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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
三章 ゴースト・ハンターズ・ハンターズ
42/48

3.ゴースト・セーバー2

 

 ◎


 ――ゴースト・ウェーバーこと郷田という男は己の所属する組織であるゴースト・セーバーの令に従って、霊社会に混沌をもたらすという存在の討伐に赴いていた。

 ゴースト・インベーダーにより壊滅したゴースト・ハンターズに追撃を行った部隊は支配の能力により軒並み返り討ちにあった。

 セーバーも当然危険性を理解し、暗殺を試みた。組織内部では一方的に攻撃されたため反撃をする、というのが大義名分である。

 そんな事情を知りつつ郷田と園田はゴースト・コントローラーはこのスーパーへやって来た。相手が女子高生というのは流石に驚いた。驚きと共に、子供が持つべきものじゃないとも思う。あれは障害に渡って封印すべきものなのだ。できなければこの世から滅することが唯一の平和的使い道。

 良心の呵責がない訳ではなかった。だが、彼女の存在に心乱される人間が大勢いるならきっと間違いじゃないはずなのだ。

 正義を掲げるつもりはない。

 考えるつもりもなかった。

 それだけで――十分だった。

 しかし、そんなことよりも――回想をぶち壊す存在が郷田の目の前にいる。


 それは――どす黒いエネルギーを撒き散らし、悪鬼の如く表情で一歩一歩踏み出した。特に恐ろしいのは右腕に纏われる光さえも飲み込まんばかりの黒色だ。郷田が全力で結界を発動しようとも、一秒持たずに無駄なことは見ただけでわかる。

 化物――。

 人が持って良い力を込めではない、という意味ではこれ以上はない。暴力を持って全てを破壊するそれは災害と同義だ。

 近づかれたくもない。その心に従うまま郷田は異能の攻撃を繰り出した。必殺であり、切り札である防御不能の超音波。本人も指向性くらいしかコントロールできなかったりする。


「なっ、消えた!?」


 波を撃ち出した時にはいたはずの少年が消えていた。右を、左を見てもその姿はない。漫画でありそうな展開だ。反射的に振り向いてみるがそこにも姿は見えない。


「逃げた…………のか?」

「――そんな訳ないだろ」

「!」


 声は真上から降ってきた。

 霊力を杭にして天井に張り付いていたのだ。音もなく、人間の反射神経を超える動きでやってのけた。

 次元が違う――と、郷田は片隅で感じつつ形振り構わず地面を蹴って背後に転がる。瞬間、凄まじい爆発が目の前で巻起こった。

 埋まるほど地面を抉った少年は依然として恐ろしい形相で郷田に迫る。


「こりゃあ……………………眠れる獅子、って奴か?」

「獅子なんて大層なものじゃないですよ。人間ですよ、どこまで言っても人間です。残酷で愚かなね」


 意外と饒舌に話してくる。

 こうして見れば黒色の霊力を纏っているから表情が暗いだけであくまでも無表情だ。逆に言えば、こうも恐怖を象徴する拳を振るっているというのに変わらないということ――これではまるで暴力を働くだけの機械だ。

 破壊が近づいてくる前に郷田は次々と霊力の揺らがせ、超音波を生み出す。本人ですら制御を放り投げることで回避を難しくする、なんて小細工もしてみた。


 地面が弾けたと思えば、少年の身体は一区画向こう側にまで移動していた。早過ぎて目で捉えることができない。当たらなくても郷田は超音波は出し続ける他ない。避ける、ということは効果があるということなのだから。


「なら――全方位、超音波放射! これでどうだ!」


 全身をスピーカーと化すことで身を守るがあくまでも時間稼ぎである。だが、最強の鎧でもある。

 咆哮しながら、郷田は少年に猛然と突っ込んで行く。両腕を広げたのは動物の本能なのか、何が何でも捕まえたかったからか。

 鬼ごっこをしながら郷田は堂々回りに考えた。


 ――届かない、どうしても届かない。手を伸ばした途端、消えやがる。どうして俺はこんなことをしてるんだ? 当たらないのなら走るだけ無駄だろう。だからといって止まっていたらオレは死ぬ。死を待つだけ、というのは性に合わない。なら、こうやって、走っていた方が悪い事を考えないだけマシなのかもしれないな。


