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ゴースト・ハンターズ  作者: (仮説)
二章 ゴースト・インベーダー
36/48

16.抗争後処理

 

 ◎


 ――それは地獄ような一日、と言っても差し支えない。流血と闘争に塗れた侵略者との抗争――第二次侵伐抗争と呼ばれる一日戦争である。


 ゴースト・ハンターズと、ゴースト・インベーダーによる二度目の抗争。苛烈を極めた血で血を洗う争い。勝者はハンターズ。辛くも勝利を収め、首謀者を捕らえることには成功した。

 しかし、代償として大部分の勢力――戦力を失うこととなった。戦闘により、多くの犠牲と共に第一本部である法院寺も壊れた。


 現実世界における寺院の消滅は、放火事件として扱われている。でっちあげられたニュースがローカルTVで流れているらしい。情報操作が行われていなかったらもっと大きな話になっていただろう。

 あれからゴースト・ハンターズから――というか風車さんから連絡は来ていない。多分、そんな余裕がないくらいにやらなくてはならないことがあるのだ。

 霊社会頂点の失墜――この機会を狙う組織は山のように存在している。下手をすればハンターズの闇討ち、なんてことも起こり得る。

 ゴースト・プレイヤーの一件もある、全く笑えない話だ。


 ――泊が足りない、というのが目下一番の問題。

 創設当初は圧倒的カリスマと戦闘力を誇った八坂真尋が矢面に立つことで敵をねじ伏せてきた。

 彼の死後、この時もトラブルがあったが俺と十条の二枚看板でその地位を維持していた。

 しかし、今回の抗争で十条は死んだため俺一人しか残っていない。一人となるとゴースト・ハンターズを背負うには少な過ぎる。そこで候補に上がるのが二回目の闘争において最高の戦果を残した少女――だが、話はそこで終わらない



 ◎


 ――八月初旬、午前一〇時頃、駅前の日陰にて炎天を見上げれば長大な積乱雲がこれでもかと腕を伸ばしていた。実に美しい空に現を抜かしていると腹に衝撃が走った。子供に抱き着かれたのだ。


「どうした、鳳?」

「ぎゅー、したくなったの」と愛想を振りまくのは地獄で拾った幼女である。頭を撫でてやると嬉しそうに笑った。

 甘えん坊に育っちゃってまぁ、可愛いんだけども。

 こんな姿は雪代に見せられない。鳳にすら嫉妬してどんなことをされるか。

 相変わらず、鳳への霊的エネルギー供給生活が続いていた。


「ごめん、お待たせ…………!」


 うら若き乙女が駆けてきた。真っ白な丈の長いワンピースに身を包むのは関石さんだ。日陰に入ると日傘を畳んで、頬に垂れる汗を拭いた。


「待たせたかな?」

「今来たところですよ」

「ママ! パパね、二〇分くらい前に来てたよ!」


 定番の返事をしたのだが、鳳が平然と暴露しやがった。そういうことを言うんじゃない、折角気を遣ったのに。


「え、ごめん…………準備に時間掛かっちゃって…………」


 服装もさることながら、メイクもしっかり施されている。こればっかりは男子にはできない。


「女性は時間掛かると聞きますから気にしてませんよ。不快になるとしても暑さにだけです」

「そっか。鳳ちゃんも待たせたね」

「大丈夫! パパとぎゅー、してたらすぐだったもん!」

「へ、へぇ……………………パパとぎゅー、したんだ」


 心なしか光なき視線が俺を一瞬貫いたような気が…………ロリコンとか思われたら遺憾の極みだ。別に嬉しくなくはない。

 ともかく、関石さんが来たのなら出発できる。今日は家族で遊ぶ、という体の下、三人でのお出掛けである。

 これからどこに往くのかと言えば水族館。この暑さだから遊園地とかじゃくて良かったのだが、普通の人には俺と関石さんが二人で出掛けるように見えてしまう――つまり、水族館デートに見えてしまう。


