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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
二章 ゴースト・インベーダー
38/48

18.エピローグ2

 

 ◎


 ――ゴースト・プレイヤー。


 ――ゴースト・セーバー。


 ――霊的現象研究会。


 ――アンチ・ゴースト・フィールド。


 ――ゴースト・ノッカー。


 現在、首都圏内に存在する有力な霊能力者組織はこの五つである。ゴースト・ハンターズの創設から連なって生まれた組織であり、総規模では一歩劣る、というのは数週間前までのこと。

 ゴースト・インベーダーによるゴースト・ハンターズの壊滅は彼らにとって付け入る隙でしかない。防御力の薄まった中枢を狙って攻撃することで完全にとどめを刺そうとしていた。


 ――そうして、夜の摩天楼に霊能力者達の影が現れる。数にして総計数十人。

 対して、ゴースト・ハンターズの手勢はたったの一人だった。霊力で作られた仮面を被った少女のみ。〈幻影結界〉により隔絶された世界、交差点のど真ん中に彼女は立つ。


 しかし、彼女から膨れ上がる黒く歪んだ霊力はそこにいる誰もを圧倒した。それは根源的な恐怖を呼び起こす問答無用のオーラ。

 普通なら出会った瞬間に逃げるべき脅威である。

 逃げる者はいなかった。圧倒的個だとしても、数には敵わない――これは如何なる闘争において真であり、絶対理論。この場面で逃げ出すくらいなら元より正面からゴースト・ハンターズに戦っている。

 今しかない。千載一遇とはこのこと、彼らはこれ以上なく本気だった。



 ――ゴースト・フライヤー、そう呼ばれる男がいた。

 ラフな格好をした勝ち気のある筋肉質の男。釣り上がった眉はその自信をありあり、と表している。

 隣に立つ者に一言伝えると、一〇〇メートルはありそうなビルから無造作に飛び降りた。足を滑らせたのかと思うくらい実にあっさりと。

 空気抵抗を浴びるも、当然自由落下の方が強い。数秒後には地面に激突するだろうことは言うまでもない。

 ――突如として、軌道が変化した。

 落下は旋回の糧となった。煽り運転のように、仁王立ちする少女のすぐの真横を通り抜ける。

 それが引き金となり、続々とビル群から人影が降りてきた。各々異なった降り方をするため、傍目から見ればなかなか面白い。

 壁を走る者がいた。空中を歩く者がいた。円盤に乗る者がいた。墜落する者がいた。

 誰もが誰も霊能力者、唯一無二の能力の持ち主。口を揃えた訳ではない、談合だってしていない。だが、意思は一つニ向いている。

 ――こいつを倒せ。

 暴徒と化して襲い来る敵に少女は一言。


「止まって」


 〇刹那後、全ての動きが止まった。



 ◎


 ――気づけば八月も中旬。夏休みも残り二週間と少しだけ、名残惜しさと時間の浪費に対しての楽観さが押し寄せてくるこの頃。

 今日も今日とて怠惰に日々を生きている。

 冷房の効いた自室に大の字で横たわって音楽を聴く。変化の余地なき平穏な日常。

 あれから――関石さんに告白してから、誰とも会っていない。怜悧も、鳳も、雪代にも。寂しさらしき感情も芽生えかけたが、この世界の娯楽は尽きない。そんなものすぐに霧散してしまった。


