだといけない。
何かで発散させようと感じか。
それだったら。
「あの」
「なにかやってみたい事があるんだね」
パッと振り向いてくれた時の顔が明るい。
この顔は、俺のやりたい事をサポートしてあげるよって事だろう。
「ええ。あの。古代魔法って勉強できたりしますか」
「はい?」
「古代魔法を勉強したいんです」
「あれをか・・・どうして」
ミストさんも、頭から否定はしない。
だけど、やんわり否定はしているな。
「面白そうなんです」
「・・・えっと、聖槍流は? セリオスの子なんだ。勉強しなかったかい?」
「しました」
「でも古代魔法?」
「はい」
「・・・放出系なのかい?」
「はい」
「え!? 循環系じゃなくて?」
「はい」
「まさか。だって、セリオスの子だよね」
「はい」
「修練もして? 循環系じゃないのか。そんな馬鹿な。放出が出来る循環系? 珍しいな。それは・・・」
循環系は、放出を全くできないというわけじゃないけど、放出力が弱めになる。
その逆に、放出系は体内の循環。
特に肉体強化の循環が苦手となる。
魔力を使って手足の強化や武器の強化は上手く出来ないんだ。
魔力を外へと吐きだすのが得意となる。
「まあ、そうだね。ちょっと待ってくれ。庭に行こう」
「あ。はい」
二人で庭に出た。
◇
小さなお屋敷のミスト邸。
町の規模のお屋敷なので、ちょうどよい大きさだ。
「魔力弾を出せるかい」
「出せます」
「歳、八つだよね」
「はい」
「じゃあ。大丈夫そうか」
「ミストさん。今の意味って、展開規模が小さいって事ですか」
その歳なら、魔力弾を出せる規模が小さいから安全だろう。
そんな意味だと思った。
「うん。君くらいの歳の子で才能があるとしたら、この程度の光になるはず。形状は違ってもこれくらいだよね」
ミストさんは手から光の球を出した。
直径三十センチくらいの真ん丸の球だ。
「それくらいですか」
「ん? 違うのかい」
今の俺のはそんなもんじゃない。
「はい。全力を出したら、木でなら二十本は破壊出来ます」
「・・・・・・・・ん?」
返答まで凄い間があった。
聞こえてないのかってくらいに、間がありすぎる。
「大岩なら二つ。穴を開けます」
「・・・・・・・・はい?」
この感じだと、やっぱり俺の考えと齟齬がありそうだ。
子供の魔法だったらこの程度だろうって考えていたと思う。
俺のはもっと出来る。今まで毎日鍛錬をしているからね。
「ここだと、下手をしたら建物に被害が出ますよ。それでもいいですか?」
「君の顔・・・・・・・嘘じゃないんだね」
「はい」
「そうか。じゃあ、裏で見よう」
「森ですか」
「うん。全力を見たい」
「わかりました」
二人ですぐそばの山へ向かった。
◇
「出しますよ」
「いいよ。やってみてくれ」
魔力弾ってのは、形状を変化させることが出来る。
俺はそこに一年前に気付いた。
光の球。光の光線。
それらを切り離して、三角形に出来たり、四角に出来たりと、色々できるんだ。
形を変えて魔力を放出。
それが魔力弾。
この形状変化は、魔法を習ってから中級者辺りになると出来る技だと、本にも書いてあった。
俺、あの本と、ミストさんとの会話で気付いたことがあるんだ。
あれはまだ中盤あたりの本だ。
本当の深い部分が書いていない。
上級者は、その先を学習しているのかもしれないってね。
ミストさんの情報が俺の知らない情報だったから、まだまだ上があるんだよ。
「いきます!」
「うん。どうぞ」
「はい!」
今できる最高の魔力弾で、俺は森の中に光の光線のイメージで放出した。
木が二十本。一気に伐採となる。
「・・木が!? 数も合ってる。本当だったか!」
ミストさんの顎が外れかけていた。
「ミストさんに嘘は言いませんよ」
「・・・これは、確かに魔法を学習した方がいい。でも、古代魔法なのかい?」
勉強したいのがそれなの?
親が期待していた子供の学習じゃない。
っていう感じだな。
俺の前の親父の顔に似ていた。理想の形じゃないって雰囲気さ。
「はい」
「なぜだい? そうじゃない方がいいはずだ」
「いいえ。古代魔法がいいです」
「あれは面倒だよ。それに現代で古代魔法を完全再現するのは難しいんだ。あれに手を付けるなんて、時間が勿体ない」
古代を勉強するくらいなら、現代。
手っ取り早く魔法を撃てるし。
魔法に慣れ親しむのにちょうどよいって事だよね。
「それでも、古代魔法がいいです」
そう。それでもこれだ。
俺は邪眼とか、聖痕まで行きたい。
それにはまず古代へ行かないと駄目そうなんだ。
あえて昔を勉強する事で、今から考えると特殊だった過去の時代を見たいんだよ。
だって、当時はいたんだろ。
エルフとか。ドワーフとかさ。獣人・亜人もさ。
その人達が経験していた事を、俺も経験すれば、能力ってもっと開花するんじゃないかな。
これはあくまでも俺の予想だけど。
「そうか。わかった。彼女を呼ぶ。それまでは私が教えよう」
「え。ミストさんが教えてくれるんですか」
「うん」
「古代魔法を扱えたんですね」
「いいや。座学の基礎までだ」
「・・・ん? そうか。だから彼女って人が?」
自分では基礎ってことは、魔法陣までなら教えられるって事か。
それに彼女ってなんだ。さっき言ってたな。
「うん。あまりお勧めはしないけど、古代魔法は覚えたいんだよね?」
「はい。覚えたいです!」
「わかった。音をあげても、私に文句はいわないでよ」
「?」
「彼女を呼ぶからね」
「だ、誰なんです」
「それは、お楽しみにしておいてくれ」
「は、はい。わかりました」
もったいぶったぞ。
とんでもない人が来るのかな。
古代魔法を覚えられそうで、ワクワクするけど。
どんな人が来るんだろ。ちょっとドキドキするな。
◇
その後しばらくして。
何がしたいのか意味が分からないライラの世話をしながら、ミストさんには修行をつけてもらった。
この人、結構チクチクな人だ。
嫌味を言うのを忘れない。
でも基本優しい。
ちょっと辛辣だけど、行動とかには優しさがある。
でも修行中はこんな感じだ。
「魔力の形状変化は、自由自在に出来た方がいい。それが、魔法駆動装置との親和性を生む。実は、魔力を通す時の形って重要なんだ。範囲確定の時にね」
そうなのか。
あの教科書にはなかった情報だ。
形を変化させることが、範囲に繋がる?
