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14 そして判決へ


 15分後、再び評議が始まった。


「次に問題となるのは被告人にどのような刑を科すかということです。殺人罪の法定刑は、死刑または無期懲役から懲役5年までと幅があります。さらに減刑されて執行猶予が付くこともあります。そこで、被告人にどのような刑を科すかをご判断していただくことになります。お手元にお配りしている過去の殺人罪の同様な事例の裁判でどのような刑が科されたかについての資料もご3考にしてください」


 グラフや表が記載された紙が回ってきた。


 それを見ると本当に死刑から執行猶予まで広範囲にわたっていた。


「検察官は懲役7年を求刑しております。その検察官のご意見を踏まえて、ここで議論をしてゆくことになります」


 そして、評議が始まった。被害者を何度も刺すという犯行態様が凶悪であるとか、被害者はまだ若くて無念だったろうとか、社会に与えた影響は大きいというような意見が裁判員から出た。


 だが、今ひとつ議論は熱を帯びなかった。


 それは、被告人ががんのステージ3で、しかもそれが進行しているということが裁判員の頭にあったからではないだろうか。被告人の年齢から考えるとがんの進行は早く、あと5年生きていられるかも疑問だった。


 だから議論は熱を帯びないのだ。


 私は死刑の判決が言い渡されても何年も執行されないまま刑務所にいるというのを何かの記事で読んだことがあった。死刑という極刑が言い渡されても5年以内に死ぬとは限らないのだ。


 しかし、被告は既に自分の体の中に時限爆弾のように死期のタイムカウンターが進行しており、残り時間はおそらくは懲役刑の刑期よりも短いのかもしれないのだ。検察官の言う通りの量刑で刑を決めても、それは既に致命傷を受けて死にかけている相手を刺すようなものだ。


 裁判員のモチベーションが今ひとつ上がらないのも仕方のないことだろう。


 岡田裁判長から被告人が自首をしていることは法律上減刑の理由になるとの説明があった。また手元の資料では検察官の求刑から2~3割を減じたものが量刑の相場のようであった。結局は検察官の求刑に対して量刑相場の最大公約数的な係数を掛けた懲役5年6月というのが大多数の意見となった。


 岡田裁判長は瀬戸裁判官に量刑についての意見を訊いた。


「私も量刑については裁判員と同意見で懲役5年6月が相当と考えます」


 岡田裁判長は大きくうなずいた。


「ご意見も出尽くしたようなので、そろそろ評決をとってもいいかと思います。では被告人を懲役5年6月に処すべきと考える方は挙手してください」


 裁判員の全員が手を挙げた。裁判員の意見が確定したのを見て、3人の裁判官も挙手した。


「では、全員1致ということで、被告人を懲役5年6月に処すということで評決と致します」


 3人の裁判官は裁判員に軽く一礼した。


「本当に御苦労さまでした。では明日、判決の言い渡しとなります。午前10時に開廷しますので、必ず時間前に裁判所においでください。お疲れ様でした」


 岡田裁判長はもう一度深々と頭を垂れた。





 判決の日の朝は雨だった。


 時間に遅れないように早く家を出て裁判所に向かった。


 裁判員控室に行くと、30分前にもかかわらず裁判員は全員来ていた。


 裁判の開始時刻の少し前に法廷に入った。


 開廷時間が来た。


 岡田裁判長は「被告人、前へ」と言った。


「では判決を言い渡します。主文、被告人を懲役5年6月に処する」


 その後、判決の理由を読み上げた。


 最後に岡田裁判長は「被告人、判決の内容は理解しましたね。この判決に不服があれば判決の言い渡しから14日以内に控訴することができます」と述べた。


 被告人は何かを堪えるかのように上を向いて震えていた。


 だが何も言わなかった。




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