「流石に非人間的だよな、これ…………」


 この世の中こんな人間が少なくない、というのが救いだ。

 自室に閉じ籠もるのはそれなりに楽しいが、そろそろ買い物くらいは行かないといけない。鈍った身体を解しながら上体を起こす。

 そのまま近場のスーパーへ向かい、食材を買い込んだ。また一週間後くらいに同じことをしているだろう。

 マンションまでの道のり、日陰を歩いているとスマホが震えた。メールが届いたらしい。


「雪代…………」


 送り主を見たら思わず口に出た。

 久し振りだ、と思いつつメッセージを読む。内容に関しては、曰く、夏祭りがあるから一緒に行こう、という誘いだった。

 そういえば、夏休み前にそんなことを言っていたな。断る理由もなかったから了承の返事をしておいた。明日、という直近のイベントでも俺は暇だから問題ない、というね。


「雪代は何か忙しそうだな…………劣等感を感じるぜ、流石に」




 ――翌日、夏祭りは午後の六時からだと言うのに正午から呼び出されていた。今から遊んで夜まで体力が残る気がしない。これら自重してもらわねば。

 駅前に待っていると、微妙に関石さんとのお出掛けを思い出してダウナーになりそうだ。

 集合時間のニ〇分前――「あ、桜坂君!」と雪代が走ってくる。


「おぉ、早いな」

「それはこっちの台詞」


 おめかしした、って感じじゃない。ショートパンツに、肩を出したゆるゆるの服。ちょっと出掛けてきたみたいな印象を受ける。

 これでどこかに行くのか?


「絶対早く来るからそれよりも早く着くつもりだったのに、いつからいたの?」

「今来たところだよ」

「その時点でニ〇分前だけどね。それと…………そういう台詞似合わない」

「似合いたくないね、そんなベタな台詞は。それでこんな早くにどうしたんだ? 祭までだいぶ時間あるけども」


 雪代はにたり、と笑って踵を返す。


「来て欲しいところがあるの」


 のこのこと着いて行ったら何の変哲もないマンションに辿り着いた。いや、マンションというよりもアパートか。比較的最近に作られたのか小綺麗だ。


「ここ私が住んでるとこ」

「へぇ…………土産でも持ってくれば良かったのか?」

「そんなの持ってたらサプライズじゃなくなるじゃん」

「そりゃそうだ」


 そこから、のこのこと着いて行ってしまった。

 世間一般に言われることだが、女子が男を部屋にあげる、ということはそういうことなのか? 雪代は俺に気があるらしい、可能性は濃厚だ。

 濃厚だが、確定ではない。ならば、あたかも何でもないかのように行こう。期待していた、とか思われるのだけは癪だ。


「――お邪魔します」

「自分の家だと思って寛いで良いからね」


 含みのある言い方をしながら雪代は靴を脱いだ。

 内部構造としては俺の住んでいるマンションよりも多少手狭。乙女らしい装飾があるかと思えばそんなこともなく、物も少なく実にシンプルだ。

 まぁ、そういうのは似合わないタイプではあるが。


「綺麗だな、想像より…………」

「へぇ、ゴミ屋敷だとでも思ってたのかな?」

「健康的で良いと思いますよ。コンビニのご飯で済ませてるようには見えない」

「最近は自炊するようにしてるんだ。女子力上げないと意中の人が振り向いてくれないから」


 女子が家事をしなくちゃならない、みたいなのはあまり好きではないが努力は努力として受け止めたい。目的の達成に繋がるかはともかく、健康的で良いことだ。若い時からも気をつけるべきなのが健康だ。


