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新米魔王と側近の活動報告  作者: 柚みつ


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07.面会と要望と

「お疲れさまでした。本日の面会予定はこれで終わりです」


 その声を聞いてぐったりと体を前に倒した魔王様に、温かい飲み物を用意する。少し声がかさついているような気がしたので、喉に優しいハーブティーのほうが良いだろか。甘いものを好まれる魔王様だけど、喉が渇いているときに甘すぎる飲み物はあまりよろしくないと思う。いつもだったらはちみつを入れるだろうけれど、今は何も入れずにお渡ししようか。


「……俺、魔王って書類整理が主な仕事だと思ってた」

「今まで、魔王様となってからの業務を見れば致し方ないでしょう。前魔王様は、あまり書類を残すお方ではありませんでしたから」

「今までそれでどうにかなってたってのが、すごいんだよなあ。近くに相当苦労したやつ、いただろ」

「ええ。おそらくとしか言えませんが……自分がその立場になると思うと、おなかが痛くなりますね」


 ハーブの香りで気づいたのか、机に突っ伏していた魔王様がゆっくりと顔を上げた。そのお顔には隠し切れない疲れがはっきりと見える。

 先日、魔王様のお姿を魔族にお披露目してからというもの、こうして面会を求める声が後を絶たない。押し切られるようにして面会の時間を作ったはいいけれど、予定は超過するわ約束の時間を間違えるわで、順調とは言い難い。魔王様がきちんと、時間通りに行動してくださっているのにも関わらず、だ。


「緊張すると、この辺りがきゅっとするんだよな。これだけ面会やっても未だに慣れん。グランバルドと一緒だな」

「痛む位置は一緒でも、意味合いは少々違うかと思いますけれど……」


 それが、今面会を求めている魔族が約束を守らないことに繋がっていなくもないのだが。前魔王様の時に面会を求めて城にやってきても、約束を取り付けているのにも関わらず、肝心の魔王様のお姿がない。それが日常のようだったから、今でもその感覚でいる者が多いのだろう。

 魔王様は約束をすればその時間は当然のように空けてあるし、間に合わせるということが当たり前だと思っている。

 その感覚に、面接の予定を作っている文官や自分がどれだけ助けられているのか、魔王様はあまり理解されていないご様子だ。


「ん? そうか?」

「そうですよ。あ、魔王様。小腹を満たすのにこちらはいかがですか?」


 ハーブティーを飲み切った魔王様に、文官からもらったパンを差し出す。一口サイズに丸められたパンの中には、ジャムを仕込んでいるらしい。少しばかり外側にはみ出たジャムが手につくパンを、常に書類がそばにある文官が好むとは思えない。お裾分けだと言われて預かってきたけれど、これは間違いなく甘いものを好まれる魔王様への差し入れだろう。

 嬉しそうに食べている魔王様は気づいているのかいないのか。文官から、魔王様への評判は良い。文官だけではない。掃除はもちろん、名前のない雑務をこなす下働きにだって、魔王様は変わらずに接してくださる。下働き出身の自分がそばにいるからというだけではないその姿勢は、魔王様を慕う者が増えているのがいい証拠だろう。



「それにしても、面会増えたよなあ」

「それはそうでしょうとも。先日、そのお姿を見せたのをお忘れですか?」

「ヴェルメリオ」


 いつもの執務室ではなく、面会用の応接室だからだろうか。入室のあいさつもしっかりこなして入ってきたのはヴェルメリオ。これが執務室だと無言でドアを開ける、もしくは感知しろとばかりの魔力の高まりが挨拶だというのに。

 着崩すことなどほとんど見たことはないが、少しだけ胸元を開いているのは訓練の後なのだろう。あまり見ないその姿に、つい目が追ってしまう。自分の視線になど気づいているとばかりに、ヴェルメリオは手に持っていた書類でそれを遮ってみせた。


「軍からの要請をお持ちしましたよ。やる気を見せるのは結構ですが、行動が伴っていないのですよね」

「書類なのですから、そんな雑に扱わないでください」

「構わないでしょう。軍を再編して欲しいという声を集めたものですし。訓練の後に手渡されて、身支度整える時間も与えてくれなかったのですから」


 バサッとずいぶん乱暴に置かれた、というよりも投げ捨てられた紙の束。あまり見ない姿に、いらだった口調。ヴェルメリオの言う通り、訓練の後だから魔王様のところに来るのだったら汗を流したかっただろう。それが叶わず、この部屋に直行する羽目になったのもその書類を渡してきたやつらのせい。

 そう伝えてくるヴェルメリオに、魔王様は少しだけ意地の悪そうな顔をして笑った。そうして手に取った書類をパラパラと、まるで興味ない様子でめくり始める。


「軍、ねえ。前の感覚が忘れられない奴らが集まってた部隊、声が上がってるのはそこか?」

「おそらくは。私は目を通していませんから」


 誰の目があるか分からないから、本人なりには丁寧に持ってきたのだろう。けれど、持っていただろうところには皺がある。それどころか、もともとの紙もあまり上等なものを使っていないらしい。少なくともこの城に関しては、書類を作るための紙は十分に在庫があるし、それを管理する専任がいる。誰でも、いつでも、自由に。そう言って魔王様は制限をつけることなく紙を使えるようにしているというのに、その辺りから集めたような紙に、大きさも書き方も揃っていないこれを、書類だと言って渡すというのか。


「……よく書類を預かってきましたね」

「おや。ではグランバルドはそんな奴らがこの部屋に突撃してくるほうが良かったと?」

「そうではありません。あなたがこのようなものを持ってくるとは思いもよらなかったので。それに、突撃する前にあなたが止めるでしょう、ヴェルメリオ?」

「……夢を見る年齢は、とうに過ぎているでしょう?」


 最初こそ違う意味に取られそうになったけれど、ヴェルメリオも自分の言い分を正しく理解した。

 つまり、だ。これを一番に渡されたヴェルメリオ、それを確認した魔王様、そして書類という名の寄せ集めの紙束を見た自分。意見は、この短時間で一致したらしい。

 お互いに目を見てにやりと笑う。ああ、側近として初めてヴェルメリオに会った時にはこうやって意思の疎通が出来るまでの仲になるとは、思ってもみなかった。


「お前はそういうやつだよな、ヴェルメリオ」

「ご理解いただけて何よりです、魔王様」


 自分たちの意見をまた、同じ感情をもって拾い上げてくれた魔王様に、名前は出されずともヴェルメリオと共に頭を下げる。


「軍、再編するなら見に行くぞ」


 じっくりと目を通したあと、魔王様が口を開く。書かれていたことを読み込んで疲れたのか、眉間を指で伸ばしている。ひとまず、さきほどと同じハーブティーを今度は少しぬるめに。あっという間に飲み干してから、魔王様は何かを企んでいることなどまるで嘘のように、にっこりと笑った。


「ただし、条件付きだ」


 この条件を聞いて、自分とヴェルメリオも同じように笑ったのは、誰も知らない。




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