「絶対雪代に刺される、って…………」


 義務感に駆られて鳳と出掛ける、とは言っておいた。嘘は吐いていない。

 まぁ、どうにかなるか。

 いつもの楽観的な目算。

 雪代は良い奴だから本気で説得したら頷いてくれるだろう。チョロいな、そこは矯正しないといつか騙される。俺みたいな奴はどこにでもいる。


「じゃあ、行きましょうか。昼前には着いときたいですからね」

「わかった。でも、鳳ちゃんの料金ってどうする? 電車にしろ水族館にしろ」

「買っときましょう、念の為」


 関石さんに依れば、鳳は見える人には見えるらしい。霊能力者ではなく、一般人にもだ。

 何か全く異なる新しいものになってそうで怖いが今のところは実害はない。少しずつラインを確かめていきたい。

 誰もいないのに改札に切符を通すのはどうなんだろう、と思いつつ短い短い電車の旅を開始した。



 ◎


 ――都内オフィスビル、円卓の会議室の一席に腰を下ろす女性。頭を抱えるのはナイスバディーの美女、風車寧色である。

 ゴースト・ハンターズの幹部である彼女には抗争以後の組織運営の仕事が待っていた。先の抗争により幹部も人数を減らした、彼女以外も走り回っているところだ。

 争いは終わった。しかし、ゴースト・ハンターズの敵はインベーダーだけではない。休む間もなく状況は変化し、今もハンターズはなお追い込まれていた。

 ――各地で起こるハンターズ狩りである。


「ここぞとばかりに狙うわね…………」


 戦力を失ったばかりの対霊互助機関は創設以後最弱の防衛態勢になっている。そこを狙わない敵がいるはずもなく、戦力葉徐々に削られていた。放置すれば数ヶ月後、この組織葉瓦解してしまう。そうさせないために風車は奔走しているのだが、限界は近かった。彼女が取っている方法では根本的な解決にはならない。

 各組織へ説得を試みたが取り付く島もなく、破断された。言外の宣戦布告である。


「平和裏に収めることはやっぱり無理か――」


 最後まで取らなかった選択肢。

 暴力に訴える、というもの。

 一番、わかりやすく、即効性のある手法。誰もを威圧するだけの戦闘力を見せつければ大きな牽制となる。

 さて、都合良く最強の霊能力者がゴースト・ハンターズに所属しているかと言われれば――いる。

 その人物をけしかければ簡単に状況は一変する。あくまでも最後の手段だ。だが、あくまでも最後の切り札である。該当人物を矢面に立たせることでどんな悪影響が出るか未知数である以上、不用意なことはできなかった。