「そこ座ってて。お茶出すから」

「お構いなく、本音を言うなら水が良いけども」


 言われた通りにカーペットに腰を落ち着ける。リラックスしたいところだが、他人の家でゴロゴロできる不躾さはない。

 テーブルに水とお茶が置かれた。


「最近会えなかったから話したくて」

「…………電話でもしてくれれば良かったけどな、暇だし」

「顔見たかったの。でも、それなら毎晩寝る前に…………」

「…………遅くなければ」

「やった」


 控え目だが、嬉しそうに笑ってくれた。

 どうして雪代はこんなにも可愛いのでしょうか。乙女は恋すると綺麗になると言うが、初めて会った時とは見違えた。いつかのナイフのような視線は今は感じない。


「な、何? 私の顔見て…………見惚れてた? なんちゃって…………」

「いや…………」

「ちょっと何そのガチっぽい反応は! まさか本気? いやでも…………」

「それについても少し話そうとは思ってた」


 雪代の告白を保留する中で、関石さんとの関係についても赤裸々に語った。微妙な関係性も、俺が未練たらたらなことも包み隠さずに。

 関石さんに告白して、振られたことを報告した。

 瞬間、雪代は飛び込むように詰め寄ってくる。これ以上なく眼球が開き、俺の顔がありありと映し出された。


「何その話!? 詳しく…………!」

「全部説明したじゃねぇか。だから、関石さんに振られたんだよ」

「水族館って何!?」

「そこはわかるだろ、という突っ込みが欲しい訳じゃなさそうだな。鳳が行きたがってたから三人でな」


 ほとんどは関石さんと過ごしていたからデートと言っても差し支えはないが、わざわざ言いはしない。


「よくも平然と報告したわね…………嬉しさ、悔しさ超複雑なんですけど」

「隠してるこちらも複雑な気分なんだよな」

「…………つまり、傷心中だからチャンスってこと?」

「どうだろうな」

「つまり、今ドキドキ期待に胸が高鳴ってる、ってこと? 私が」

「俺じゃないのなら…………そうかもな。なら、どうして俺をここに招待したか、ってことにもなるし」

「それは…………誰にも聞かれたくない話があってさ」


 雪代は座り直し、茶を喉に通して一息吐く。

 色気染みた話ではなさそうだ。こちらも最悪を想定して受け止めるべきだろう。

 長時間を覚悟して足を崩す。


「丁度、一週間前のことなんだけど…………ゴースト・ハンターズを攻撃しに来た霊能力者と戦ったの」

「いつの間に…………風車さんからそんな連絡は来なかったが…………」


 一体どれだけの戦力が集められたか知らないが、十条や俺に匹敵する霊能力者がいなければ勢いは奴らの止められなかったはずだ。それを雪代が一人で――?


「桜坂君には言わないで、って頼んだからね」

「は? 何でそんなことを?」

「…………………………………………」


 とまぁ、簡単に言えてたらわざわざこの場を作る必要もない。


 ゴースト・ハンターズへの襲撃は以前にも幾度か行われている。八坂真尋が死んだ直後は十条が撃滅し、その後は俺も参加して薙ぎ倒した。奴らは本気で殺しに来る。軽い気持ちで相対せる相手ではない。

 こちらも殺す気で行かなければならなかった。

 そんなものに雪代は参加した。無事に生きていることは何よりだが――もしも、代償に何かを失ったとなれば話は別だ。

 取り返しのつかない何か――きっと尊いはずの何かが。


 ふぅ、と長い息を吐く。

 過去に何をしようと、大事なのはこれからだ。こちらの心の準備はできた。


「ゆっくりで良いから話してみてくれ。何故、俺を遠ざけた?」

「……………………そういう態度だからかな。当然自分が戦うべき、って考え方。危なっかしいから見てらんない」


 俺が戦うくらいなら自分で戦う――雪代はそんな奴だ。

 彼女には何もせずに待っているなんてできない。誰かが傷つくのを見ていられないのだろう。

 前にもそう言われて喧嘩した気もする。


「風車さんから聞いたよ、ゴースト・ハンターズに入った理由」

「…………隠してはなかったけどな」

「地獄を探してただけじゃなかったんだね。ゴースト・ハンターズも守ろうとしてたなんて思いもしなかったよ」

「そこまでじゃなかったよ、多分」

「そんなことない。言ってたよ、桜坂君がいなかったら打破できなかった危機が何度もあったって」


 何度も、とは言い過ぎだ。

 俺が所属してから半年と少ししか経っていない。起きた大きなイベントなんてインベーダーからの襲撃くらいのものだろう。


「上級ゴースト倒すだけでも凄いことなんだよ、絶対忘れてるよね」

「…………地獄探しに熱中してまして」

「でも、そういうことだよ。結果的に大活躍って訳、それこそゴースト・ハンターズの創設と同じくらい」


 学校に通いながら毎日のように幽霊退治をしていた時期も確かにあった。

 雪代の言う通り、俺は思っていたよりもゴースト・ハンターズのために働いていたのかもしれない。地獄探しの対価として見合うかどうかはまた別の話ではあるが。


「もう、地獄は探さなくても良くなったなら、戦う必要もないでしょ」

「そうだけど、ゴースト・インベーダーみたいな例もあるし自分の意思とは関係なく巻き込まれることもあるだろ」


 意外なことにううん、と雪代は首を横に振った。


「それは私が何とかする、君はこれ以上何もしなくて良いの」

「…………………………………………」


 と、言うとあれか? 俺の代わりをする、ってことか。

 それは――…………どうなんだ?

