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新米魔王と側近の活動報告  作者: 柚みつ


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05.お披露目

 うちの魔王様は、ずっと城で生活をしていたわけではない。むしろ、この国の、魔王という名の影響が届く地の端にいた。そんな辺境から城に連れられてきたのは、手入れをする余裕もない自分の銀髪よりもぼさぼさの紫髪を慌ててフードで隠し、金目でこちらの様子をうかがっている青年だったのだけれど。

 魔王様が変わるといっても、日々やらなければならない仕事は山のように積み重なっていく。むしろ、代替わりに伴う仕事が増えている時期であった。

 バタバタしている毎日だったけれども、前の魔王様のように戦うことが好きで人族にしょっちゅう戦を仕掛けているような方ではないといいな、とぼんやり思っていたのを覚えている。


 その時、魔王様を連れてきたのは確か前魔王様の側近だった。魔王様が魔力を失い始めてその座に相応しくないと判断が下っても、ずっと共にいた方。

 ああ、自分たちのことをただの労働力としか思っていない魔王様でも、寄り添ってくれる人はいるんだ。その思いは、なぜだか自分の胸を苦しくさせた。


 だから、だろうか。あの時連れられていたのが次の魔王様だと告げられた時に、声を上げてしまったのは。

 どのような方なのですか、なんて今思えばずいぶんとひどい質問を投げてしまったのは。

 そんなことを、下働きから魔王様の側近と立場が変わってから欠片とも思い出すことなどなかったことを、どうして今自分は思い出しているのだろうか。


「グランバルドォ……」

「そのような声で呼ばれましても、こればかりは」

「そうですよ。時間が惜しいのでさっさと諦めていただけませんか」


 情けない声を出しているのが、魔王様。あまり相性が良くないと思っていたけれど、ヴェルメリオも今回は自分の味方だ。もしかして、相性良くないと思っているのは自分だけなのだろうか。

 と、それは置いといて。ヴェルメリオが一歩、魔王様に近づいた。整った顔立ちが近づいていくのは、ちょっとした圧がある。にこにこと笑っているように見えるけれど、やつの碧眼にはそんな感情一切浮かんでいない。それが分かるからだろう、魔王様がさっと顔をそらした。


「ヴェルメリオまで! 俺、王になったんだよな? 魔族で一番の権力者だよな!?」

「ええ。魔王様。その通りです」


 実力行使とばかりに、ヴェルメリオが魔王様の頭を押さえつけようと手を伸ばした。その手から逃れようと魔王様は、先ほどまで座っていたこの部屋で一番上等な椅子の上で体をひねっている。

 そんな抵抗、軍の一部隊を率いる隊長で護衛のヴェルメリオからしたら、ささやかともいえないものにしかならないと気づいていないとは。これは、相当余裕をなくしていらっしゃるようだ。

 けれど、この件に関してはどうしても魔王様の同意が必要になる。今ならもう一押しすれば頷いてくれそうな雰囲気になってきたので、申し訳ないとは思いつつも便乗させてもらう。


「その権力者が拒否しているのに、どうして……!」

「権力者だからこそ、知らしめないといけないのですよ。魔族すべての者たちに」

「世代交代に関わる執務も、多少は落ち着きました。これからは市井に下ることもありましょう。その際に魔王様のお姿を知らぬと、言わせるおつもりですか」


 そうだ。ふとした拍子に魔王様から呟かれたことがきっかけだった。ずっと辺境に住んでいて勉強する機会も限られていたから、ここに連れられてきて初めて魔王の顔を知ったのだ、と。

 それを聞いた自分だけでなく、ヴェルメリオですら表情を変えた。魔族の王、魔王様。それはどんな僻地にいようとも、顔を覚えるお方。それを、魔王様はこの城に来るまで知らなかったと、それがどれほどの衝撃なのかを知らぬのは、本人だけだ。


「だからって、見世物みたいに練り歩けってか?」

「そんな非効率なことをさせる予定はございませんよ。お姿を魔力で作り上げた鏡を使い、魔族の居住地域に投影させるのです」


 座り直したけれど、どっかりと片膝をついている様子を見るに、まだ納得はしていないようだ。ヴェルメリオが細かく説明をしている。さすが、魔力の使い方を魔王様に教えているだけあって、その話はとても丁寧。魔法で各地に鏡を作り上げるのはそれなりに術者の負担があることを魔王様に告げないのは、知ったら確実に拒否されると分かっているからだろう。


