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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
三章 ゴースト・ハンターズ・ハンターズ
39/48

0.バランスを崩す

 

 ◎


 ――俺は、雪代と手を繋いで歩いていた。

 茹だるような暑さ、それを打ち消さんはがりの雑音が四方八方から押し寄せる。だが、この現実味のなさが妙に心地良い。

 時刻は午後の七時過ぎ、夏祭り当日である。

 この機を逃さんとどこも声出しをして客を呼び込みを行う屋台。そして、友人と、家族、恋人と楽しげに祭りを堪能する姿が――勿論、お一人様もいる。

 こんな人混み、すぐにでも逃げ出したいところだがそうもいかない。


 理由としては、レンタル浴衣と下駄。歩きにくいことこの上ない。それと、誰かと歩調を合わせることに慣れていないことだ。

 俺以上に歩きにくいそうな格好だ。

 雪代は白地に青い幾何学模様が乗った浴衣を纏っていた。長い髪も今は後頭部がグルグル巻きである。

 まぁ、雰囲気に酔うのは嫌いではない。折角だから、祭りの終わりを想像してセンチメンタルになる。


「思ったより人いるね…………良いところで花火見られるかな?」

「無理じゃないかな」

「そういうこと言う?」

「レジャーシートでも引いてニ時間前から待機してれば話は違ったかもしれない。絶景スポットで見るのも良いけど、折角ならゆっくりできるところの方が良くないか?」

「じゃあ…………そうしようかな」


 例えば、そこら辺にあるような公園には行かない。同人誌にありそうな展開が繰り広げられている可能性がある。

 会場から少し離れた駐車場の脇にベンチがあったのでそこに腰を下ろした。下駄で歩くのは意外と大変なものがある、休憩は適度にとりたい。



 ――花火が上がった。

 空気を切るヒュー、という高音が最高到達点に辿り着き、花模様に大爆発する。様々な色の花火が続々と打ち上がり、空を照らした。

 種類が幾つかあるらしいが、よく覚えていない。柳とか? 知らなくても花火は綺麗だから問題ない。

 雪代がぴたり、とくっついてきた。暑い、とは冗談でも言えない。

 耳元で「好き」と囁いてきた。


「本当に漫画みたいなことすんなよ」

「…………反応酷過ぎ、もっとドキドキしても良いじゃん」


 真に、人の温もりに触れたのは久々だった。

 これは、俺が欲しかったものの一つなのだ。関石さんに求めて、失敗した安堵できる何か。

 こんな日が続けば良いと思った。



 ――そして、帰りのこと。


「あ」


 小一時間ほど休憩して人混みが減ってから浴衣のレンタルショップに戻る。私服に着替えて駅に向かう最中、微妙に見覚えのある顔と出会った。

 うおお、クラスメイトだ。男女三人ずつのイケイケのグループで祭に来たらしい。

 教室内では不本意ながら俺と雪代が仲良しなのは公然らしいが、夏休みに一緒に出掛けているのを見られるのは違う。明らかにやっちまった感が出てしまう。

 俺も雪代も、彼ら彼女らとはほとんど接点がないためわざわざ話したりもしないが、ジロジロ見られるだけでストレスは凄まじい。

 痛恨のミスだ、手を繋いでいるのを見られるなんて。

 如何にも学生がしそうなイチャイチャじゃないか。


「…………………………………………」


 雪代は会釈だけして帰りの途に着いた。引っ張られる最中、後ろで何やら囁いているのが聞こえてくる。マジで、とか。嘘でしょ、とか。


「付き合ってる、って勘違いされてるな」

「大体合ってるから良いんじゃない?」

「…………最早否定できないのがまずいな」

「まずくないし、おいしいに決まってるでしょ」


 乗車率三〇〇パーセントと電車移動を終え、自宅の最寄り駅に着くまで一時間弱。九時を過ぎ、身体も鈍って来た時間帯だ。

 鈴虫の鳴き声が一つ、二つ木霊する。


「危ないから家まで送る」

「え、良いの? 私から言わないと来てくれない、と思ってた」

「信用がないことはわかってたが、甲斐性もないと思われてたのは想定外だ。夜道は危ないからな。不審者は抵抗しなさそうな人を狙うと言うし」


 実際、霊的エネルギーで完全なる防御できるから一般人に後れを取ることはないのだが。とは言え、欲望を直に叩き付けられる、というのはなかなかに苦痛だろう。

 歩き出そうとする俺を他所に、雪代はもじもじし始めた。


「ね、ねぇ…………泊まってく?」

「いや、マジで」


 我ながら凄い冷めたテンションだ。


「最近、そういう直接的なアクション多いよな」

「はしたない女の子は嫌い?」

「好きです」

「これだから男子は」


 雪代は呆れつつも、俺に腕を絡ませてくる。

 えぇ? 泊まるの?