・・・。そうか!
広範囲や限定した範囲。それらの位置に攻撃を与えるのには、形状変化が必要だって事か。
「君はまだまだそこら辺が甘い。全部が威力高め。広範囲で大きく出せばいいって感じでしょ。脳筋だよ。その行動のままだと、やっぱりセリオスと同じ聖槍流を学習した方がいいんじゃないかい」
「・・・」
指摘が鋭い。俺は魔法を出す際に、毎回全力でやって来た。
子供時代だけが魔力の成長を促すって聞いたから、細かいコントロールは二の次にしていたんだ。
「こうやって、どんどん砥いでいくイメージもいい。こんな感じで槍みたいにも出来るんだ」
ミストさんの魔力弾が槍みたいな形状になっていく。
彼は手に持った。
魔法を手に持つ。
その発想が俺にはなかった。凄い。
「これで攻撃。当たれば聖槍流とさほど変わりない威力が出る。ただし、当たればだ。これを肉体強化の循環系に当てるって難しいんだ。彼らは馬鹿みたいに速いからね。特にセリオスなんて、最初の動きだしから姿が見えないよ。頭空っぽだから予想できないのかな」
ここでも辛辣だな。
「だから遠距離で倒す。これしかない。彼らのような達人とね。出くわしてしまった魔法使いたちは、近距離戦にだけは、絶対に持ち込ませないんだよ。いいかな。魔法使いになるのなら、覚えておいて。やられる前にやるだ!」
「は。はい」
たしかに、セリオスとかイルベスタみたいな化け物は、自分に近づけさせたら負けだな。
「そしてもう一つ」
「はい」
魔法使いの心構えって奴だな。
ミストさんは基本を教えてくれてるんだね。
「魔法使い同士の時は意地でも勝て。だよ!」
「はい?」
「私の師匠の教えだ。魔法使いとなったなら、魔法使いにだけは負けるな。これが大事らしいよ」
「なるほど」
よく分からないけど、プライド勝負って事かな。
「特に」
「特にがあるんですか」
「うん。特に、エス派、ソル派にだけは負けるなだって。死んでもね」
「派?」
「お師匠様の敵さ」
「敵!?」
「自称ね。傍から見たらただのライバルだよ。口喧嘩してばっかりの厄介な人たちさ」
「そうなんですか」
「そうそう。あの人は、うるさいんだぁ。いちいちね。エスには負けるな。ソルには負けるなってね」
「な。なるほど」
魔法使いって奴は、負けず嫌いなのか。
「あと、黙っててね。あの人に今の発言・・・そんなの面倒なんだよって私が言ったのがバレたら、なんて言われるか。恐ろしい人だからね。怪物に目をつけられるのはもっと面倒でもっと厄介になるなんだよ」
面倒そうだよ。顔も声も。
「だ~れが。厄介だってぇ」
「ひえ!?」
ミストさんじゃない声が聞こえた。
でも誰もそばにいない。周りを見てもどこにもいない。
「ルカちゃんが、わざわざ来てやったというのにのう」
「・・・申し訳ありませんが。ルカ様、聞き間違いでは? お耳が遠くなったんですよ」
聞いてたと思うよ。その言い訳は無理じゃない。
「ルカちゃん。そんなに年取ったかの?」
「ええ。そうです。いくつの婆さんになりました?」
失礼な返しだ。凄いなミストさん! 堂々としてるよ。
「ほう。相変わらず、口が悪い。食い下がるのう。弟子!」
「食い下がる? はて。なんのことやら」
「この馬鹿弟子が、ルカちゃん、全部聞いとるんじゃ!」
ミストさんを見ていた俺。
彼の左側に、小さな人が飛んできたのが見えた。
ここでようやくだが、可愛らしい声の主を発見。
ジャンプキック。飛び蹴り。
このモーションだったけど、普通に飛んだだけではその速度じゃない。
目にも止まらぬ速さと言える。
「ぐはっ・・・こ、これは必殺の風弾頭蹴りか!?」
そう言ったミストさんの脇腹に突き刺さったのが、彼女の小さな足だ。
でもその威力は凄くて、ミストさんの体は横に吹き飛んでいった。
「この馬鹿弟子が。成長したのは口ばかりじゃな」
この人が、お婆さんなのか?
若いぞ。
「ふん!? 馬鹿弟子め。いい加減、懲りろ!」
鼻息荒い人は、まだ子供に見える。
俺の前に現れたのは、10歳くらいの少女だ。
「あんたが例の子だな」
俺を見て微笑んだ。身長がほぼ同じだ。
「ルカちゃんだ!」
自分を宣言した後。さらに自己紹介してくれる。
「ルカ・ルーシールーだぞ。よろしくのう少年!」
この人が伝説の人である事を、俺は後から知るのである。