「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――!」


 超音波を維持する霊力が尽きた郷田の腹に少年の爪先が食い込む。トイレットペーパーの中に蹴り飛ばされた衝撃で棚はドミノ倒しになった。

 当たり前と言えば当たり前だが、障害物がなければ広々としたものだ――少年は場違いなことに思考を寄せていたが郷田には痛みに呻くことしかできない。

 少年は立ち、郷田は倒れている。それが全てだった。吐血する男を見下ろし、確実にとどめをさそう五指を折り曲げている。


「ここまで力を使ったのは久し振りだ。悪いが加減できませんよ。さらば、ゴースト・ウェーバー」

「たまたま加減を間違えて死ぬ、ってか?」

「そんなものです。過失致死でお願いします」

「最悪だな、お前」

「俺じゃないですよ、人間がです。あなたも同じことをしようとした。つまりそういうことですよ――!」


 見えたのは振りかぶったところまでだった。

 その次はない。

 郷田の意識は果てしない遠くへ吹き飛んだ。


「あぁ――死ぬかと思ったけど、全然だったな」



 ◎


 ――一辺五〇センチの立面結界の内部で群青の球体がバウンドする。反動を受け、また別の壁面で同じように反射した。その度に球速は加速し、やがて結界の方が軋み始める。

 園田は掌の上の箱庭を無感動に眺めていた。


「私はこの加速方法を〈スカッシュ〉と名付けました。プレイヤーは外に居ますから語弊があるでしょうけど」

「上限は、あるのよね?」

「…………えぇ、あなたの支配には敵いませんよ。それ以外に敵えば良いのです」


 雪代の視界に群がるスーパーに買い物に来た客――従業員は裏口から出たのか――は今も自動扉の前で立ち往生している。視えない壁に阻まれ混乱の極み、といった焦り具合。

 皆、霊力を知覚できない人間達である。霊力で作られた反射する弾丸も避けることはできない。


「では、できるものなら全て防いでみなさい」


 結界を内部から砕いた弾丸は斜向かいに飛び出し、天井に反射し、地面を反射し、商品棚を反射し――。


「〈霊纏〉!」

「目で捉えることはできないでしょう? 全ての人間を守ってみてください」

「くっ…………この性悪女!」

「よく言われます」


 障壁を触れた弾丸を支配し、霊力の塵に変換する。その間に次の球は装填され、放たれた。弾丸を閉じ込めた結界は常に二つ分待機状態にするのが限界らしい。

 集中すれば対処はできる。できてしまう――それは時間稼ぎ、消耗を許すということだ。


「――だから、この場合の正解はこれだ!」


 一般人に迫る弾丸を支配することなく、広げた霊力で包み込んだ。形は球、丸ごと覆い尽くすように抑えつける。威力を減衰し、だが消失しない程度に。

 そして、弾丸をぶん殴る――それだけで砲弾と化した。このスピード、声を出す間もない。


「――――!?」


 レジ台と共に園田の身体が錐揉み回転して飛んでいく。途中、柱に突っ掛かり、投げられたボールが硝子でも割るように奥の調理場に身が投げられた。

 渾身の一撃ではあったものの、初見での攻撃のため撃破に至っていないことは察していた。雪代は金属が擦る音に耳を澄ます。


「――これは想定外でした…………こんな方法が取れるだけのポテンシャルがあったことは知っていたと言うのに。これは確かに甘い考えでした」


 口元に血を滴らせながら園田はバックヤードから表に出てきた。小綺麗だったスーツもところどころ破れ、眼鏡の片側に亀裂が走っている。


「あなたの取れる選択肢は私の想像だけでは補えない、と言ったところでしょうね。持つものと持たぬものの差、と言い換えても良いかもしれません」

「もう、同じ手は通用しないわ」


 先に撃ち出していた無数の弾丸も既に雪代の結界に捕まって霧散している。対応しなくてはならないのは目の前の園田が今から繰り出すものだけだ。

 園田はチラリ、と腕時計を確認すると静かに目を閉じた。


「最初から勝てるとは思っていませんでした。圧倒的個の前では、優位も簡単に覆されることは重々理解していました」

「なら、諦めなさいよ…………!」

「ここを安全に逃げるために、最後に嫌がらせを」

「何をする、つもり?」


 立方結界の中に霊力の弾丸が反射しているのはスカッシュよようだが、球の数が数十倍に膨れ上がっている。反射速度・回数も比にならない。

 この数の弾丸が放たれて完全に防ぎ切るのは難しい。放たれる前に消し去るしかない。

 雪代は面の結界を投げ、女を拘束する。


「〈支配結界〉!」

「――遅い」


 結界は間に合わず、飽和弾丸が全方向に放射されてしまった。〈支配結界〉を入口にずらし、一般客の被害を防ぐ。

 だが、咄嗟故に防御が薄くなった――雪代の左脇腹に弾丸がめり込んだ。