 手を出すことはないとは思うが、平静にはなれないと思う。久し振りのお出掛け、ゆっくり休みたいが雪代邸ではできない。

 だから、代わりに別の提案をする。


「俺の部屋じゃ駄目か?」

「全然オーケーですけど何か!?」


 食い気味に答えてきたから若干引いた。

 漫画だったら絶対頭からハートマークが出ている。

 るんるん、と歩き出す雪代を前に追う寸前――視界に飛び込んできたのは人影だった。

 〈霊纏〉か――。

 首を斜め後ろに傾けて簡単に状況を把握する。誘拐犯なら車を用意するものだが、彼らは足でもって移動していた。


「……………………三人」


 三人の黒ずくめが一斉に詰め寄ってきた。

 反射的に〈霊纏〉し、体勢を低める。霊的エネルギーを用いた対人戦闘は記憶に新しく、思い通りにエネルギーを流すことができた。

 一人は俺の方に向かってくるが、二人は雪代へ襲い掛かる。

 右頬に繰り出された霊的エネルギーの纏われた拳を無視し、黒ずくめの腹部に蹴りを突き込んだ。奴は「がぁっッ…………」と悲痛の声を漏らし、その場に蹲る。


「――雪代……………………って、終わってるか」


 振り向いたらもう二人倒されて、転がっていた。霊的エネルギーの支配で地面に叩きつけた、ってところか。

 普通に俺より強いのでは?

 それにしても背後から襲われるとは、世の中物騒だ。


「急に来るから怖かった」

「…………遂にここまでの事態になったか。俺なんか目もくれなかったし、狙いは雪代だよな」

「だから、ってこんなことまでする?」

「するんだろうな。後ろから殴り殺すくらいは。後、君の家、空き巣が入ってると思った方が良いぞ」


 道端で襲うくらいだ、自宅を狙わない理由もない。最寄り駅を知られている時点で大体の個人情報も漏れているだろうし。

 生憎、俺のことを狙うつもりはなさそうなので俺の部屋ならまだ安全だと思われる。


「お金とかあるんだけど…………盗られたらどうしよう…………」

「その時は俺が何とかするから安心しろ」

「えっと……………………同棲?」

「頭ピンク色になってんな」

「違うから! 言ってくれたら了承してくれそうだと思っただけで!」


 他の人にバレなきゃ別に良いんだがな。自分の倫理の問題に折り合いがついているため、後は世間体だけ。当然のようにそれが一番難しい。

 お互い一人暮らしなため、ハードルが低いとは言え――。


「滞在くらいなら問題ないよな。とりあえず俺の家に…………駄目ならホテルで」

「……………………ここから一番近くのホテル、って……………………」


 雪代はごくり、と喉を鳴らしていた。脳内桃色畑の完成だ。もう俺の手には負えない。

 黒ずくめの三人組を放置する訳にもいかないので、風車さんに連絡を入れて処理してもらう。彼らがどうなるかは一切はどうでも良い。

 その前に男共の持ち物を一通り漁り、彼らがゴースト・ノッカーだということを特定した。


「今時指紋認証もしてないとは俺みたいな奴がいたら悪用されるじゃねぇか」


 一般人なSNSアプリで連絡を取っている。目ぼしい情報はないが、名前くらいは控えておいた。ついでに顔写真も収めておく。


「後、何を知っとけば脅せるか…………あ、アカウントパスワードか。カードの番号とかも」

「ちょっと! それ以上はバレたら捕まる奴だから!」


 流石に雪代の静止が入った。好きな人が犯罪者なんてまぁ、笑えない。捕まる、と言ったら既にそれだけのことをしている訳だがこれはあくまでも自衛の延長線として。


「パスワードつけて使えないようにするのも止めておくか」

「うわっ、陰湿過ぎ。結構ぐさっ、と来ることできるタイプだよね…………発言も行動も」

「敵だと思ったら容赦はしないよ」


 人を殺すのは躊躇するだろうが、直接じゃなければどうだろう。あまり考えたくない直上性だ。


「何だかんだ九時過ぎになったな。流石に限界かもしれない」

「体力ないなぁ」


 ――夏休み後半、どうやらおちおち休んでいられる余裕はないらしい。残念なことだ。これから霊社会を崩す人間兵器を巡った戦いが始まるのだから。


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