 簡単な道は救いから最も遠い――。

 風車はいつかに聞いた台詞を思い出した。亡き恋人が立ち塞がった敵に向けて言っていたような気がする。


「大人が苦労しないとね。子供に押し付けるようじゃ、私達が生きる価値はないわ。あの子達を守るために戦うんだから」


 最善の選択は須らく艱難辛苦が待っている。

 風車はそこに迷わず飛び込む。長く苦しい道のりを超えた先にあるのはきっと希望らしき何か。最善とはそういうものなのだ。

 改めて意志を確認し、モチベーションを上げたところで――。



「――?」


 ふと、机の片隅に置いてあるスマホのバイブレーション音が静かな会議室に響く。画面上のバーにはメッセージが一件届いていることを示す一文が表示されていた。

 風車は送り主の名前を見て困惑する。


「――あら? 一体どうしたのかしら…………」


 メッセージは風車の頭を悩ませる難題に関わりがあり、実に不穏な内容だった。彼女はすぐさま送り主との通話を開始した。



 ◎


 ――俺はいつかに、雪代と来たことがある海辺を見渡す。

 塔のある横長の島は、江ノ島とか言うらしい。夏真っ只中、ということもあり砂浜には数え切れないほどの人が水着姿で溢れ返る。という訳で水族館前に到着していた。


「わかってたことではありますけど混んでますね…………」

「考えることは皆同じ、って感じだね」

「パパー、まだぁ?」

「まだまだだね」


 チケットを購入するだけでも列に並ばなくてはならない。この暑さだ、数秒さえも長く感じる。暑さ以外に意識を割いてなきゃやってられない。


「おやおや、存外霊能力者も来るんだな」


 立ち並ぶ行列を眺めていたら霊的エネルギーの流れが整った者達がいた。自然に漏れ出るエネルギーを内側に向けていることによるものだ。つまり、霊能力者である。

 大学生らしきグループの五人である。男が二、女が三という構成だ。


「霊能力者コミュニティ、って奴か」

「組織に所属する方が多いからね、当たり前だけど」

「…………ですね」


 俺や関石さんのように霊障に巻き込まれて霊能力に目覚めるケースは少数派である。自然と霊的エネルギーを知覚する、というのがほとんどを占める。そのタイミングでたまたま霊能組織の者に出会う確率は限りなく低い。

 ノウハウが確立された組織ならともかく、独学の霊的エネルギーの制御は至難を極める。ゴーストに襲われて命を落とすのか、それとも適応して生き残るかだ。ほとんどは前者となり命を落とす。彼らはその綱渡りを超えて今、生きている。


「狩人狩りに巻き込まれないと良いけど…………」


 ゴースト・ハンターズ狩り――だから狩人狩り。

 敵対組織はどうやってハンターズを識別しているのかが疑問だったが、霊能力者を片っ端から襲っているのかもしれないと思った。であれば、被害者はハンターズに報告されているものよりも大きくなる。

 早々に敵対組織を黙らせなくてならない。こうしている今も無差別に襲われる可能性があるのだから。


「関石さんには言うまでもないと思いますけど、狩人狩りには気をつけてくださいね」

「えぇ、それについては長谷川君達とも話したわ。できるだけ一人にならないようにしよう、って」

「そうですか。気をつけてください」

「君もね、桜坂君。あなたは危機意識が低過ぎるのよ……………………あ、今は大丈夫なんだっけ」


 思い出したようにして、関石さんは頷く。


「雪代さん? がお目付け役してくれるもんね」

「違いますよ。雪代は首輪を引っ張るようなタイプではありません…………矢面に立つ感じですから」


 俺を止める、というよりは追いつこうとしている。直接聞いた訳ではないが、俺のことを守りたいのかもしれない。

 それもこれも俺が危なっかしいからだろうけど。


「危険があっても、雪代なら俺が行くくらいなら自分で行くはずです。お目付け役じゃなくてただ恋する乙女ですよ」

「誰に?」

「俺にですね」

「…………………………………………」


 無表情、無反応。

 普通に考えて、女子が自分のことを好きだと公言する奴はおかしい。おかしいけど、驚くべきことに嘘のような本当のことである。

 だけど、わかっているはずだろう? 俺が嘘なんか吐かないことくらい。


「ふぅん、モテモテだね」

「関石さんほどではないかと」

「…………………………………………」


 釈然としていない模様。

 ただ、俺と関石さんの関係は海溝のような深みがある。そんな反応も過去の出来事を加味すれば納得できなくはなかった。もはや好きや嫌いじゃ語れない。

 ――俺はあの時から変わっていない。初めて出会った赤い世界の時から。

 じゃあ、関石さんはどうなんだろう?


「早く行こー! パパ、ママ!」

「あ、あぁ…………」

「うん、あんまり走っちゃ駄目だからね」


 人混みをすり抜けて鳳は水族館へと駆けて行く。その後を追う関石さんに着いて歩き出した。

 夏の暑さにやられてるのかもな。

 それとも、雪代に触発されたからか。

 だから、柄にもなく一つ――関石さんとの因縁に決着をつけることにした。


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