 足が浮く――が、耐える。衝撃が伝わる前に消滅させた。


「あれ? あの女は…………!?」


 入口を防いでいた結界も既に消え、一般客はスーパーから逃げ出していた。きっと、その中に敵も紛れ込んでいる。去り際を見逃す相手ではなかった。

 遠い悲鳴を聞いていると、膝の力が抜けてその場に座り込んだ雪代。脇腹の激痛もだが、妙な酩酊感に襲われていた。


「霊力を使い過ぎた、ってこと…………?」


 話には聞いていたが、実際体験するのはこれが初めてだった。膨大な雪代の霊力が尽きるのはそうはない。少なくとも自分のために戦う分には――。

 ズズズ――と、重い物を引き摺る音が近づいてきた。ゆったりとしながらも、淡々とした足音と共に。

 桜坂京都少年である。郷田を突っ捕まえて運んでいる。


「桜坂君……………………――!? ちょっと、その怪我!」

「あー、流石に苦戦してな」


 雪代が悲鳴を上げるのも当然、顔面全体に殴られたであろう腫れが広がっていた。雪代は気づかないが服の下にはさらに酷い傷もある。

 だが、少年は痛みをおくびにも出さない。


「思ったより敵が強くてな。相手も本気で俺達を潰したいらしい……………………雪代も結構キツそうだな」

「お腹にね、大きいの食らって。我慢できない程じゃないけど病院には行きたいかな」

「風車さんに迎えの車を寄越すようには行ってある。騒ぎになる前にここを離れよう」



 ◎


 ――雪代と合流し、バックヤードを通って裏口へ向かう。鹵獲した敵兵がムキムキ過ぎて二人で運ぶのも一苦労だ。

 連絡してから五分も経っていないというのにゴースト・ハンターズからの使者はスーパーの裏手に待っていた。早々に車に乗り込んでこの場を後にする。


 運転手は風車さんの右腕的な存在の女性――。


「お手数お掛けします、神山さん」

「…………仕事ですから」


 他人にはツンツンしているが、風車さんにはデレデレというのが彼女――神山恋である。

 風車さんと働いて数年になるはずだが、何故かスーツが似合わない。新卒社員にしか見えない。初々しさを忘れていない、と言えば聞こえは良いが、服に着られてる感じが凄まじい。

 雪代が小声で尋ねてくる。


「誰なの?」

「風車さんの部下。言われたこと何でもするんだ、パシリから運転手まで」

「聞こえてますよ」

「これは失礼しました」


 こんな軽口を叩けるくらいには仲良しのつもりだ。こんなこと言ったら絶対に否定されるだろうけど。


「何この距離感…………」

「まぁ、色々あってな。大したことじゃないけどと」

「説明する気、全くないじゃん」


 雪代は頬を膨らませて不貞腐れる。わざと、こんな可愛らしい仕草をしているんだな。頬を突付いてみれば、「んうぅ」と不機嫌そうに睨んできた。

 説明しないのはいつもの事だろうに。いつもの事だからか?

 ハンターズの任務としてゴースト退治に行った時、たまたま助けたのが神山さんというだけだ。ケースとしては雪代とほぼ同一だ。神山さんも一部ゴーストを見ることができていた。

 懐かしさのあまり物思いに耽っていると――神山さんがチラリ、とミラー越しに俺を捉える。


「その怪我、敵にやられたんですか?」

「そうです。こんなバカスカ殴られた経験がなくて精神的に参りましたよ」

「あなたが…………」


 信じられない、といった風。俺の保有霊的エネルギーと能力を知っている者の反応だ。


「それだけ戦力を動員してきたとは…………」

「これでも相性は良かったと思います」


 雪代がもし、自分の能力を先に使えなかった場合、一撃で殺される可能性もあった。霊的エネルギーをオフにすることで致命的なダメージを避けて乗り切ったが、他の人には絶対にできない方法。


「久し振りに本気を出しました。やっぱり制御できなくて、周りの物を壊しまくりでした。ところで雪代の方はどうだった?」

「えっと、何て言えば良いんだろう。ホント、悪い大人、って感じ」

「悪代官か」

「霊力を見えない人を人質に取られて守りながら戦わなくちゃいけなくて。強さで言うならそこまでじゃなかったけど」


 それはあくまで雪代からすれば大したことなかった訳だ。あの男のように特殊な使い方でないのなら俺にも対処はできよう。

 能力は平凡な分、策を弄した。

 そして、実際雪代を足止めすることには成功したのだ。弱点を看破されたのは大きな傷となり得る。


「話は後で伺います。自分の中でも整理しておいてください」


 会話が止まったところで口を開く神山さんは器用にハンドルを操っていた。


「そういえば、雪代さん。あなたの護衛が決まったとのことです――寧色さんからの伝言です。〈驚かないでね〉と」


 実に不穏でお茶目な伝言だこと。




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