「まさか、魔王様は私共が各地に施した下準備を無下になさると。そう仰っているのですか?」

「ヴェ、ヴェルメリオの笑顔が怖いんだが。グランバルド」

「こればかりはヴェルメリオが正論ですし私も同意します」


 ま、おそらく自分が準備したあれこれが無駄になることも許せないという理由もありそうだが。この件に関しては魔王様を擁護することは出来ない。側仕えとしても魔王様の顔を全ての魔族に知ってもらいたい。魔王様の話を聞いてからは、そう強く思うようになった。


「――分かったよ。やります。やればいいんだろ」

「そう言っていただけると信じておりました」

「それでは、お召替えをいたしましょう」


 魔王様が頷いたことで、ヴェルメリオと二人同時に動き出す。ヴェルメリオは城で待機している術師たちに、自分は魔王様の準備を。

 事前に打ち合わせていたことだから自分たちはさくさくと動き始めたけれど、全く知らなかっただろう魔王様は驚いている。こういうのは勢いで押し切ってしまえというヴェルメリオの助言を採用したけれど、魔王様のこの様子を見ると少しでも前に話を出しておいたほうが良かったのでは、と思ってしまう。


「なんか、こんな事に時間使ってもらって悪いな。ヴェルメリオとも打ち合わせしていたんだろ?」

「先ほどもお伝えしましたが、魔王様。我らの王の姿を皆に披露できることは嬉しいことですので、計画を立てることなど何の苦労でもございません」


 これもヴェルメリオと意見が一致したこと。あまり興味を持っていなさそうだったのに、魔王様が以前にこんな事を言っていた、と教えたらなぜだかやる気を見せたのだが。

 自分が護衛している王が、魔族の常識ともいえる魔王の姿を知らなかったという部分に思うことでもあったのだろう。


「それに、ヴェルメリオが進んで提案をしてくれたので、自分はそこまでの労を割いてはおりませんよ」

「魔法の使い方にも、最近力が入っているんだよな。ま、自分の主がこんな情けないのも不満だろうからな」

「そのような事、ヴェルメリオから一言も聞いたことはございませんが」


 それどころか、どんどん上達する魔王様の魔法の技術を面白がっているような姿しか見ていない。そんなヴェルメリオが魔法を使う部分を全て担ってくれているのだから、自分がやらなければならないのは、魔王様の姿をしっかりと整えることだ。


「そうか。なら良かった」


 その顔は、本当に安心している様子で。自分が今日のために準備した衣装や装飾具を見た魔王様は顔を引きつらせていたけれど。

 文句や不満など一切なく、準備を黙々と進めてくれた魔王様のおかげで、計画通りの時間で事は進み。

 術師の魔力が空っぽになる前に、鏡を通じて無事にそのお姿を魔族にお見せすることができた。




「ここまで大掛かりな準備、大変だっただろう。いろいろと、ありがとう」

「過分なお言葉です。魔力を持て余している者を使いましたので、準備はさほど」

「……詳しくは、聞かずにおくな」


 普段着に戻った魔王様が、げんなりとした様子でため息を吐いた。ヴェルメリオは魔王様の護衛を担当しているが、軍の部隊長も兼任している。そろそろどちらかに本腰を入れてもらいたいものだが、いかんせんこの城は人手が足りない。自分がヴェルメリオに魔法の使い方を教えてもらっているのだって、そのあたりと関係がないとは言い切れない。


「んで、どの辺の地域まで姿を届けたんだ?」

「前魔王様の時点で把握していた魔族の居住地域、それから私共の調査で判明した箇所はすべてに。こちら、リストになります」

「そうか、あの辺りにまでも、か」


 するするとリストの地域名を撫でていた魔王様の指が、ある箇所で止まった。ちらりと覗き込むと、人族の国と接しているあまりいい環境とは言えない地域の名が書いてあった。


「そちらに、何かございましたか?」


 そっとヴェルメリオに目線を送ってみても、あっちも思い当たることなどないようで、わずかに首を振られただけ。

 戸惑った視線を向けていた自分に気づかれたのか、魔王様が困ったように笑った。


「そうか、話してなかったな。魔王に選ばれるまで、どうやって生きていたかなんて」





紫髪で金目なのだから、魔王様が持つ色を存分に活かしたほうが良いと熱弁する衣装係に、最初はあまり乗り気でなかった。

だが、実際に魔王様がお召しになったお姿を見ると、あの衣装係の言葉は間違ってなかったのだと納得した。

これから、何かあった時にはあの者に衣装を誂えてもらおう。


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