 できるかできないかで言えばできるのだろう。目覚めた力が力だ、敵からすれば俺なんかよりも遥かに脅威に感じているはずだ。


「――まぁ、そんなところか」

「怒ってる? …………訳ないか。どう思った?」

「マジか、って感じだな。俺のため、と言うけどこれは流石に危な過ぎるだろ。それに雪代に適正があるとは思えない、それこそ俺がやった方が良いくらいには」


 雪代の支配があれば、戦闘になる前に状況を停止させることができる。だが、ぶつけられる悪意と敵意はどうしようもない。平静を保ったまま相対するだけで精神を消費する。


「慣れれば大丈夫だよ」

「だろうな――」


 もはや、俺が何を言っても考えを変えるつもりはないか。

 すっかり固まってしまった首を回す。


「人は自由だ、やりたいことをすれば良い。だから、雪代の行動も俺は納得したよ」

「…………そっか」

「俺を戦いに巻き込まないため、とは驚いたが、うん、悪くない――だからといって、俺が参戦しない理由にもならないことを理解してもらわないとな」

「桜坂君…………」

「いつも言ってるだろ、俺の意向と君の意向は独立だ。結果的にどちらも叶わない可能性はある」


 それにこの先、ゴースト・ハンターズに降り掛かる火の粉は増え続ける。雪代の能力を発端とするのか、また別の理由かは定かではない。だが、間違いなく騒乱が待っている。

 少なくとも、今の俺には雪代が一人で戦っている姿を見て放置することはできない。俺の力で解決できるなそうする。


 当座ではあるが、次の目的を決めた。

 ――この先、どんな争いが待っているが想像もつかない。その際、雪代楓美を犠牲者にはしない。

 どんな手段を使っても。


「それともこう言えば、納得するか? ――きっと、死ぬ時は一緒だ」


 俺が真顔で言い切れば彼女はあはっ、と微笑んだ。


「自惚れ過ぎ。死ぬ程ではないよ」

「俺は死んでも良いけど。月が綺麗とは言えないな」

「意味わかんないけど、桜坂君なら意味わかんなくて当たり前か。あーあ、何でこんな人好きになっちゃうかな、私…………」

「それは俺に訊かれても困るな。それでも答えを出すなら、自分と違うからだろ」


 いがみ合っていた人を好きになるなんて少女漫画でなくてもよくある話だ。違うから知りたくなって、知る内に親近感が湧いて、最終的に好きになる。

 そうなってしまったらもう終わり。

 俺達も少しは大人になったのか、険悪なムードになることはなかった。


「祭、楽しみだね」


 雪代は頬杖を突きながら俺の瞳越しに心を覗き込もうとする。

 思わず目を逸らしながら思う。

 彼女は絶世の美少女という訳ではない。

 フィクションのように噂になることも断じてない。

 だけど、俺は愛しさすら感じる。恋する乙女。それだけが理由ではないことは明白だった。


 世界の片隅で起きている悲劇に目を瞑り、今宵だけは一人のことを考えたい。彼女に何を返すことができるのか、ゆっくりと――。



 ◎


 これから起きるのは雪代桜子を巡る争い。

 桜坂京都以上に、霊能界隈を脅かす存在は全体戦力をゴースト・ハンターズ一極化してしまう。

 それは許さない者達がいた。

 様々な霊能力者集団の比較的大勢である。常日頃から牽制しあっている彼らだが――敵の敵は味方――共通の敵が現れたからには容易く手を組んだ。


 とどのつまり、ゴースト・インベーダーよりもさらに大きな戦力が押し寄せてくるのだ。誰にも制御できない唸りが上がった。

 ただ、彼女には最強の盾がある――それを突破しない限り、目的は達されない。果たして、そのことに気づいている者がどれだけいるか――。


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